ある程度のコンセプト自体は固まってるので現時点で第3部がどうなるかで結末もまた決定していきます。
基本的には原作沿いというか再構成というか、そんな感じです。
変更点は先生の性格とある程度の独自解釈、独自設定、それに伴うキャラクターのリアクションとかその辺です。
星守とワイワイしたり、イロウス関連でギスギスしたり、そんな話にしたいと思います。
幼い頃からの夢は教師だった。
特に大した理由などはない。医者に命を救われて医者を目指したとか、家族のピンチを乗り切ってくれた弁護士に憧れて弁護士を目指したとか、そのような大層な動機ではなかった。
ただ小学校入学から十年以上も目の前に立ち続けてくれたおかげで、最も職業としてなじみが深かったから、その程度のものだった。
金持ちになりたかった――そんな欲はなかった。
富と権力を築きたかった――自分にその器はないことくらいは自覚していた。
ごく一般の人間が、子供が好きだからと自惚れて教職を目指すのと同じように、凡庸な人間がここにも一人いた、それだけのことである。
未だに着慣れないスーツに腕を通し、練習したのに結び慣れないネクタイを鏡の前で悪戦苦闘しながら、時にスマホのインターネットに頼って何とかセットを完了させる。
ひっそりと飾ってある額縁の中の人物に行ってきますと心の中で挨拶を送って、勢いよく玄関の戸を開け飛び出した。
勤務先の学校は徒歩で十分に辿り着ける距離であり、一度自分の足で歩いて確認しているため周囲の道路含め地理はある程度把握している。
教員免許の取得と同時にその学校から通知が届いたのだが、その文面に目を通して悪寒が走り背筋に冷や汗が伝ったのだが、そこが有名な女子校であった事実は男にとっては居心地の悪い将来を妄想させるのに十分だった。
一歩一歩、すぐ隣を走り過ぎていく車の音を聞き流しながら、アスファルトの歩道を進む。少し見上げると、昇り始めている朝日を背景にして、電線に止まってあったカラスが一羽、どこかへ飛び去っていくのが見えた。
歩を進めるにつれて足取りが重くなるのは、女子校というある意味神聖ともいわれる場所に近づいているからかもしれない。悪魔が天使の聖域に踏み込むとはこのような気分なのだろうかと妄想に耽る。
しばらく歩くと勤務先の学校のシンボル、空に向かって緑の広がりを見せる大樹が目に入った。
住宅街の中に一躍存在感を示すそれがある学び舎こそが、新米教師の新しい居場所である。このまま真っ直ぐ道を抜ければすぐ校門へと辿り着くと地図が示していることを確認し、安堵の溜息を吐く。
辿り着いた校門から見上げた校舎はやはり壮大だった。
校門から昇降口まで続く真っ直ぐの通路を中央線としてほぼシンメトリーに広がる敷地と校舎、そして校舎中央の背後に大きくそびえ立つ例の大樹があった。
校門のすぐ隣の立札を見ると、そこには《
地図付きの書類を片手に校舎を見上げてどれくらい呆けていたのかは分からない。魂が口から抜けていきそうになるのを押し留めたのは、溌剌な少女の一声だった。
「あの、すいません!」
急に話しかけられたのに驚いて体を僅かに跳ねさせながら、視線を大樹から正面へと向ける。
そこにいたのは、不思議なものを見るような目でこちらを見ていた、制服姿の少女だった。ショートボブのブラウンヘアを、シュシュを使ってサイドアップにした髪型で、いつまでも絶えることのなさそうな笑顔を向けた少女。思春期であろう年齢にしては、その大きな明るいブルーの瞳を一切逸らさずこちらの顔を覗き込んでいる。
視線を合わせないのは失礼だろうと考えて、その瞳に対し視線を刺し返す――と、その少女は僅かに怯んだ。
やってしまった、と少しばかり後悔する。自分の目付きは周りに怖い印象を与えるということをいつも指摘されておきながら、中途半端に真面目な性格が災いして、いつもその視線で相手を脅かしてしまうのだ。
「あ、生まれつきの目付きだから別に怒ってるわけじゃない」
両手を挙げて敵意はないことをアピールする。自分でも行動が不自然になっていることにすぐ後から気が付くが既にどうしようもない。
しかしその行動が少女に安心を与えたらしく、彼女の表情に笑顔が戻ってきた。
「新しく来た先生ですよね? 今日から来る先生は男の人だって聞いてました。うちの学校、女の子しかいないので楽しみにしてたんです!」
その言葉が、この学校が女子校であるという事実を追い打ちするように突きつけて、動かしていない足が重くなる。
だが一方で、新任教師が男であるという情報は生徒間でも周知の事実であるということが、そこまで肩身の狭い思いをしなくてすむかもしれないという期待を煽る。
「間違いないよ。今日からここで教師をすることになる、
「あ、私、
