キリトin太刀川隊   作:ZEROⅡ

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今回でキャリバー編は終了です。

突発的な番外編にお付き合いいただき、ありがとうございました!

おかげさまで本編を書くモチベーションが戻って来たので、頑張りたいと思います。


キャリバー⑥

 

 

 

 

 

「トリガー、起動(オン)!」

 

 

台東区御徒町の《ダイシー・カフェ》にて、俺は高らかに叫びながら、右手に握ったトリガーを起動する。もちろん、これは俺が防衛任務やランク戦に使用する戦闘用トリガーではない。

俺の手から離れたトリガーが、薄緑色の光を放ちながら宙に浮かぶ。そしてそのトリガーから聞こえてくるのは、我が娘の声。

 

 

《トリガー起動開始。起動者からのトリオン供給完了》

 

 

《トリオン体生成。データをトリオン体に変換》

 

 

「トリガー起動完了、です!」

 

 

そして光が消えると、そこには純白のワンピースに身を包んだユイが、満面の笑顔で立っていた。

 

 

「「「おおぉ~~っ!」」」

 

 

その様子を見ていたリズ、シリカ、クラインから感嘆の声が上がる。

 

 

「はぁ~、話には聞いてたけど、本当にユイちゃんが現実に出て来れるようになったのね」

 

 

「はい! これも全部、パパやボーダーのみなさんのおかげです!」

 

 

「よかったね、ユイちゃん!」

 

 

「これで心置きなく、リアルで忘年会ができるな!」

 

 

現実で初めて会うことが叶った4人は、心から嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 

 

突発的忘年会はの場所を決める際、リズやシリカからは今回のクエストで大活躍だったユイが必ず参加できる、新生アインクラッド第22層の《森の家》で開催するべきじゃないかと打診があったが、そこを我が出来た娘であるユイが「リアルで!」と言ったため、そのようになった。もちろん、ただを気を遣ったわけではなく、ちゃんと秘策があったからだ。

 

それがユイ専用のトリオン体だ。俺がボーダー入隊してから鬼怒田さんを始めとした開発室の全面協力のもとで開発されたそれは、俺たちの夢の結晶と言っても過言ではない。今まではボーダー基地内や三門市内でしか使用を許されていなかったが、先日ようやく本部からの全面許可が下りたのだ。特に鬼怒田さんの後押しがあったのが大きい。もちろん使用時には本部の許可が必要だが、大体は鬼怒田さんにメールを1本入れれば済むので問題ない。

 

というわけで、忘年会は午後3時から台東区御徒町の《ダイシー・カフェ》にて行われることとなった。店主のエギルに予約の電話を入れた時は、「いきなり言われても食材が足らんぞ」とブツクサ文句を言っていたが、それでも時間には店の名物をたっぷり用意してくれるのだから商人の鑑だ。

 

それから、家が激近のシノンを最初に、俺と直葉とユイ、アスナ、出水、クライン、リズ&シリカの順番でメンバーが集う。ユイのトリオン体お披露目も終わり、残る1人であるユーマを待つだけだった。しかしあと15分ほどで約束の3時になろうという時間になっても、ユーマは未だにやって来ない。

 

 

「ユーマの奴、遅いな……ん?」

 

 

カウンター席に座っている俺が時計を見ながらそう呟いたところで、携帯端末から短い着信音が鳴る。確認してみると、メールが届いていた。差し出し人は──案の定ユーマだったのだが、その内容に愕然とした。

 

 

──まよった

 

 

と、簡潔な一文。携帯端末を使い慣れていないユーマなら当然かもしれないが、それでも少し面食らってしまった。

 

 

「どうかしたの、キリト君?」

 

 

「パパ、どうしたんですか?」

 

 

俺の隣に座るアスナと、その膝の上で抱えられたユイが揃って傾げる。こうして見ると、アスナとユイはけっこう似ているかもしれない、などということを考えながら、俺は席を立ちながら言葉を返す。

 

 

「……ユーマが道に迷ったらしい。ちょっと迎えに行ってくる」

 

 

「えっ!? 大丈夫なの、わたしも行こうか?」

 

 

心配そうに立ち上がろうとしたアスナを片手で制しながら、俺は笑って言う。

 

 

「平気だって、すぐ見つけて戻ってくるから」

 

 

それから俺は、店にいるメンバーに聞こえるように声を大にして言い放つ。

 

 

