「第四話! まきりんぱなを攻略していくよ!」
ライブ翌日の昼休み。ことりと海未を引きずり、辿り着いたのはアルパカ小屋。珍しさの塊ともいえるこの小屋には一人の飼育員がいる。いち早くその情報を収集していた穂乃果は物陰から目的の人物を待ち伏せしていた。
本人の気質なのか、待つこと数分で彼女はやってきた。
「はーなよちゃぁぁぁん!」
「ひいっ!?」
「ライブに来てた花陽ちゃんだよねぇ~!?」
「は、ははははは、はい! そうです!」
やり取りの一部始終を見ていたことりと海未の感想は共通していた。それも悪い方向で。
「穂乃果! 小泉さんが怯えてますよ!」
「あ、ごめんごめん! ついテンションが上がっちゃったよ!」
すかさず花陽の手を取り、穂乃果は一言。
「アイドルやりませんか!?」
「え、えっと……」
「じゃ! 行こうかことりちゃん海未ちゃん!!」
ここは先制攻撃。言いたいことだけ言ってさっさと穂乃果はその場を後にした。正直、これでもうこの第四話クリアに必要な要素の九割を達成したと言っても過言ではない。
「正直どうして今お昼休みに屋上にいるのか分からないのですが……」
穂乃果達こと『μ's』は屋上で練習をしていた。というより本来ならばこの時間に練習はしないのだが、あえてしていた。何せ今にゲストが来る。
「あの! ちょっとよろしいでしょうか!?」
凛と真姫が、花陽を連れてやってきた。今の穂乃果にとっては鴨が葱を背負って来たような気持であった。ことりにも海未にも見えないような角度で穂乃果は口角を吊り上げる。それはもうニンマリと悪どい笑みで。これが偶然ならばもう少し可愛げのある笑顔の一つでも浮かべられるのだが、これは紛れもなく
本来ならこの第四話は、西木野真姫、星空凛との交流を通して小泉花陽が勇気を振り絞ってμ's加入の申し出をするまでの描写が丁寧に描かれておりファン屈指の回と名高い。――が、これはタイムアタックである。コンマ一秒単位での世界での戦いだ。生憎とそこに高坂穂乃果は関わっていないのでザクザクとカットしていくスタイルだ。
「もう! いつまで迷ってるの!」
来た、と穂乃果の眼が光る。
凛と真姫が花陽に対して最後の気合を入れるシーンだ。ここまで来るともう貰ったようなもの。穂乃果は今か今かとその時を待つ。
「頑張って! 凛がずっとついててあげるから!」
「私も少しは応援してあげるって言ったでしょ」
「私も乱数調整頑張ったんだから早く言って欲しいよ!」
「こ、高坂先輩!?」
いつの間にか隣に来ていた穂乃果が逃げそうになる花陽の肩をガッシリと掴む。
「ううん。逃げなくても良いんだよ? さあ、言ってごらん? 私はその言葉をずっと待ってたんだよ! …………主に調整の苦労的に」
紆余曲折あり、花陽はついに言った。勇気を振り絞ったのだ。だが悲しいかな、穂乃果には逆に言わなかったらどうしようというレベルで分かっていたので、特に感慨は無かった。この一連の流れにカタルシスを抱く方々がいたら深くお詫び申し上げたい気持ちになるが、これはタイムアタック、仕方がないのだ。
「このまま第五話も攻略するよ! 今日は矢澤にこ先輩をゲットだぜ!」
μ'sもこれで六人。あと三人でμ'sが揃うという山場を越えることが出来るので、今日は張り切って矢澤にこ狩りとしゃれ込むことにした。
「ということで皆、ハンバーガー食べに行こう!」
「はぁ? 何言ってんのよ練習はどうしたのよ」
「そうですよ。いくら外が曇りだからと言って、端からそう決めてどうするのです」
穂乃果が言えば、ストッパー枠の真姫と海未が声を上げる。そして今回はことりもそれに倣う。
「穂乃果ちゃん。そうやってふざけていたらまた『解散しろ~』って怒られちゃうよ?」
ああ、知っている。今朝とうとうエンカウントした矢澤にこの件である。進行上仕方がないとはいえ、デコピンを頂くことの屈辱とは言葉を尽くしても語り切れない。だが、穂乃果はこのことに関してはもう憤ることはしない。
どうせこの後、にこを捕まえるイベントがあるのでその時に泣き喚かせればいいだけの話なのだ。
「大丈夫大丈夫! きっとまた会える気がするから! ということでほいっ」
指を鳴らすと途端、雨が降り始めた。穂乃果以外の眼からはまるで穂乃果が降らせたように見えてしまうのだが、そこは安心して欲しい。高坂穂乃果は断じて魔法使いなどではない。
ここでこの物語を見守っている方々の誤解を解いておくことにする。『ラブライブ!』第二期の雨を止ませるというシーンは穂乃果が直接操ったわけではない。いくら穂乃果でも天候を弄ることは不可能だ。そう、あの感動的なシーンの前日に乱数を操作し、あの時間に雨が止む日を選んだだけに過ぎない。
