#5.5 守りたいもの
〜千歌が曜の家に来た次の日〜
最近何か違和感を感じるというのも、曜の様子が気になる。
今まで接してきた中でわかってるけど、千歌と違って、曜は案外しっかりしている。私と同い年のダイヤや鞠莉よりもしっかりしてるところがあるくらいだから、きっと私よりもしっかりしてるところがあるに違いない。
だからこそ、たまに不安になる。
その曜がダメになってしまったとき、Aqoursはどうなってしまうのか。
Aqoursの求心力は千歌が担っている。このことに違いはない。でも、その千歌をいつも支えてあげていたのは、紛れもなく梨子ちゃんと曜だ。
そして、曜は梨子ちゃん以上に器用で、周りの様子を見ながら動いている。Aqoursが上手く回っているのは曜のおかげだ。
その曜の様子がおかしい気は、なんとなくしていた。なんというか、無理やりいつも通りに振る舞おうとしている。そんな感じに見えた。空元気というやつかな。
だから、曜に直接聞こうかと思っていたときだった。
鞠莉『私に任せて♪』
果南『鞠莉、どういうこと?』
鞠莉『私も気になるし、ちょっと果南じゃ頭が固そうだからかな。』
果南『むっ。』
鞠莉『ジョーク、ジョーク♪
とりあえず、私に任せてくれない?』
果南『わかった。まったく、鞠莉にはいつもペースを握られるね…』
鞠莉『トークは勢いと緩急!果南も直球だけじゃなくて、カーブも投げてみたらいいんじゃない?』
果南『誰かさんは、そのボール球に手を出しそうになってたけど?』
鞠莉『ノー!意外と果南も意地悪ね。』
果南『ふふっ♪』
鞠莉『まあ、曜からうまく話を聞いてくるわ。』
果南『よろしく。』
そうして、鞠莉は曜を連れて話を聞いたらしい。
らしい、なんていうのも、鞠莉が曜と話をした内容を教えてくれないからだ。今回の件は水に流ししてね。と言って、鞠莉は曜との話を私にしてくれない。
その日以降、曜はすっかり今のポジションで歌うことに慣れて、千歌との息も合っている。梨子ちゃんの代役として曜を推薦した手前、もし今回のパフォーマンスで何か問題が起きれば、それは私の責任だ。
もちろん、パフォーマンス以外のところで問題が起きても、私に責任がある。だからこそ、曜が無理をしているようだったら支えてあげないといけない。
だけど
曜「なーにかをつかむことで♪」
曜は一言も弱音を吐かずにここまで頑張り続けてる。だから、心配するようなことは何もないと自分に言い聞かせる日々を過ごしている。
ダイヤ「千歌さん。今の、あきらめ、の『め』の部分、もう少し音が上ですわよ。」
千歌「も、もう少し〜?」
鞠莉「ダイヤも耳がいいのね。」
ダイヤ「私はお琴をしていますから、多少の音のズレくらいはわかりますわ。」
曜「私は?」
ダイヤ「曜さんは今のところ問題ないと思いますわよ。」
ルビィ「ほわぁ〜。曜ちゃんも中々音を外さないよね。」
千歌「いいなぁ曜ちゃんは。ダンスはもちろん上手いし、歌も上手だから、ダメなところがないね。」
曜「そ、そんなことないよ!ほら、千歌ちゃんはもっと上手になれるから!」
ダイヤ「そうですわ。練習は裏切ったりしませんから。練習あるのみ!」
善子「ダイヤさんって、どう考えても熱血バカよね。」
花丸「否定はしないずら。」
果南「完成には近づいてるからさ、焦らずに少しずつ良くしていこう。」
千歌「うん。私も頑張るぞ…!」
予備予選まであと3日。みんなで支えあいながら頑張っていこう。
千歌「果南ちゃーん!」
果南「うん?」
練習後、千歌が私に話しかけてきた。
果南「どうかした?」
千歌「ちょっと個別レッスンをしていただきたくて…」
果南「個別レッスンって、ダンス?」
千歌「うん。私って基本的に曜ちゃんと対象的に踊ってるでしょ?それでサビのときに、どうしても曜ちゃんよりも反応が遅れるというか…なんかキレがないっていうのかなぁ…。」
果南「うーん。なんとなく千歌の言いたいことはわかったよ。とりあえず気になっているところを見せてくれる?そうしたらアドバイスできるから。」
千歌が自分から気になる点を見つけて、私に聞いてきてくれて良かった。
個人的に感じる微妙なタイミングのズレでその後のパフォーマンスの質が変わってしまうことが、スクールアイドルではよくあると聞く。
でも、そういうものって基本は自分の中でしかわからない。だから、そう感じてしまった時に自分で解決するしかない。
千歌は自分のことを客観的に見ることができる。だから自分のことをネガティヴに考えてしまうことも多いけど、これはみんなができるってことではない。
それに、千歌は中途半端が嫌いな性格だ。だからあまり妥協をしない。そういったところが千歌の強み、みんなが千歌に惹かれている理由の一つ。
梨子ちゃんとではなく、曜と踊ろうと決めたからには、曜の動きについていく。千歌はそう決心したんだろう。
千歌「ど、どうかな?」
果南「そうだね。本当に微妙だけど、後半になるにつれ、ステップが遅くなってた。」
千歌「ということは…」
果南「持久力はまだ曜より足りてないかもね。」
千歌「そ、そっか…」
果南「まあ、体力のことに関しては、すぐにつくわけではないから、くよくよしても仕方ない。とにかく、今千歌に必要なのは焦りすぎないこと。」
千歌「焦り…すぎない…?」
果南「うん。焦りは体のキレを悪くして、体力を多く消費するから、ライブを楽しむことを考えよう。もちろん、お客さんを楽しませることも大事だけど、自分が楽しむことはもっと大事だよ。」
千歌「自分が…楽しむ。」
果南「曜と2人で歌ったことなんてないでしょ?」
千歌「うん。」
果南「楽しみじゃない?」
千歌「…楽しみ。確かに楽しみだよ!!」
果南「その気持ちを忘れちゃダメだよ?曜と同じように踊ることよりも、曜と2人で楽しむことを考えよう。」
千歌「うん!」
果南「結局アドバイスになってないかもしれないけど、こんな感じで良かったかなん?」
千歌「だいぶいいかんじー!」
果南「ふふっ♪それじゃあハグしよ!」
千歌「ギュー!果南ちゃんとのハグ、久しぶりだよ〜♪」
そう。千歌は優しい。だから、相手の様子を見ながら自分を我慢してしまうことが多い。今回の梨子ちゃんの件も、もちろん応援したいという気持ちから送り出していると思うけど、多少の自己犠牲も含まれている。
私は幼馴染としても、千歌と曜の2人のことを守らなければいけないし、何よりもスクールアイドルとして道を歩いていく中で傷ついてほしくない。
だから、今回の予備予選は意地でも成功させる。
千歌「…果南ちゃん?」
果南「うん?」
千歌「顔がちょっと怖い…」
果南「えっ?ああ…。ごめんごめん。ちょっと考え事をしてた。」
千歌「考え事?それってどんなこと?」
果南「深いことは考えてないよ。祈ってるのに近いかな?今度の予備予選、うまくいきますようにってさ。」
千歌「そっか。じゃあ私も祈っとこ!」
私にとって2人とも大事な幼馴染なんだ。
私と同じ想いはさせない。
スクールアイドルなんてやらなければ良かったなんて、絶対に思わせないから。