楽しんでもらえたら嬉しいです。
ダンジョンがあり、魔物がいる。
神や妖精、亜人や幻獣がいる。
喋る植物だって、巨大すぎるドラゴンだっている。
その世界の名を住人達は『モンスト』と呼ぶ。
この名をどこの誰がいつ付けたかを知る者はいない。
そんな世界『モンスト』には過去、『勇者』と呼ばれた少年がいた。
曰く、四人の伝説の仲間がいた。
曰く、世界を滅ぼそうとした5体の魔王を仲間と共に打ち滅ぼした。
曰く、滅びかけた世界を救った。
他にも沢山の伝説がまことしやかに語り継がれている。
『勇者 ロイゼ』
それが、伝説の名前。
およそ1600年前に実在した勇者だ。
神や妖精に愛された規格外の聖騎士。
今から語られるのは、その勇者『ロイゼ』の話…ではなく、伝説から1600年後の話。
彼の血をただ一人引き継ぐ一人の少女、『リコル』の大冒険の話。
1 大胆不敵な旅立ち
「もう疲れたー!!」
モンスト歴2008年。
とある草原に少女の声が響いた。
「つべこべ言わず手を動かせ、手を。
まだ5本しかやっとらんじゃろ」
見渡す限りの草原。ぐるっと360度見渡して水平線が見えるような場所。
そんな辺境の地に、一つの家があった。
「まだ5本?めっちゃ疲れるんだよこれ!」
「それを毎日ワシがやっとったんじゃ。ワシに出来るんだからリコルも出来る」
「なにそれー!」
その家の庭。そこに彼女らはいた。
一人は60過ぎにみえる老人。
しかし腰は曲がっておらず、眼光も鋭い。
話の内容が本当なら毎日薪割りもしているらしい。
もう一人はリコルと呼ばれた少女。
15歳くらいだろうか。まだ少し童顔だが、綺麗な子である。
現在、初めての薪割りで5本割った結果両腕が揃ってストライキを起こしているようである。
「ガーさんの鬼畜ー、鬼ー、化け物ー」
「誰が鬼畜じゃ!それにワシはガッチェじゃ!ガーじゃないわい!」
「えー、かわいくなーい」
「可愛さを求めんでも良いわい!」
60すぎの老人と15歳の少女。
この二人は10年ほど前からずっとここで自給自足の生活を送っている。
といっても二月に一度くらいは人里に買い物には行く。
もちろん、そんな生活がこの世界の常識ではない。
ダンジョンがあり魔物がいるこの世界でもそんな世捨て人みたいな生活をする人は稀である。
ではなぜ彼女らはそんな生活をしているのか?
その理由をリコルは知らない。
リコルは何度もそのことをガッチェに聞いた。しかし、その度にはぐらかされてしまっていた。
多分、私に言えない深〜い事情があるのだろう、とリコルは一人納得し、聞かないことにした。
実際、ガッチェがリコルに隠れて誰かに会っているのを一度目撃している。
しかしリコルがガッチェを信用してない訳ではない。
小さい頃に両親を失った彼女を引き取り、ここまで育ててくれたからである。
まぁ、他にもガッチェの性格的に嘘がつけないとか色々理由はあるのだが、家族だからというのが一番の理由だと思う。
とにかく、リコルはわからないことはわからない、と割り切っていた。
明るい彼女らしい思考回路だった。
単純な馬鹿ともいうが。
「もーやだー」
「ほれ、リコルからやるって言ったんじゃ、きちんと最後までやり切りなさい」
「むぅー」
そんなやりとりを二人がしている時、
「すいませーん、誰かいますか?」
そんな声が聞こえた。
「ん?ガーさん、お客さん?」
「…、そんじゃの」
「珍しーいね。あ、今いきまーす!」
リコルは斧を置くと声のした方へ走る。
薪割りから解放されたい訳ではないはずだ。
「はぁ…、面倒ごとにならないといいのぉ」
「申し遅れました。私、『不思議の国』魔術研究員一級職員、ベルスターという者です」
家を訪ねてきた男は、ローブにカンテラ、杖と絵に描いたような魔法使いだった。
「え?あ、もう一回いい?なんか全然頭にはいってこなぁだっ!」
「すまんのう、こういうやつなんじゃ、気にせんでも良い」
「あ、あははは…」
拳骨を落とされてうずくまるリコルを尻目に、ガッチェは話を催促する。
「え、ええと、要件を簡潔にしますと、
リコルさんに魔王を倒す旅に出てもらいたいです」
「ほへ?私?」
「は?」
そのまま思考停止すること30秒。
「いきます!今すぐですか準備しでぇっ!」
「リコルは少しそこでだまっとれ」
「ふぇぇ、ひどい…」
二度目の拳骨を落とされて涙目になるリコル。
今回は理不尽である。合掌。
「さて、急にどうしてそうなった?」
「あれ?なぜ、とは聞かないのですね」
