曜ママ『曜……。腕の疲労による複雑骨折って、何をしていたの?』
あの日、すぐに手術をした私はそこまで酷いことにはならなかったけど、さすがにお母さんやお父さんにも心配をかけてしまった。
お父さんは沼津にはいないのだけど、お母さんが連絡したら、とても心配していたらしい。
曜『飛び込みで着水に失敗して、そこで腕を痛めてからずっと我慢してた。』
私の話を聞くと、お母さんは眉をハの字にさせて困った顔をしていたけど、私の頭を撫でて『頑張ったわね。』と一言だけ言った。
あの時、お母さんが何を考えていたかが私にはあまりわからなかった。ただその時に無性に泣きたい気持ちになって、寸前のところで私は涙をこらえていた。
温かいなあ……。
夏だから温かいなんて普通は気持ち悪く感じそうなのに、今は心地が良かった。
それにいい匂い。心が落ち着く。
目を開けると、暗くなった部屋の中で私は横になっていた。
曜「ここ、どこだろ……」
見覚えはある。ただ私の部屋ではない。
綺麗に整頓された本に机の上。部屋にはあまり装飾品がなかったけど、なんとなく女の子の部屋であることがわかった。
それにあの大きなピアノ……
梨子「起きたんだね。」
ドアが開く音とともに、コップを2つ乗せたトレイを持っている梨子ちゃんが現れた。
曜「梨子ちゃん。」
梨子「本当に寝ているだけみたいで良かった。」
梨子ちゃんは柔らかい笑顔で私を見ていた。
曜「どうして私、梨子ちゃんの家に……」
梨子「あそこの砂浜で曜ちゃんが倒れてたの。」
そっか。私はあそこでそのまま寝ちゃってたんだ。
『曜ちゃんのこと嫌い』
千歌ちゃんから言われた言葉。そんなこと言われるなんて夢にも思わなかった。私にとってかなりショックな出来事みたいで、思い出すだけでも鳥肌が止まらないし若干吐き気すら感じる。
梨子「何があったの?」
梨子ちゃんは私の顔をじっと見つめている。
話してしまおうか悩んだけれど、結局そんなことはできなかった。
曜「ううん。何もないよ。
ほら、梨子ちゃんにはない?潮風を浴びながら、あったかい砂浜で寝転がりたくなること!」
梨子「え、えぇ……。それはないかな。」
曜「今度やってみなよー。お昼間は熱すぎるから、朝とか夕方くらいにやると気持ちいいよ。」
梨子「そ、そうだね。海も近いし、せっかくならやってみようかな。」
曜「決まりー♪今度やるときは梨子ちゃんも誘うからね!」
梨子「うん。」
私はこの時は本当の意味で笑えていたんだと思う。
この時は。
次の日になってAqoursの練習が再開した。私は腕を折っちゃってるし、安静にしていないといけないから、見学という形で参加している。
久しぶりにメンバーに会えて私も嬉しかったし、思ったよりも元気そうな私の様子を見たみんなも安心している様子だった。
善子「どれだけ心配したかわかってるの!?」
曜「いやぁ……面目ないであります。」
善子「まあ、怒っても仕方ないけど。」
鞠莉「そうよ。こうしてトレーニングに参加してくれただけでも嬉しいわ。」
ダイヤ「しかし、今後こういうことが無いようにしないといけませんわ。」
果南「ちょっと無理しすぎたね。まあ、今まで頑張り過ぎた分、休むのもいいんじゃない?」
曜「そうだね。これから次のライブまで時間もありそうだし。ゆっくり休んでるよ。」
花丸「でも、たまにマルができないところを教えてくれると嬉しいな。」
曜「ダンス?」
花丸「うん。」
曜「もちろん!やる気がある子は応援してあげなきゃだ。」
花丸「ありがとうずら!!」
ルビィ「ル、ルビィも教えてほしい!」
善子「私も!」
曜「おー、おー。やる気がある後輩を持つと、賑やかでいいね〜。」
みんなひどい……本当に?
こんなに素直であったかいみんなが?
