キリトin太刀川隊   作:ZEROⅡ

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2話目です


桐ヶ谷和人②

 

 

「ハァ……」

 

 

場所は三門市の隣に位置する《御徒町》にある喫茶店《ダイシー・カフェ》。見た目がバーのように作られたその店は、どことなく大人の店という雰囲気がある。

その店のカウンター席では、学校の制服に身を包んだ俺、桐ヶ谷和人は、つい疲れたように溜息を吐いてしまった。

 

 

「どうした? ずいぶん疲れた様子じゃねーか」

 

 

「大丈夫? キリト君」

 

 

そんな俺に声をかけたのは、俺と同じSAO生還者(サバイバー)であり、恋人である《アスナ》こと、結城(ゆうき)明日奈(あすな)。そして同じくSAO生還者(サバイバー)であり、このダイシー・カフェのマスターの《エギル》こと、アンドリュー・ギルバート・ミルズ。長いから俺たちは相変わらずエギルと呼んでいる。

 

 

「いや、実は昨日防衛任務のあと、ALOでカイトと一緒にずっとユズさんのクエストに付き合わされてて……まさか本当に徹夜になるとは……おかげで授業中も眠くてさ」

 

 

「そりゃ災難だったな。あの嬢ちゃん、自分が満足するまで中々解放してくれねーからな」

 

 

「もう、ユズったら。今度私の方から注意しておくね」

 

 

「ハハハ……」と力無く笑う俺に、明日奈とエギルは労うようにそう言ってくれた。

 

 

ALOとは《アルヴヘイム・オンライン》のことで、SAOと同じくVRMMORPGの1つ。《アミュスフィア》と呼ばれるフルダイブ用電子ゲームハードを使い、電子の世界である仮想世界で遊ぶことが出来るゲームだ。

その中で俺は影妖精族(スプリガン)のキリトとして、かつてのSAOの仲間たちとプレイしている。因みに今言った《カイト》と《ユズさん》とは、俺と同じの太刀川隊の出水公平と国近柚宇さんのことだ。

 

 

「はぁぁ……正直今日はもう、何もやる気が起きない」

 

 

「ったく、こんなのがボーダーのトップ部隊のメンバーだとは思えねえな」

 

 

「うるさいな……」

 

 

エギルの皮肉めいた言葉に、俺はテーブルに屈しながら奴を睨むが、大人の余裕とも取れる笑みで躱されてしまった。すると、俺の隣に座るアスナが小さくクスッと笑った。

 

 

「キリト君、ボーダーに入ってからちょっと変わったよね」

 

 

「え? そうかな?」

 

 

「うん。最近はよくキリト君から同年代の友達や、ボーダーでの先輩と後輩の話もよく聞くし、何だかすごく生き生きしてる感じ」

 

 

「そう……かもな」

 

 

アスナが言った言葉に、俺は素直に頷きながら同意する。

実際、出水とか米屋たち同年代の奴らは俺がSAO生還者(サバイバー)って知っても、気さくに接してくれる気のいい奴らだし……太刀川さんや風間さんたち先輩にもすごく世話になってる。二宮さんはちょっと怖いけど……あと後輩の唯我と緑川も俺を慕ってくれているので、俺自身もあいつらを可愛い後輩だと認識してる。唯我はもうちょっと自立してくれるとありがたいが。

 

 

確かにアスナの言う通り、俺はボーダーに入ってから変わったと思う。ぶっちゃけ少し前の俺には、先輩後輩どころか友達すらいなかったからなぁ……自分で言っててちょっと悲しくなってきた。

 

 

それに……

 

 

「あの世界で2年間……俺が培った経験で、この現実世界の人たちを少しでも多く救えるのなら……俺は戦うよ」

 

 

俺は自分の右手を強く握りながら、自分自身に誓いを立てるようにそう呟いた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

俺たちがSAOをクリアして、現実世界に目覚めた時……世界は少し変わっていた。

 

