キリトin太刀川隊   作:ZEROⅡ

11 / 14
オーディナルスケール見てきました。

とてもおもしろかったです。特にラストバトルが熱かったです。ああいう展開はホント大好きです。

そんな映画に触発されて一気に書き上げました。


結城明日奈

 

 

 

 

 

 

 

《5号室、用意》

 

 

そんな無機質なアナウンスを聞きながら、5号室の訓練部屋で大型トリオン兵、《バムスター》と対峙する少女──結城明日奈は腰に釣り下げた鞘から、攻撃手(アタッカー)用トリガーの1つである《弧月》を引き抜いた。シャランと鳴った音と共に輝く刀身を露にした弧月を軽く振るいながら、声に出さずに呟く。

 

 

──少し重いかな?

 

 

無意識にかつて愛用していた細剣(レイピア)と比べてしまい、明日奈は苦笑を漏らす。

そして目の前に立ちはだかる巨大な怪物へと視線を移し、その表情は僅かに強張った。仮想世界にて幾度となく怪物とも言えるMobと戦闘経験のある明日奈だが、現実世界で本物の異世界の怪物と戦うという事実に、訓練と言えども緊張を隠せなかった。

 

それでも明日奈は決して臆することなく、弧月を強く握り締める。全ては一足先にボーダーで活躍している最愛の少年と一緒に戦う為に。

すーはー、と一度呼吸を整えてから、左手を体側に引き付け、弧月はほぼ垂直になるように構えた。たとえ使用する武器は違えど、戦闘スタイルは変わらない。

 

 

《始め!》

 

 

「やあぁぁぁぁっ!!!」

 

 

開始の合図と共に鋭く響く声を上げながら、明日奈は思いっきり地面を蹴った。右手の弧月を腰溜めに構え、全力でバムスター目掛けて駆ける。トリオン体に換装したことによって彼女の運動能力は大幅に向上している為、自分でも驚くほどの走力が発揮された。

そして十分に速度が乗った所で再び地面を蹴る。直後に高く飛び上がった明日奈の体はまるで彗星のごとく、一直線にバムスターの顔目掛けて飛んだ。

 

そしてその動きにバムスターが何かしらの行動を起こすよりも速く、顔の中心部に存在する目に、突き出された弧月の先端が振れる。

その瞬間、まるで弾丸に貫かれたようにバムスターの目に風穴が空いた。貫かれた部分から気化したトリオンを勢いよく吹き出しながら、バムスターの巨体は力なく崩れ落ちて行った。

 

 

「──ふう」

 

 

敵が倒れたのを確認した明日奈は短く息を吐く。

そして一振りした弧月を鞘に収め、カチンとという金属音が鳴った瞬間に、部屋の外から「おおーっ!」っと歓声が沸いた。同時に再び響く無機質なアナウンス。

 

 

《5号室、記録──3秒》

 

 

3秒……自分の前に挑戦していた人たちが掛かった時間が2分やそこらなことを考えると、かなりいいタイムなのかもしれない。

そんな事を考えながら部屋の外に出ると、明日奈と同じ年ぐらいの赤いジャージ風の隊服を着た青年が、爽やかな笑顔を向けながら明日奈の方にやってきた。

A級5位《嵐山隊》の隊長、嵐山准だ。嵐山隊はボーダーの顔とも呼ばれ、テレビなどにもよく出演しているので、彼のことは明日奈もよく知っていた。今この場では、新入隊員の入隊指導の責任者でもある。

 

 

「すごいじゃないか! 3秒だなんて、歴代2位の記録だ!」

 

 

「そうなんですか? ありがとうございます!」

 

 

爽やかな笑顔で言われた称賛の言葉に、明日奈も負けず劣らずのキレイな笑顔で応じた。美男美女とも言える2人の笑顔に、周囲のC級隊員たちが感嘆の声を漏らしていたが、当の2人はそれに気づいていない。

するとその時──

 

 

「あ──アスナッ!!?」

 

 

明日奈にとっては聞き慣れた、愛しい声が聞こえ、声がした方へと視線を向ける。

先ほどまで明日奈が入っていた訓練部屋をぐるりと囲むように並んでいる、巨大な階段のような造りをした観客席。その最前列に、驚嘆で目を見開いている少年。その隣には見慣れない青年の姿もあるが、おそらく少年の友人だろう。

