この素晴らしい毎日に祝福を!   作:暇潰しと思いつきの人

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第四話 魔法店

 ダクネスを混じえ、初めてのパーティ戦からまた日にちが経った。

 あれから特に目新しいクエストが貼られることも無く、ジャイアントトード狩りも(こな)れて行えるようになっている。

 最近はダクネスもこのクエストに参加してくれる事もあったりで、何だかんだと三人でカエルと戦うことも多くなってきていた。

 ダクネスが加わるため、配当は当然減るわけだから、ちょっと残念ではあるが。

 

 ……ごめんなさい、嘘つきました。

 ダクネスさんが居るおかげで狩る速度も上がってるし、結構な量の死体を運べるおかげでスゲー儲かってます。

 なにあの筋力。カエル何匹まで背負えるのってくらい、ダクネスの力強さは半端がない。

 俺もそこそこステータスとして伸びてはいるが、彼女には遠く及ばないのだ。

 ダクネス曰く、鍛えているからとのことだが……やはりそこら辺はレベルやステータスも関係するのだろう。

 

 聞きかじった程度の知識でしかないが、筋トレは鍛えたい場所の理想を思い浮かべながらやると良いらしい。

 筋肉がしっかりと付いた俺……想像出来ない。中学の頃からまったく変わらない体型だけに、最早これが普通だと頭に定着しているようだ。

 別に、ボディービルダーみたいな筋肉の付き方でなくていい。言ってしまえば細マッチョが理想だが……うーむ、このもやし体型に肉が付いてくれるのだろうか。乞うご期待ですね。

 

 ――閑話休題。

 

 話は戻して、カエル狩りは本当に、順調に行えている。俺のレベルも八に上がるくらいには。

 報酬の一部をクリスへの借金に当てつつ、なんとか装備を整えられるくらいお金も貯めることが出来ている。

 肌着の上に着込む鎖帷子(くさりかたびら)に、金属製の胸当て、肘当て、膝当てと軽装備その物なラインナップだ。

 俺はランサーである。スピード重視なので、受けるよりも回避が中心。それと、この装備にはちょっとした特典があったりする。

 それは、カエルに狙われにくくなるというものだ。

 ジャイアントトードは金属を消化することが出来ないため、そういったものを身に付けている者を避ける習性があるらしい。

 レベルアップやこういった要因もあり、狩りはとても順調だった。

 

 快晴に太陽が輝く日も。

 

「ダクネス頼む! 鎧を脱ぐな! 脱ぐんじゃない! ちくしょう!!」

 

 少し肌寒い、どんよりとした曇りの日も。

 

「ダクネエェス! 俺が自ら封印した奥義を真似しなくていいからぁぁあっ!!」

 

 それは穏やかな風が心地よい、そんな日でも。

 

「クリス!? 潜伏切れてる! 切れてま、あぁぁぁあっ!」

 

 時々、単純なポカをやらかすけれど……俺たちは元気です!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆このすば!◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 冒険者になって半月、俺はクリス達と一緒に居てわかったことがある。

 俺の周りに居る人物は、どこか抜けているところがあるのだ。

 

 クルセイダーのダクネスは、ドが付くほどのマゾヒストだった。

 そんな彼女に注意というか、勧告というか、怒るようなことを口にしても、悦に入る時がある。

 あと、それで何故か俺が怒られる時もある。もっと強く容赦なく罵れ、らしい。

 知るか、この残念美人が。

 

 盗賊のクリスは、普段ならばかなり頼りがいがあるのだが……いかんせん、気を抜くと単純なポカをやらかしたりする。

 あと、昼間から酒を飲まない方がいいと思うんだ。ダメ人間に見えるから。

 それと何かと俺がキミに夕飯奢っていることがあるんですが、気のせいじゃないですよね?

