「第三話を攻略していくよ!」
ラブライブ!序盤にして屈指の燃えイベントである『START:DASH!!』が流れる所謂神回と名高いこの第三話。ここの目的は『ライブをやる』、たったこれだけである。
シンプルなゴールではあるが、それが今の高坂穂乃果にとっては萎えポイントなのだ。
それだけ第三話の完成度が高いと言ってしまえばそれまでなのだが、穂乃果にしてはいい迷惑である。むしろ削れる隙がある話こそが神回なのだ。
「えー。ということでーライブ当日でーす。ちっ!」
講堂近くの更衣室でめちゃくちゃ機嫌を悪くしている穂乃果がミネラルウォーターを飲んでいた。
「穂乃果、貴方色々と酷い顔をしていますよ」
「どうしてそんなに不機嫌なの穂乃果ちゃん?」
当然振られる疑問愚問。だが穂乃果とて聖人を自負している。迷える子羊からの問いに答えてあげるのも立派な走者のあるべき姿であろう。
「今日まで特に時間短縮できるポイントなかったから不機嫌になってただけだよ! けど!!! ようやく待ちに待った時間短縮イベントなんだよ! ということで二人とも衣装はもう着たね?」
そこには既にライブ用の衣装を身にまとったことほのうみ。先程第三話を攻略するなどのたまったが、実はこの回の佳境であるライブシーン直前なのだ。
この話まで読んで頂けた読者諸君ならば既にお察しだと思うが、この物語のコンセプトは“最速クリア”である。このライブシーンまで多少のドラマがあったのは既にご承知の通りであろう。だがそういう過程を求めるのならば、ぜひ平行世界にいる高坂穂乃果
「え、ええ……ですが、やはりこの衣装はその、スカートの丈が……」
「大丈夫だよ! 海未ちゃん足細いし!」
「それもっと前の話で聞かなかければならないセリフの気がするのですが!?」
「……何だか海未ちゃんさっきまで緊張していたように見えたけど、今はほぐれた感じがするね!」
自然と海未が笑っていた。先ほどまではライブまでの緊張で強張っていたというのに、だ。
もしやこれを狙って自分の親友はあんな事を――ついことりは穂乃果を見やるが、親友は既に海未へは目もくれずに何故かハンドクラップ数回とタップダンスを行っていた。
これがライブ終了後に続いていくことは今のことりには分からなかった。いいや、今後も恐らく分かることはないだろう。
「さあ、行くよ!」
「ってあれ? 穂乃果ちゃん、どこ行くの? まだライブの時間じゃないよ?」
突如、穂乃果はことりと海未を連れて舞台まで歩いていく。まだ緞帳も降ろされていない講堂には人一人居らず、ヒフミトリオもまだ集客中なので音響その他諸々もまだ機能していない。
そんな舞台の真ん中に、三人は立つ。
「世の中そんなに甘くない! ひっくえっぐ……!!」
「穂乃果!? 何でいきなり泣き出すのですか!?」
すると、ばたばたと音をあげ講堂へ突入してくる小泉花陽がそこにはいた。
「え、もう!? あ、あれ~!? ライブは~!?」
「ええ、花陽ちゃん!? 何でそんなにわざとらしく入ってきたの!?」
事態は目まぐるしく動く。ことりが驚いている間にヒフミトリオがこれまた慌てたようにそれぞれの配置に付き、トントン拍子で用意されるステージ。
事前に目を通しておいた本来の台本の一つに、『世の中そんなに甘くない』と言ったら小泉花陽が入ってくるように、というものがあった。本来の流れでは緞帳が上がった後に言うセリフであるが、穂乃果はその動きに含まれている
「もう穂乃果! 台本と違うでしょ!」
「何だか嫌な予感して戻ってきたらこれだもん!」
「ほらー小泉さんも全力疾走して息切らしてるよ」
ヒデコ、フミコ、ミカがそれぞれ穂乃果へ文句を言いながら、もういつ始めても良い状態になった。穂乃果的にもいつまでもまごついている訳にはいかなかったので、友人たちの手際には感服するばかりだ。こちとら遊びでやっている訳ではない。
「じゃあ海未ちゃんことりちゃん……!」
海未とことりは思考を切り替えた。そうだった。これから始まるのはファーストライブである。観客は少ないが、それはここで立ち止まる理由ではない。親友に応えるように、二人は今まさに歌う準備を終える――。
「ちょっと“やり終えたぜー”って感じで私に寄り添ってもらっていい?」
「え、えと」
「早く! お願いします! お願いしますから!」
「ええ……と、そこまで言うのなら」
「ありがとう! じゃあ音楽は言ったタイミングでお願い!」
海未とことりが訝しげにしつつも、穂乃果へと寄り添った時点で曲は流れた。しかももう曲が終わる所、具体的には最後の余韻となる後奏である。そうなった途端、また海未とことりは己のキャパシティを越える出来事に立ち会うこととなった。
これまた慌てたように講堂へ入ってくる不特定多数。この高坂穂乃果の物語を読んでいる者に対して今更登場人物の説明などむしろ失礼に値するのであえて何も語ることはない。そう、後のμ'sとなる者たちが予定とは違うことに戸惑いながらもついに集結したのだ。
「はい曲終わったよー! 皆拍手ー!」
拍手を急かすと、小さいながらもはっきりとした称賛が穂乃果達へ贈られた。実際まだファーストライブのラの字すら行っていないのに、それでも何故かやった気になるから不思議である。
「ことりちゃん海未ちゃん、私達はやったんだよ? そんな気がしない? いやするはずだよ? ファイトだよ?」
「そ、そう言われると何だかやった気が……」
「私も……何だか一仕事終えたような気がしてきました」
もはや悪質ともいえる洗脳でことりと海未に達成感を植え付けていると、絢瀬絵里がやや小走りで階段を下りて来た。
「はぁはぁはぁ……! ちょ、ちょっとまだ時間じゃないでしょ!?」
「この辺は歌うだけなので飛ばせるんですよ! とりあえず煽ってください! 早く私達を煽ってくださいよ!」
ここは穂乃果の指摘通りであった。歌うことで絵里によるイベントが始まる。つまり、
「……えーと、コホン。――――どうするつもり?」
「やりたいから続けます! いつかここを満員にして見せます!」
本来では約五十秒に渡る決意表明であったがこれはタイムアタック。言いたいことを簡潔にまとめることで早々とEDテーマ『きっと青春が聞こえる』を流した。ここで第三話は終了である。
次はまきりんぱな加入回。ここも早々と駆け抜けることを決意に秘め、穂乃果はとりあえず
「次は第四話だよ! ファイトだよ!」
頑張れ高坂穂乃果! 君の音ノ木坂学院最速回避タイムアタックは、良いペースだ!!!
ぬーん