少しだけ長めの前髪に、線の細い、それでいてどこか鋭さを感じる容貌。黒生地に赤いラインが入ったロングコートを身に纏った少年の姿に、彼が用いているアバターと重なってしまい、思わず笑みがこぼれる。

 

 

──ボーダーでも相変わらず黒い服装なんだなぁ。

 

 

そんなことを思いながら、明日奈は唇をほころばせて、彼の名前を呼んだ。

 

 

「キリト君!!」

 

 

すると少年──桐ヶ谷和人は困惑の表情を浮かべた。

 

 

「な、なんでアスナが……!?」

 

 

「なんでも何も、見ての通りわたしもボーダーに入隊したの」

 

 

そう言って、白い隊服姿を見せるようにその場でくるりと回る。似合うかなと聞こうとしたが、当の和人は状況が把握しきれていないのか、目を白黒させている。

 

 

「俺、聞いてないんだけど……」

 

 

「うん。キリト君をビックリさせようと思って、ひと月くらい前から黙ってたんだ。大成功だねっ!」

 

 

そう言って笑う明日奈に対して、和人は「ははは……」と引きつった笑い声を上げながら、がっくりと脱力した。

 

 

「桐ヶ谷に生駒じゃないか。ひょっとして彼女は、桐ヶ谷の知り合いか?」

 

 

「なんや桐ヶ谷、このめっちゃカワイイ子と知り合いなんか?」

 

 

すると明日奈の隣に立つ嵐山と、和人の隣に立つ青年──生駒達人が同時に尋ねる。

 

 

「あ…ええっと……はい、紹介します。俺と同じVRMMOプレイヤーで、バーサクヒーラーのアスナこと結城明日奈」

 

 

「も、もう! キリト君、ちゃんと紹介してよー!」

 

 

先ほどの意趣返しのつもりなのか、不本意な紹介をした和人に抗議する明日奈だが、和人は笑いながらそのまま左手を隣に立つ生駒に向ける。

 

 

「で、アスナ。こっちはB級3位《生駒隊》隊長の生駒達人さん」

 

 

「どうぞよろしく」

 

 

硬派な印象に反してフランクな態度で片手を上げる生駒。次いで、和人は左手を明日奈の隣の嵐山に向ける。

 

 

「そっちは、アスナもテレビとかで知ってると思うけど、A級5位《嵐山隊》隊長の嵐山准さん」

 

 

「嵐山だ! よろしく!」

 

 

逆にこちらは好青年という印象をそのままに、一切の含みの無い爽やかな笑顔を浮かべる嵐山。明日奈は2人の紹介を聞いてから、改めて「よろしくお願いします」と言って頭を下げた。

 

 

「さて、俺はまだみんなの訓練を見ないといけないから、監督に戻るよ。結城くん、次の訓練の時間になったら呼ぶからしばらく桐ヶ谷と話しているといい」

 

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 

「じゃあ、またあとで」

 

 

そう言うと嵐山は訓練生の監修に戻って行く。

 

 

「ほな、俺ももうすぐ三輪隊と交代で防衛任務やから行くわ。桐ヶ谷、またランク戦で相手してな」

 

 

「ええ、喜んで」

 

 

それに続いて生駒も訓練室をあとにして、防衛任務へと向かって行った。そうなると、必然的に和人と明日奈の2人がその場に残った。

 

 

「とりあえず、座るか」

 

 

「うん」

 

 

和人が促すと明日奈も頷き、観戦席の横長の椅子に並んで腰かける。そしてしばらくの沈黙のあと、和人がポツリと呟くような声で、明日奈に問い掛ける。

 

 

「いつから決めてたんだ? ボーダーに入ること」

 

 

「キリト君が入隊するって言った時からずっとだよ。一応わたしにもスカウトの話は来てたし。でもほら、わたしの家って親が……というよりも、母親が厳しくて、ずっと反対されていたの」

 

 

未成年者がボーダーに入隊するには当然、両親の許可が必要不可欠となる。

明日奈の父、結城彰三(しょうぞう)は仕事人ではあるものの、娘への愛情は人並みに持ち合わせてる。和人にもある程度の信頼を寄せ、明日奈との交際も認めてくれている。明日奈がボーダーに入りたいと言い出した時も、娘の意志を尊重して認めてくれた。

問題は母、結城京子(きょうこ)だ。厳格な性格で、SAO事件により明日奈がエリートコースから脱落したことや、現在の学校、そして和人のことも快く思っていない。勉強が遅れるというのを理由に、ずっと明日奈のボーダー入隊を反対し続けていた。