 

 とまぁ、こんな感じで。何かしら問題のような、そうじゃないようなところがある。

 だが、俺も俺でそんな二人に頼りきっているという自覚があった。

 その証拠に、俺はクリスとダクネス、この二人以外とパーティを組んだことがない。

 ぶっちゃけ、彼女たち以外によく話すのは受付を担当してくれることの多いルナさんくらいだ。

 これだって殆どが仕事上の業務的な話が殆どだし、友人だとは言えない。

 

「あれ、この世界に居る俺の知り合い……少なすぎ!?」

 

 ぶっちゃけ前世からであるが、気にしてはいけない。人には触れられたくない部分もある。

 まぁ、自分に原因があるのもわかっている。冒険者の多くは酒が好きだし、お祭り騒ぎも同じくらい好きなのだ。

 俺は酒が飲めないわけではないが、金の節約という理由もあるので自分から飲んだりはしない。

 お祭り騒ぎは勿論大好きなのだが、それでも酔っ払いの中に自ら進んで入って行こうとも思えない。

 人に対して、消極的なのだ。別に知り合いになりたくないわけではない。断じて。

 ただ、きっかけが見つけられないと動くことが出来ないのが、俺の性分らしい。あと地味にコミュ障。これが最大の理由。

 夜勤アルバイターなんて人と違う時間に生息していた俺が、お客さんと世間話をするようなスキルなど磨けるわけもなく。

 

「……やっぱり、とっかかりがないとなぁ」

 

 小さくこぼすようにぼやきながら、アクセルの街を歩く。

 今日は二日に一度の静養日。槍の修復と装備の点検を鍛冶屋に任せた俺は、その仕上がりが終わるまで散歩をしていた。

 クリスはダクネスと一緒に、エリス教という宗教の教会へと行っている。

 あの二人は、いわゆる敬虔(けいけん)なエリス教の信者らしい。この国に住む多くの人間が、そのエリス教というのを信じているとも言っていた。

 まぁ、いわゆる国教というやつだろう。通貨単位にも使われているあたり、王族も相当入れ込んでいるに違いない。

 宗教関連にてんで興味のない俺は、だから一人で街の散策などに興じているわけで……。

 

「にしても、この街は本当に広いな」

 

 改めて散策していると、そんな感想を抱く。

 駆け出しの街ということもあり、アクセルには冒険者になりたい人々が集まってくるらしいから、それが原因なのだろう。

 人が集まる場所には商人が集まる。商人が集まる場所には職人が集まる。その他にも様々な職業の人間で形成され、この街はどんどん大きくなってきたのだろうかと推測する。

 立派な外壁も存在するし、ある意味重要な拠点なのだろう。アクセル周辺も特に危険なモンスターと言えばジャイアントトードくらいだし、もしかしたら貴族などの最終的な避難所なのかもしれない。

 

 なんて、そんなわけないか……。

 ここまでくると推測ではなく、妄想だ。そりゃあ、領主とかは居るだろうけどさ。

 

 そんなことを考えながら、裏路地に入ったり普段行かないような道を選んだりしてアクセル探索を続行する。

 途中で見つけたパン屋でプレーンドーナツのようなものを買い、もそもそと食べながらそろそろ街道に戻ろうかなと考えた時だった。

 路地の隙間から、大量の木箱を抱えた女性の躓く姿が見えた。

 

「あっぶ……!」

 

 ドーナツの入っている紙袋を放り投げ、思わず全力で走り出す。とにかく危険だと、俺の勘が告げたからだ。

 ここ最近で一番伸びている俊敏性が功を制したのか、俺は木箱がバラバラになる前に女性の前に立つことに成功して受け止める。

 ……あ、この人ちょっとひんやりしててきもちいい。

 

「ご、ごごご、ごめんなさい! お怪我はありせんか!?」

「ああ、この通り。お姉さんこそ、大丈夫ですか?」

 

 助けた相手は、ウェーブのかかった長い茶髪の女性だった。

 慌てて謝る彼女の顔色は蒼白で……そして、美人さんだった。

 

「……体調とかも」

「よく言われるんですけど、この顔色が私にとって普通ですから」

 

