向日葵に憧れた海   作:縞野 いちご

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#2 行ってきなよ

 

 

 

 

 

 

翌朝、千歌ちゃん達は東京へ向かった。

 

 

 

私はというと、沼津に残っている。

今は水泳部のみんなと一緒にいる。

 

 

やえ「アイドル部の方の予選も近いのに来てもらってごめんね。無理させちゃ悪いから、今回は諦めようか迷ってたんだけど。」

 

曜「いいですよ。私は元々水泳部だったんですから!両立させるって言ったのは私ですし、キャプテンが謝ることじゃないですよ。」

 

やえ「ありがとう。浦女の水泳部はそこそこ強いから、やっぱりある程度の結果は欲しくてね……」

 

ななみ「強いって言っても、曜以外は地域予選突破できるかどうかくらいでしょ?」

 

やえ「まあね……」

 

ななみ「アイドル部は東海地区も突破できそうなんだから、曜はそっちを大事にした方がいいんじゃないの?」

 

曜「うーん。でも、私の原点、というか、どうしても私から飛び込みを外すことはできないんですよね。でも、Aqoursのみんなにもなるべく迷惑をかけないようにはしますよ?」

 

ななみ「本当にストイックだね。身体壊さないようにしなよ?」

 

曜「はいっ!」

 

 

 

千歌ちゃんとの通話が終わったあと、私は水泳部のキャプテンから高飛び込みの大会が明日あることを伝えられた。急な話になってしまったのは、予備予選の間はAqoursの活動に集中してもらいたかったからということだった。

 

 

私は水泳部との両立をしながらアイドル部の活動をしていくとキャプテンには断っていた。そして、日程としても被っていない以上、大会に出場しない理由なんてない。

 

 

キャプテン達にとって今回が最後の大会だ。今まで何かとお世話になってきた先輩なだけに、恩返しとまではいかないけど、ちゃんと出て見届けてもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「ちょっと日が空いちゃったかな……」

 

 

準備体操をしながら、久しぶりの高飛び込みの練習にワクワクしていた。

 

 

 

 

 

はずなのに

 

 

 

曜「今頃、千歌ちゃん達は何をしているんだろ。」

 

 

千歌ちゃんたちのことばっかり気にしてしまっている自分がいた。

 

 

曜「すぅ……はぁ〜。

私は私でやるって決めたんだ!この大会で良いところまで行けば、浦女の宣伝になるんだし!」

 

 

階段から上に行くにつれて、景色が開けてくる。プールしか無かった景色が、一番上まで来ると周りの海や山が一通り見える。

 

 

 

曜「ふぅ……」

 

 

 

懐かしい。

 

 

 

スッ

 

早速、軽い技で体を慣らす。宙返りを二回半ほどして着水した。

 

 

 

千歌『すごかったよー!!曜ちゃん!』

 

曜「!!」

 

 

 

水面に出た私は後ろを振り向く。

 

でも、そこには誰もいない。

 

 

曜「何をしてるんだ、もうっ!

今は考えない、考えない!」

 

 

練習に千歌ちゃんが毎回来てたわけじゃないじゃないか。変に意識したら良くない。

 

 

 

曜「よしっ。こういう時は思い切り飛び込んじゃった方が気持ちを切り替えられるよね。」

 

 

次はいきなりだけど、前逆さ宙返り3回半抱え型をやろう。

 

 

 

 

 

今頃、千歌ちゃん達は梨子ちゃんと合流して、東京でAqoursに足りないものを探しているに違いない。答えは見つかったのだろうか。

 

 

 

曜「……行くよ。」

 

 

 

飛び込み台を蹴って、宙をクルクルと回る。身体を伸ばしたタイミングで綺麗に着水した。

 

練習をあまりしていなかった分、キレが落ちていると思っていたけど、思っていたよりは綺麗に回れた。

 

 

曜「この調子だったら、大会は大丈夫かな。」

 

 

上手くできて安心した。

 

 

 

ななみ「相変わらず、綺麗なフォームだねぇ。」

 

曜「いやいや。練習にあまり出てなくて、体がなまりまくってますよ。」

 

ななみ「なまってるって自覚してて、あれだけできてれば、県予選は余裕そうだ。」

 

曜「だといいんですけどね。」

 

 

ななみ先輩は私が中学の時から水泳部でお世話になっているし、キャプテンも中学の時からお世話になっている。

 

 

 

ななみ「それでさ。少し気になってることがあるんだけど?」

 

曜「はい。何ですか?」

 

 

ななみ「県予選通過したら、アイドル部の予選と被ること、曜は知ってるの?」

 

 

 

 

 

え……?

