本音でぶつかった方がいい
昨日言われた鞠莉ちゃんの言葉が、私の中にずっと残っていた。
曜「本音をぶつける……か。」
色々考えながらも、結局いい案は浮かばず、部室に着いてしまった。
とりあえず今は練習に集中しなくちゃ。それに、みんなにも変に思われたくないし。
曜「おはよっー!」
千歌「あ、曜ちゃん!!
見てみて〜、これ!」
曜「ん?」
千歌ちゃんは腕につけてあるシュシュ型のブレスレットを見せてくれた。
千歌「ほらっ!」
曜「わあっ!かわいい〜!これ、どうしたの?」
千歌「みんなにお礼だって送ってくれたの!
梨子ちゃんが♪」
千歌ちゃんの言葉に一年生の3人が反応して、シュシュを見せてくれた。それぞれ色が違くて、みんなのイメージカラーと同じシュシュをしていた。
曜「へぇ……」
千歌「いいでしょ〜。
梨子ちゃんもこれを着けて演奏するって。」
梨子ちゃんは、離れていてもみんなと同じ気持ちでいようって思ってるんだ……。
千歌「曜ちゃんのもあるよ。はいっ!」
曜「あ、ありがとう。」
そして、私にも水色のシュシュが渡された。
千歌ちゃん、とっても嬉しそう……
曜「…。」
ダイヤ「特訓始めますわよ。」
千歌「はーい。曜ちゃん着替え急いでね!」
私の思ってること、言わないと……
曜「…千歌ちゃん。」
千歌「ん?」
梨子ちゃんはみんなのためにと思って、こんなことをしてくれたのに、私は私の勝手で動いていいの?
曜「……。頑張ろうね!」
千歌「うん!!」
結局、その後練習中や練習が終わった後に、千歌ちゃんとは面と向かって話す機会は無かった。
私は家のベランダに出て、夜空を見上げながらため息をつく。
曜「どうすれば千歌ちゃんと本音で話し合えるんだろう…」
あれこれと想像はしたけど、どれも違くて(どれもぶっ飛んだ妄想で)ちっとも思い浮かばない。
その時、手に握っていたスマホの液晶が光った。
桜内 梨子
パンを食べながらこっちを見ている梨子ちゃんが画面に映った。私は電話に出る。
曜「もしもし?」
梨子『もしもし?今、電話しても大丈夫そうかな?』
曜「ううんううん。平気平気。何かあったの?」
梨子『うん。曜ちゃんが私のポジションで歌うことになったって聞いたから。』
千歌ちゃんから聞いたのかな…?
梨子『ごめんね。私のワガママで。』
曜「ううんううん。全然。」
梨子『私のことは気にしないで、2人でやりやすい形にしてね。』
曜「でも、もう……」
私は言葉が続かなかった。それを察してくれたのか、梨子ちゃんが話しかけてくれる。
梨子『無理に合わせちゃダメだよ。曜ちゃんには曜ちゃんらしい動きがあるんだから。』
曜「そうかな……」
梨子『千歌ちゃんも絶対そう思ってる。』
千歌ちゃんがダンスが上手くいって喜んでいた姿を思い出した。
曜「そんなこと……ないよ……」
梨子『えっ?』
梨子ちゃんが驚いている声を出す。
曜「千歌ちゃんの側には梨子ちゃんが合ってると思う。だって、千歌ちゃん、梨子ちゃんといる時嬉しそうだし。この予備予選も梨子ちゃんのために頑張るんだって……言ってるし……」
梨子『そんなこと言ってたんだ。』
段々と目の前の視界が歪んできた。
なんで梨子ちゃんにこんなことを言ってるんだろう?
梨子『あのね?千歌ちゃん前に話してたんだよ。』
曜「え……?」
梨子『曜ちゃんの誘い、いつも断ってばかりで、それがずっと気になっているって。』
千歌ちゃんが?
梨子『だから、スクールアイドルは絶対一緒にやるんだって。
絶対、曜ちゃんとやり遂げるって。』
曜「そうだったんだ……」
梨子『だから、きっと千歌ちゃんも曜ちゃんと一緒にやろうって、そう思ってる。』
曜「なんだかごめんね。励ましてもらう感じになっちゃって。」
梨子『私のワガママで曜ちゃんに迷惑をかけてるんだし当然だよ。それに、励ましているだけじゃなくて、楽しんでほしいの。千歌ちゃんと2人で最高のライブを作り上げてほしいな。』
なんて優しい子なんだろう
曜「…。」ジワッ
梨子『もちろん、みんなも一緒だってことも忘れちゃダメだよ?みんな、曜ちゃんのことを支えようとしてくれてるんだから。』
梨子ちゃんは、周りの人を気遣うことのできる子だということが改めてわかった。
だからこそ、千歌ちゃんも応援したくなったんだよね。
曜「うん。色々ありがとう。
梨子ちゃんも演奏会、楽しんでね。私たちも予備予選を突破するから、また一緒に歌おうね。」
梨子『うん。約束。』
曜「それじゃあ、おやすみ。」
梨子『おやすみ、曜ちゃん。』
梨子ちゃんとの通話が終わった。
曜「千歌ちゃんが……」
梨子ちゃんが言っていたこと。千歌ちゃんも私のことを気にしていた…?