「というわけで、ちょっとユーマを迎えに行ってくる! もし時間までに戻ってこなかったら、先に始めててくれ!」

 

 

間に合わなかった時のためにそう言ったが、それに対して出水とクラインが溜息まじりで言葉を返してきた。

 

 

「おいおいカズ、今日の主役がなに言ってんだ」

 

 

「戻るまで待っててやっから、とっとと行ってこい!」

 

 

そう言ってくれた2人の言葉に、他のメンバーも同意なようで、笑って頷いてくれる。

 

 

「悪い! できるだけすぐ戻ってくる!」

 

 

俺はみんなに深く頭を下げてから、店を飛び出した。それからすぐに、ユーマに居場所を聞くために携帯端末を取り出して、電話をかけながら走り出したのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「まったく、忘年会だってのに忙しないわねぇ」

 

 

出て行った和人と見送りながら、リズベット/篠崎里香が呆れたように呟く。それを聞いてアスナ/結城明日奈も「あはは」と苦笑しながら続く。

 

 

「仕方ないよ、ユーマ君は三門市に住んでるから、ここら辺の土地勘がないんだし」

 

 

「アスナさんは、ユーマ君とリアルでもお知り合いなんですか?」

 

 

「キリト君の紹介でね」

 

 

「じゃあ、ひょっとしてシノンさんも?」

 

 

「まあね」

 

 

シリカ/綾野珪子とリーファ/桐ヶ谷直葉が小首を傾げながら訊ね、明日奈とシノン/朝田詩乃は頷いて答える。

 

 

「キリトの紹介ってことは、ユーマもボーダーなの?」

 

 

「うん。でも、正式に入隊するのは来年の1月で、今は仮入隊ってことになってるらしいよ」

 

 

「ふーん、ボーダーに入隊かぁ。あたしとシリカは入隊試験で落とされたからねぇ」

 

 

「はい、残念です」

 

 

「私もですよ~」

 

 

里香が苦笑気味に言うと、珪子と直葉も少し肩を落としながら同意する。里香と珪子は明日奈や詩乃と同時期、直葉は兄である和人と一緒にボーダーの入隊試験を受けたのだが、残念ながら落とされてしまったのである。しかしあまり過ぎたことを引きずらないタイプである里香は、すぐに話題を切り替える。

 

 

「それで、ボーダーに入隊してどうだった? やっぱり訓練とか厳しい?」

 

 

「うーん、あんまり内容を話したらダメだから詳しくは言えないけど、わたしやキリト君と同じ年代の隊員が多くて、楽しいところだよ。チームを組んで一緒に近界民(ネイバー)と戦ったり、隊員やチーム同士で競い合ったりして、組織の一体感を高めてる感じかな。キリト君も、しょっちゅう他の隊員と戦闘訓練してるらしいよ」

 

 

「あはは、あいつらしいわね。そう言えば、キリトってボーダーじゃどんな感じなの?」

 

 

「あ、それあたしも聞きたいです!」

 

 

「私も! お兄ちゃん、あんまりボーダーでの話してくれないし」

 

 

里香がそう訊くと、珪子と直葉も興味津々の眼差しで明日奈を見つめる。

 

 

「え? うーん……わたしも入隊して3ヶ月くらいだけど、いつもキリト君と一緒にいるってわけじゃないからなぁ……」

 

 

「え、そうなの?」

 

 

和人と明日奈はいつも隙あらばイチャついているバカップルなのでボーダーでもよく一緒にいる、と里香は思っていたのだが、ボーダーでは意外とそうでもないということに目を丸くした。

 

 

「シノンさんもですか?」

 

 

「そうね、私もボーダーに入ってからは、キリトより同じ狙撃手(スナイパー)の人たちとの交流のほうが多いかもしれないわね」

 

 

珪子の問い掛けに、詩乃は頷く。

 

 

「ユイちゃんは?」

 

 

「私は最近までずっと、トリオン体完成のために開発室に籠っていましたので、詳しくは知りません。でも、パパは開発室のみなさんとはすごく仲良しですよ」

 

 

直葉もユイに聞いてみるが、彼女も詳しいことは知らないと言う。すると、明日奈が思い出したようにポン、と両手を叩きながら口を開く。

 

 

「でも、けっこう色んな人に慕われてると思うよ。キリト君のことをお兄ちゃんって言ってる子もいるし」

 

 

「あ、知ってます、緑川駿君ですよね!」

 

 