「ワシだって理由ぐらいわかるわい。一番近くにおったからのう」
元々鋭かった眼光が更に鋭くなる。
常人なら間違いなく怯むそれを、しかしベルスターは別に気にすることなく話を続ける。
「東の方に『チュウカ』という国があるのはご存知ですね?」
「サムライがいる国か?」
「いえ、そちらは『ヒノクニ』です。あの伝説の一人、『リン・ツー』出身の方です」
「…、その国がどうかしたのか?」
「占術…、あそこの国の占いで有名な人がいてですね、つい先日、その方からとある予言を貰ったのですよ。『魔王と共に混沌が幕を開ける』」
「『混沌は世界を巻き込み、この世を闇へと誘うだろう』」
それを言ったのはベルスターではなかった。
もちろん、ガッチェでもない。
声の主はリコルであった。
ガッチェは驚いて横を見る。
そこには、自分でも驚いているリコルがいた。
「え、あ、私なんで?」
「それは、君が『勇者』だからだよ、リコルさん」
「…?『勇者』…って?」
「かつて、5体の魔王が世界を滅ぼそうとした。その時、一人の少年が立ち上がり、世界を救った」
「あ!『勇者 ロイゼ』の伝説!」
「そう。そして、その勇者の血を引く者が、運命によって導かれ混沌の魔王を倒す」
「…『吟遊詩人 ディル・ロッテの最期の手記』、か…」
『吟遊詩人 ディル・ロッテ』
彼女はロイゼの四人の伝説の仲間の一人である。
今現在語られるロイゼの伝説のほとんどは彼女によって伝えられ、他にも様々な地方の伝承も語り継いだと言われている。
その彼女の最期の手記、最後の文には予言が書かれていたのだ。
いずれ混沌の魔王が現れ、それを勇者の血を引く者が運命によって倒す、というものだった。
しかし現在まで魔王と呼ばれる者はいたものの、混沌を司るものは現れず、『英雄《ストライカー》』達に倒されてきた。
「しかし、今いる魔王は混沌を司っていないはずじゃが」
「いや、まってガーさん、今さらっと私ロイゼの子孫みたいな話してたけど、そっちの話詳しく聞きたいよ私」
「あー、ワシ今まで隠しておったがリコルはロイゼの子孫じゃよ」
「軽っ!」
「ベルスターとやら、話を進めてくれ」
「ま、待って!」
「後で話てやるからちょいと待っとれ。
分かったな?」
有無を言わせぬガッチェの言葉にビビるリコル。
完全に怯えてカタカタしている。
それを見て苦笑するベムスターは話を進める。
「今現在確認されている魔王、ヴェローナ。彼女は元々我が『不思議の国』の第3番筆頭騎士でした。その彼女がどんな理由かは知りませんが、俗にいう『闇堕ち』をし、今の魔王『ヴェローナ』になりました」
「ふむ、なら司るのはおそらく」
「多分『理不尽』だと」
魔王と呼ばれる者達は其々司るものが存在する。
例えばかの大魔王、ビゼラーなら『暗黒』といった風にその魔王の象徴を司る。
ヴェローナの場合、筆頭騎士から魔王に堕ちたことから考えるに、何かしら『理不尽』なことがあったに違いないだろう。
そう、ベルスターは考えている。
「ならヴェローナは違うのじゃろう?」
そう。それならばヴェローナは『混沌』を司る魔王ではない。
なのに、予言では混沌の魔王が現れている。
「私も最初はそのありがたい予言が違うのでは、と思いました。もしくは私達の捉え方が間違っていると」
しかし彼は続ける。
「そこで、私はこう考えました。ヴェローナは何故魔王になったのか、と」
「!と、いうことは、まさか、」
「ええ。筆頭騎士になるような人物を『闇堕ち』させることが出来るほど強い力を持った者がいるのでは、と」
「そいつが…、『混沌』の魔王、じゃと?」
「おそらく」
ここで一つ補足しよう。
『不思議の国』における筆頭騎士とは、単身で大隊ー48人の訓練された兵士を制圧出来るほどの実力者に贈られる称号のようなものである。
全部で13人いると言われている。
彼女はその上から3番目、『ハートのジャック』を貰っていた。
つまり、この国の三番目に強い騎士が『理不尽』に『闇堕ち』させられたのだ。
この状況がいかに不味いかが理解出来たのだろうか。
「ここでようやく、リコルがでてくるのか」
「へ?わ、私?」
「リコル、後で詳しく話すが、お主は伝説の勇者、ロイゼのたった一人の末裔じゃ」
「予言では、その『混沌』の魔王を倒せるのは勇者の子孫、つまりリコルさん、貴方だけと言われています」
「あ、ここで話が最初に戻るのか!」
そーいうことか、とリコルはポン、と手を打つ。
「分かった!私、行くよ!」
「待てい、リコル、話を理解したのか?」
即決するリコルを止めるガッチェ。