 

2年前……つまり俺たちがSAOの世界に囚われてからすぐに、また別の事件が起きたらしい。

 

 

その名も《第一次近界民(ネイバー)大規模侵攻》。死者1200名以上、行方不明者400名以上の被害を及ぼした。

 

 

事の発端は《三門市》と呼ばれる、人口28万人のとある街。俺たちがSAOに閉じ込められたその日……その街に異世界への(ゲート)が開かれた。

 

 

近界民(ネイバー)》──後にそう呼ばれる異次元からの侵略者が、(ゲート)付近の地域を蹂躙。街は恐怖に包まれた。

 

 

こちらの世界とは異なる技術(テクノロジー)を持つ近界民(ネイバー)には地球の兵器では効果が薄く、誰もが都市の壊滅は時間の問題だと思い始めた。

 

 

だけどその時──突如現れた謎の一団が、近界民(ネイバー)を撃退しこう言ったそうだ。

 

 

「こいつらの事は任せてほしい。我々はこの日の為にずっと備えてきた」

 

 

近界民(ネイバー)技術(テクノロジー)を独自に研究し、こちら側の世界を守る為戦う組織。彼らは僅かな期間で巨大な基地を作り上げ、近界民(ネイバー)に対する防衛対策を整えた。

 

 

その組織の名は……界境防衛機関《ボーダー》

 

 

それ以来、ボーダーの技術でこちら側の世界で開かれる(ゲート)は三門市でしか開かなくなり、たまに聞こえる轟音や爆音にも三門市の住民たちは慣れていった。

 

 

もちろん、2年間SAO世界に囚われていた俺は驚愕した。異世界からの侵略者などというゲームでもよくありそうな事が現実で起こっていたのだから。正直その話を聞いた時は「まだVRの世界の中にいるんじゃ……」と疑ったほどだった。

 

 

俺たちが目覚めてからしばらくして、ボーダーはゲームで生き残って帰還した《SAO生還者(サバイバー)》と呼ばれる人たちを、積極的にボーダーへ勧誘した。

目的はもちろん、生還者たちの社会復帰やリハビリなどの支援してメディアへのアピールをするというのもあるが……実のところ、ゲームとはいえ2年もの間命懸けの戦いを経験した生還者を戦力として加えたいというのが本音だった。もちろん俺もその1人だ。

 

 

どうやら俺はSAO生還者(サバイバー)の中でもかなり優秀な能力を持っていたらしく、特に手厚く勧誘された。そして色んな人からの薦めもあり、何よりあの世界での2年間が少しでも現実世界の役に立つのならと思った俺はボーダーに入隊した。それから1年経った今では……A級1位の太刀川隊に所属しているという訳だ。

 

 

短くまとめたが、これが俺がボーダーに入隊することになった経緯だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……っと、しまった!」

 

 

少し物思いにふけっていた俺はふと時計を見ると、時刻は夕方の5時過ぎを示していた。それを見た俺は慌てて席を立ちあがってリュックを背負う。その際にちゃんと代金をカウンターの上に置いておくのも忘れない。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

「このあと出水や米屋と本部で会う約束してるんだ。あいつら遅れたらうるさいから。だからごめんアスナ、今日はこれで! エギル、ごちそうさま!」

 

 

「うん、いいよ。気を付けてねキリト君」

 

 

「まいど。もし本部で春秋に会ったら、また店に顔出すように言っておいてくれ」

 

 

「わかった。それじゃあ!」

 

 

挨拶もそこそこに、俺は急いでダイシー・カフェをあとにして、大急ぎで御徒町駅に向かって走って行った。

 

 

『ねぇエギル、キリト君にあの事は……』

 

 

『大丈夫だ、今のところバレちゃいねぇ』

 

 

『そっか。フフッ…来月が楽しみ♪』

 

 