 

 

「でもね、それでもやっぱりわたしはキリト君の隣に居て、一緒に戦いたかった。だからわたし……母さんとケンカしたの」

 

 

「えっ?」

 

 

「あっ、ち、違うよ! ケンカって言っても殴り合ったとかそういうんじゃないから!!」

 

 

明日奈の口から放たれたなかなか物騒な単語に、和人は驚いて少し裏返った声を上げてしまう。対して明日奈は慌てたように両手をパタパタと振って弁解する。

 

始まりは単なる明日奈と京子の口論だった。いつもなら母と対立することを恐れる明日奈だったが、その時ばかりは譲れないものがあった為、京子との激しい舌戦を繰り広げた。

その結果、明日奈と京子はお互いの思っていることを語り合った末に和解した。その後の京子とのやり取りを、明日奈は鮮明に覚えている。

 

 

──あなたは、誰かを一生支えていくだけの覚悟があるのね?

 

 

──う、うん。

 

 

──でも、人を支えるには、まず自分が強くないとダメよ。大学にはきちんと行きなさい。その為にも、これまで以上の成績を取ることね。もちろんボーダーに入っても、ちゃんと勉強と訓練を両立させなさい。

 

 

──……母さん……じゃあわたし、ボーダーに入隊しても……。

 

 

──言ったでしょう? 成績次第よ。どっちかが疎かになったら即辞めさせますからね。頑張りなさい。

 

 

──ありがとう、母さん……。

 

 

事の顛末を語り終えた明日奈は、隣に座る和人に向き直る。その透明感のある綺麗な瞳で見つめられた和人は、彼女が話で聞くよりも大変な思いをしてこの場にいるという事を、何となくだが察した。

そして何よりも、京子との様々な軋轢に苛まれていた明日奈がこうして和解できたということに、和人は嬉しく感じていた。だからこそ和人は、明日奈の瞳を真っ直ぐと見つめながら、彼女に言葉を送った。

 

 

「そっか──よかったな、アスナ」

 

 

「──うん。また、あの頃みたいにキリト君と一緒に戦えるね」

 

 

「そうだな。まぁ、あの頃と違って俺はもうソロじゃないんだけどな」

 

 

「あ、そっか。キリト君、部隊に入ってるんだったよね」

 

 

「そう。A級の太刀川隊。またあとで紹介するよ」

 

 

「キリト君のチームメイトかぁ。うん、楽しみ」

 

 

そう言いながら明日奈は陽だまりのような笑みを浮かべ、頭をぽふっと和人の肩に乗せる。そして和人もそれを受け入れて、お互いに寄り添い合う。

その時……

 

 

「何してるんですか? 桐ヶ谷先輩」

 

 

「「────!!?」」

 

 

突然背後からかけられた第三者の声に、和人と明日奈は揃ってビクっと肩をはねらせた。

そしてそっと背後を確認すると、そこには嵐山と同じ赤いジャージ風の隊服を身に纏った少女が、冷たい視線を和人に向けながら立っていた。

黒のショートヘアの前髪を右に多めに流した髪型。綺麗な部類に分類される顔つきだが、紫に鋭く光る瞳がキツめな印象を与えている。

そんな少女に、和人は引きつった愛想笑いを浮かべながら片手を上げた。

 

 

「よ、よお木虎。どうかしたのか?」

 

 

和人の問い掛けに、嵐山隊に所属する少女──木虎(きとら)(あい)は射抜くような眼差しで和人を睨む。

 

 

「どうかしたのかではありませんよ。あなた方のせいで、C級の子たちが集中できてないんですけど?」

 

 

「「あ……」」

 

 

そう言われて和人と明日奈は、訓練場にいるほとんどのC級隊員たちからの注目を集めていることに気がついた。C級隊員たちはザワザワと色めき立ち、特に女性隊員たちはキャーキャーとはしゃぐような声を上げている。

 

 

「まったく、きちんと場をわきまえてください」

 

 

「「す、すみません……」」

 

 

中学生に説教され、頭を下げる高校生2人。

 

 

「それから、えっと……」

 

 

「あ、結城明日奈です」

 

 

「嵐山隊の木虎藍です。結城さんも、そろそろ嵐山さんのところに戻ってください。この訓練ももうじき終わりますので」

 

 

「うん、わかった。じゃあキリト君、またあとでね!」

 

 

