虚無感に包まれた私は、ただいまの声も出さずに自分の部屋へと歩いた。
志満「千歌ちゃん。」
それを見兼ねてなのか、私の部屋の前にしま姉が待っていた。
志満「…最近の様子は美渡ちゃんから聞いていたわ。」
千歌「……。」
志満「それにね、曜ちゃんのお母さんからも連絡をいただいていたの。
曜ちゃんが毎日泣いてるって…」
毎日…泣いてる…………
志満「喧嘩していたのね?」
千歌「……。」
私は沈黙という肯定をした。
志満「千歌ちゃん。」
千歌「……。」
志満「曜ちゃんの気持ち、この手紙に書いてあると思うわ。」
手紙…?
私が伏せていた視線を少し上げると、みかん色の封筒にクローバーのシールが貼られた手紙をしま姉が持っていた。
志満「千歌ちゃん。
喧嘩はね、友達だったらいつかはある物なの。だからそれを避けようとすることは無理に近いわ。」
私はしま姉が持っている手紙を受け取った。
志満「でも大事なのは、そのことから逃げないことよ。
逃げてしまうのは簡単、でもそうしたら修復することが二度とできなくなってしまうわ。」
しま姉の言葉は昔から私の胸に響くものばかりだ。
千歌「……考えるよ」
目を背けないで。
部屋に着いた私は、曜ちゃんの手紙を早速開けた。
封筒の中には便箋とノートの切れ端が入っていた。
そっか。これがあの紙袋に入ってなかった私の分の贈り物なんだ。
私は便箋の方から先に見ることにした。
曜『千歌ちゃんへ
手紙を読んでくれてありがとう。
正直、捨てられるかもって思いながらこの手紙を書いています。』
捨てたりなんか…できないよ……
曜『千歌ちゃんにだけはどうしても伝えたいことがあるから、こうして部室の紙袋とは違うかたちで渡すよ。手紙だから気持ちが伝わりにくいだろうし、はっきり書くね。』
私にだけ…
曜『私は千歌ちゃんのことが大好きです。』
千歌「っ!」
曜『友達だからとか、ずっと一緒だからとか、そんなこと関係なくて、千歌ちゃんのことが本当に大好きです。』
千歌「………。」
曜『私はずっと千歌ちゃんのやりたいことを知りたかったんだ。それでスクールアイドルに出会って、千歌ちゃんが何かキラキラしていたのを見て、気づいたの。私は千歌ちゃんに惹かれてるんだなって。』
千歌「………。」
曜『でも、振り返るとそんな気持ちはもっと昔からあって、泣き虫で怖がりだった私を勇気付けてくれて、大丈夫だよって励ましてくれていた千歌ちゃんは私の中のヒーローだった。』
千歌「……。」
曜『だから諦めさせたくなかった。
私が手助けして何とかなるなら、私のできる限りのことをしてあげたいって。でも、それはもう要らないってわかったんだ。だって千歌ちゃんにはみんながいるから。千歌ちゃんには助けてくれるみんなが側にいるんだ。』
千歌「………ぅ……ゃ……」
曜『それに、これ以上私が千歌ちゃんの側にいたら、千歌ちゃんの輝きが無くなっちゃう気がするんだ。
だから、私はAqoursを抜けるね。』
千歌「……よ…ぅ…ゃ……」
曜『ずっと一緒って約束、破ってごめんね。』
千歌「よ…う……ちゃ………」
曜『最後に私からの贈り物として、千歌ちゃんが悩んでたところの歌詞を少し考えてみたんだ。良かったら参考にしてね。
今まで本当にありがとう。
大好きです。さようなら。
渡辺曜より』
千歌「……。」
私はノートの切れ端を開いた。
『近くにいたけど 離れてた
本当に伝えたいことは上手く言えない
それでもお互いにわかってるんだ
繋がってることが嬉しいんだって
大事な夢を追うと大事な人がわかる
想いはひとつだって
違うところへ向かっていても
かけがえのない毎日を過ごして
今さらわかったよ
私にはみんなが居てくれたこと
かけがえのない日々を積み重ねて
今さらわかったよ
私は一人じゃない
想いはひとつだから
違う場所にいても信じてる』
私が悩んでいた歌詞、それって多分想いよひとつになれのことだと思う。
曜ちゃんと一緒にセンターで歌った曲だ。
考えればあの頃から曜ちゃんは悩んでそうだった。私が曜ちゃんともっと踏み込んで話していれば、こんなことにはならなかったんだ。
千歌「……。」
ああ……私にも出るんだ……
千歌「……っ……ぅあ……」ポロポロ
ようやっと私は泣いた
ただ、梨子ちゃんやみと姉に聞こえないように静かに泣いた。私が泣き疲れてしまった頃にはすっかり日も暮れて、結局その日のうちに曜ちゃんに会いに行くことはなかった。
千歌「う、うん……?」
あれ?ここは?