 少し恥ずかしくなって目を逸らし、荷物を渡しつつ尋ねると彼女はクスリと笑って答える。

 通常で顔面蒼白って……体でも弱いのだろうか。

 

「それと、ありがとうございました。大事な商品なので、落としていたらと思うと……」

「いえ、気にしないでください。というかその、それで前とか足元が見えるんですか?」

「何とか、ギリギリ見えまぁっ!?」

 

 言いながら、頭くらいの高さまで木箱を抱え直した女性が石畳に出来た小さなくぼみに足を取られる。

 今度は倒れる前に支えることが出来た。危なっかしくて見てられないな、これは。

 

「手伝います。時間、あるんで」

「……その、お願いします」

 

 前世の俺――いや、日本に居た頃の俺がこんなことをしているのを見たら、なんて思うだろうか。

 情けは人の為ならずと言うが、そんな余裕なんてないだろうと思うだろうか。

 俺はちょっと、ずるいなと心の中で自嘲する。

 神様特定(チート)を貰い、仲間に恵まれているこの世界でやっと、誰かを助けようなんていう意思が芽生えたのだから。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆このすば!◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 荷物運びを手伝う中、女性に案内されたのは小さな店だった。

 彼女はここの店主で、魔導具(マジックアイテム)と呼ばれる特殊な物を扱っているらしい。

 

「はい、入口の隣に置いていただいて結構です。本当に、ありがとうございます」

「どうもです」

 

 おっとりとしたにこやかな笑顔を浮かべる店主の礼を素直に受け入れて、軽く頭を下げる。

 ここで『当たり前のことをしたまでです』、とか『礼を言われるほどのことはしていませんよ』、とか主人公的なことを言えれば良いのかもしれないが、そんなことが出来る俺ではない。

 ただの気まぐれというか、放っておけなかっただけなのだから、大層な理由なんてのも存在しないのは確かだ。

 しかし、マジックアイテムか。たしか、魔法の力を利用した道具だったと思うがそういうものを売ってる店もあるんだな。

 

「今お茶とお菓子を出しますので、ゆっくりして行ってください」

「いえ、お構い……行っちゃったよ、あの人」

 

 店主は楽しそうにそう言った後、軽い足取りで店の奥へと消えていく。

 俺も俺で社交辞令のようにお構いなくと言おうとしたが、最後まで言葉を紡げなかった。聞こえてなさそうだし、まぁいいか。

 木箱の横に丸いテーブル席が置いてあるし、そこに座って待たせてもらおう。

 椅子に座って待っている間に、周囲を見渡す。どれもこれも何に使うかわからないような品物ばかりで、少し不気味な感じがする。

 マジックアイテムと言うのだから、勿論俺には馴染みなどあるはずもなく。

 そもそも漠然とした知識しかないため、どういうものなのかすらはっきり理解出来ていない。

 あー、でもあれか。考えてみれば、冒険者カードもそういうものなのだろうか?

 モンスターの討伐数を自動記録してくれたり、レベルアップとかも自動更新だし、極めつけには冒険者のスキルの管理はこのカード一枚で出来るわけだし。

 

「お待たせしました。はい、どうぞ」

「ありがとうございます、お姉さん」

 

 そんなことを考えながらポケットから取り出した冒険者カードを眺めていると、店主のお姉さんが戻ってくる。

 ポッドの口から湯気の出ているティーセット。そして皿に盛りつけられたクッキー。なんていうか、優雅な時間が流れそうな組み合わせだ。

 

「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。私はウィズと申します」

「俺は東道大那っていいます。ダイナって呼んでください、みんなそう呼ぶんで」

 

 みんな=二名である。悲しい現実。

 さて、そんな風に今更ながら道中忘れていた自己紹介を交わす俺たち。

 店主――ウィズさんは「では、そう呼ばせて頂きますね」と物腰柔らかにそう言って、ティーポッドからカップに紅茶を注いでくれた。

 また美人な女の人と出会ってしまった。などと、嬉しいのだがそろそろ野郎とも友達になりたいなんて贅沢な感想が出てくる。

 クソ野郎みたいだ。というか、クソ野郎だ。猛省。

 

