練習が始まってから、ルビィちゃんの顔は暗かった。
花丸「ルビィちゃん、大丈夫ずら?顔色が優れないけど……?」
ルビィ「そ、そうかな?」
善子「我がリトルデーモンよ。悩み事はこのヨハネに聞くがいい!」
ルビィ「だ、大丈夫!なんでもないから。」
曜「……。」
ルビィ『る、る、ルビィのせいで……曜ちゃんの腕が…………』
昨日、ルビィちゃんに腕を痛めてることを知られてしまった。
あの時はなんとかして、ルビィちゃんに誰にも話さないことを約束させなければいけなかった。
でも、あそこで花丸ちゃんの名前を出した私は最低だ……
ルビィ『あぅ……うゆ…………』
あの時のルビィちゃんの顔は明らかに困っていた。
花丸ちゃんを悲しませたくない、でも、曜ちゃんがケガしたままにするのも悪い気がする、って…………
年下の子に、心配させるなんて私は何をやってるんだよ。
……ダメだ。切り替えないと。
ダンスで気になってるところを話そう。
曜「梨子ちゃん。」
梨子「どうしたの?」
曜「ここのステップなんだけどさ……」
梨子「ああ。3人で踊るところの部分ね?」
曜「もう少し動きがゆっくりな方が良いと思うんだよね。曲のピッチが遅くなるから、ゆっくりと大きくやるといいかなって……」
話をしているの間、なぜか梨子ちゃんは私の顔をじっとみつめていた。
曜「……だからね、私としたら」
その後も続けて話そうとしていたら
梨子「曜ちゃん。」
梨子ちゃんに遮られてしまった。
そっか。梨子ちゃんにも意見があるのかもしれないし、話を聞かないとだよね。
曜「うん?何か気になった?」
でも、梨子ちゃんの話は私の予想していたこととは別の話だった。
梨子「最近、ちゃんとご飯を食べてる?」
曜「え?」
梨子「なんか痩せた気がして……」
曜「私が痩せた……?」
私は顔を触って確かめる。
曜「三食抜いてるわけじゃないんだけどね。もし気になるなら、意識するよ。」
そう言って私は笑った。
でも、内心はビクビクしていて、ルビィちゃんのように、梨子ちゃんにも本当は気づかれているんじゃないかと思って怖かった。
練習が終わって、私は千歌ちゃんと梨子ちゃんと一緒に帰っていた。
千歌ちゃんと梨子ちゃんは私の前を歩いている。
千歌「今回は披露できる時間が長いんだよね。」
梨子「そうね。今度は私たちなりのパフォーマンスも考えないと。」
千歌「歌詞も珍しく順調に書き込めてるから、梨子ちゃんの曲に合わせられるよ。」
梨子「東京に来たのがいい機会になったね。」
千歌「うん!」
曜「……。」
そうだ。
2人はこの前、東京に行ってきたんだよね。
それに……
やっぱり、梨子ちゃんと話しているときの千歌ちゃんは楽しそうだなぁ。
曜「それじゃ作業が残ってるから、私は帰るね。」
千歌「うん。曜ちゃんとルビィちゃんの作ってくれた衣装、楽しみにしてるね。」
曜「ありがとう。頑張るよ。
またね。千歌ちゃん、梨子ちゃん。」
千歌「バイバイ。」
梨子「……またね。」
楽しみにしてる……か。
千歌ちゃんのためにも、二肌ぐらい脱いで頑張らなきゃだよね。
曜「ただいまぁ。」
曜ママ「おかえり。今日は早いのね。」
曜「今日は部屋で作業するからね。」
曜ママ「そう。」
さて、早くシャワーでも浴びて、腕のアイシングしないと……
曜ママ「ねえ?」
曜「うん?」
曜ママ「最近、千歌ちゃんの話が少ないけど、喧嘩でもしてるの?」
曜「!」
喧嘩……なんてしてるわけない。
曜「そんなわけないよ。お互いに忙しくてさ……。」
曜ママ「そうなのね。」
曜「部活の友達も増えたし、ずっと千歌ちゃんとお喋りしてるわけじゃないから。」
曜ママ「それなら良かった。
梨子ちゃんだったかしら?転校生と仲良くなれるなんて、さすがうちの娘といったところね。」
曜「ははは。でしょ?
