今回から特別編ということで、千歌ちゃん視点の物語が始まります。気になっている方も多かったようなので、引き続き見ていただけると幸いです。
#1 果南ちゃんの選択肢
〜曜がみんなの前で泣いた次の日〜
千歌「果南ちゃん、お待たせ。」
果南「全然待ってないって。さあ行こうか。」
今日の練習はなぜかわからないけど、突然OFFになった。
果南「どこに行きたいかなん?」
そしてこれまたなぜか果南ちゃんとお出かけすることになっている。
どういうことなんだろ、これ。
千歌「うーん。正直、あんまり考えてなかったんだよねー。」
果南「まあ、気長に考えてよ。」
千歌「…じゃあ、沼津!」
果南「え?あ、うん。そうしたら、バスに乗ろっか。」
千歌「よーし!そうしたら、今日は果南ちゃんと遊び倒すぞー!」
頭の中では疑問に思いつつも、とりあえず果南ちゃんと沼津に遊びに行くことにした。
沼津の駅前まで来ると、果南ちゃんは目を細めて私に話しかけてきた。
果南「街中に出てきたいなんて意外だなあ。」
千歌「沼津には高校になってから遊ぶようになってね?でも果南ちゃんとは高校に上がってからあまり遊んでなかったし。」
果南「へえ、千歌のことだから部屋でゴロゴロするって言われると思ってたよ。」
千歌「それはそれで……良いね!」
なるほど。それは一理あったね……
でも、それっていつも通りな気がする。
果南「まあ、折角こっち来たんだし何かしよう。」
千歌「うん!」
まあ、こうやって二人きりで遊ぶ機会も珍しかったし、今日は楽しもうかな♪
果南「千歌も大概だね。」
千歌「好きなんだもの。しょうがない!」
まず私と果南ちゃんはアイドルショップに来ていた。ここのお店はダイヤさんがオススメしてくれて、前に来ていたから大体どこに何があるかは把握済みなのだ。
千歌「わぁ。この子かわいいっ!ほら、ポージングとかばっちりでしょ?」
果南「んー。私はどっちかっていうとこの子の方がいいかな…。」
千歌「ほう。確かにこの子もスタイル抜群ですな。」
鞠莉ちゃんは胸が大きくてくびれとか凄いし、ダイヤさんも控えめだけどスラッとしていて綺麗だし……
あれ?果南ちゃんはそういう趣味なの?
果南「というか、私はあんまり他のスクールアイドルについては知らないよ?」
千歌「まあまあ。そう言わずに少しだけお付き合いくだせえ。」
果南「江戸っ子…」
千歌「あ、μ'sの棚だ!」
μ'sのロゴを見た瞬間、私は駆け足になった。お店の中で走るのは怒られちゃいそうだけど、胸のときめきは抑えられない、よね!
千歌「ほらほら!これだよ!」
果南「何が?」
千歌「μ'sの最初のライブ!ここに書いてあるよ。」
果南「僕らのLIVE君とのLIFE。
へえ、最初の曲は学校で撮影したんだね。」
千歌「正式には9人として揃った最初のライブらしいんだけどね。」
果南「らしいってことは誰かから聞いたの?」
それはもちろん
千歌「ダイヤさん。」
果南「ああ…納得したよ。」
実は私の持ってる情報の多くがダイヤさんから仕入れたものだったり、しなかったり。
果南「じゃあ今度さ、私たちも学校で撮影してみる?」
千歌「いいね!じゃあ新しい曲を作らなきゃだ!ちゃんと考えなきゃだね。」
果南「ダンスの振りつけは私とダイヤが考えようかな。」
千歌「衣装は曜ちゃ……んじゃない人に任せてみてもいいかも。」
…嫌い。この前、もどかしい感情から言ってしまったこと。
あの後、曜ちゃんは私のことをどう思ってるんだろう。
果南「それもみんなと相談しながら決めよう。」
千歌「うん…。」
果南「ほら、違うお店も見て行こう。」
気持ちを切り替えるために果南ちゃんは次に行く場所を聞いてきた。
千歌「そうだね。そうしたら、どこに行こっか?」
果南「女の子らしく洋服か雑貨屋さんとか?」
果南ちゃん……
千歌「いかにも私たちらしくないね。」
果南「じゃあ歌詞作りに役立つし、図書館にでも行く?」
千歌「それなら雑貨屋さん行く……」
本を読むのは嫌だったから、どこ行くわけでもなく、私たちは沼津の街を徘徊し続けた。
すると、この前のライブの衣装に使っていた記事や小物が置いてあるお店を見つけた。
千歌「…あ。これってこの前のライブの衣装のやつだ。」
果南「本当だ。曜とルビィはここで小道具を買ったんだね。」
千歌「センスいいなぁ二人とも。」
本当に感心しちゃう。ズボラな私にはこの中から可愛いものを選ぶことなんてできない。
果南「そうだね。私だったらこんなに色々ある中からパッと決められないね。」
私は吸い込まれるようにそのお店を見入っていた。
果南「せっかくだし、入っていかない?」
千歌「そうだね。」
果南ちゃんがせっかく気を遣ってくれたので、入ってみることにした。
お店の中はアクセサリーや小物が色々取り揃えてある様子で、ルビィちゃんが喜びそうな内装だった。
あれ?このお店って……
果南「Aqoursメンバーでこういうところにいつも来そうな子っていないよね。」
千歌「確かにそうだね〜。」
果南「特に私たちには縁が遠いお店だね。」
私たち、か…
千歌「……意外とそうでもないんだよね。」
果南「そうなの?千歌はここに来るんだ。」
千歌「…曜ちゃんとたまに来てた。」
果南「へぇ…。曜がね…」
曜ちゃんは制服とか衣装のことになると目がない。その一環なのか、こういうお店に来ることは何度かあった。その度に目をキラキラさせて、「これ、可愛いよね!」とか「千歌ちゃんに絶対に似合うよ!」とか言ってたっけ……
ん!?何このぬいぐるみ!