『あの野郎が驚く顔が目に浮かぶぜ』

 

 

だから、俺が去ったあとのダイシー・カフェで、アスナとエギルがそんな会話をしていたことなど知る由もなかった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「オラァ!!」

 

 

「ハァッ!!」

 

 

多くの高層ビルが立ち並ぶビル街の市街地……そこはもちろん本物の街ではなく、ボーダーのトリオン技術で造られた戦闘訓練用の仮想空間だ。

その場所で俺は、槍を使う同年代の男と武器を交えていた。

 

 

「どうしたカズ!! いつもより動きが鈍いじゃねーか!!」

 

 

「今日はちょっと色々疲れてんだよ! お前は元気でいいよな槍バカ!」

 

 

「誰が槍バカだ、ゲームバカ!」

 

 

そう言いながら俺は槍を弾き返してこいつから距離を取る。

こいつの名前は米屋(よねや)陽介(ようすけ)。A級7位の《三輪隊》に所属する攻撃手(アタッカー)で、ボーダーで唯一の槍型《弧月》の使い手だ。別名《槍バカ》。

 

 

俺と米屋が行っているのは、ボーダー隊員同士の模擬戦。通称《個人(ソロ)ランク戦》だ。

その名の通り、個人の隊員同士が対戦し、勝った方が負けた方の個人(ソロ)ポイントを貰えるというボーダーにおける戦闘訓練の一環だ。

 

 

「そぉらよっ!!!」

 

 

「ッ!!」

 

 

米屋が放つ槍弧月による鋭い突きの連続。正直、その突きの速さはSAO時代に《閃光》と呼ばれたアスナの細剣(レイピア)に比べたら僅かに劣るが、それでも十分すぎるほどに速い。

それを俺は何とか眼で見切りながら、(メイン)トリガーの《レイガスト》で防御したり、回避したりで凌いでいる。

もちろん、俺も防戦に回っているだけじゃない。

 

 

「スラスターON!」

 

 

俺はブレードに手を添えるように構える。同時にレイガスト専用のオプショントリガー《スラスター》を起動させて、噴出されるトリオンの推進力でブレードを加速させる。

 

 

「オオオッ!!!」

 

 

「うおっ!?」

 

 

俺は加速させて振るったブレードを上手く槍弧月の刀身に当てて弾き返すことに成功する。それによって米屋の腕も上に弾かれ、体制を崩していた。

 

 

「ここだっ!!!」

 

 

すぐに俺は無防備となった米屋の体目掛けてレイガストを振るう。だけどそれに対して米屋は、ニヤリと笑った。

 

 

「……と、思うじゃん?」

 

 

「!?」

 

 

その瞬間…俺が振るったレイガストは、米屋の体を守るように出現した小さな六角形の盾によって防がれてしまった。これは、任意の場所にトリオンの盾を出現させる防御用トリガー《シールド》だ。

シールドの耐久力では、ブレードを完全に止めることはできないけど……一瞬だけでも止められてしまえば、その分米屋に回避する隙を与えてしまう。

 

 

「よっと!」

 

 

シールドに阻まれて一瞬止まったのを見計らって、後ろに飛びながら後退した米屋に、俺が振るったレイガストは紙一重で回避されてしまった。

しかも米屋は、すぐに反撃の一手に出てきた。

 

 

幻踊(げんよう)弧月(こげつ)!」

 

 

米屋は再び槍弧月で鋭い刺突を連続で放ってくる。

だけどこの突きはただの突きじゃない。弧月専用のオプショントリガー《幻踊》でブレードを変形させ、たとえ回避されたとしても変形したブレードが襲う変幻自在の突きだ。

 

 

「ぐっ……!!」

 

 

俺は何とかレイガストで弾く防御を試みる。だけど自在に変形するブレードまでは止められない。

徐々に俺の体中に切り傷が刻まれ、その傷から煙となったトリオンが漏れ始める。それでも何とか急所への攻撃は全て防いでいる。

 

