転生というか、転移という形に近い方法で異世界へとやって来ました俺こと東道大那ですが、まず最初に気付くべき点がございました。
最初に、この世界に関する知識です。漠然と魔王軍と人間が戦っている古き良きファンタジーな世界観というお話は、まぁ女神が話していたとおりのことでしょう。
次に、この世界での生活の仕方です。これが非常に厄介で、考えてみればお金をどこで稼げば良いのかという問題があります。これは転生先である『アクセル』と呼ばれる街を散々歩き回り、冒険者ギルドという場所を見つけたのでなんとかなりそうです。
最後に。
「……登録手数料、ですか」
冒険者になるのにも、お金が必要なようです。
タダで出来るとは思っていなかったが、どうやら後払いも出来ないらしい。
受付のお姉さんも困ったような顔をしているので、俺はそそくさとギルドを後にした。
金なし、宿なし、身分なし。いきなり詰んだのではないだろうか。
「……働こう!」
何もネガティブになっていては前世と何もかわらない。体は弱かったが、転生という形でこっちに来たとき寝不足も夜勤の疲れも吹き飛んでいた。
死んで蘇ったのだから、体そのものが作り直されたというべきだろうか。
少し後悔しているのは、俺の選んだ特典が即効性がないという点だろう。努力しなければ、成長など望めない。
ならばやるべきことはひとつだけ。毎日を懸命に生きるということである。
というか、こんな世界で何もせずに居れば間違いなくすぐ死ぬだろう。ファンタジーの世界にやって来てまで野垂れ死になんて、冗談じゃない!
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「……なんなのだこれは、どうすればいいのだ」
夕暮れに染まるアクセルの街道の片隅で、建物に力なく体を預けながら俺は呟いた。
登録料を得るためにギルドから出た俺だが、途方にくれている。
働き口がないのだ。これでは冒険者になる前に、近い将来死んでしまう。金がなければ生活は出来ない。文明がある世界ではこれ、鉄則だ。
せっかく才能を恵んでもらって転生を果たしたというのに、このままだとまったく意味がない。
やはり、女神が言っていたとおり最初から基盤を固められるようなものが良かったのだろうか。
後々の事を考えてなどという贅沢な事を言わず、最初から俺つええが出来るようにしたほうが良かったのだろうか。
俺はいつもそうだ。基礎もない状態で未来のことばかり考えるから、最初で躓く。良くない癖だとわかっているくせに、治そうともしない。
いっそのこと物乞いにでもなってしまおうか。そんな考えが頭を過ぎったが、ここの治安いかんによっては危険過ぎる。
それこそ自殺行為に等しいのではなかろうか。
というか、このままでは野宿確定だ。気候的にそこまで寒くは感じないが……。
このまま死んでしまった場合、俺はどうなるのだろうか。考えたくもない。
(どうする、マジでどうする)
そのままズルズルと壁沿いを歩きながら、なんとか泊まれる場所がないかと周囲を見渡す。
せめて風を凌げる場所さえあれば、それだけで全然違うと聞いたことがある。人間は風に当たるだけで、体力を奪われるらしい。
野宿するなら野宿するで、出来るだけ生存性を高める選択肢を取りたいと思うのが知性というものだろう。
せんべい布団とは言え、昨日までちゃんとした場所で眠っていた俺としてはこういう状況は非常にキツイわけではあるが。
「……はぁ。都合よくいくわけがない、か」
深く溜め息を吐いて、下を向きながら石畳の道をトボトボと歩く。
あの女神め、転生させるならこういう最初のサポートくらいはちゃんとしてくれよと心の中で愚痴を垂れながしていると、誰かにぶつかった。
俺は尻餅を付き、それでようやく上を向く。
ぶつかった相手は、右頬に小さな刀傷のある短い銀髪の少女だった。
羽織るように纏っているマントの下は、胸当てと短パンという露出度の高い格好でベルトには短剣が付いている。
どうやら、冒険者のようだ。推察するに、盗賊あたりか何かだろうか。
「っと、大丈夫? ちゃんと前を向いて歩かないと危ないぞ」
「てて……。ごめんなさい、ちょっと悩んでいたもので」
少女は手を差し伸べながらそう言ってくれて、俺はその手を取って立ち上がる。