千歌「こ、これ…!」
私の目線の先にはカラフルなイルカのぬいぐるみが置いてあった。色によって表情が違くてとても可愛い!
お財布にお金は……ない!全然ない!
うぅ…ここは、おねだりタイムだあ!
果南「これが、どうしたの?」
千歌「ほ、ほしいっ!」
果南「今月はお小遣いもそこそこピンチなんだけど?」
千歌「う、ぐ…。ほ、ほしい…」
一応聞いてあげるか、という果南ちゃんが言いそうなセリフが頭の中で再生されたけど、これは押し切れそう!
果南「…どの子が欲しいの?」
キタキタ!もう私の中では決まってます!
千歌「この子たち!」
そう言って、私は三つのぬいぐるみを抱いた。
果南「ぬいぐるみって、一つでも結構するんだよね……」
ごもっともです……
千歌「だ、だよね…。
ワガママ言ってごめんね。」
そうは言いつつも、改めて私が欲しがっていたイルカを見る。
みかん色にピンクに青
みかん色の子はなんというか普通だ。目とか鼻先とか尾びれとか、とにかく普通……。でもそこがなんか可愛い。それに、なんかこの子を見ると私が買わないといけないって使命感が出ちゃう。
ピンクの子はみかん色の子よりも綺麗な形をしてる。ただ、少し遠慮がちな顔の造形をしていた。どこか躊躇ってるような表情。なんだろ?どこか応援したくなるような子だ。
青の子は完ぺき、かな?
多分出来が一番良いと思う。大っきい目には惹きつけられる感じがすごいする。可愛さが愛嬌になってるし、形も良くできてる。
よく見てみると、棚に並べられている数が他の子よりも少ない。一番買ってもらってるのかも。
ふと、ぬいぐるみから目を離して果南ちゃんを見ると、果南ちゃんは棚のぬいぐるみ達をじっと見ていた。
千歌「果南ちゃん?」
果南「2個までならいいよ。」
千歌「え!」
果南「2個までなら、買ってあげるよ。」
千歌「か、果南ちゃん…!」
さ、さすがすぎるよ!
果南「まあ、千歌も最近頑張ってたしね。ご褒美も兼ねてかな。」
千歌「ありがとう!」
果南「それで、どの子にするの?」
千歌「あ、うん…そうだね……」
ど、どうしよう……。
意外と難しいお題の質問だよ…これ。
千歌「オススメするとしたら、果南ちゃんはどの子にする…?」
果南「私?千歌が選んであげないと、その子は嬉しくないんじゃないの?」
た、確かに……
千歌「で、でも。」
果南「なら、オレンジの子は買ったら?みかんっぽい色してるし、どこか千歌に似てるし。」
千歌「私に似てる?」
果南「雰囲気かな?私からはその子は千歌に見えるよ。」
やっぱり果南ちゃんもそう思うんだ。
私も同じこと考えてた。
なんか、私が責任を取って引き取らないといけない気持ち。
千歌「この子にする。」
果南「あと一つ。どっちの子にする?」
果南ちゃんが間髪入れずに質問をしてきた。
ああ……。果南ちゃんはぬいぐるみを使って、私を試しているんだ……
千歌「……。」
さっきのオレンジの子が千歌に似ているという果南ちゃんの言葉がヒントになった。どこかでは感じていたものがようやく理解できた。
ピンクは梨子ちゃん、青は曜に似ている。感覚的なところで、どちらに似ている子を選ぶのか。それが果南ちゃんの問題だ。
梨子ちゃんか曜ちゃんか
どちらかを選ばないといけない。
決めたよ。
千歌「私はピンクを選ぶよ。」
果南「……わかった。そうしたらオレンジとピンクのやつを買ってくるよ。」
私の答えを聞いた果南ちゃんは、拍子抜けしたような顔をした。そっか。私は曜ちゃんを選ぶと思ったんだね。
確かに青の子を選ぼうと思ってた。
でも、ピンクの子の儚げな感じが私に罪悪感を感じさせた。その分、青の子の方はとても煌びやかなように見えたんだ。
だからこのとき私は思った。
青の子の方なら、私じゃない子にも買ってもらえると。
それに、普通怪獣のお部屋に飾られたら、せっかくの可愛い子が普通になっちゃうもんね。
きっと私よりあなたにふさわしい子が見つかるよ。
私は手に持っていた青色の子を棚に戻した。
千歌「これで良いんだよね…」
私の言葉に反応して果南ちゃんが振り向いた。
果南「千歌?」
千歌「なんでもないよ。」
でも、とても気になることがあった。
それはあの子がこちらに変わらず笑顔を向けてくれているはずなのに、どこか無理して笑っているように見えたところだった。
千歌「……いい子が見つかるといいね。」
私は心の底からそう思いながら、お店の外で果南ちゃんを待つことにした。