 

「やっぱそう簡単に首を取らせてくんねーよなぁ!」

 

 

すると米屋は突きを止めて、今度は大きく振り上げた槍を一直線に振り下ろしてくる。いきなりの攻撃パターンの変化に俺は少し驚きながらも、レイガストを頭上で構えて防御態勢を取るが……その時、槍弧月のブレードがレイガストを避けるように変形した。

 

 

「なっ……!?」

 

 

直前に何とか身を引いたおかげで直撃は免れたが、それでも俺は右足を深く斬られてしまい、大きく体制を崩してしまう。

 

 

「もらったぁ!!!」

 

 

そしてそんな俺に向かってトドメと言わんばかりに米屋が放ってきた大振りの突き──ここだっ!!!

 

 

「スラスターON!!」

 

 

俺はスラスターを起動させて、レイガストに引っ張られるような形で崩れた体制をムリヤリ立て直す。

 

 

「なに!?」

 

 

そして俺は体を捻りながら間一髪で槍を回避して──

 

 

「ハァァァアア!!!」

 

 

足を地面に思いっきり叩き付けるように踏み込むと同時に、ダッシュのスピードを乗せた全力の突きを放つ。

スラスターによる推進力も相まって、まるでジェットエンジンのような振動音と共にレイガストの刃が米屋の胸を深く貫いた。

直後、貫かれた米屋の胸からブシューっと煙のようなトリオンが吐き出され、トリオン体がガラスのようにヒビ割れ始める。

 

 

「あーくそ……今日は勝てると思ったんだけどなぁ」

 

 

「悪いな、今日も俺の勝ちだ」

 

 

《トリオン供給機関破損──緊急脱出(ベイルアウト)

 

 

そのまま米屋のトリオン体は破裂して、米屋自身は緊急脱出(ベイルアウト)して、一筋の光が空に向かって消えていった。

 

 

《模擬戦終了 勝者 桐ヶ谷和人》

 

 

そんなアナウンスを聞きながら、俺はレイガストを軽く左右に振った後に背中のホルダーに収める。同時に俺の視界が光に包まれ、仮想空間から転送された。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「あーあ、負けた負けたぁ」

 

 

「結局今日も全戦全敗じゃねーか。情けねーぞ槍バカ」

 

 

「うっせー弾バカ! お前も人のこと言えねーだろ!」

 

 

「おれは2勝してっから、お前よりはマシだ」

 

 

「俺に言わせてもらえば、米屋も出水もどっちもどっちだと思うけどな」

 

 

「「うるせーゲームバカ」」

 

 

個人ランク戦が終わったあと、俺と米屋ともう1人は、場所をボーダー本部内にある食堂でテーブルを囲んでいる。

もう1人のこいつは出水公平。俺と同じ太刀川隊に所属する《射手(シューター)》だ。高いトリオン能力と豊富な弾丸トリガーを使いこなす天才的な《弾バカ》だ。

そんな俺たちが3人でテーブルを囲んで話す事は主に、さっきまでのランク戦についてだ。

 

 

「最後の一戦での槍バカの敗因は、やっぱ油断した事だろ。カズの足を削ったところで勝ちを確信して、逆に足元を掬われたんだからな」

 

 

「それは否定しねーけどよ、あの状態から体制を立て直すなんて思わねーだろフツー」

 

 

「バッカお前、相手はカズだぞ? この変態が土壇場で予想外の動きをすんのはいつもの事だろ」

 

 

「……それもそうだよな」

 

 

「肯定するなよ米屋! さすがに変態呼ばわりは酷くないか!?」

 

 

「いーや、おれのアステロイドの両攻撃(フルアタック)を1発も喰らわずに全部避ける奴は変態で十分だ」

 

 

「いやあれくらい、相手の目線とかで弾道を予測すれば誰でも……」

 

 