今にも飛び跳ねそうな勢いで自己紹介を終えた少女――みき。
初対面でかつ目付きの恐ろしい野郎を相手にここまで無防備なのもまた問題かもしれない。彼女くらいに純粋な性格の子はここ最近ではあまり見かけない。
彼女が言うに、この学園の教師から、新任の教師をもし見つけたら自分のところに案内するように、との指示があったらしく、彼女の歩く後ろを彼女の歩調に合わせて学び舎の校舎を歩いた。
みきの案内で通されたのは、とある大きな一室だった。
普通の学校の教室などとは全く雰囲気の異なる場所で、恐らく現代では最先端であろうコンピューターがずらりと並び、各機器から空中に投影されているモニターは絶えず稼働して演算を行っている様子を映し出している。
そしてそれらより奥に視線を向けると、先程から視界の隅には入っていた、畏怖を感じさせる程の太さのある幹を持った大樹が部屋の屋根へと向けて伸びていた。枝葉は屋根の更に上にあるようで、ここからは全体像を見上げることはできない。外から見た天に広がる緑がそうなのだろう。
「大変お待たせいたしました」
ふと、その大樹に見惚れていると、みきとは違う女性の声が聞こえてきた。
清潔に整えられたショートヘアと赤いフレームの眼鏡、その奥にある凛とした瞳が特徴的な女性だ。レディススーツを着崩すことなく完璧に着こなしている。
「我が校にお越しになることをお待ちしておりました、千条先生。ここ神樹ヶ峰女学園で教員をしています、
スッと滑らかに頭を下げる。礼儀作法がしっかりしており、第一印象としても良いものだ。
一礼の美しさに感心してる場合ではない。一は当てて先輩教師に礼を返す。
「本日からこちらで教師をさせていただきます、千条一です。よろしくお願いいたします」
頭を上げると樹の柔らかな笑みが待っていた。
みきの発言から察するに、女しかいないこの学園で初めてその聖域に踏み入る男を、彼女は歓迎しているようだ。
問題は、なぜこれまで男を採用しなかったこの学園が突如として一を指名したか、ということになるだろう。
その説明は、これから全て八雲樹から伝えられることになる。
「まずは、あなたが担当する【星守クラス】から説明しなければなりませんね」
そう言って樹は、一瞬だけ視線を少し離れて待機しているみきへと向け、再び一の目に戻す。
「星守とは、この大地の守り神である【
一は先程の樹と同様に、みきへと視線を向けた。どうやら彼女もまた星守であり、これから生徒として受け持つ一人ということだろう。
そして学校の名前としても使われている神樹こそが、見上げても天頂が見えない程の高さを持つ大樹の名前であり、この大樹が何か特別な力を保有しているということらしい。
「そして謎の生命体である【イロウス】に対抗できるのは星守だけです」
イロウスという単語に、一は強く反応する。
一はこの身で実感したことがある。イロウスの恐ろしさを。そしてイロウスによってもたらされた、五年前の惨劇を。
【審判の日】。五年前のその日は唐突に訪れた。
元々地球上に存在していたイロウスは、星守の奮戦によって、普段は人間に危害が加えられる事態にはなってはいなかった。
それがある日突然暴走を始め、群れを成して本能のままに街を襲い、物を破壊し、そして人を無差別に傷付けるようになった。
突然の事態に政府も星守を擁する神樹ヶ峰女学園も迫り来るイロウスに対抗することができず、避難と地球からの離脱に方針を定め、星守が守り切ったギリギリの防衛ラインまでを神樹もろともコロニーとして宇宙へと逃げ延びたのだ。
そして今、一や星守、そして樹たち神樹ヶ峰女学園の人々がいるのは、地球から僅かに離れた宇宙空間に漂うコロニーの中、ということになる。
樹の説明は続く。
「我々は、星守の力を借りてイロウスを撃滅し、必ず地球を取り戻さなければなりません。そのために行うのが【奪還授業】です。この授業は、あなたの指揮の下に行われます」
神樹ヶ峰女学園に通う生徒の中でも星守に任命された少女たちは普通の生徒とは違う特別な扱いを受ける。
星守クラスという表現からも分かる通り、学年が違えども同じクラスに配属され、通常のカリキュラムとは違う学習指導が行われる。
それはひとえに、この奪還授業があるからであり、星守として命を賭けてイロウスと対峙する以上、勉学と同様、あるいはそれ以上に戦闘訓練が重視されてしまうのだ。
そんな特殊なクラスを、現場監督として引き受けることになったのが一である。
「それでは、いきなりで申し訳ないのですが、千条先生にはこれから奪還授業の模擬演習を、仮想空間で行ってもらいたいと思います」
待機させていたみきを呼び戻し、彼女の同意を得る。
今回の演習ではみき一人を指揮することでイロウスを退治することのようだ。