明日奈の話を聞いて、その話題に飛びついた直葉が声を上げる。

 

 

「この間、カイトさんやその友達と一緒にウチに遊びに来てました。あの時はビックリしたなぁ、お兄ちゃんが友達を家に連れて来たのは初めてだったから」

 

 

「けっこう酷いこと言ってる気がします……」

 

 

しみじみと語る直葉に、珪子が苦笑しながら囁く。明日奈もそれに釣られて笑いながら、話を続ける。

 

 

「緑川君の他にも、年下の子には頼られたりしてるかな」

 

 

「まあ、なんだかんだ言ってあいつ、面倒見はいいからね」

 

 

「年上の人たちには、純粋にキリト君の実力が気に入ったって人が多いかも。よく模擬戦挑まれてるし」

 

 

「あー、それもなんとなくわかるわ。で、あんたもその年上の1人に数えられてるってわけね」

 

 

「そ、そんなことないっ……ことも、ない……かな……?」

 

 

呆れたようにそう言った里香に対して弁明しようとした明日奈だが、心当たりがあるのか、眼を右往左往に泳がせながら段々と言葉の語気が小さくなっていき、最終的には黙りこくってしまった。どうやら図星のようだ。

 

 

「あっ、そ…そうだ! こういう話ならカイト君のほうが詳しいと思うよ! キリト君のチームメイトで同年代のお友達だし、その分一緒にいることも多いから!」

 

 

慌てた口調で早口にそう捲し立てる明日奈。分が悪くなった話題を変えようとしているのは明らかだが、里香もそこまで意地は悪くないので、その話に乗ることにした。

 

 

「それもそうね。じゃあさっそく──カイトー、あんたちょっとこっちに来なさい!」

 

 

女性陣とは離れた席でクライン/壺井遼太郎と話していたカイト/出水公平を、里香が大声で呼びつける。

すると出水はいきなり呼ばれたことに疑問符を浮かべながらも、それに従って里香たちのいるカウンター席にやって来て合流する。その際、ついでに遼太郎もついて来た。

 

 

「なんすか、リズさん?」

 

 

「ったく、いきなりオレ様とカイトの男同士の話に水差すなよな」

 

 

「別にクラインは呼んでないから、アンタは1人で店の端っこで飲んでなさいよ」

 

 

里香の辛辣な言葉に遼太郎は「ひでェ!」と叫ぶが、全員がスルーして、出水に本題を話した。

 

 

「キリトって、ボーダーじゃどんな感じなのかなーって話してたのよ。で、キリトと同じチームを組んでるっていうアンタに詳しく話を聞いてみたいのよ」

 

 

「カズの?……ああ、そういうことっすか。いいですよ、おれの知ってる範囲で良ければ」

 

 

「お、さすが、話がわかるわね!」

 

 

出水は里香の言いたい事を察したかのように頷くと、快く了承する。そして出水は自分の顎に右手を当てて考える仕草を見せると、唸りながら話し始める。

 

 

「そうっすね、まずここ最近の話だと──うちと同じチームの柚宇さんをゲームで負かして首絞められてましたねー」

 

 

「…………は?」

 

 

誰かからそんな声が漏れる。出水が話し始めた話の内容に、明日奈や里香たちが目を丸くしているが、本人は構わず話を続けている。

 

 

「柚宇さんって、ゲームで負けると泣きながら相手の首絞めるクセあるんすよ。しかもその時の絞め方がヘッドロックだったからカズの奴、苦しんでんだか喜んでんだか、よく分かんねー顔してたんすよ」

 

 

「い、出水君……?」

 

 

「それに……カズに軽くひねられた香取ちゃんが半泣きで突っかかってきたのを頭を撫でて宥めてたり、加古さんに壁ドンされながら勧誘されてたり、くまに勉強教えてたら顔が近いって言って殴られたり、体調を崩した那須さんをおぶって家まで届けたり、宇佐美にメガネについて延々語られたり、三上ちゃんに甘えられたり、成り行きで綾辻さんを膝枕することになったり、えーっとあとは……」

 

 

「ま、待って待って! ちょっと待って!」

 

 

「あ、アンタいきなり何の話してんのよ!?」

 

 

更にペラペラと語り続ける出水を、見かねた明日奈が大声で彼を止める。そして同時に、里香が出水に突っかかるように言い放つ。だがそれに対して出水は、不思議そうな顔で反応する。

 

 