「「できねーよ変態」」

 

 

何故だか俺に変態の称号が送られることになった。解せぬ。

 

 

「そういやカズ、最後に使ったあの突き……あれもソードスキルとかいう技か?」

 

 

「ん? ああ《ヴォーパル・ストライク》か。そうだよ、片手剣重単発攻撃のソードスキル」

 

 

「ゲームでの技をトリガーで再現するとか、本当にゲームバカだよな、カズは」

 

 

「いいだろ別に。2年間も使い続けてきたものなんだから、体に染みついてるんだよ」

 

 

「ま、それで攻撃手(アタッカー)ランク3位にまで入ってんだからたいしたもんだよな」

 

 

《ソードスキル》とはSAOに設定されていた、いわゆる必殺技だ。本来なら攻撃軌道を補正する《システムアシスト》を伴って、通常攻撃を遙かに凌駕する破壊力と攻撃速度を得ることが出来るものなのだが、当然ボーダーのトリガーにはそんな補正機能のようなものはない。

たとえソードスキルと同じ動きをしても、破壊力と攻撃速度はそれには遠く及ばない。

 

そこで俺は《レイガスト》の専用オプショントリガー《スラスター》に目を付けた。噴出されたトリオンの推進力でブレードを加速させて破壊力を上げるそのトリガーは、ソードスキルの再現に大いに役立ってくれている。

 

その練習も兼ねて、正隊員になってからランク戦をしまくっていたら、いつの間にかボーダーにおける攻撃手(アタッカー)ランキングの3位にまで上り詰めていた。

 

 

「そういや、もうすぐ正式入隊日だな」

 

 

ランク戦の反省会から雑談までの会話を繰り広げていると、出水が思い出したように別の話題を口にし始めた。

その言葉に、オレと米屋も「そう言えばそうだ」と頷く。

《正式入隊日》とは言葉の通り、ボーダーに新入隊員が入る日だ。年に3回行われるそれには、毎回100人近い新隊員が入隊する一大イベントだ。その正式入隊日が来月にまで迫ってきている。

 

 

「今年はどうなんだろうな? 緑川とか木虎レベルの新人が入隊してくれたら、バトれておもしれーんだけどな」

 

 

「それは難しいんじゃないか。最近の新人はパッとした奴がいないって、諏訪さんが愚痴ってたし」

 

 

入隊日を迎える度にボーダーの戦力が増えるかと言われれば、実はそうでもない。

ボーダーの入隊試験は《基礎学力試験》と《基礎体力試験》と《面接》の3つで構成されているが、ぶっちゃけこれらは合否の判定基準にはなっていない。

 

入隊試験の1番の合格条件は、トリガーを使う才能……つまり《トリオン量》の優劣だ。

 

極論を言えば、たとえ学力・体力試験が優秀でも《トリオン量》が合格基準に達していなければ落とされる。その逆もまた然りだ。まぁ実際に学力が残念な奴でもちゃんと入隊できてる奴はいるしな、目の前にいる米屋とか。

 

かと言って、トリオン量が優秀ならば良いという訳でもない。結局のところ、大事なのは才能があるか無いかではなく……戦う意志があるかどうかだ。

戦おうとする意志があれば、強くなろうと努力する。努力することに才能なんて関係ない。多少の差異はあれど、そういう奴こそ強くなれると俺は思っている。

だが、このところの新人の多くはボーダーの名前を一種のブランドのように語っている。『ボーダーに入れば人気者になれる』と思って入隊してくる奴がほとんどだ。

そういう奴こそ長くは続かない。どんなに才能に恵まれていようが、宝の持ち腐れ。万年C級の訓練生か、良くてB級下位止まりだろう。

 

少し話がそれてしまったが、つまりは即戦力になるような大型新人はそうそう居ないってことだ。

 

 

「いや、今回はそうでもねぇかもしれねーぞ」

 

 