鞠莉「そういえば梨子。ちかっちとは一緒に来なかったの?」
確かに千歌ちゃんがいない……
梨子「それが……あまり行きたくないって言っていて……」
ダイヤ「行きたくない?」
梨子「今はスクールアイドルのことを真剣に考えられないって言っていたんです。」
なんでさ……千歌ちゃん
果南「参ったね。なんとなく予感はしてたけど……」
善子「……それは私もショックだったけど、そこまでになることなの?こうして曜さんは元気にしてるのに……」
花丸「善子ちゃん!」
花丸ちゃんは気づいたみたいだったけど、止めるのが少し遅かったかな。
曜「どういうこと?善子ちゃん。」
善子「あっ……。」
鞠莉「まあ、曜に話さないわけにはいかなかったかもしれないわね。
あなたにとってはショッキングな話よ。それでも曜、あなたは話を聞く?」
選択を迫っている目。ただ、私はこの話から目をそらしてはいけないと思った。
私は首を縦に振った。
ダイヤ「本当に言うのですか?」
鞠莉「隠すなんて無理な話だし。チームメイトとの隠し事はチームを悪くするだけ。」
善子「ごめん。」
ルビィ「善子ちゃんが言わなかったら、ルビィが言ってたと思うから……」
鞠莉「ライブが終わったあと、みんな飛び跳ねて喜んだのよ。もちろん、曜もこれは覚えてるわよね?」
覚えてない……なんて言えないからとりあえず頷く。
鞠莉「それで、いざ帰るってなったときにあなたはトイレに行くって私たちに言って帰って来なかったのよ。」
トイレに?
ああ、そうか。確かあのときは……
鞠莉「私たちもしばらくして、おかしいとは思ったのよ?そうしたら……」
ダイヤ「ライブスタッフに曜さんがトイレで倒れていたことを教えてもらったんです。」
曜「そう……だったんだ……」
ライブの緊張感と達成感が切れた私は、みんなの前でいつものように振る舞うことなんてできるはずもなくて、逃げ場を求めるようにトイレに行った。
そこまでは覚えてる。
その後が思い出せないのは気絶していたからなんだ……
花丸「鞠莉さん…もうやめない?」
ルビィ「花丸ちゃん…」
花丸「この先のことを話しても誰も喜ばないよ……」
この先のこと?それってなに?
ダイヤ「鞠莉さん…」
鞠莉「Aqoursは本戦には進めないかもしれないわ。」
曜「なっ!?」
なんだって…!?
曜「アンコールまでされて、あれだけ盛り上がったのに、なんで!?」
ダイヤ「……大会規約、ですわ。」
曜「大会規約?」
ルビィ「……前にね、パフォーマンスのために火を使った演出をしたアイドルグループがいたの。」
ダイヤ「そして誤って、一人のメンバーが大火傷を負ってしまったんですわ。」
曜「それが今回のこととなにが?」
鞠莉「大会中に無理をしてケガをしたメンバーが出たグループは失格とみなされるようになったのよ。」
曜「っ!」
ま、まさかっ!!
曜「私は無理なんてっ!」
鞠莉「でも、世間の目は厳しいわ。」
曜「そ、それじゃあ……」
ダイヤ「今、ラブライブ本局が審議をしているそうです。」
嘘だ……
私のせいで?
千歌『私、曜ちゃんのこと嫌い。』
そういうこと、だったの?
善子「曜さん。」ギュ
曜「よ、善子ちゃん……」
善子「曜さんは悪くない。」
曜「……。」
果南「私たちが曜に色々と頼りすぎてたね。ごめん。」
右腕の裾を掴む善子ちゃんと私の頭の上に手を置いた果南ちゃんの顔がぼやけていた。
花丸「泣かないでほしいずら…」
ルビィ「曜ちゃんっ!」ギュッ
花丸ちゃんとルビィちゃんも善子ちゃんの後ろから私に抱きついてきた。
最低?
私は何を考えていたの?
曜「さいていなのは……わたしだ……」
梨子「曜ちゃん。」
曜「り…こ…ちゃん……」
梨子「みんな、曜ちゃんのことが大好きなの。だから、自分のことを責めたりしないで。」
曜「うっ……くっ……
うあぁ…うあぁぁぁん」
みんなはこんなに優しいんだ。
私のことをこんなに想ってくれてる。
私は今までなにやってたんだ……
本当にバカようだね。