十五歳くらい、だろうか。幾分か年下の少女にぶつかって、その上で倒れるのが俺の方って……情けなさに心が落ち込んでいく。
「悩むのは良いけど、下向いて歩くのは感心しないな」
「はい、仰る通りです。気をつけます」
腰に手を当て、注意をしてくる少女に対し素直に謝る。情けなさ全開だった。
ここまで落ちぶれているなら、もうなりふりなど構っていられない。
冒険者なら、この街で野宿出来そうな場所を知っているかもしれない。聞いてみよう。
「……あの、すいません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「何かな」
「ここら辺で野宿出来そうな場所って、ありますか」
ものすごく怪訝な顔をされた。
「野宿って……アクセルは治安も良いから追い剥ぎとかする連中は居ないと思うけど、オススメ出来ないよ」
「いや、その……一文無しでして。わけあって遠国から来たんですけど、着の身着のままだったものですから」
どうやってこの国まで来たのか、とか。それまでどうやって生活していたのか、とか。
そんなことを聞かれれば答えにくくなるようなことを、思わずポロッと口に出してしまう。
しかし、この街の治安は良いのか。確かに、昼間に何か問題が起きたりしなかったけど……。
「なるほど。見たところ珍しい服装だし……訳ありなんだ」
少女は俺のことをつま先から首くらいまでをマジマジと見て呟く。
青いジーンズに白いワイシャツ。普段からバイトに行く時に着ていた服は、どうやらこっちの世界では珍しいようだ。
「わかった。じゃあ、あたしが君を助けてあげよう」
「……はい?」
唐突に言い渡された事に、俺は素っ頓狂な声を上げた。
助けてあげよう? 一体何を言っているんだこの女の子は……。
「困ってる人を見捨てられないしね。ぶつかったのも何かの縁かもしれないし」
「いやいや、何を言ってるんですか君は」
ぶっ飛んだお人好し加減に、俺は手を左右に振りながら言う。
確かに、本当に助け舟を出してくれるならこれ以上ありがたいことはない。というか、願ったり叶ったりだ。
だが、目の前に居るのは美少女である。本物の美少女である。マジでヤバイくらい可愛い女の子である。
そんな子が、見ず知らずの他人を善心だけで助けるようなことがあるのだろうか。
美人局ではないのかと、周囲をキョロキョロと見渡してみる。
「あはは、安心して。別に騙そうとしてるわけじゃないから」
「……いや、しかし」
「タダで助けられるのが嫌なら、勿論後で何かしらの形で返してくれれば良いよ。むしろ、あたしとしてはそっちに期待したいかな」
俺の戸惑う姿が滑稽に見えたのか、少女は笑みを浮かべてそう言ってくる。
……ここで頑なに拒否しても良いが、それだと俺の今後がただ厳しくなるだけか。
寧ろ、疑ってかかるよりファンタジー世界における他人の情けに縋るべきなのだろう。
彼女以外にそう言ってくれる人が居るかはわからないし、これで騙されたのなら俺の人生はそこまでなのだ。
運がなかったと、諦めるしかない。
「……わかった。じゃあ、君に助けてもらうとします」
「よし、じゃあ決まりだね。敬語も使わなくて良いよ、君の方が年上みたいだし」
クスクスと可愛らしく笑って、彼女は手を差し伸べてくる。
俺はその手をゆっくりと握って、握手を交わした。
「俺は東道大那。冒険者になる金すら持っていない、十八歳のダメ野郎だ」
「ダイナだね。あたしの名前はクリス、見ての通り盗賊をやってる。あたしのことは呼び捨てで良いからね。それと、あんまり自分を卑下するものじゃないぞ」
自己紹介をしあって、卑屈になっていることを
なんていうか、いい子だ。俺が生きてきた中で、誰よりもいい子だ。
あの女神とは比べ物にならないくらい、天使だと思わずにいられなかった。
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さて、クリスという少女と出会った俺はギルドへと舞い戻ってきた。
彼女は一時的に、俺の冒険者登録の手数料を肩代わりしてくれるのだと言う。
勿論、その返済は利子を付けて返すつもりだ。手数料は一〇〇〇エリス――日本円と同じ感覚なので、つまり千円。一野口である。