すると出水が、何か意味あり気にニヤリと笑いながらそう言った。

 

 

「何だよ弾バカ、おまえ何か知ってんのか?」

 

 

「弾バカ言うな槍バカ。おれも噂で聞いた程度なんだが、実は──」

 

 

内緒話をするように少し声を潜める出水。そんな出水に俺と米屋は顔を近づけて、出水の話に耳を傾けようとする。

 

 

だがその時、俺たち以外の声が食堂に響いた。

 

 

「あーいたいた!! 和人兄ちゃん!!」

 

 

元気な少年の声。妹の直葉以外で俺のことを兄と呼ぶのは、このボーダーでは1人しかいない。顔を見る前から相手が誰だが察した俺は、そいつに視線を向けながら声をかけた。

 

 

「よお、緑川」

 

 

少年の名前は緑川(みどりかわ)駿(しゅん)。A級4位部隊《草壁隊》に所属する攻撃手(アタッカー)だ。因みに中学2年生。

先ほど話していた大型新人の1人で、入隊して僅か1年でA級隊員にまで上り詰めた奴だ。実際に才能はあるし、強い。間違いなく将来有望な隊員だ。

 

まぁそのせいで一時期、緑川には素行に色々と問題があった……一言でいうと調子に乗っていた時期があった。

なまじ才能があるせいで他のC級隊員や、自分より弱い正隊員を見下す傾向が露骨に見て取れた。いくら才能があると言ってもまだ中学生なので、それも仕方ないことなのかもしれないが……

 

すると緑川はある日、とうとうA級隊員にまでケンカをふっかけた。しかもその相手は俺だった。当時さすがに緑川の行動は少し目に余ると思っていた俺は、緑川と模擬戦で勝負し、結果ボロボロに負かしてやった。その後、今までのこいつの態度を改めさせる為にちょっとした説教みたいな事をしてやったのだが、この時緑川の中で何がどうなったのかは分からないが、それ以降俺のことを和人兄ちゃんと呼んでくるようになった。

 

因みに緑川いわく「何だか兄ちゃん」みたいだから、らしい。

 

 

「やっほー、和人兄ちゃん! いずみん先輩とよねやん先輩もよっす」

 

 

「「うぃーす」」

 

 

そんな軽い調子で俺や出水と米屋に挨拶を交わす緑川。

最近ではこの4人で一緒にいる事が多くなっているので、周囲からは俺たちは《A級4バカ》と呼ばれている。正直出水と緑川はともかく、米屋と一緒にバカのひとくくりにされるのは納得いかない。

 

 

「で、俺に何か用か? またランク戦の相手でもしてほしいのか?」

 

 

「いいね、やろーやろー! って言いたいところだけど、違うよ。さっきユイちゃんと会ってさ、和人兄ちゃんを見かけたら開発室に来てほしいって伝言を頼まれたんだ」

 

 

「ユイが? 開発室に?」

 

 

はて……今日は特に開発室に呼ばれる予定はなかったハズだが。とはいえ、ユイが呼んでいるとなれば行かない訳にはいかないか。

 

 

「わかった、知らせてくれてありがとな緑川。悪い2人とも、そういう訳だから今日はこれで」

 

 

「おう。ユイちゃんによろしくな」

 

 

「明日は朝から防衛任務だからな、遅れんなよー」

 

 

「じゃあねー和人兄ちゃん!」

 

 

3人に別れを告げてから食堂を後にした俺は、若干の急ぎ足で娘のユイが待つ開発室へと向かって歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

「ところで出水、おまえさっきは何言いかけてたんだよ」

 

 

「あぁ、今度の新人の話か?」

 

 

「なになに? 何の話?」

 

 

「おまえのせいで中断した話だよ。いや、実はな──」

 

 

 

 

 

「今度入隊する新人の中に──SAO生還者(サバイバー)が数人いるんだってよ」

 

 

 

 

 

つづく

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