よーちゃん。
うん?
ちかといっしょだとうれしい?
うん!
えへへ。よかったぁ。
どうしてそんなこと聞くの?
それはちかが今からあるセンゲンをするから!
センゲン?
ちかはね?
千歌「どんな時でも曜ちゃんと一緒にいるよ。」
千歌ちゃん……。
走り続けた先にあったのは、千歌ちゃんの家の前の砂浜だった。
そこには笑顔の千歌ちゃんが待っていた。
千歌「会えて、嬉しいな。」
曜「私は悲しいよ。」
千歌「どうして?」
曜「千歌ちゃんが危ないことしたってわかるから。」
私の言葉にピクッと千歌ちゃんは反応して、すかさず
千歌「曜ちゃんを追いかけただけだよ!」
と口調を強くして叫んだ。
千歌「ねえ。なんであの日に海に行ったの?」
曜「それは…」
千歌「コレのため!?」
曜「!」
千歌ちゃんが突き出した右手には、私が探していたクローバーの髪どめが置かれていた。
曜「ちゃんと千歌ちゃんに届いたんだね。」
千歌「……。」
曜「よか…」
千歌「良くない!」
千歌ちゃんの叫び声が一層強くなる。
千歌「良くない、よくない…よくない……よく…ない……」
それから千歌ちゃんの声は段々と小さくなっていって、ついには突き出した右手もブランと下げてしまった。
曜「それは千歌ちゃんのクローバーの髪どめと同じやつでしょ?
だから、それを捨てたままだとまるで…」
千歌「私を捨てたみたいだと思った。」
私より先に千歌ちゃんが答えを言った。
曜「その髪どめは、もっと千歌ちゃんと寄り添ってあげられる人が持つべきなんだよ。」
逃げられないと思った私はハッキリと千歌ちゃんにそう伝えた。
千歌「…キライ?」
曜「え?」
千歌「私のことキライ?」
曜「そんなわけないよ。」
千歌「じゃあ、好き?」
千歌ちゃんは目に涙を溜めた姿でこちらを見つめていた。私には答えが見つからない。何が正解なのか、どうすれば千歌ちゃんは納得するのか。
曜「大好き。」
私は一言、そう伝えた。
私の言葉を聞いた千歌ちゃんは、何も言わずに私の近くまで来て、両手を使って私の右手を握った。
千歌「私もだよ。」
伝わる感触。私の右手にはクローバーの髪どめが握らされていた。
千歌「絶対にひとりぼっちにさせない。
だって、曜ちゃんが本当は寂しがりやさんだって知ってるから。」
曜「それじゃダメだよ!」
私は髪どめを返そうとした。それでも千歌ちゃんは目を伏せて言葉を続けた。
千歌「私が曜ちゃんから離れなければ、私の側に居られる人って曜ちゃんになるんだよ?」
この千歌ちゃんの一言で、私の気持ちはグラっと傾いてしまった。
千歌ちゃんと一緒に居られるなら……
曜「そ、それでも!」
だめだ!そんな甘い気持ちがあったから、いつまでも千歌ちゃんを苦しめるんでしょ!?
曜「わたしは、わたしは!!」
千歌「ねえ、曜ちゃん。」
千歌ちゃんの一言で一瞬にして凛とした空気になった。
千歌「曜ちゃんは誰のために生きてるの?」
だれのために……
自分はだれのために?
千歌「私は自分のために生きなきゃダメだって思う。」
曜「……。」
真っ直ぐな目をした千歌ちゃんが私の心に訴えかけている。『渡辺曜の選択肢は間違っている』と思ってることが痛いほど伝わっきた。
千歌「私は私のために、今ここにいるよ?」
曜「っ。」
嘘じゃない。きっと、千歌ちゃんがこうして私の前にいることは千歌ちゃんが願ったことなんだ。
千歌「あとは、曜ちゃんがどう思ってるかだよ?」
私は…
わたしは…
千歌「いっしょにいようよ」
曜「〜〜っ!!」
もう無理だよ……
私には堪えることができなかった。
手を広げている千歌ちゃんの胸元に私は顔を埋めてしまった。
何でもないハグ。
でもそれは今まで感じたことがないくらいにあったかくて、幸せな気持ちになって、涙が溢れ出た。
曜「…っ……うっ……」ポロポロ
千歌「ごめんね。」
髪を撫でてくれる千歌ちゃんの手が優しくて、ずっとパンパンに張っていた私の心を緩ませていった。
曜「本当は…ずっと…謝りたくて……」
千歌「うん。うん。」
曜「ごめんねって…言いたかったのに……」
千歌「私も曜ちゃんの気持ちに気づけなかったから、お互い様だよ。」
千歌ちゃんは私を優しく見守ってくれてる。
それがとても心地良くて、安心できて余計に涙が止まらなくなる。
千歌「でも、ダイジョーブ!
これからはずっと一緒だから、曜ちゃんの気持ちをわかってあげられる。」
エヘヘ、とはにかんで笑いながら千歌ちゃんはそう言った。
久しぶりの穏やかな時間を過ごせて、私は幸せな気持ちになれた。今の千歌ちゃんの顔は、昔から知ってる千歌ちゃんで本当に安心できる。
でも
そのはにかんだ笑顔は私の大好きな千歌ちゃんの笑顔ではなかったんだ。
私の大好きな千歌ちゃんの笑顔は、大きな向日葵のように光に向かって走り抜けてるときの笑顔。
スクールアイドルを始めて、夢や希望に向かって、ガムシャラに突っ走って、転ぶときもあるし泣くときもあったけど、だからこそ千歌ちゃんは目一杯にキラキラした笑顔をしてくれた。
千歌ちゃんは新しい輝きを見つけた。
それは『スクールアイドル』であって、『Aqours』なんだ。
だから
曜「千歌ちゃん。実は言いたいことがあるから、よく聞いてね。」
私は久しぶりにハッキリと言った。そのことに千歌ちゃんも少し驚いている様子に見える。
曜「私ね、千歌ちゃんのこと」
千歌ちゃんの目が大きく開いたのが見えて、私は目をつむった。
曜「だあぁぁぁぁぁい」
私は振り絞った声で叫んだ。
曜「キライッ!!!」
私が言い終わると、目の前に千歌ちゃんはいなかった。
目をつむりながら叫んでいたから、いつ居なくなったのかもわからない。
なんとなくわかるのは、私がキライと叫んだときに千歌ちゃんの顔が青ざめていることくらいだった。
曜「みんなのところに、帰れたのかな。」
これで千歌ちゃんに会えるのは最後なんだと思う。きっと、私が内浦に帰ることはないだろうから。
曜「終わったんだよね。」
ずっと昇っていた太陽が水平線に沈んでいくのが見えて、私は砂浜に横になって目を閉じる。
曜「千歌ちゃん。」
もうここにいないけど、言わせてほしいな。
曜「本当の本当はね」
千歌『どんな時でも、曜ちゃんと一緒にいるよ。』
曜「優しくて、勇気をくれる千歌ちゃんが」
千歌『よーちゃん。』
曜「だぁぁい……すき………」
ずっと大好きだよ。
千歌ちゃん