「廃校!? ついに来た! ついに来たのですね!」
「高坂穂乃果!?」
絵里の言葉を軽く無視し、穂乃果はずんずんと理事長へ詰め寄る。
「廃校ですね?」
「い、いえ……まだ確定ではないですけどね」
「分かりました! じゃあ明日でどうにかしてみせますとも!」
本来ならば一週間や二日で、などと抜かす場面だがそんな後ろ向きな発言をするつもりはない。一日だ。一日あれば事足りる。
「じゃあ行きましょうか生徒会長さんよぉ!」
「ちょ、あなた一体誰なの!? 高坂穂乃果よね!? ねえ高坂穂乃果よね!?」
肩に腕を回し、絵里を引きずっていく様はさながら
屋上へと連れて行った穂乃果は一言こう告げる。
「さあ稽古付けてください! 生徒会長!」
「な、なに言ってるのよ貴方!?」
「お願いします! もう生徒会長しかいないので! さあ! さあ! さあ!!」
皆には無言でただ絵里を見てもらう事を指示している。この手のタイプは口でベラベラ喋るより、力強い眼をしておけば落とせるものと相場が決まっているのだ。
「お願いします! そのバレエ仕込みの腕前で私達を鍛えてください! お願いします!!」
「最近思ったけどあなたってすごくごり押しが上手いわよね……」
要は折れたということである。時間が惜しかった穂乃果はすぐに絵里へ練習を促した。
本編では何やら長い練習シーンが挿入されていたようだが、実はあれはアニメ向けに編集されたイメージ映像である。実際は某野球サクセスゲーム並みの恐ろしく手軽な練習の末にダンス能力が向上するのだ。友情努力を求めていた人たちには大変申し訳なく感じるのだが、そこはタイムアタック。ぜひご理解願いたい。
「生徒会長……ううん、絵里先輩!」
屋上から決して逃がさないように絵里を取り囲む七人。さながら八話の終盤を彷彿とさせる。さりげなく希もその輪を遠巻きに見守っているのを見逃さなかった穂乃果は状況が整ったことを知る。
「μ'sに、入りませんか!」
「……何を言っているの、私は……」
「生徒会長、ううん絵里先輩。私、すごく可愛い子と知り合ったんですよ」
「可愛い、子?」
「はい! 亜里沙ちゃんっていうんですけど、今たしかお家で一人ですよね?」
にっこりとそれはもうにっこりとした笑顔で穂乃果はその子の名前を挙げた。だが生憎と逆光でその可愛らしい笑顔が良く見えなかったのは残念と言えるだろう。
ゆらりと、絵里の隣へ歩いていく。
「貴方、どうしてそれを……」
「亜里沙ちゃんから聞いたんですよ! いやぁお家に一人! 一人って……怖いですよね」
「どうするつもり……!?」
「どうって……私はただ亜里沙ちゃんの話をしただけですよ? 私がしたいのは絵里先輩から受ける練習です!」
言葉を失った。同時に穂乃果以外のメンバーを見やる。そこには皆等しく、同じ意思を感じられた。今まで自分がしてきたことについて何一つ恨み言を言わないばかりか、それどころか迎え入れてくれている。
こんなこと、あり得るのだろうか。
「エリち」
「希……」
感動的な場面であるが、大体知っていた場面なだけに穂乃果の表情だけは非常に白けていたので、さっさと切り上げる意味を込め、絵里へと手を差し出した。
「さあ時間がもったいないです! 行きましょう!」
「……ええ!」
良い話風に切り上げ、シーンはグラウンドのライブ会場へと移った。いつこれほど大勢の客を集めたのかも分からないが、そこはイベントスキップ中になんやかんやがあったのだろう。気にするほどではない。
舞台にはライブ衣装に身を包む九人の姿があった。良い感じの練習ムービーでこの物語を見守ってくれている方々には努力が伝わっていることだろう。
そんな皆へ伝えたい、見てもらいたい。穂乃果はそれっぽい演説を終えたあと、その努力の結晶である曲名を宣言した。
「それでは聴いてください! 『僕らのLIVE 君とのLIFE』!」
――現時点を以て、廃校回避が確定した。それはつまり、高坂穂乃果がゴールテープを切れたということで。
◆ ◆ ◆
気づけば穂乃果は一面花が咲いている場所に立っていた。どこを向いても花が咲いている平原がどこまでも続いているだけのこの場所。
一度強く風が吹くと、花びらと共に、自分と同じような髪の色をした女性が佇んでいた。
「や、また会ったね」
「あなたは……」
「あぁ、分からないか。そりゃ当然っちゃ当然か」
「会ったことが……あるんですか?」
「遠い昔や、近い未来でね」
「えっと……」
穂乃果がどう答えようか悩んでいると、女性は近くの湖と、そして隣に何故かある木製の扉を指さした。
「どちらかを選べるよ。扉を開けば本来あるべき時間の流れへと帰ることができ、湖を越えればまた時間への挑戦が出来る。けど、扉を選べばもう二度と挑戦は出来ないってのは言っておくわね」
そう前置き、女性は穂乃果へ問うた。
「どっちにしたい? ここはどこでもあってどこでもない場所。ま、時間ならたっぷりあるしゆっくり考えると――」
「もう決まっています」
一歩前へ出ると、穂乃果は往くべき場所を視界に入れる。
女性に驚きは無かった。むしろこうでなくては、という思いすら抱いていた。なれば、それを笑顔で見送る以外、何をしてやれようか。
「今回も、答えは見つかったようだね」
答えは当然聞かない。聞くことすら失礼とも言えよう。だから女性はこう添えた。
「眼を閉じて」
「こう……ですか?」
「また飛べるよ」
「飛べる……? ――っ!!!」
走り出した穂乃果の背中へ女性は最後の言葉、激励を飛ばした。
「飛べるよ! 何度だって飛べる! あの時だって、そしてこれからも!!」
「行けぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
何度も走る。走り続ける。いつか自分が納得するまで、納得できるまで。過去も未来もそして現在も。挑戦をし続けられるのならし続けたい。
誰に言われた訳でもなく、穂乃果は飛んでいた。目の前が眩い光に包まれていく中、穂乃果は確かにあの女性の声が聞こえていた。
――また、会えると良いね。
一人の少女がいた。誰にでも等しく分け与えられ、また等しく過ぎていく時間に挑戦をし続ける心はまさに鋼鉄。一秒を重んじ、一秒との掛け替えない友人である彼女はこれからも納得し続けるため、立ち向かうことを止めないだろう。
その先にいる女性に胸を張って『もう良いです』と言える日が来るまで、この身の研鑽を重ねていく。
これは、そんな高坂穂乃果のいつ終わるともしれない、そしてこれからも楽しく続いていくRTAのほんの一幕なのだろう。
~高坂穂乃果の廃校回避RTA 完~
さて、くっそ早く終わりました。
こんなにも早く終わってしまうと悪質な焼き増しと思われるかもしれませんがこれもRTAということでぜひともご了承願います。
こういうRTAは長々とやるのもなんだか違う気がするのでこのRTAは終わりになります。
これを読んでいただけた方々が今度は違うチャートを開拓してくれることを祈り、この作品を〆させていただきたいと思います。
短い時間でしたが、ご愛読ありがとうございました!