果南ちゃんにぬいぐるみを買ってもらった後、私はずっと気になっていたことを果南ちゃんに質問した。
千歌「ねえ、果南ちゃん。」
果南「うん?」
千歌「今日ってなんでお休みになったの?」
果南「え?あぁ…うーん……。私にもイマイチわからない、かな。」
なんとか誤魔化そうとしてるけど、私にはわかるよ。果南ちゃんは何か知ってる。
千歌「ねえ、部室行かない?」
果南「えっ。」
千歌「もう沼津にいるのも飽きちゃったし、せっかく果南ちゃんと一緒だからダンスとか教えてもらいたい。」
うん。理由付けは完ぺきだね。
本当はこんな嘘つきにはなりたくないけど……
果南「なに言ってるの?せっかくのOFFなんだし、ちゃんと体を休ませないと。」
千歌「なら、せめて歌の練習を!」
果南「なら、カラオケにでも行く?私はあまり慣れてないけど。」
だ、ダメだ…!果南ちゃん、手強い!
千歌「知ってるんでしょ!果南ちゃんはみんなが何をしてるかってこと。」
私は賭けに出てみた。
果南「…なんのこと?」
千歌「だって、だっておかしいよ!このタイミングで練習をいきなり休みにするなんて普通じゃない。」
私の言葉を聞いて、果南ちゃんは口をへの字にさせた。
千歌「私には話せないことなの?私が何かみんなに悪いことした?」
果南「千歌は考えない方がいいよ。」
私は考えない方がいい?
千歌「それってどういうこと?」
果南「…今の千歌にはちゃんと考えてから決めることはできないことだよ。」
なに?ちゃんと考えて…?
千歌「いいよ。わかった。これ以上な果南ちゃんには聞かないよ。」
そして私は果南ちゃんに背を向けてバス停に向かって歩いた。
果南「千歌!どこに行くの!」
千歌「浦女。」
ガシッ
千歌「いっ!」
果南ちゃんに腕を掴まれた。
果南「Aqoursにとっても、千歌にとってもここで話を聞かない方がいい。」
千歌「なんで!?なんで私だけは仲間はずれなの!?」
街中に私の叫び声が響く。周りの人の目線が痛いけど、それ以上に胸がチクチクして痛かったから、あまり気にならなかった。
果南「これからの曜のことをみんなが話しているところなんて聞きたいの?」
千歌「っ。」ドクンッ
これからの……曜ちゃんのこと……?
果南「もしかしたら曜には次のライブは辞退してもらうかもしれない。
水泳部に専念してもらうために、サポート役に回ってもらうように頼まないとかもしれない。
そんなことを話しているみんなを、千歌は冷静に見れる?」
曜ちゃんに辞めてもらう?
千歌「わ、私は……わかんないよ……」
果南「そんなガタガタの気持ちで曜の話をしたら、きっとAqoursの方針が決まらない。
私も千歌と一緒。省かれたんだよ。」
省かれた……?
果南「私だって曜の幼馴染だよ。曜が可哀想なことになって黙ってるはずないでしょ。」
千歌「でも……」
私は曜ちゃんのこと、どう思ってるんだろ……
千歌「それでも……そうだとしても、私は曜ちゃんのことをみんなと話したい。」
果南「千歌…」
千歌「だから、もし千歌が変なこと言ったら、果南ちゃんに止めて欲しいんだ。」
私は果南ちゃんの目を見て話した。
果南「……わかった。行こうか。」
果南ちゃんにも認めてもらって、私たちはバスに乗った。
バスの中では私と果南ちゃんの間には気まずい空気が流れていた。何を話せばわからなかったから、私はただ黙っていた。
バスを降りて学校に行くための坂の前に着くと、私はなぜか嫌な胸騒ぎに襲われた。
果南「千歌!」
私はこの胸騒ぎを抑えたくて、走って部室へ向かった。
千歌「はぁ…はぁ……。」
息を切らして部室まで来たけど誰もいない。果南ちゃんの言ってたことは嘘?ドッキリ?
すると、体育館の裏から
曜「一番ずるいのは梨子ちゃんだよ!」
曜ちゃんの怒号が聞こえた。
曜「転校してきてすぐに千歌ちゃんと打ち解けて、自分に自信が持てないフリして千歌ちゃんの興味を向けさせて、挙げ句の果てには私のいた場所まで奪っていくんだ!!」
鞠莉「曜っ!!」
曜「そしてどこにいても善人ぶってるんだ!みんなの前では他人を心配するような素振りをして、ピアノの大会があれば自分を優先するんだ!みんながどうなるかなんて考えないで……本当にずるいよ!」
曜ちゃんは何を言ってるの…
曜「一番ずるいのは梨子ちゃんだ!」
え……。
曜「がっかりした?
……そうだよ。明るいフリをして、本当の心の中は真っ暗。みんなのことだって信用してないから!!」
私が建物の角から様子を見ると、花丸ちゃんが膝から崩れ落ちていた。
ルビィ「は、花丸ちゃん!!」
ダイヤ「あ、あなたは……なんてことをっ!」
曜「当然でしょ?