っと、もう大丈夫かな?汗べったりで、シャワー入りたくて。」
曜ママ「はいはい。」
そう言って、ママはキッチンの方に行ってしまった。
そして私は自分の部屋に戻って、いつものようにうずくまる。
曜「いたい…………なぁ…………」
なんか今日は一段と疲れちゃったし、少しくらい……眠っても…………
いいよね…………
ん……?
青空…………
私は…………?
周りを見渡すと、そこは丘の様になっていて、草原が広がっていた。
曜「うわぁっ!すごい!
こんなにひろいはらっぱをみるのなんて、いついらいだろ!?」
暖かい陽射しと、そよそよと吹く風。それは海風とは違う、心を落ち着かせてくれる暖かい風。
曜「……ひまわり。」
丘のてっぺんには、太陽を待ちわびている向日葵が一面に広がっているのが見えた。
私は吸い寄せられるように、その向日葵畑へと歩いて行った。
曜「すごい……」
向日葵のところに来た私は驚嘆した。
伸び伸びとした向日葵が辺り一面に広がっている景色は、私を驚かせるのには十分だった。
千歌「よーちゃーん!!」
曜「!」
この声は千歌ちゃんのものだということはすぐにわかった。声の方向からして、ちょうど向日葵畑の真ん中辺りだろうか。
私は向日葵を掻き分けて走った。
そして向日葵の近くに来てわかったことがある。
それはどの向日葵も随分と大きいってこと。
曜「ちかちゃーん?どこー?」
この向日葵の中では、私は千歌ちゃんを見つけることが難しかった。
千歌「ここだよー!」
曜「ここって、どこー!?」
千歌「ここだってばー!」
曜「ここ、じゃわかんないよ!」
なんでだろ……?
千歌ちゃんを見つけられないというだけで、泣きそうになる。
千歌「ここだよ!」ギュッ
私は後ろから千歌ちゃんに抱きつかれた。
私は胸の中からこみ上げてくる想いを止められずに、千歌ちゃんにぶつけた。
曜「どこにいっちゃってたの!?
わたし、さみしかった!」ポロポロ
あーあ……。なんで泣いちゃったんだろ?これじゃ、千歌ちゃんを困らせちゃうじゃん。
千歌「……ごめんね。」
私は千歌ちゃんの方へ振り向くと、あることに驚いた。
千歌ちゃんが幼かった。
いや、多分昔の千歌ちゃんと私は話している?
それも違う……
私が昔のころに戻ってる……?
千歌「ようちゃんをひとりぼっちにしてごめんね。」ギュッ
私はまた千歌ちゃんに抱きしめられた。その時に感じた千歌ちゃんの温かさと、優しさに触れられた気がして、私は涙が止まらなかった。
千歌「そうだ!」
曜「……?」
千歌「めをとじて?」
曜「???……こ、こう?」
千歌「うん!
それじゃ、えーとねぇ……」
千歌ちゃんは何をしているんだろう?
そのことを考えていると
曜「いっ!」
突然左腕に鋭い痛みが走った。
痛みに驚いて目を開けると、そこは私の部屋の中だった。
そっか……さっきのは夢だったんだ。
まだ眠気が残っている私はまぶたを擦りながら辺りを見渡すと、なぜか私の前には梨子ちゃんがいた。
曜「ん、ん〜?
あれ?梨子ちゃん?どうして私の部屋にいるの?」
梨子ちゃんは私のことをじっと見ていた。
曜「急にどうしたの?何か相談したいことでもある?