曜「おはよ。」
千歌「よーちゃん?」
曜「うん。そうだよ。」
浜辺で膝枕のような体勢で曜ちゃんが私を抱きしめてくれていた。
あったかい。
柔らかくて、心がホッとして……
千歌「……。」ギュッ
曜「いたい、いたいって千歌ちゃん。」
私はつい強く抱きしめたくなる。
千歌「よーちゃん。あったかいね。」
曜「う、うん?そうかな?
私は千歌ちゃんの方があったかく感じるけど?」
千歌「違うの。よーちゃんがいてくれるだけで、真っ白に凍りついてた世界が一気に開けて明るくなる気がしたんだ。そんなあったかさなんだよ。」
曜「さすが作詞家だね。表現が面白いというか、独特?」
曜ちゃんが私の頭を撫でる。気持ちいい。ずっと撫でていてほしい。
千歌「よーちゃん…。」
曜「うん?」
千歌「私ね、本当によーちゃんのこと大好きだったんだよ。」
曜「……。」
千歌「それなのにね、地区予選のときまでわかってなかったんだ。私は曜ちゃんにずっと無理をさせてたってことに。」
曜「そんなこと…」
千歌「あるよ。
曜ちゃんは苦しんでた。周りから見ればわかるよ。」
曜ちゃんは渋い顔をしていた。というよりも観念した様子が近いのかも。
千歌「私は何とかしてあげたかった。そんなの当たり前じゃん。だってずっと一緒にいた大好きな幼馴染なんだよ?
大切な、わたしにとって…とても…だいじな……」
ここまできて涙が止まらなくなった。
千歌「かんがえられないよぉ…。
よーちゃ、んが…いなっ……く、なるっなんて……」グスッグスッ
悲しい気持ちが止まらなくなった。嫌なんだ。曜ちゃんがいなくなるのなんて耐えられないよ。
千歌「わたしっは…、ただぁ…よーちゃんに…わらって、ほしかった…」
ただそれだけだったのに……
さっきまで隣で抱きついていた少女はいつの間にか砂浜の上に横になっている。
目を閉じて、悲しさと苦しさで歪んだ顔をしていた。
千歌「どうしてっ!?
あんまり…だよ…。
ずっとよーちゃんは!よーちゃんは……よーちゃんは……………」
手紙の文が曜ちゃんの声に乗せて、私の中でこだまする。
曜『私は千歌ちゃんのことが大好きです。』
千歌「ひどい……
こんなの……」
曜『ずっと一緒って約束、破ってごめんね。
さようなら。』
千歌「それは…曜ちゃんが望んだことじゃなかったんだ…」
シワができてクシャクシャになった手紙から見える泣いた跡。
千歌「私は曜ちゃんといたかった。
キラキラしたいって…なんにもない私も、曜ちゃんと同じように輝きたいんだって!…ただそれだけだったのに。」
ラブライブ!で優勝するとか、廃校を阻止するとか本当はそんなのどうでも良くて、ただ私は仲間と一緒に1つのものに向かってガムシャラに駆け抜けたい。輝きたいって……
千歌「おねがい……」
私が本当に願っているのは
千歌「わたしを……おいていかないで……」
曜ちゃんや梨子ちゃんと一緒にいることなんだよ。