嘘をつかれて、信じろって言う方が無茶苦茶じゃない?」
曜ちゃんは善子ちゃんに胸ぐらを掴まれて、後ろの壁に叩きつけられていた。
鞠莉「善子っ!」
善子「…許さないわよ。」
曜「こっちのセリフだよ。」
善子「私が大好きだった、優しい曜さんを返せ!」
一瞬の間が空いて、曜ちゃんは鋭い目線で善子ちゃんを睨んだ。
曜「優しくないんだったら私なんていらないんでしょ?」
善子「え……」
曜「ケガしてて練習できなくて、衣装も作れなくて、迷惑ばかりかけて、大会の邪魔をして、みんなを泣かせる私なんていらないんでしょ!?」
善子「ち、ちがっ!」
鞠莉「ストーップ!!」
曜「Aqoursなんて辞めてやる!!
みんなにとって私なんかいない方がマシなんでしょ!?」
梨子「お願いだからやめてぇぇっ!!」
泣き叫ぶ梨子ちゃんの声が響いた。
私は声が出せなかった。
あまりにも曜ちゃんが怖くて、何も言えなかった。
すると、曜ちゃんは自分の耳を疑うことを梨子ちゃんに言った。
曜「…なら梨子ちゃんが辞めて。」
梨子「やめる……やめるよ……
みんなが、曜ちゃんが納得するなら、私がやめるよ………」
ダイヤ「ふ、ふ、ふざけるのも大概にっ!!」
鞠莉「Crazy.
曜、本当にどうしたの?」
曜「いっそのこと千歌ちゃん以外やめてよ。」
そんなこと…言うなんて……
千歌「よ…う……ちゃん……?」
私の第一声は曜ちゃんの名前をボソッとしか言えなかった。
曜「え……」
千歌「な、なにを……」
果南「……曜」
いつの間にか後ろに立っていた果南ちゃんも曜ちゃんの名前を呼ぶことしかできなかった。
曜「みんなが私のことを騙してたから、怒ってたんだよ。」
千歌「でも、やめてって…」
曜ちゃん、そんなこと言う子じゃないよね…?
曜「本当にみんな卑怯だよね。」キッ
嘘だ。こんな曜ちゃん、嘘だ。
千歌「みんなを傷つけないで……」
私の頭の中はグチャグチャで整理できない。果南ちゃんが言っていたのはこのことだったの……?
でも、無理だよ……こんなの無理だよ……。
曜ちゃんが人を傷つけるところなんて見たくない。いつも誰かのために頑張っている曜ちゃんが、こんな形でみんなに嫌われたりなんかしたら……
千歌「…曜ちゃんが出てってよ!」
果南「ち……か………」
曜「……。」
私は何をしているんだろう?
自分で自分が制御できていない。
鞠莉「曜……。」
鞠莉ちゃんがカバーしようとしてくれてる。
曜「……ちゃんと……いいます」
鞠莉「……聞きたくないわ。」
曜「わ、わたしは……」
鞠莉「やめて。」
曜「わたし……わたなべよ……ようは……」
果南「曜。」ギュッ
果南ちゃんが曜ちゃんを抱きしめた。
そっか……。私が心配しすぎだね。
そんな簡単に曜ちゃんを嫌いになんかならないよね……
ごめんね。曜ちゃ
曜「Aqoursから抜けます。」
ぬ…け………
果南「曜!」
曜「ごめん。果南ちゃん。
……もう、無理だよ。」
曜ちゃんは背中を向けて走っていった。
私たちは呆気に取られて動けなかった。
善子「抜ける?曜さんが?」
鞠莉「……Why……」
各メンバーが蒼白になっている中、花丸ちゃんが明らかにおかしくなっていた。
花丸「…い、いや……いやぁ……」
ルビィ「は、花丸ちゃん!」
花丸「いやずら!!
曜ちゃん!待ってぇっ!マルがマルが辞めるから!マルがぁぁっ!!」
善子「落ち着きなさい!」
崩壊。
私はそれに近いものを今のAqoursに感じた。
ダイヤ「なぜ……こうなってしまったのですか?」
梨子「…」ヨロッ
鞠莉「梨子!」
梨子ちゃんが壁にもたれかかった。
梨子「……ぃ……ゃ…………」
真っ青になった梨子ちゃんは声にならない言葉を発していた。
みんながボロボロな中、私は
普通だった。
そう、普通だったんだ。
千歌「私は間違ってない。」
この方が曜ちゃんにとって良いはずなの。
千歌「…曜ちゃんがこれで笑えるようになったら……それで良いんだ。」
でも、バカだった。バカ千歌だったんだ。
果南「ようっ!ねぇ!よう!!」
鞠莉「Pleeeease!!」
梨子「……ごめん……なさいっ……」
これは私のせいなんだ。