アクセルワールドの方は全然知識がなかったのですが、それでもかなり楽しめました。とりあえずストーリーは全クリしたので、あとはCG回収+クエスト消化に努めます。その後はオンラインプレイですね。
「よぉキリ、遊ぼうぜ」
背後からそんな誘い文句を聞いた途端、おそらく俺は「厄介な人に見つかってしまった……」という顔をしているだろう。振り返らなくても分かる。こんな攻撃的な声のかけ方をする人は1人しかいない。俺はおそるおそる顔だけを振り向かせて相手の顔を確認すると、思わず苦々しい声が出てしまう。
「げっ……カゲさん」
相手はニィっと口角を鋭く吊り上げて、まるで獲物を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべながら俺を見据えていた。
無造作に散らかされたバサバサの黒髪に、その下から覗いている野獣のように鋭い眼光。そして笑っている口元からはギザギザに尖った特徴的な歯が露になっていて、それを隠すためなのか顎元にはマスクが着用されている。意外と細身の体を、黒のシャツとカーゴパンツに包みこんだその姿は、ワイルドさを醸し出している。
これだけ聞くとかなりの問題児だが、そんなに悪い人じゃない。凶暴そうな言動──いや実際に凶暴なんだけど──が目立つが、根は単純で裏表のない人だ。気に入った相手には実家が営んでいるお好み焼き屋《かげうら》でお好み焼きをご馳走してくれたりなど、意外と面倒見のいい一面も持っている。
すると、俺が無意識に出してしまった苦々しい声が気に障ったのか、カゲさんは笑みを引っ込めてピクリと片眉を上げる。
「オイ、人の顔見て『げっ』て何だコラ。八つ裂きにすんぞキリィ」
「あはは……すみません、つい」
ギロリと睨んでくるカゲさんを、俺はなんとか笑って誤魔化すことを試みる。しかしやっぱりカゲさんには通用せず、俺を睨む目がどんどん鋭くなっていく。
どうしようかと考えていると、突然隣にいたシノンが俺の服の襟首をぐいっと乱暴に引っ張ってきた。
「うおっ」
思わずそんな声をもらす俺を他所に、俺の顔を自分の顔の近くに寄せたシノンは、ひそひそと俺にしか聞こえない声で話しかけてくる。
「ちょっと、なにこの見るからにヤンキーみたいな人。この人もボーダー隊員なの?」
ヤンキーって……否定はできないけど。
「あ、ああ。この人は影浦さん。B級2位《影浦隊》の隊長だよ」
「2位……!?」
俺も同じように小声で答えると、シノンは驚いてギョッとした目でカゲさんを見ていた。B級2位といえば、A級予備軍と言われてるからな。事実、カゲさんは元A級だし。
「あぁ? なんだテメェ、俺になんか用か?」
するとシノンの視線に気がついたカゲさんの目が、俺からシノンに移り変わる。睨まれたシノンはカゲさんから視線を背けると、身を隠すようにそっと俺の背中に回る。そんなシノンに俺は苦笑しながら、彼女に代わってカゲさんに答える。
「カゲさん、俺の友達に噛みつかないでくださいよ」
「……チッ。だったらイラつく感情刺してくんじゃねーよ」
舌打ちと一緒にそう呟くカゲさん。まあ、第一印象でこの人に良い印象を持つ人なんてそう居ないだろうから仕方ない。
「んなことよりキリ、ブースに入れよ。久々にガチで戦ろうぜ」
「あーお誘いは嬉しいんですけど、俺このあと約束があるんで相手できないんですよ」
「あん? いいじゃねーか別に。一戦くれぇ付き合えよ」
「そういわれても……」
カゲさんからの模擬戦の誘いをどう断ろうか悩んでいると……
「うわっ、あれって影浦さんじゃね?」
「影浦って、あの?」
「ああ、暴力沙汰でA級から降格したバカなやつ」
「メディア対策室長にアッパーかましたんだっけ? 上層部にケンカ売るとか頭悪すぎだろ」
「ははっ、言えてる。あれでB級の2トップを陣取ってんだからいい迷惑だよな」
「さっさとクビにでもなれってんだ」
少し離れたところからそんな嘲笑う声が聞こえた。視線だけを動かして声がした方を見てみると、遠巻きでこちらの様子を眺めている人だかりできている。どうやらあの中に紛れて誰かが陰口を言っているらしい。人だかりに紛れていれば、聞こえてもバレないとでも思ってるんだろう。
だけどそんな小細工、カゲさんには通用しない。
「オイ、そこの2人。今なんか言ったか?」
「「え?」」
