この前のことがあって花丸ちゃんはあまり口を開かなくなった。
曜ちゃんのことがとてもショックなんだと思う。ルビィだって悲しいし、どうすればいいかわからない。
曜ちゃんがAqoursを辞めるって本当なの?衣装作ってるとき、ダンスしてるとき、どれも曜ちゃんにとって好きなことじゃなかったの……?
ルビィ「何かしたいけど、ルビィにできることなんて……」
そうやって何回諦めるんだろう……
ルビィは何をやってもダメで、いつもお姉ちゃんに頼って……
ルビィ「違うよね。ルビィにも何かはできる。何もしないのは自分が逃げてるからなんだ…!」
善子ちゃんを呼ぼう。善子ちゃんなら良い案が思い浮かぶかもしれない。
善子ちゃんに電話をかける。
ルビィ「善子ちゃん。あ、あのね?」
善子『ちょうど良かったわ。』
ルビィ「え…?」
善子『私の家に来てくれる?』
ルビィ「何をするの?」
善子『少し話したいと思ってたのよ。ルビィもそうでしょ?』
まだ何をしたわけでもないけど、同じことを考えてくれる人がいるってだけで、少し自身がわいた。
ルビィ「うん!今から善子ちゃんの家に行くから待ってて!」
善子「いらっしゃい。」
ルビィが善子ちゃんの家のマンションまで行くと、善子ちゃんはすぐに案内してくれた。
ルビィ「高いね…。善子ちゃんのお家。」
善子「そっか。ルビィは私の家に来るの初めてなのね。
…こここそが、神をも欺く堕天使に与えられた安息の……」
えーと、善子ちゃんのお部屋は…
善子「って、無視するんじゃないわよ!」
ルビィ「あ、あった!」
善子「ちょっとぉー!」
ルビィは善子ちゃんの部屋から沼津の景色を見ていた。とっても高い。
こうして沼津の景色を見ていると色々Aqoursのみんなとやったことを思い出す。
ルビィ「なんだか、随分昔のことみたいだね。」
善子「……なにが?」
ルビィ「善子ちゃんがAqoursに参加したの。」
善子「……そうね。」
追いかけるルビィたちと、逃げる善子ちゃん。沼津の中を追いかけっこしたよね。
善子「今でも本当に感謝してる。私を誘ってくれてありがとう。」
ルビィ「それは千歌ちゃんたちに言わないと。リーダーの千歌ちゃんが『この子だ!』って言って決めたから。」
善子「それでも、ずらまるやルビィが居たから、私はいつものヨハネでいれたのよ。」
善子ちゃんは自嘲気味にそう言った。
善子「普通の高校生活を求めて、私は今までの堕天使ヨハネを捨てようとしていた。
何かを手に入れるためには何かは捨てないと、いっぱいいっぱいになってしまうから。」
そこまでひとしきり善子ちゃんは喋り終わると、こっちを見て笑った。
善子「でも、ここでは違かったのよ。私にとっては夢のような場所だった。ヨハネ的に言えばユートピアってところかしら。」
ユートピア…
善子「でも、それって誰かが裏や陰で頑張ってくれてるから成り立つものなのよ。
だって、何もしないでそんな黄金のりんごを手に入れる話はないでしょ?」
ルビィ「お、黄金…?」
善子「ああ…気になった?エデンの園の神話よ。まあ、無視していいわ。」
ルビィ「うん。でも、善子ちゃんは何もしていなくない!善子ちゃんはみんなと仲良くなるために努力してたよ。ルビィ知ってる!」
ルビィがそう言うと善子ちゃんは目を丸くして、しばらくして顔を赤らめた。
善子「リ、リトルデーモンなのに生意気よ///」
ルビィ「リトルデーモンは堕天使さまのことを慕っていますから。」
善子「ふ、ふんっ。ま、まあいいわ。」
善子ちゃんは気持ちが表情にすぐ表れて可愛い。
善子「でも、誰かが支えてくれていたのは確かよ。正直、一年の私たちは何かしてきたわけではないわ。特に私はね。」
ルビィ「そんなこと…」
善子「ルビィも花丸も先輩たちの補助ができる。でも、私には何もそういうことができない。
衣装も可愛いものは作れないし、思ったことを上手く伝える言葉も知らない。ダンスは始めたばかりで、曲なんて以ての外。そんな私が役に立てているわけがないわ。」
いつも明るく、飄々としてる善子ちゃんも本当は悩んでたんだ…
ルビィ「善子ちゃん、ギュッ。」
善子「へ?」
ルビィ「ギュッしよ。」
善子「果南さんのまね?やめておきなさい。そういうキャラじゃなっふぐっ!」
ルビィは善子ちゃんの服の裾を引っ張って、無理やり善子ちゃんを抱きしめた。
ルビィ「ルビィはね、辛いときはお姉ちゃんや花丸ちゃんにすぐ相談するの。だから、善子ちゃんもルビィに教えて、辛いこと、悩んでること。」
善子ちゃんはルビィの胸に顔をうずめた後に、微笑みながら
善子「やっぱりルビィが適任ね。」
と言った。
ルビィ「な、何が…」
善子「花丸を助けてあげられるのがよ。」
ルビィ「花丸ちゃんを?」
善子「…あの子、とても傷ついてる。私では何を言っても届かないくらい。」
ルビィ「……。」
それはルビィも一緒だよ。
善子「でも、このままじゃ閉じこもっちゃうのよ!花丸は笑えなくなる!」
そうだよね。
このままじゃ花丸ちゃんの心がダメになっちゃう……
ルビィ「ルビィ、花丸ちゃんのところに行ってくる。」
善子「頼むわよ。」
今までルビィはどうしようもないって心のどこかで諦めていたんだ。
ルビィ「善子ちゃんが役に立ってないなんて嘘だよ!」
ルビィは走りながら叫んだ。
ルビィ「こんなに、みんなのことを想っているんだよ。」
花丸ちゃんを笑顔にさせたら、2人で善子ちゃんのところに行こう。
ルビィ「花丸ちゃん!」
ルビィは花丸ちゃんの家の前で叫んだ。
ルビィ「今すぐ会いたいの!」
するとしばらくして玄関のドアが開いて、花丸ちゃんが出てきた。
花丸「……縁側に来て。」
花丸「……。」
ルビィ「花丸ちゃん。」
花丸ちゃんは口をキュッと結ぶとポツポツと話し始めた。
花丸「マル、Aqoursを辞めようと思う。」
ルビィ「え……」
花丸「マルは全然運動できないし、みんなの足を引っ張るくらいならアイドルしたくないんだよ。」
ルビィ「そ、そんな……」
花丸「曜ちゃんが辞めるのは間違ってる。辞めるならマルが…」
ルビィ「違うよ!」
思わずルビィは花丸ちゃんの言葉を遮ってしまった。
ルビィ「やめないで……
花丸ちゃんが1人で抱え込まないで。」
花丸「ルビィちゃん…」
ルビィ「花丸ちゃんはルビィのことを考えてくれているけど、ルビィだって花丸ちゃんのこと考えてる!