「ああ」

 

 

木虎の忠告を受け、明日奈は和人に小さく手を振りながら、C級隊員たちのもとへと戻って行った。

 

 

「桐ヶ谷先輩は、これからどうするんですか?」

 

 

「そうだな、防衛任務も終わってヒマだし、もうしばらく見物していくよ」

 

 

「そうですか。邪魔だけはしないでくださいね」

 

 

そう言うと、木虎も訓練生の監督に戻って行く。その背中を眺めながら思う。

 

 

──相変わらず生意気だな、木虎は。

 

 

和人は小さく嘆息しながら、C級隊員たちの戦闘訓練に視線を戻したのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

あれからしばらく訓練生の戦いぶりを見てるけど、アスナとスコーピオンの女の子以外にこれといった記録を出した奴はいない。人数的に、もうそろそろ終わる頃だろう。

 

 

《3号室、用意》

 

 

もう数えるのも億劫になるほど聞いたアナウンス。少し退屈し始めていた俺は、ふと3号室の方へと目を向ける。どうやら今度は、あのメガネの少年が挑戦するようだ。武器は……レイガストか。

 

 

《始め!》

 

 

『あああああ!』

 

 

咆哮に近い声を上げながら、メガネくんは両手で握ったレイガストでバムスターに斬りかかる。

しかし……

 

 

『うわぁあ!』

 

 

メガネくんの攻撃は、バムスターの装甲に弾き返されてしまった。

 

 

「──は?」

 

 

俺は思わず、間の抜けた声を上げてしまった。

訓練用のバムスターは、攻撃してこない代わりに装甲が分厚く設定されている。しかし分厚いと言ってもボーダーのブレードトリガーならば、最悪でも切り傷程度は負わせられるはずだ。いくらレイガストが守備的トリガーだとしても、まったくの無傷だなんてありえない。

 

考えられる理由は1つ──トリオン量の差だ。

 

トリオンは《トリオン器官》と呼ばれる人体の見えない内蔵から生み出される、トリガーの動力源になる生体エネルギーだ。これには人によって個人差がある。トリオン量が多ければ多いほど、トリガーの出力はそれに比例して上がるから、同じトリガーでも威力に差が出てしまう。

つまり、あのメガネくんのトリオン量はレイガストの威力を発揮できないほど弱いということだ。

 

しかしそれだと1つ疑問が残る。それほどトリオン能力が弱いのなら、入隊試験ですでに落とされているはずだ。唯我と同じコネ入隊だろうか? けど見ている限りだと、そんないいとこのお坊ちゃんには見えない。ごく平凡な学生という印象だ。

だけど……

 

 

『うああああ!』

 

 

必死に剣を振るメガネくんの目からは、何か鬼気迫るようなものを感じる。そして俺は、あの目を何度も見たことがある。

そう……かつて仮想世界に浮かんでいた《鋼鉄の浮遊城》。あの城を攻略しようと、文字通り死に物狂いで戦った戦士たち。あのメガネくんの目は、どこか彼らと同じ強い目をしている。

 

 

時間切れ(タイムアップ)。3号室、失格》

 

 

しかし現実は無情で、結局メガネくんはバムスターに傷一つ負わせられずに失格となってしまった。他のC級隊員たちが彼をクスクスと笑っている。メガネくんは居心地が悪そうにしていたけど、その目は変わっていない。

するとちょうど全員の訓練が終わり、嵐山さんが訓練室全体に響くように声を上げる。

 

 

「じゃあこれで、対近界民(ネイバー)戦闘訓練を終了する! 次の訓練まで休憩だ! ラウンジまで案内するからついて来てくれ!」

 

 

嵐山さんの号令で、C級隊員たちがぞろぞろと彼らに続いて訓練室をあとにしていく。

そんな中で俺は、つい気になったあのメガネくんに声をかけた。

 

 

「おーい! そこのメガネのきみ! ちょっといいか?」

 

 

俺が声を上げてそう呼ぶと、メガネくんは周りをキョロキョロと見回したあと、自分が呼ばれたことに気がついて小走りで俺のもとにやって来てくれた。

 

 

「えっと、すみません、ぼくですか?」

 

 

「ああ、突然すまない。きみ、名前は?」

 

 

三雲(みくも)(おさむ)です」

 

 

「三雲か。俺は桐ヶ谷。よろしく」

 

 