「え? 何って、カズがボーダーで起こした女性関係のトラブルっすけど……あれ? 違いました?」

 

 

「違うわよ!」

 

 

出水は、彼女たちはてっきり和人のボーダーにおける女性関係について訊きたいのだろうと思っていたのだが、どうやら違っていたらしく、里香に怒鳴られる。

 

 

「で、でも、ちょっと聞いてみたい気もします……」

 

 

「私も……」

 

 

その傍らで、頬を赤く染めた珪子と直葉がそう呟いていたが、幸い誰の耳にも届かなかった。

 

 

「キリの字のヤロー、ボーダーでもそんな羨ましいことになってんのか」

 

 

そこに、遼太郎が嫉しそうな口調で呟く。それに対して出水は、苦笑しながらそれに応える。

 

 

「カズの周りはいつもそんな感じっすよ。しかも本人が自覚なしってのが厄介なんだよなぁ」

 

 

「チックショー、こうなったらオレ様もボーダーに入隊して……」

 

 

「やめときなさいよ。アンタが入隊しても、年寄りの冷や水にしかならないんだから」

 

 

「さっきから辛辣過ぎやしませんかねェ、リズさん!」

 

 

またも里香の容赦ない一言によって撃沈する遼太郎だが、当然のごとく全員スルー。

 

 

「カイト君、わたしたちが聞きたかったのは、キミから見てボーダーでのキリト君はどんな人に見えるかって話だったの」

 

 

「あ、なんだそういうことっすか。すみません、この面子ならカズの女性関係のことかと思って」

 

 

「もう、カイト君ったら……」

 

 

明日奈が誤解を解くと、出水は左手で自分の後頭部を掻きながら謝罪する。そしてそんな出水の左肩に、明日奈が優しく微笑みながら右手を置く。

 

 

と、その瞬間──

 

 

「その話はあとで……く・わ・し・く・聞かせてね?」

 

 

「う、うっす」

 

 

バーサクヒーラーと呼ばれた女性から向けられる影を帯びた微笑みと、左肩に置かれた手から伝わる途轍もない威圧感に、顔を真っ青にした出水は引きつった声で、大人しく頷くしかなかった。

 

──カズ、すまん。

 

同時に、この場にいない和人に対して心の中で合掌と謝罪をした。

そんな明日奈から発せられる圧を、里香たちも感じたのか、誰もこの件に関してそれ以上追及することはなかった。

 

 

と、その時──

 

 

「待たせてすまん! ユーマを連れてきたぞ!」

 

 

「どーもみなさん、遅れてもうしわけない」

 

 

勢いよくダイシー・カフェの扉が開かれ、今のいままで話題になっていた和人と、その和人に連れられた小柄な白髪の少年、ユーマ/空閑遊真が飛び込んできた。

 

 

良いのか悪いのかわからない、微妙なタイミングで戻って来た和人に、出水や里香たちは思わず固まってしまったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

迷ったというメールが届いてから約十数分。俺はなんとか約束3時までにユーマを引っ張ってくることができた。あいつの迷っていた場所が、意外と店の近くだったのが幸いだった。

 

 

「はじめまして、空閑遊真です。背は低いけど15歳だよ。どーぞよろしく」

 

 

そんな俺の視線の先では、ユーマがクラインやリズたちの前で自己紹介をしながらペコリとお辞儀をしている。だけどクラインたちは挨拶よりも、物珍しそうな視線をユーマに送っていた。

 

中学3年生にも関わらずシリカよりも低い小柄な体型や、真っ赤な瞳もそうだが、何よりみんなの目を引いているのは、一点のくすみもない真っ白な髪だろう。明らかに日本人離れしたその髪は、ふわふわとした髪質とも相まってまるで綿菓子のようだ。

 

そんな中で、最初にユーマに歩み寄ったのはクラインだった。

 

 

「なんだおまえ、ALOアバターと一緒でチビっこいな! ホントに15歳か?」

 

 

「まーね」

 

 

気さくに話ながらその白い頭をわしゃわしゃと弄るクライン。それにユーマも嫌な顔はせず、ALOでも見せた三の目3の口の表情で答えている。それに続いて、リズベットやシリカたちもユーマの側に集まる。

 

 

「うわー、本当に髪真っ白ね。これ生まれつき?」

 

 

「昔は黒かったよ。けどいつの間にかおどろきの白さに」

 

 

「同い年であたしより背の低い男の子、初めて見ました」

 