頭を抱えたくなるのはよく分かる。
「うん。つまり、私じゃないと世界を救えないんでしょ?」
「分かってるのか分かっとらんのかよく分からん解答じゃのう…」
はぁ…、とため息ひとつ。
「ベムスター、少し席を外してくれんか?二人で話がしたい」
「あ、分かりました。どうぞごゆっくり」
そう言ってベルスターは外に出た。
ガッチェはリコルの方を見る。
「さて…、どこから話そうかのぅ」
何を話そうかとガッチェが考えていると、
「ガッチェ」
「ん?なんじゃ」
リコルがうつむいたまま、聞いてきた。
その声がいつになく真剣で、ガッチェは思わす身構えてしまった。
「ひとつだけ、聞きたいことがあるの」
「ひとつだけでいいのか?」
「よくないけど、大丈夫」
「…、なんじゃ」
「私が勇者の血を引いてることは最初から知ってたの?」
「…ああ」
「そう、なんだ…」
「ありがとう、ガッチェ」
あげた顔はとても笑顔だった。
「…何故感謝されるのか分からんのう」
「だって、色々あったんでしょ?私が勇者の子孫だから」
リコルが思い出すのは自分に隠れて人に会っているガッチェの横顔。
それは何かを企んでいるような顔ではなく、怒りの表情だった。
なんで怒っていたのかはリコルは知らないが、きっと私のためだったんだろうと勝手に都合の良い解釈をする。
幼かった私をずっとひとりで守ってくれたのだろう。
だから、リコルは感謝する。
「私、止められてもいきたい。ううん、いくよ」
長い沈黙。
そして、
「大きく、なったのぅ」
「え?」
「ワシの部屋、タンスの一番下に一振りの剣がある。それを持っていくがいい」
「!あ、ありがとうガーさん!」
「ガーじゃないわい!それと、その上に旅に基本的に必要なものが入っている。
あと、もう二つ」
ガッチェは立ち上がると呪文を唱え始めた。
「我が呼びかけにこたえ、ここに現れたまえ!」
すると、目の前に魔方陣が現れ、回転を始める。
「召喚術?ガーさんそんなこと出来たの!?」
「まぁ、むかーし少しかじってのぅ」
やがて回転は止まり、魔方陣の中から一匹の犬が現れる。
「ほれ、餞別じゃ。リコルの手足になってくれるじゃろう」
「わぁ!可愛い!おいでおいで!」
「わんっ!」
リコルはすぐにじゃれて遊びたすが、ガッチェの痛いほどの視線に気づき慌ててやめる。
「はぁ…、本当に分かっとるのかのう…」
「あ、そうだ、この子、名前は?」
「まだ無いぞ?」
「あ、私が決めていいの?」
うーんと悩むリコル。
そしてポン、と手を打つ。
「決めた!君の名前は、今からフリー!
自由って意味なの!」
「わんっ!」
「よし!フリー、今から準備するぞ!」
「わんっ!」
一方、ベルスターはというと。
彼はつい先ほどまで二人が薪割りをしていた庭に来ていた。
「これは…、まぁ、なんというか、想定外ですね…」
其処にあるのは2つに割れた薪が5本。
来た時に「疲れたー」なんて言ったので、どれだけ割ったのか知るためここに来たのだが。
予想は大外れ。それもかなり良い方に。
「普通ユグドラシルの木なんて割れないですよ…」
そう、彼女が割っていたのはただの木では無かった。
『世界樹 ユグドラシル』
この世界の中心にある大樹。この薪はそのユグドラシルの薪である。
「向こうにある薪は普通の木でしたし、おそらく彼も試しに斬らせてみたのでしょうが…。斧も普通の物ですし、腕力だけで斬ったとしか見えないですね。しかし、そうすると彼女、ジョーカーくらいの腕力があるということになるんですが…」
ユグドラシルは普通の木と違い、硬度がかなり高い。腕力だけで斬ることが出来るものは必然的に限られてくる。
彼がいったジョーカーとは、一昔前に『不思議の国』に現れ、女王アリスに倒された『狂気』と『虚無』を司った魔王のことである。
彼もまた、ユグドラシルでできた建物を一刀両断してたのだが、リコルは15でそれほどの腕力を持っていることになる。「私も影を使えばできそうですが…、生身じゃ絶対できないですね…」
ふふふと、彼は笑う。
「リコル…、なかなか興味深い少女だ…」
「ベルスターさーん!準備出来ましたー!」
「ガッチェさんは了解したのですか?」
「うん!」
「本当にいいんですね?」
「うん。全部、分かった」
「なら、まず『不思議の国』の王都に行きましょう」
「分かった!」
「ガッチェ、いってきます!」
「おう、行ってこい」
そうして少女は旅立つ。
世界を救う大冒険の旅に。
キャラ1
No2008
リコル
聖騎士 パワー型