俺がそう言うとメガネくん──三雲は頬に冷や汗を滴らせながら「はぁ……」と頷く。アンダーリムのメガネの奥にある瞳には、戸惑いが見て取れる。

まぁ見ず知らずに人間にいきなりで声をかけられたら当然か。

 

 

「少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

 

「は、はい。なんですか?」

 

 

「きみは──どうしてボーダーに入ったんだ?」

 

 

俺がそう尋ねると、三雲は驚嘆を露にしながらゴクリと息を呑んでいた。そして迷ったように視線を泳がせてから、ゆっくりと口を開いて質問に答えてくれた。

 

 

「守りたい子がいるんです。その子を守る為に、ぼくはボーダーに入りました」

 

 

なるほど、守りたい子か。その気持ちは俺にもよくわかる。だけど……

 

 

「無理だな」

 

 

「なっ……!?」

 

 

俺が言い放った言葉に三雲は絶句しているが、俺は構わず続ける。

 

 

「さっきの訓練できみの戦闘を見たよ。俺はこれでもA級隊員だからな、それである程度の実力は分かる。その上で、きみに戦闘員は向いていないと思った」

 

 

俺がA級隊員だと知ると、三雲はさらに愕然とした顔で口をあんぐりと開けている。

 

 

「守りたい子の為に戦う、それは結構だ。だけどボーダーはそれだけじゃやっていけない。今のきみじゃ、B級に上がることすら難しい。きみがボーダーでやっていきたいなら、悪いことは言わない。戦闘員を辞めて、オペレーターか技術者(エンジニア)に転向したほうがいい」

 

 

「…………」

 

 

俺がそう言い終わると、三雲は黙ったまま俯いてしまう。少し言い過ぎたかと思ったが、これくらいで辞めるようなら、俺の勘違いだったってことか。

それからしばらくの沈黙のあと、三雲は俯かせていた顔をぱっと上げると……

 

 

「忠告ありがとうございます。だけどぼくは、辞めるつもりはありません」

 

 

さっきよりも強い目で、俺を真っ直ぐと見据えながらそう答えてきた。

 

 

「どうしてだ? 他にも何か理由でもあるのか?」

 

 

「いいえ。ただ──自分がそうするべきだと思ってるからです!」

 

 

「!!」

 

 

自分がそうするべきだと思ってるから……か。その言葉を聞いた瞬間、俺はなぜ三雲がこんなにも強い目をしているのかわかった気がした。こんな質問が無粋だったと思えるほどに。

 

 

「そうか……急に変なこと言って悪かったな、三雲」

 

 

「いえ。失礼します」

 

 

「ああ、ちょっと待った。もしきみが訓練に行き詰ったら、太刀川隊の桐ヶ谷を訪ねてくれ。俺もレイガストを使ってるから、色々と教えられると思う」

 

 

「え、A級の人がぼくに、ですか!?」

 

 

俺の提案に、三雲はポカンとした顔で呆気に取られている。その顔が妙におもしろくて、俺はつい笑いながら言葉を返す。

 

 

「まぁ、さっき変なことを言ったお詫びだと思ってくれ」

 

 

「あ、ありがとうございます! その時は、よろしくお願いします、桐ヶ谷先輩!」

 

 

三雲は俺に対して深々と頭を下げると、すでに行ってしまったC級の集団を駆け足で追いかけて行った。

俺はその背中を見送っていると、不意に後ろから声をかけられた。

 

 

「キリト君」

 

 

「アスナ」

 

 

振り返ると、そこにはアスナが立っていた。

 

 

「さっきのメガネの子がどうかしたの?」

 

 

「いや、ちょっとおもしろい奴だと思ってさ」

 

 

そこで俺はふと、この間の迅さんの言葉を思い出す。

──正式入隊日におもしろいことがある。

あの言葉はアスナのことを指していたんだと思ったんだけど、もしかしたら……いや、これは考えても仕方ないことか。

 

 

「ところでアスナ、ラウンジに行かなくていいのか」

 

 

「あ、うん。あとで行くよ。ちょっとキリト君に伝え忘れたことがあって」

 

 

伝え忘れたこと? なんだろうか?

 

 

「実はね、今日入隊したのはわたしだけじゃなくて──シノのんも一緒なの」

 

 

「………へ?」

 

 

 

 

 

つづく




この小説のアスナは『マザーズ・ロザリオ編』の前に母親との和解を果たしたという設定です。

正直かなりムリヤリ感のある展開ですが、どうかご容赦ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。