 

「そうか? けっこういると思うぞ?」

 

 

「なんだか小動物みたいで可愛い~!」

 

 

「おお? リーファ先輩、ちょっとくすぐったいぞ」

 

 

ユーマを中心にわいわいと賑やかにしている間に、ようやく忘年会の準備が整った。

 

2つのテーブルをくっつけた卓上に料理と飲み物が並べられ、その中心に見事な照りを纏ったスペアリブの大皿が置かれると、全員で店主に拍手を送る。そしてエギルもエプロンを脱いで席に着き、未成年組にはノンアルコール、成人組には本物のシャンパンが注がれると──。

 

 

「祝、《聖剣エクスキャリバー》とついでに《雷槌ミョルニル》ゲット! お疲れ、2015年!──乾杯!」

 

 

「「「カンパーーイ!」」」

 

 

俺の省略気味な音頭に、全員が大きく唱和し、グラスを軽くぶつけ合う小気味の良い音が響いた。

 

 

「えっ!? ユーマ君って外国に住んでたの!?」

 

 

「そうだよ。まあ住んでたっていうより、物心ついた頃から親父と一緒にいろんな国をまわってたかな。日本に住み始めたのも最近だし」

 

 

「その年で国巡りかよ、オメェただもんじゃねェな!」

 

 

「いえいえそんな、ただ者です」

 

 

そんな感じで始まった打ち上げ、兼、忘年会。みんなが思い思いの料理を食し、ジュースを飲み、好き放題に騒ぎ始め、主にユーマの話で盛り上がっている。

 

 

それから10分ほどした頃……

 

 

「……なあ、出水」

 

 

「な、なんだ、カズ?」

 

 

正面に座る出水にお互いにしか聞こえないくらいの声量で声をかけると、出水は目に見えて肩をはねらせ、わざとらしく俺から視線をそらす。そんな奴の態度を怪しく思いながら、俺は続けて言った。

 

 

「おまえ、さっきから俺にやたら料理を回してきてないか?」

 

 

「そ、そりゃあ、カズはよく食うからな! もしかしたら足りねーんじゃねえかと思ってよ!」

 

 

貼り付けたような笑顔に冷や汗を垂らしながらそう言って、出水は俺の取り皿に2本のスペアリブを置く。ありがたいと言えばありがたいんだが、何だか気味が悪い。

なので俺は、もう1つ疑問に思っていたことを聞いてみた。

 

 

「ひょっとして──さっきから怖いくらいの笑顔で俺を見ているアスナと何か関係があるのか?」

 

 

「……………」

 

 

その問いに出水は、口をモゴモゴと動かしながら顔を俯かせると、ポツリと囁いた。

 

 

「……カズには、悪いことをしたと思ってる」

 

 

「おまえ俺がいない間に何をした」

 

 

あまりにも不穏な返答に、不安を隠せない。それから出水は俺と一切眼を合わせようとせず、黙々と料理を食べ始めてしまったので、これ以上追及することはできない。

なので俺も、不安な気持ちを料理と一緒にグッと飲み込んで食事を再開することにした。その際、左隣のアスナの笑顔を見る度に凄まじい悪寒に襲われたことは、気のせいだと思っておく。

 

 

「……それにしても、さ」

 

 

それから約1時間後、右隣に座るシノンがそう呟いたのは、テーブルの料理があらかた片付いた頃だった。

 

 

「どうして《エクスキャリバー》なの?」

 

 

「へ? どうしてって?」

 

 

俺が意図をはかりかねずに首を傾げると、シノンは指先でくるくるとフォークを回しながら補足する。

 

 

「普通は、っていうか、他のファンタジー小説やマンガだと大抵《カリバー》でしょ。《エクスカリバー》」

 

 

「あ……ああ、そういうことか」

 

 

「言われてみればそうだよな」

 

 

質問の意図にようやく合点がいった。左隣では同じように出水も納得している。

 

 

「へぇ、シノンさん、その手の小説とか読むんですか?」

 

 

向かいの出水の隣に座る直葉が訊ねると、シノンは照れ臭そうに笑った。

 

 

「中学の頃は、図書室のヌシだったから。アーサー王伝説の本も何冊か読んだけど、訳は全部《カリバー》だった気がするなあ」

 

 

「うぅーん、それはもう、ALOにあのアイテムを設定したデザイナーの趣味というか気まぐれというか……」

 

 