これも、それをなぞっているだけに過ぎない。
「ハンバーガーを食べに来たよ!」
席を取り、注文もし終えるや否や、穂乃果はいきなり立ち上がった。
「穂乃果?」
軽く手をあげるだけで海未の呼びかけに応え、穂乃果はそのまま自分たちが座っている隣の席へと移動した。
「へーい音ノ木坂学院三年生の矢澤にこ先輩こんにちはぁぁぁぁ~~!!」
「んなっ!?」
馴れ馴れしくにこの隣の席に座り込む彼女は、傍から見ればいわゆる
にこはにこで完全に出鼻をくじかれたのか絶句していたが、そこで止まるつもりはない。更に追い打ちをかける事を選択した。
「食べたポテト返してよ!」
「まだ食べてないわよ!」
そして始まるにこの演説。ここは適当に聞き流し、とりあえず解放してやった。追いかけもせずに見送った穂乃果は今日は帰宅をした。その前に、とある打ち合わせだけをして。
◆ ◆ ◆
「あの、穂乃果ちゃん……なんで廊下の影に隠れてるの……?」
「先輩ってたまに良く分からなくなるにゃー」
「しっ! もう来るから! 気づかれるから! 真姫ちゃんと海未ちゃんと花陽ちゃんは打ち合わせ通り後ろから来てね。私とことりちゃんと凛ちゃんで前は塞ぐから!」
ストップウォッチで測ること数分で、目標はやってきた。だがすぐには飛び出さない。獲物の前で焦るなど三流のすることだからだ。しっかりとタイミングを見計らい、号令を出す。
「は!? ちょ、ちょっと何よあんた達!? いきなり何なのよ!?」
「いやぁこうしてもらわないと話聞いてもらえないと思って! アイドル研究部長さん矢澤にこ先輩?」
「の、希が話をしたのね。それならそうと――」
「まだ聞いてないですよ? ただ生徒会長たちからその話されると長いので言われる前に決着つけます!」
にこの抗議も受け付けず、素早くアイドル研究部室の扉を開き、そこに放り込む。いきなり六人が一人の女子生徒を拉致し、入室していく様はまるで悪質な犯罪集団を思わせるが、そこには一切触れないことにした。というより、穂乃果を除くメンバーがあまりにも罪悪感に打ち震えており、考えないようにしたのだ。
「で、何の用? 一応話だけは聞いてあげるわよ。話だけは」
憮然とした表情で交渉を受け入れてくれた時点で既に勝ちは決まった。
「あれぇ? そんなこと言って良いんですか?」
「……何が言いたいのよ」
穂乃果の物言いの根拠が分からず、他のメンバー達はそれぞれ顔を見合わせるばかり。大体よくもそんな数回しか会話していない人相手にそういった態度に出れるのかが分からないのは内緒である。
だが、それは次の彼女の発言で明かされることとなった。
「最近私、可愛い子達と知り合ったんですよね」
「は? あんた何言ってん――」
「虎太郎くん、こころちゃん、ここあちゃんって子達なんですけど……可愛いですよね」
その三人の名前が出た瞬間、にこは固まった。どうして穂乃果の口から出てくるのかも分からなかったが、それよりも重要なのは今この瞬間にその名前が出て来たことであった。にこだって馬鹿ではない。考えられる状況に青ざめていく。
「うちの弟に妹たちよ! 何であんたが知ってんのよ!?」
「偶然お話出来てそこから意気投合しちゃって! えへへ」
「どうするつもりよ……!?」
「にこ先輩、落ち着いてくださいよ。私達はただ、にこ先輩とお話したいだけなんですから」
いや
――というより、下手に口を出せば犯罪に加担しているような気がして誰も前に出れなかったのだ。
「にこ先輩、私達はどうすれば良いでしょうか?」
「はぁ? なんでそんなこと私に聞くのよ?」
「だって、音ノ木坂アイドル研究部所属μ'sの
「え……?」
「私達にはにこ先輩が必要なんです! だから、お願いします!」
気づけば他のメンバーも頭を下げていた。ここでようやく穂乃果の真意を理解できたのだから。同時に恥ずかしく感じていた。まさか犯罪者の誕生に立ち会うのかと内心びくびくしていたが、こういう話ならば諸手を挙げて賛同したい。
「……あんた、最初からそのつもりで。私に話を聞かせるためにわざとあの子達の名前を出したのね」
「そうですよ特に何かしようと思っていたわけではないですよあえてですよあえて名前出しただけなんですからー」
「おい目ぇ合わせてその台詞喋りなさい」
ついに加入した七人目。今回は第四話と第五話を同時にこなせた。それもこれも端折れるところがたくさんあったからだ。これからもどんどん端折っていく。
目指せ最速タイム。六話は恐らく一瞬で終わるよ! 頑張れ高坂穂乃果! 君の音ノ木坂学院最速回避タイムアタックは、良いペースだ!!!
スーパーロボット大戦V面白いですねぇ(目逸らし)