カゲさんが睨んだのは2人のC級隊員。まさかバレるとは思っていなかったのか、睨まれたC級の2人は顔を青くする。だけどそれも一瞬で、そいつらは白々しくとぼけ始めた。
「なんのことっすか? 俺ら別になんも言ってねーよな?」
「そーそー。俺らがなんか言った証拠でもあるんすか? 証拠もないのに言い掛かりとかやめてくださいよ~」
……こいつら腹立つな。
コソコソと人の悪口を言った挙句、その非を認めずに煙に巻こうとする2人に、俺は内心でイラだつ。どうやら俺の後ろにいるシノンも同じ気持ちらしく、背中越しに「最低ね、あの2人」という呟きが聞こえた。
とは言え、ここで問い詰めたところでこいつらは知らぬ存ぜぬを貫き通すだろう。そうなると時間の無駄だ。相手にするだけ損だろう。何よりこれ以上、カゲさんを怒らせたら──
──次の瞬間、C級隊員の片割れの首が飛んだ。
「え……?」
首を飛ばされたC級の呆けた声に一拍遅れて、そいつのトリオン体が破裂して生身に戻った。
……あーあ、遅かった。
俺は胸の内でそう呟きながら、カゲさんを見た。あんな離れた場所にいる相手の首を、一瞬で正確に刎ねるなんて芸当はこの人にしかできない。
「キ、キリト……今、なにが……?」
シノンは状況についていけてないのか、俺の服を掴みながら目を白黒させている。
「え…あ…えぇ!?」
「ひ……ひぃ!」
片や一瞬の出来事に狼狽し、片や首を飛ばされた恐怖で尻餅をついている。
「ちょ…ちょっ、もも…模擬戦以外のトリガーの使用は、隊務規定違反じゃ……」
「あ? 誰がいつ、トリガーを使ったよ」
「だ、だって今、こいつの首が飛ばされて……」
「知らねーよ。俺がトリガーを使ったっつう証拠でもあんのか?」
「しょ…証拠って……」
「証拠もねーのに言い掛かりつけてんじゃねーぞ! オイ!」
「ひぃっ!」
さっきあいつらが言ったことを、カゲさんはそのまま言い返している。手痛いしっぺ返しだな。
本当なら止めた方がいいんだろうけど、カゲさんは隊務規定違反による
「調子こいたカスが──死ね」
そう言うとカゲさんはゆっくりと持ち上げた右手構え、そのままそいつに向かって右手を素早く振るう。その瞬間、カゲさんの右手から目にも止まらぬ速さで刃が駆ける。そしてまた、C級隊員の首が飛ぶ──
──と、思ったその時……
「やぁぁああ!!!」
という気勢が鋭く響き渡った。カゲさんの刃がC級隊員の首に当たる直前、その間に割って入った別のC級隊員が、右手に握った弧月で刃を弾いた。……って、
「アスナ!?」
そのC級隊員とは、俺とシノンが迎えに来たアスナだった。
いつの間にか対戦ブースから出て来ていたらしいアスナは、右手に握った弧月を中段に構えながらカゲさんをキッと睨んだ。その気丈な振る舞いは、かつてSAO最強ギルド《血盟騎士団》の副団長だった頃を思い出させる。
「そこまでよ。さすがにそれ以上は見過ごせないわ」
「あぁ? んだテメェ」
カゲさんもアスナを鋭い眼光で睨む。けどアスナは怯む事無く、負けじとカゲさんを睨み続ける。お互いを睨み合うその光景はまさに一触即発で、今にもここで戦闘を始めてしまいそうだ。
しかしこれ以上、事を大きくする訳にはいかない。
なので俺はすぐに2人の間に割り込んだ。
「ストップストップ、カゲさんもアスナも落ち着いてくれ」
「キリ」
「キリト君」
俺が呼びかけると、睨み合っていた2人の意識が俺の方に集まる。すかさず俺は2人の説得を試みる。
「カゲさんの気持ちも分かるけど、さすがにこれ以上はダメだ。今度模擬戦いくらでも受けてあげますから、今は引いてください」
「……その言葉、忘れんじゃねーぞ」
結局、そのうち俺とカゲさんが模擬戦をする約束を取り付けてしまったが、この場を収めるためなら安いものだ。
「アスナも、今日入隊したばかりで問題を起こしたくないだろ?」
「キリト君がもっと早くにその人を止めてくれてたら、こうなってないんだけどね」
それに関しては返す言葉もない。
「もう……」
呆れたようにそう息をつきながら、アスナは弧月を鞘に収める。カゲさんが引くなら、アスナも対立する理由はないしな。
カゲさんとアスナが引き下がったのを見計らって、俺は次に腰を抜かして床に座り込んでいるC級の2人に歩み寄った。
「大丈夫か?」
「た、太刀川隊の桐ヶ谷先輩……!」
「