情緒の欠片も無いことを言った俺に、ようやく怖い笑顔を止めてくれたアスナが苦笑しながら言った。

 

 

「たしか、大元の伝説ではもっと色々あるのよね。さっきのクエストじゃ偽物扱いされてたけど、《カリバーン》もその1つじゃなかったかしら」

 

 

すると、アスナの膝に座るユイがはきはきと答える。

 

 

「主なところでは《カレドヴルフ》、《カリブルヌス》、《カリボール》、《コルブランド》、《カリバーン》、《エスカリボルグ》等があるようです」

 

 

「うは、そんなにあるのか」

 

 

「だったらもうキャリバーとカリバーなんて誤差みたいなもんだろ」

 

 

驚きつつ出水の言葉に、内心でそうだよなと思っていると、再びシノンが口を開いた。

 

 

「まあ別に大したことじゃないんだけど……《キャリバー》って言うと、私には別の意味に聞こえるから、ちょっと気になっただけ」

 

 

「へえ、意味って?」

 

 

「銃の口径を、英語で《キャリバー》って言うのよ。例えば、私のへカートIIは50口径で《フィフティ・キャリバー》。因みにボーダーのアイビスも同じよ。エクスキャリバーとは綴りは違うと思うけどね」

 

 

そこまで言うとシノンは、一瞬だけ口を閉じて、ちらりと俺を見てから続けた。

 

 

「あとは、そこから転じて、《人の器》って意味もある。《a man of high caliber》で《器の大きい人》とか《能力の高い人》」

 

 

「なんと、銃口にそんな意味が……」

 

 

ユーマが三の目を光らせて言うと、シノンは「たぶん中学のテストには出ないかな」と笑う。

すると、いつの間にか話を聞いていたリズベットが、テーブルの反対側でニヤニヤと笑いながら俺を見ていた。

 

 

「ってーことは、エクスキャリバーの持ち主はデッカイ器がないとダメってことよね。なんかウワサで、最近どっかのボーダーのA級隊員様が、どーんと稼いでるって聞いたんだけどぉー」

 

 

「ウッ……」

 

 

ボーダーの給料は階級によって変わる。C級は訓練生なので《無給》。B級は《防衛任務での出来高払い》。そしてA級隊員は《固定給+出来高払い》となっている。先月の防衛任務ではけっこうな数のトリオン兵を狩ったので、それなりの額が振り込まれている。まあすでに直葉のナノカーボン竹刀やら、緑川や黒江にご飯を奢ったりやらで色々使ってはいるが。

ぶっちゃけそれは同じ太刀川隊の出水も一緒なので、この際に道連れにしてやろうかと考えたが、それこそ俺の器が問われてしまう。なので俺はどーんと胸を叩きながら、宣言する。

 

 

「も、もちろん最初から、今日の払いは任せろっていうつもりだったぞ」

 

 

途端、四方から盛大な拍手とクラインの口笛が響いた。それに手をあげて応じながら、俺は内心で考える。

 

 

SAO、ALO、GGO、そしてボーダーでの戦いの経験を通して、人の器について学んだとすれば、それは《1人では何も背負えはしない》ということだ。

 

 

俺はいつも挫けそうになりながらも、多くの人たちに支えられて歩き続けてきた。今日の突発的冒険の展開こそ、まさにその象徴だった。

 

 

だからきっと、俺の──いやみんなの《キャリバー》とは、仲間全員で手を繋いでいっぱいに広げた輪を作った、その内径を差すのだ。

 

 

あの黄金の剣は、自分1人のためには決して使うまい。

 

 

内心でそう決心すると、右手にグラスを持った出水が、俺の肩に左腕を回してくる。

 

 

「よーしカズ、もういっちょ乾杯しようぜ!」

 

 

「さっきやったろ、今度はなんの乾杯だよ」

 

 

「んなもん決まってんだろ!」

 

 

そう言われて俺は、ふと顔を上げる。

 

 

そこには俺を支えてくれる仲間たちが、手にグラスを持って待っててくれている。だから俺も、テーブルのグラスに手を伸ばした。

 

 

「みんなの《キャリバー》に!」

 

 

そして出水のその言葉に続くように、俺はグラスを高々と掲げて言い放った。

 

 

 

 

 

「────乾杯!!」

 

 

 

 

 

キャリバー編

──完──







綺麗に締めましたが、このあとキリトはアスナに説教されました(笑)。
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