曜「……。」
千歌「曜ちゃん!」
曜「!」
千歌ちゃんの声がした気がして振り向いた。けど、そこに千歌ちゃんの姿はなくて、すぐに自分の思い込みだと思った。
曜「……。」
千歌「曜ちゃん!!」
違う!玄関じゃない方から声が聞こえる!
私は反対側に身を乗り出した。
そこには息を切らしながらこちらを見ている千歌ちゃんがいた。
曜「千歌ちゃん!?どうして……?」
千歌「練習しようと思って!」
千歌ちゃんは私の質問に即座に答えた。
曜「練習?」
練習?こんな時間から?一応、上手くいったと思うんだけど?
千歌「うん!
考えたんだけど、やっぱり曜ちゃん、自分のステップでダンスした方がいい!!
合わせるんじゃなくて、一から作り直した方がいい!!
曜ちゃんと私の2人で!!」
曜「あっ……」
私と千歌ちゃんの2人で……
曜「っ。」
私は振り向いて家の中に入る。
千歌「曜ちゃん!?」
そのまま自分の部屋を出て、階段を降りる。その時、梨子ちゃんが電話で言っていたことを思い出す。
梨子『きっと千歌ちゃんも曜ちゃんとやろって、思ってる。』
私は一人で何を考えていたんだろう。
玄関の前に来て、千歌ちゃんと顔を合わせづらかったから、後ろを向きながら外に出る。そして、そのまま後ろに下がりながら千歌ちゃんに触れた。
千歌ちゃんの服は汗でびっしょりになっていた。
曜「汗びっしょり。どうしたの?」
千歌「バス、もう終電終わってたし、美渡姉たちも忙しいって言うし…」
そう。この時間にはバスがない。だから、千歌ちゃんが来てるはずがないって思った。
千歌「曜ちゃん、なんかずっと気にしてたっぽかったから、いても立ってもいられなくなって……えへへ。」
千歌ちゃんは私がずっと顔を合わせないことも怒らなかった。ただ、私が心配だったから来た、なんて……
私はバカだ。大バカだ
みんなに心配かけないようにって思ってたのに、鞠莉ちゃんや梨子ちゃん、千歌ちゃんに結局心配されて…
曜「私バカだ……。バカ曜だ……。」
千歌「バカよう…?」
本当にみんな優しすぎるよ……
私は膨れ上がった気持ちが抑えられなくて、千歌ちゃんに抱きついた。千歌ちゃんは私の勢いを抑えられなくて、後ろに尻餅をつく。
千歌「うわぁあ!汚れるよ〜!」
曜「いいの!」
千歌「風邪ひくよ〜?」
曜「いいの!」
千歌「はずかしいってー!」
曜「いいの!」
千歌「もう、なに?なんで泣いてるの?」
曜「いいの!!」
私は千歌ちゃんの質問に、いいの!の一点張りで答えた。すると、千歌ちゃんは背中をさすってくれた。
千歌「……曜ちゃん。また一緒に頑張ろ。」
その言葉はとても暖かくて、私の心に染み込んでいく気がした。
曜「うんっ。」
こんなに友達想いな友達ばっかりで、私は幸せ者だ。
この時、私の耳には確かに優しいさざ波の音が聴こえていた。
次の日、千歌ちゃんは昨夜のことをみんなにも問いかけてくれた。
すると
ルビィ「うん。ルビィも、曜ちゃんは曜ちゃんらしくやった方がいいと思う。」
善子「曜さんは曜さんなんだから、それでいいと思うわ。」
ダイヤ「そうですわね。あまり時間はないですが、このようなことは挑戦するからこそ、燃えてくるのですわ。」
果南「ダイヤもいいこと言うね。私も同感かな。曜は曜らしくいた方がいいね。」
花丸「何か手伝ってほしいことがあったら言ってほしいずら!おらは曜ちゃんと千歌ちゃんを全力で応援するよ。」
曜「みんな……。」
鞠莉「ちかっちとは本音で話せた?」
曜「えへへ、千歌ちゃんには心を読まれてたみたい。」
鞠莉「そう。それなら、ちかっちには感謝しないとね。」
千歌「曜ちゃん!!」
曜「!」
千歌「頑張ろうね!」
私は自分のことばっかり考えて、なんて自己中心的だったんだろう
曜「うん!!みんなごめんね!
私、頑張って自分のステップでダンスを完成させるよ!」
そう。みんなのために頑張らないと。
ダイヤ「そうなると、またここから頑張らないとなのですから、急ピッチで練習をしないといけませんわ!」
鞠莉「Oh! ダイヤの目がメラメラしてまーす!」
果南「あはは。
……曜。」
曜「うん?」
果南「まだまだ時間はあるから、焦らずに頑張っていこう。」
曜「ありがとう。」
こんなに私を心配してくれていたみんなのためにも
私は完璧に梨子ちゃんになる。
梨子ちゃんに合わせるんじゃなくて、梨子ちゃんになる。
それが私の取るべき選択なんだ。みんなのためにも、自分のためにも。
曜「頑張らなきゃ。」
鞠莉「…。
ちかっちが心を読んでた、ね…。」