声をかけた俺を見た途端に、助かったと言いたげに顔を明るくする2人。だけど、別に俺は助ける為に声をかけた訳じゃない。
「大丈夫なら、とりあえずカゲさんに謝っておけよ。元はと言えばお前らが陰でコソコソと人の悪口を言っていたのが悪い」
「いやいや何言ってんすか桐ヶ谷先輩! どう見ても俺ら被害者でしょ!」
「そうっすよ! 先に絡んできたのあっちじゃないっすか! 大体、なんでそんなこと言い切れるんすか!?」
未だに自分たちの非を認めようとしない2人に苛立つ気持ちを俺はなんとか胸の内で抑え込みながら、言葉を続けた。
「人の心が読めるんだよ、カゲさんは」
「え……は……?」
「心を……読む……?」
「そういうサイドエフェクトを持ってるんだ。だから人一倍、悪意とかそういうのに敏感で、色々大変なんだよ」
俺がそう告げると、C級の2人は顔面蒼白で口をパクパクとさせている。たぶんこいつらは心の中でもカゲさんに対して悪態ついていたんだろう。それが読まれているとわかった今、こいつらの中にはもう恐怖心しかない。
「「し…失礼しましたーーー!!!」」
すると2人はあたふたと立ち上がって、一目散に逃げて行った。それを見送ったあと、俺は再び視線をカゲさんに向けた。
「まったく……カゲさんも、あんまりハデにやり過ぎるとまた減点くらいますよ」
「知るか。俺ァああいうのにナメられる方がムカつくんだよ。んなことより──」
そこで言葉を区切ると、カゲさんは俺から視線を外して、アスナの方に視線を向けた。
「おい」
「……なに?」
「テメェ、俺の攻撃が見えてたのか?」
カゲさんが聞いているのは、たぶん先ほどアスナがカゲさんが放った刃を防いだことだろう。カゲさんのあの攻撃は、視認することさえ難しいほどに速く、防げる人は
「ギリギリだったけど、見切れない速さじゃなかったから」
「──ハッ……おもしれぇ」
決して怯まない強い眼差しをしたアスナがそう答えると、カゲさんは最初に俺に向けたものと同じ、獲物を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「さっさとBに上がって来いよ。そしたら遊んでやらぁ」
アスナに向かってそれだけ言うと、カゲさんはくるりと踵を翻して俺たちに背を向けた。
「帰るわ。おいキリ、約束忘れんじゃねーぞ」
「わかってますよ。いつでも連絡ください」
「ケッ」
そう言ってカゲさんが歩き出すと、周りにいた野次馬はあの人を避けるようにそそくさと道を開けた。人ごみが左右に分かれて開かれるその道を、カゲさんは堂々とした足取りで歩いて行った。
そしてそのカゲさんがランク戦部屋から出て行くと……
「はぁ~~~っ」
長い溜息が、アスナの口から吐き出された。それが安堵からなのか、呆れからくるものなのかは俺には判別できなかったが、疲れた様子なのは見て取れた。
「お疲れ、アスナ」
「キリト君……もう、なんだったのあの人」
「本当よ。私なんかもう途中から全然ついていけなかったわ」
抗議をするようにジト目で俺を見てくる2人。特に途中で完全に蚊帳の外だったシノンは、恨みがましそうな目だった。
引きつった笑いと共に、いやに目立ってしまっているこの状況を見回しながら、俺は言葉を発した。
「とりあえず、ここを出よう。説明は移動中にするからさ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「B級2位の《影浦隊》?」
「そう。で、さっきのあの人が隊長の影浦雅人さん。1位の《二宮隊》と並んで不動のB級2トップだ。因みに歳は俺の1個上だから、アスナと同い年だな」
あれからランク戦の部屋を退出した俺たちは、太刀川隊の作戦室に向かって本部の入り組まれた通路を歩く道すがてら、先ほどのカゲさんの説明をしていた。
「そんなに強い人だったんだ」
「一時期はA級6位まで上がったこともあるんだけど、さっきみたいな問題行動が多くて降格されたんだ。本人はまったく気にしてないけど」
「そんなのがボーダーにいて大丈夫なの? さっきのを見た感じだと、ずいぶん疎まれてそうじゃない」
「まぁ確かに好戦的で敵を作りやすい人だけど、根は単純で裏表がない。そんなに悪い人じゃないよ」
「ふーん」