現代日本の子供だって持たされるようなお金が、俺にとっての生命線になる日が来ようとは……。
そして現在、俺は昼間で受けてもらった受付のお姉さんの所にいる。同じ人の所に行った深い意味はない。
俺の前では、お姉さんがクリスから借りたお金の数が合っているか確認している。
「一〇〇〇エリス、確かに頂きました。では、こちらのカードに触れてください」
確認を終えると、受付の窓口から保険証や免許証大のカードが差し出された。
言われた通りにそのカードに触れると、うっすらとカードから俺の名前やステータスが浮かび上がってくる。
おお、本当にファンタジーな感じだ。今まで、フィクション作品でしか見れないものが目の前で起こっていることに若干の興奮を覚える。
お姉さん曰く、これで俺の潜在能力がわかるらしい。そして、流れとしてはその潜在能力に応じたクラスに着くのが良いらしい。
才能のないクラスに着くことほど、苦行になるものはない。職業を設定出来るゲームでも、キャラクターごとに得意不得意というものがあった。
そういう点を考慮しなければ、そのキャラクターの伸びなんてのは悪い。俺は今、そういう選択肢を取る立場にいるということだろう。
また、クラスによっては経験を積めばクラス専用スキルなども取得できるようになるとお姉さんは言っていた。
さて、そんなわけで俺のステータスだが――。
「……はい、けっこうです。トウドウダイナさん、ですね。筋力と体力が少々低めですが、潜在能力は全体的に平均前後……まったくの普通、ですね」
普通。普通! 普通か! そう言って貰えるだけで、ちょっと嬉しい。俺にはそういったものがまったくないと思っていたからだ。
体についてのことはこの際仕方ない。生まれ持ったものなのだから、気にする必要もないだろう。
「このステータスなら、上級職は無理でもどの下級職になれますね。どうなさいますか?」
お姉さんに尋ねられて、俺は悩む。
なので、後ろで俺の様子を見守ってくれているクリスに聞いてみることにした。
「うーん、クリスはどう思う?」
「そうだねぇ……。筋力と体力が低いなら、前衛職は向いてないと思う。ランサーは射程があるから省くけど、剣や盾で接近戦を仕掛けるのはダイナ的にどう?」
「まぁ、難しいだろうな……」
そもそも、剣や盾を持って真っ向勝負をするのに俺は向いていないと思う。今は、という形だが……努力次第では変わっていけるだろう。
だが、それはどのクラスにも当てはまることだ。
「……よし、
「敢えて前衛職にするの?」
「槍ならリーチがあるし、素人でも扱いやすいだろ? それに突いて良し、薙いで良し、叩いて良しだ。これなら、多少体が弱くたって戦えなくもない」
アニメや漫画でかじったような知識だが、鉄砲が伝来する前の日本で一般の兵士に多く使われたのは槍だ。
木刀では相手を切ることは難しいだろうが、竹槍なら立派な殺傷能力を持つ武器になる。それに、複雑な動きをするならまだしも槍は単純な動きで攻撃が出来る。
まぁ、そこらへんもスキルで賄えるようになるのだろう。流石に一朝一夕でどうにかなるとは思わないが、俺には特典としてもらった“成長する才能”がある。
あとは、俺の頑張り次第だ。
「ランサーですね! 素早い動きで相手を翻弄し、槍の特性を活かした戦術が光るクラスですよ!」
「というわけで、登録お願いします」
「かしこまりました! 冒険者ギルドへようこそ、ダイナさん。今後の活躍に期待しています!」
カードへの記入が終わり、にこやかな笑顔を浮かべたお姉さんに手渡された俺の身分証明証。
これでようやく、俺の冒険者活動が始まる。今日一日のことは決して忘れないだろう。
「クリス、本当にありがとう。君がいなかったら、俺はあのまま野垂れ死にしていたかもしれない」
「良いよ、困った時はお互い様って言うじゃん。それに、ちゃんとお金は返すつもりなんでしょ? お礼を言うならそれからにしなよ」
「ああ、そうするよ。さて、それじゃあ」
「あ、待って。駆け出し冒険者なった新人クンにちょっと提案があるんだけど」
そのまま別れて、自分に見合った仕事がないだろうかとしていたところをクリスに止められる。
提案と言うが、なんだろうか。
「……ちょーっとさ、あたしとパーティ、組んでみない?」
それは、余りにもありがたく、そしてあまりにも信じがたい提案だった。