花丸ちゃんはできればAqoursを続けたいって思ってるでしょ?」
花丸「……でもこんなことになるくらいなら」
ルビィ「ルビィは花丸ちゃんと一緒じゃなきゃイヤだよ!」
花丸「ルビィちゃん……」
ルビィ「花丸ちゃんが背中を押してくれたから今のルビィがいるの。ルビィはまだまだ甘えん坊だし、怖がりだし、寂しがりやで1人じゃ何もできないし、花丸ちゃんがいなくなったらルビィはきっとダメになっちゃう…」
花丸「どうしてそこまでマルを…」
ルビィの一番の想い。それは
ルビィ「花丸ちゃんが大好きだからだよ。」
花丸「!!」
花丸ちゃんは目を大きく開けて、しばらくして肩を震わせ始めた。
ルビィ「花丸ちゃん、おいで。」
ルビィはお姉ちゃんによくやってもらったことを花丸ちゃんにした。
花丸「…。」ギュッ
ルビィ「花丸ちゃん…」
花丸「うっ、うぅ……」グスッ
花丸ちゃんがこんなに泣きじゃくる姿を見たことはルビィにはあまりなかった。
花丸「マル、怖かった……」
ルビィ「うん。」
花丸「曜ちゃんが今までマルのことが嫌いだったのかもしれない。それなのに余計な事ばっかりして迷惑をかけちゃったずら…」
ルビィ「うん。」
花丸「マルは自分が役に立ちたいって考えていたんだよ?でもよく考えたらそれってマルの自分勝手で…」
花丸ちゃんの思っていたことは善子ちゃんと同じだった。
誰かのために何かをしたい。
ただそれがたまたま悪くなっちゃっただけ。
思ったことを上手く行動に移せない善子ちゃんと、思ったことを爆発させてやり過ぎてしまう花丸ちゃん。
ルビィは……?
ただお姉ちゃんの背中にくっついてきて、みんなの機嫌が悪くならないようにニコニコして……お姉ちゃんのマネをして役に立った勘違いをして…………
ルビィ「ごめんね…花丸ちゃん……」
花丸「る、ルビィちゃん?」
ルビィは震えていた。
いつもみたいに怖かったり、泣きたかったりするわけじゃない。
心の中でとっても悔しくて、震えが止まらなかった。
花丸「…ありがとう。」
ルビィ「え?」
花丸「ルビィちゃんは優しいから、相手を傷つけないようにいつも気を遣ってくれているよね。」
ルビィ「優しくなんてないよ…」
花丸「優しいんだよ。自分を隠してまで相手に合わせようとするくらい。」
ルビィ「……。」
花丸「だからね。ルビィちゃんがあそこまで曜ちゃんを止めようとしていてびっくりしたずら。」
ルビィはそんなに驚かれることをしたつもりはなかった。
花丸「だからマルも何かしなきゃって思えたんだよ。」
ルビィがしたことが花丸ちゃんの心を動かしたんだ…
ルビィ「花丸ちゃんは後悔していないの?」
花丸ちゃんは一瞬顔を暗くさせたけど、すぐにいつもの優しい瞳に戻っていた。
花丸「曜ちゃんに会えなくなってしまったわけではないずら。何とかして曜ちゃんにAqoursに戻ってきてもらうよ。」
そして花丸ちゃんは手を広げて
花丸「だから頑張れるように、ギュッとさせてほしいずら!」ギュー
ルビィ「うゆ!」
暗くなっていた花丸ちゃんの姿はもうなかった。
花丸ちゃんはとてもとても強い子なんだってルビィは思った。
それと同時に、花丸ちゃんの『強さ』って
ルビィが曜ちゃんに感じていた『強さ』と似ていた気がした。
だからせめて花丸ちゃんには、その『強さ』が花丸ちゃん自身を傷つけないようにルビィが見守っていなきゃと思ったの。
それと、ルビィと花丸ちゃんを助けてくれた、天使さんのところにも行かなきゃ。
花丸ちゃんの笑顔を見ながら、ルビィが頑張ってみんなの気持ちを変えることができるかもしれないと、ちょっぴりだけ思った。
だからみんなのところに行こう。
必ず笑顔の曜ちゃんがAqoursに戻ってこれるように。