俺の言葉にシノンはそう相槌を打つけど、どこか納得していない顔だ。少し前まで高校で遠藤とかいう不良娘から嫌がらせを受けていたシノンにとって、カゲさんみたいな人は苦手なんだろう。だけどあの人と接していけば、そんな人じゃないってそのうち理解してくれると思う。
「ねえキリト君、その影浦君って人が、人の心を読むって……本当なの?」
訝しげな顔をしながらそう問い掛けてくるアスナ。
「まさか、本当に心の中を読める訳じゃない。実際は、自分に向けられている他人の意識や感情が分かる──《感情受信体質》。それがカゲさんのサイドエフェクトだ」
「サイド……」
「エフェクト……?」
アスナとシノンにとっては聞き慣れていない単語に、2人は揃って首を傾げている。俺はカゲさんの能力の前に、サイドエフェクトについての説明をすることにした。
「サイドエフェクトっていうのは、高いトリオン能力を持つ人間が稀に発現する超感覚の総称だよ。トリオンが脳や感覚器官に及ぼす影響らしい」
「超能力ってこと?」
「そんな超人的なものじゃない。あくまで人間の能力の延長線さ。耳がめちゃくちゃ良くなったり、何十メートルも離れた場所を目ではっきり見渡せることができたりとか、そんな感じだよ」
中には迅さんが持つサイドエフェクト《未来視》のように強力なものがあるが、発現する人は稀だろうな。
「すごいんだね、サイドエフェクトって」
「まぁな。だけどサイドエフェクトって言ってもそんなに便利な能力ばかりじゃない。サイドエフェクトの意味は《副作用》だからな」
「副作用?」
「発現した人にとっては有害にもなるってことさ。カゲさんの感情受信体質がまさにそれだと思う」
「どういうこと?」
「さっきも言ったけど、カゲさんのサイドエフェクトは、自分に向けられている他人の意識や感情がわかるって能力。カゲさんが言うには、それらが肌にチクチク刺さる感覚があるらしい。恐怖や安心、憧れや怒り……刺さり方には色々あって、負の感情ほど不快に感じるって言ってた。だから、それが原因でさっきみたいな事が起きたりもする」
言葉にすればそれだけのように思えるが、考えてみればこれほどしんどい能力はない。人が向けてくる善意や悪意を、常日頃からその身で感じ取ってしまうのだから。俺だったら視線恐怖症になって引きこもりになりそうだ。本人もクソ能力って呼んでるし。
「……なるほど、だからあの人ごみのなかで、悪態をついた犯人がわかったのね。自分に向けられている悪意を感じ取ったから。常に人の悪意が感じ取れるなんて……私だったら耐えられないわ」
「そうだよね……人の悪意って、本当に怖いから」
自分の体を両手で軽く抱き締めながらそう呟いたシノンと、物憂げな表情でそう語るアスナ。
確かに俺たちは、人の悪意によって引き起こされる事件をなんども見てきた。それは自己満足だったり、支配欲だったり、殺意だったりと様々だ。それを一身に感じ取れるカゲさんのサイドエフェクトは、おそらくトップクラスでしんどい能力だろう。
「まぁそんな訳だから、あんまりカゲさんの事を悪く思わないでくれよ。話してみれば良い人だからさ」
「うん、わかった。同い年だし、今度話してみるよ」
「そうね。私も今度会った時は、先入観は捨てるわ」
「そうしてあげてくれ──っと、ついたぞ」
話ながら歩いているうちに、我らが太刀川隊の作戦室前に到着した。
「ここがキリト君の部隊の作戦室?」
「ああ。と言っても、かなり俺らの私物が持ち込まれてるから、作戦室っていうより家に近いかもな。だいたいいつも散らかってるし」
太刀川隊は俺を除いた4人が片付け下手だから、俺が1人奮起してもまったく片付かない。見かねた本部長が月一で部屋を大掃除してくれる職員を差し向けるほどだ。
「アンタのチームメイトは部屋に居るの?」
「居ると思うぞ。今日は朝から防衛任務だったし」
その防衛任務をすっぽかして大学に行った太刀川さんももう戻ってきてるだろう。正直、太刀川さんにアスナたちを紹介するのは気が引けるけど、あれでも一応隊長だから紹介しない訳にはいかない。
「じゃあ開けるぞ」
俺は扉の横にあるパネルを操作して、部屋の暗証番号を打ち込む。そして番号が認証されると、ゴゥーンっという機械音と共に扉が開かれ──
「いだだだだだだ!!! ギブギブギブギブギブ!!! 風間さんギブだってギブ!!!」
「……………」
うちの隊長が中学生くらいの小柄な男に逆エビ固めを喰らっている光景が飛び込んで来た。
………なにこの状況?
つづく