 

 

 

 

ななみ「はぁ。その反応は初めて聞きましたって反応だ。」

 

曜「あ、あぁ……えっと……。」

 

水泳部B「飛び込みの東海予選、8月16日だから。アイドル部の大会、17日でしょ?」

 

曜「はい。」

 

ななみ「このままいけば、普通に高飛び込みも予選は勝てるよね?すると、二つの大会が1日差で来ることになる。

流石にそんな短い期間でどっちもこなすのは無理だと思うんだけど?」

 

 

 

確かに厳しい……

 

 

 

曜「そ、それは……」

 

 

 

 

 

ななみ「行ってきなよ。」

 

 

曜「え?」

 

 

ななみ「学校の体育館でライブしてた時さ、楽しそうだったじゃん。」

 

曜「……。」

 

ななみ「アイドル部の部長ってさ、いつも曜のことを応援してた子だよね?」

 

曜「はい。千歌ちゃんです。」

 

ななみ「あと私は果南とも中学の頃から仲良いからさ。頑張ってほしいんだよね。アイドル部の活動も。」

 

曜「……。」

 

 

 

それでも、私は私のできる限りのことをしたい。

 

 

曜「明日の大会に出場してから決めてもいいですか?」

 

ななみ「……。」

 

曜「もちろん、2人は私にとって大事な幼馴染です。スクールアイドルも大好きになりました。でも、先輩たちのことも大切なんです。

それに、高飛び込みは私にとって譲れないものだから……」

 

そう言って私が俯いていると、先輩はため息をしてから

 

ななみ「……周りに気を使いすぎるんだよ。曜はさ。」

 

そう言いながら頭を撫でてくれた。

 

ななみ「私は曜が高飛び込みに出てくれるなら嬉しいし、止めたりしない。でも、無茶したらダメだから。

わかった?」

 

 

先輩の言葉が私の心に沁みていくのがわかった。

 

 

曜「ありがとうございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌『明日まで東京に居ることになったんだ。』

 

 

練習が終わった後、千歌ちゃんから着信が来た。

 

 

曜「そっか。じゃあ明日もAqoursの課題探しをするの?」

 

千歌『うん。』

 

 

なんとなく予感はしていたけど、明日の大会には千歌ちゃんの応援は来てくれないようだ。

 

曜「明日にはAqoursの課題が見つかるといいね。」

 

 

あれ?これじゃあすっかり他人の話をしてるみたいだ。

 

 

千歌『うん!応援に行けないけど、曜ちゃんが勝てるように祈ってる!

明日は頑張ってね!!』

 

曜「ありがとう。」

 

 

それでも、千歌ちゃんの声は明るかった。

 

 

 

 

私の頭の中で、ふと飛び込みとラブライブの大会が被ることがよぎった。

 

 

 

もし私がAqoursのみんなとのライブじゃなくて、高飛び込みの大会を選んだとしたら、みんなは応援してくれるのかな?

 

 

 

 

曜「あ、あのね。千歌ちゃん。」

 

千歌『うん?』

 

曜「もし、もしね?私が……。」

 

 

 

やめよ。

 

 

こんなこと言って何になるって言うんだ。

 

 

千歌『……ようちゃん?』

 

曜「やっぱり何でもない!ごめん!」

 

千歌『えー?なになに?私はそういうのが一番気になっちゃうよ。』

 

曜「なんでもないのー。気にしないでっ。」

 

千歌『えー……

「千歌ちゃん!夕食が用意されるって!」「ほら、長電話してないで行こ!」「あまり急かすのは良くないわよ?」』

 

曜「ほら、みんなも待ってるよ。」

 

千歌『わかった。曜ちゃんの話、内浦に帰ってからでいいから教えてね?』

 

曜「うん。」

 

 

ちゃんとこの事を千歌ちゃんに言えるのだろうか?

 

 

通話を終えて、暗くなった携帯の液晶には、スクールアイドルとは程遠い、弱気な顔をした私が映っていた。

 

 

 

 

曜「ちょっと海を見ていこ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

私は沼津行きのバスには乗らず、内浦の海岸沿いを歩いた。砂浜には人気が無くて、波も静かに寄せて返してを繰り返している。

 

夕日に照らされながら穏やかな時間が流れている。

 

側から見れば綺麗な海。

 

 

その海には誰もいなくて、ただ静かに波が音を立てているだけ。

 

 

曜「なんか、今の私にちょっと似てるかもね。」

 

 

私は誰もいない海にそう呟いた。

 

 

 

昔は千歌ちゃんとよく来たのに、今ではあまり来なくなった。千歌ちゃんも忙しくなって、私も千歌ちゃんの夢のために忙しくしている。

 

 

忙しくなった理由は一緒のはずなのに、段々千歌ちゃんと離れていく気がする。それは千歌ちゃんにとって大事なことかもしれない。

 

 

でも、私にとってはやっぱり寂しい。

 

 

 

 

 

 

曜「あなたも寂しいの?」

 

 

夕凪で落ち着いていた風が、私の頬を優しく撫でていった。

 

 

 

曜「帰ろう。」

 

 

 

 

 

 

私は、梨子ちゃんに内浦の海に似ていると言われたことを、ふと思い出していた。

 

 

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