……あ、千歌ちゃんのことでしょ!」
梨子「……違うよ。」
困っているように見えたから、千歌ちゃんのことで悩んでいるのかと思ったのに……。
曜「……梨子ちゃん?
本当にどうしたの?」
私が質問すると、梨子ちゃんは泣き出しそうな顔をした。
どうしたんだろう?まさか、私が梨子ちゃんに何か……
曜「り、梨子ちゃん……」
梨子「お願い!!」
曜「!?」
梨子ちゃんの声が部屋に響き渡る。
梨子「もう……。
……もう無理をしないで!」
曜「無理?無理なんて……」
梨子「無理してるよ!その腕で無理してないわけない!」
曜「え……」
その腕?
私のうで……?
うそ、なんで……?
梨子ちゃんがそのことを……?
曜「見ちゃったの……?」
私の質問に梨子ちゃんは首を縦に振って答える。
曜「あはは、はは……。
どうしてかな?この前はルビィちゃんにもバレちゃうし、私もがんばってるんだけど。」
私は苦笑いをして、頭の後ろを手でかいた。
曜「でも、平気だから。」
梨子「……。」
曜「痛そうに見えるけど、案外痛くないんだよ?」
嫌だ。
ここまで頑張ったのに、この土壇場でみんなに迷惑をかけたくない……
梨子「ダメだよ。怪我をしてるんだから休まなきゃ。」
曜「今休んだら、みんなにも迷惑かけるよ。」
梨子「迷惑になんてならないよ!私は曜ちゃんに無理をさせるほうが……」
今、急に出られなくなったら……どう考えたって
曜「迷惑にならないわけないじゃん!!」
梨子「!!」
梨子ちゃんは驚いた顔をして目を見開いた。
曜「……もう少しでひと段落つけるから、頑張らせて?」
そう。もう少し。
もう少し頑張れば、みんなにも迷惑をかけなくて済むんだ。
梨子「……私が曜ちゃんの分までカバーする。」
曜「なに……言ってるの?」
梨子「曜ちゃんが私にしてくれたように、今度は私が曜ちゃんを助ける!」
曜「っ。」
梨子「私が曜ちゃんが抜けたとしても、大丈夫なくらい頑張るよ!曜ちゃんが休んでもみんなに負担がかからないように!!」
……どうしてなの
他の人のために、自分を犠牲にすることがどうしてそこまでいけないことなの?
曜「どうして……」
梨子「曜ちゃん?」
曜「どうして!?人のために頑張ることがそんなにいけないことなの!?」
梨子「そ、そんなこと言って……」
曜「私は悲しませたくないの!!
みんなが私に期待してくれているのを裏切りたくないの!!」
梨子「よ、ようちゃん……」
曜「おねがい……
おねがいだからぁ…………」
私は泣いていた。
梨子ちゃんを困らせてまで、私は何をしてるんだろう。
それでも
私は千歌ちゃんのためになりたかったし、逆に足を引っ張るようなことはしたくなかった。
梨子「曜ちゃん……。
私はね?本当は曜ちゃんが苦しんでいる顔を見たくない。でも、曜ちゃんが泣いている顔も見たくないの。」
私は……身勝手だ……
ルビィちゃんも、梨子ちゃんも優しいことを知ってて、私はその優しさに甘えてる。
身勝手というよりもずるい。
梨子「……だから約束して。
1人で、もし辛いと思ったら私に相談して。1人で苦しまないで。」
梨子ちゃんは泣いていた。
電話の時も思った。
梨子ちゃんは、本当に相手を思いやることができる子だ。
曜「……わかった。」
こうして、みかん色に包まれた部屋の中で、私と梨子ちゃんは約束をした。
……本当は千歌ちゃんに話せたら、楽になれるんだろうけど
千歌ちゃんのためにも、私のためにも、そんなことは絶対にできないんだ。