二人で転送装置に立ち、演習が開始されるのを待つ。
「先生」
隣でみきに声をかけられる。
「よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ、よろしく」
模擬演習が始まる。
人類から故郷――地球を奪ったイロウスを葬り去るためのリハーサルが。
自分の体の奥底に蠢く醜く汚い復讐心が、ふつふつとその熱を取り戻しているのを、きっと隣に立つ少女は知りもしないのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
五年前。【審判の日】。
覚えている。逃げ惑う人々の怒号、悲鳴。
覚えている。焼き尽くされていく街並み。崩壊する建物。罅割れゆく舗装されていた道路。
獣の遠吠えのような声。雷が落ちたような爆音。窓ガラスが割れる耳障りな音。
油の匂い、血の匂い。あの日は雨が降っていなかったのが幸いだった。地面が湿って動きが鈍っていれば、あの避難脱出は更に犠牲者を出していたに違いない。
煙や灰の黒色が空を覆い、地上から太陽の光を奪っていった。頼りになるのは火の明かりと誰かの持つ懐中電灯やスマートフォンの明かりといった程度だ。
救援の到着と同時に、避難の統制が行われ、散り散りになろうとしていた人々が落ち着いて一ヶ所へと向けて動きを始める。
一もまた同じだった。学校から帰宅して自室に鞄を放り投げ、テレビを見ながらくつろいでいたところを、顔を横から殴りつけるような爆発音に危機感を抱き避難を開始した。
不快感を覚える炎の熱の中、より人のいる方へと何の目的もなく進んでいた。きっとそこに行けば助かるかもしれないと根拠のない自信を抱いて。
走る人の身体にぶつかった。反応が遅れてその場で転倒した。同時にぶつかった相手も倒れた。しかし彼はすぐに立ち上がり走り出す。その顔は怪物でも見たとでも言わんばかりに真っ青だった。
誰もがそんな顔だった。震える足を叱咤して無理矢理走っているような、そんな表情。
転んだ一に辛辣な言葉が突き刺さる。邪魔だ、どけ――逃げ道で横になってるのだから仕方ない。
人の流れが止む。そっと立ち上がり、何事だったのかと振り返った。
まず目に入ったのは、翼だった。青くて黒い、不気味な光を放つ翼。鳥のような翼と、恐竜のような翼の二翼二対を持った化け物。
腕だ。腕を正面で組んでいた。自らが支配者であると主張するような態度。
視界が光る。一瞬で瞼を焼くのは赤黒い光だった。間近で落雷を見るような感覚。一瞬遅れて轟音が鼓膜を強く叩く。
一瞬にして死角と聴覚が潰れた。しばらくはろくに機能しないだろう。
目が見えない、耳が聞こえない――次に襲い掛かるのは途方もない恐怖。主要な器官が使用不能になり、化け物を目の前に情報を収集することのできないことによる生命の危機。
死ぬ。このままでは化け物に、コロサレル。
足を動かそうとして、何もない地面に蹴躓いた。尻餅をつく。アスファルトのごつごつが手に刺さり、出血したのが分かる。どろりとした触感。痛みはなぜか感じない。
動けない。死ぬ。震えが始まって治まらない。
近づいているのか、化け物の羽ばたきによる風圧が徐々に強くなるのを頬で感じ取る。
ふと、肩に温もりを感じた。囁きかける声。かろうじで人の言葉であると判断できた。多分、知っている声。よく聞いた声。その温もりは間もなく消えた。
僅かに視界が戻る。聴覚が少し回復する。
別の女性の声が聞こえる。腕をとられ、回される。女性の髪の感触。
どうやら肩を借りて立ち上がったようだ。とりあえず足は動く。女性に支えてもらいながら逃走に移る。
雷の音と爆発音を後頭部で感じ取りながら、少しずつ遠のいていくのが分かる。脅威から遠ざかっていく安堵感。
助かる。助かった。バクバクと早鐘を打つ心臓が、生きていることを実感させる。
避難所にはすぐに辿り着いた。助けてくれた人のおかげだ。まだ僅かに目が見えない状態ではあるが、髪の長い女性であることは分かる。
掌の傷の手当てをしてもらい、壁にもたれかかるように座り込んでいた。
コロニーと化した避難所が、遂に宇宙へと飛び立つ。
浮遊感を感じながら、しかし自身の緊張を解すことだけに精一杯だった。
やがてコロニー内の全ての電子機器類や電波の復旧が始まり、一のスマホもすぐに再使用が可能となった。
電波が入ると同時に受信されるEメール。相手はとある学園の連中だそうだ。
文面に目をやり、そして――。
そして――。
――少年はその時、一人の家族を失ったことを知った。
次回更新は未定。
とりあえず現在進行中の「満身創痍の英雄伝」を優先的に仕上げていく予定です。
あと、主人公の名前を一と設定してるけど、読みにくいかもなので変更の可能性があります。