#0 託してくれたもの
梨子「ねえ、千歌ちゃん……。」
千歌「うん?」
梨子「これで…良かったんだよね?」
千歌「良かったかは、わからない。
でも、必死に足掻いた。それしか私たちにはできなかったはずだから…。」
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私はあの後、必死にもがいた。
曜ちゃんが私に託した夢。
それを叶えるために。
私が回復しないことにはどうにもならなかったから、2日くらい、必死にリハビリをして体力を戻すことに専念した。
お医者さんも私の回復力にはびっくりしていた。死んじゃうかもしれないって思われていたみたいだから、起きて2日後に走り回っているのは確かに異常だったのかもしれない。
私があまりにも必死にリハビリをしていたからか、Aqoursのみんなは誰も私のことを止めなかった。
花丸ちゃん、ルビィちゃん、善子ちゃんはリハビリ中から少しだけ一緒に練習をしてくれた。
ダイヤさんや鞠莉ちゃんも遠くから私の様子を見守ってくれていて、Aqoursのあったかさをすごく感じて、何回も泣きそうになったけど、私はあのときの曜ちゃんとの約束を守るために泣かなかった。
私がダンスも踊れるくらいに回復すると、すぐに退院することが許された。
私は我先にダンスの練習を始めた。
ダンスのステップは何も考えずに練習をすることができた。それは次のライブで歌う曲を決めていたから。
私は曜ちゃんから渡された歌詞を見てから、敗者復活戦とも言える今回のライブで、この曲を歌おうと決めていた。
果南「なんでその曲にしたの。」
千歌「果南ちゃん…。」
果南「理由、あるんでしょ?」
後ろから様子を見ていた果南ちゃんは、私に問いかけながら近づいてきた。その様子はどこか怒っているようにも見えて、私は答えることをためらった。
果南「梨子ちゃんはその曲、途中までしか練習していない。それでも千歌はこの曲でライブする気?」
果南ちゃんの言ってることはもっともだ。梨子ちゃんはこの曲を最後までは仕上げていない。だから、この曲で挑むのなら短期間で梨子ちゃんに相当な負荷をかけてしまう。
梨子「やりましょう。」
千歌「梨子…ちゃん。」
果南「よく、考えてね。ラブライブ本戦に出るためには次の日曜日がライブをする最後のチャンスなんだよ。それまでに仕上げ切ったことのない曲を完成させるのなんて…」
梨子「やろうよ。果南さん。」
梨子ちゃんの意志はとても固かった。
果南「どうして、そこまでやりたがるの。」
梨子ちゃんは果南ちゃんの質問に一拍おいて答えた。
梨子「運命かな、と。」
果南「うん、めい…」
梨子「はい。
曜ちゃんが私にプレゼントしてくれた衣装。きっとあれは、曜ちゃんが私に託したんじゃいかって思うんです。」
千歌「梨子ちゃん…。」
私と同じ気持ちだったんだ……梨子ちゃんも。
果南「私はかなりのリスクだと思うよ。
初めての曲じゃないから、高い精度を求められてしまうし、それを再編成して一からダンスし直すなんて…」
千歌「果南ちゃん。」
果南「なに?」
千歌「私は…同じパートをやるつもりはないよ。」
果南「…どういうこと?」
私が考えていたライブは
千歌「曜ちゃんの作ってくれた2番の歌詞でやりたい。」
梨子「!」
果南「なっ、なにを言ってるの!?」
千歌「時間が無いのもわかってる!
でも、曜ちゃんが残してくれたものを形にしたい!曜ちゃんと一緒にラブライブ!に行きたいんだよ!!」
泣かない。
泣くもんか。
曜ちゃんがいないことの辛さで何回も泣きそうになったけど、あの約束からずっと泣かなかった。だから今も泣くもんか…
果南「…新しい振り付けはどうするの。」
花丸「ま、まるが考えるずら!」
ルビィ「ル、ルビィも!」
千歌「2人とも…」
花丸「まるは曜ちゃんからダンスのための本をもらったずら。
それってきっと、まるが振り付けを考えるために曜ちゃんが託してくれたものなんだと思うの!」
ルビィ「ルビィは…衣装がもうできてるから、あとは花丸ちゃんを支えてあげたいと思ってるよ!」
果南「メロディーも少し変えないと、2番の意味が薄れると思うけど。」
梨子「なんとか間に合わせます。歌詞ができているのなら、あとはその想いを感じて創ればいいだけですから。」
善子「曜さんがみんなの波動について書かれた魔術書を私に託したのは、きっとこの時のためだったのね…。ククク…面白い。
ならば、堕天使の力を使って、曲の表現力を極限にまで高めるパート分けをしようぞ!」
果南「なんで…みんなはそんなに前向きなの?」
鞠莉「決まっているじゃない。曜に笑ってもらうには、止まっている私たちの姿を見せるんじゃなくて」
ダイヤ「前に向かって進んでいく姿を見せることが一番だと、みんな思っているからですわ。」
鞠莉「あなただって、曜が残してくれた輝きと一緒に前に進みたいでしょ?」
ダイヤ「……果南さん。」
果南ちゃんはみんなの顔を見渡すと、最後に私の顔を見た。
だから
千歌「私はもう迷わないよ。自分のやれるだけを尽くす、そう決めたんだ。」
果南ちゃんに私の気持ちを伝えた。
果南「……やるからには、絶対に成功させるよ。」
千歌「果南ちゃん…!」
果南「私は曜の気持ちを考えてなかったのかもしれない。千歌を見たら、そんな気がしたよ。」
顔を曇らせながら果南ちゃんがそう言うと
善子「そんなに落ち込まないで。弱気になるなんて、果南さんらしくないわ。」
ルビィ「え……。」
花丸「よしこちゃん……?」
善子ちゃんが果南ちゃんを励ましていた。
善子「っ!の、ノートの通りにしたまでよ!!」
花丸「ひょっとして果南ちゃんだけじゃなくて、まるたちのことも書いてあるずら?」
ルビィ「そうなの?
き、気になるかも!善子ちゃん、見せて!」
善子「いやよ!これは堕天使としての契約が無いと扱えない超魔術級の代物よ!?」
鞠莉「…ねえねえ、善子。果南のことについてはこっそりアフタートークしましょ♪」
果南「まーりーっ!」
ダイヤ「…はぁ。まったく。どんな状況でも鞠莉さんは鞠莉さんですわね。」
鞠莉「Oh!! それじゃあ、私がノーテンキーみたいじゃない?」
ダイヤ「ノーテンキーじゃなくて、能天気ですわ!!」
千歌「あははは…」
なんだかあったかい。
少しずつ、本当に少しずつだけど、久しぶりに昔に戻った気がした。
梨子「やっぱり、凄いね。」
千歌「え?」
梨子「千歌ちゃんのおかげで、またみんながこうして前を向いていこうって思えるような雰囲気になったから…。」
今のみんなの顔を見て、これから私たちにはまたあのときの笑顔が戻ってくる。そんな予感が確かにあった。
千歌「でも、これは私の力じゃないよ。
たくさんの想いを残してくれた曜ちゃんのおかげ。」
そう。
曜ちゃんの想いが私を引っ張ってくれているんだ。
梨子「…なら、見せてあげないとね。」
千歌「え?」
フフッと微笑む梨子ちゃんの目には一粒、涙が溢れていた。
梨子「ラブライブ!決勝に立つ私たちの姿を。」
そう。私たちは負けないよ。
だから、私たちの一番近くで見ててね。