「ダイナさんは、冒険者なんですね」

「はい。と言っても、まだまだ駆け出しなんですけどね。職はランサーやってます」

「ランサー! なるほど、どおりで身のこなしが軽いと思いました」

 

 普通に褒められた。なんだか、全身がむず痒くなる。

 顔、赤くなっていないだろうか。

 クリスやダクネスは先輩だから手放しに褒めてくれるわけじゃないから、ちょっと新鮮だ。

 

「私も、昔は冒険者だったんですよ。今はもう活動はしていないんですけどね」

「ああ、お店の経営って大変ですからね。仕入れたり日報作ったり発注したり検品したりお客さんの相手したりと」

 

 ちょっとだけ前世で働いていた場所のことを思い出し、気持ちが遠くを向く。

 店長、俺が死んで困ってないかな。結構シフトに入ってたから、穴が出来まくってるんだろうな。

 ……過労死だけは、してくれないでくれよ。頼むから。

 

「あの、ダイナさん? 顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」

「ああ、すいません。ちょっと前に居た場所のことを思い出しまして……」

 

 心配するだけ無駄かもしれないが、それでも残してきたものに不安がないわけじゃない。

 とは言え、目の前の美人を放置するのも失礼極まりないことだろう。

 

「そう言えば、あの木箱の中身もマジックアイテムなんですよね。どういう商品なんですか?」

「今度行う予定の、爆発系ポーションフェア用の商品です!」

 

 あの時助けておいて、本当に良かった!!

 俺は心の中で、雄叫びが如く叫んだ。

 助けていなければ、彼女どころかアクセルの一画が火の海に包まれていたかもしれないからだ。

 あの時の第六感は、つまり俺の命に関わるという警鐘だったのだろう。グッジョブ、俺。よくやった、俺。

 

「……爆発系ポーション、ですか?」

 

 そういう気持ちを表に出さないよう、取り繕いながらウィズさんに尋ねる。

 

「はい! 例えば、あの一番上に置いてある木箱には蓋を開ければ爆発するもの、その下にあるのが水に混ぜると爆発するもの、と言った感じで調合素材としても使えるんですよ!」

「……それって、売れるんですか?」

「品質は確か、なんですけどね」

 

 それはつまり、あまり売れないということなのではなかろうか。

 苦笑するウィズさんを見ながら、クッキーを齧る。美味しい。

 

「あ、そうです。もしよろしければ、私から色々とマジックアイテムをオススメして差し上げましょうか?」

「おお、それは良いですね。ちょっと興味があったんです、マジックアイテム」

「それは良かったです! じゃあ、早速なんですが……」

 

 両手を合わせて、彼女が思いついたらしい提案に俺は乗ることにした。

 今でこそ手を出せないような品だが、将来を考えるとある程度の使用は視野に入るだろう。

 今の内に勉強出来るのであれば、教わりたい。

 ウィズさんは商品棚に並んでいるアイテムをいくつか見繕うと、それらをテーブルの空いている場所に点々と置いた。

 

 例えば、カエル殺し。ジャイアントトードの餌に見える、炸裂魔法を封じたものらしい。お値段驚きの、二〇万エリス。

 例えば、願いを叶えるチョーカー。着けた本人の願いが叶うまで外れず、しかも日ごとに締まっていく装飾品。お値段据え置きの、十万エリス。

 例えば、魔法の威力と効果範囲を問答無用でアップするポーション。

 例えば、明かりの魔法を封じ込めたスクロール。

 例えば、最高純度のマナタイト。

 

 などなど……初見の俺でもどう使えば良いのかわからない物や、一発で採算が取れないようなアイテムを紹介してくれた。

 待って、ねぇ、待って。なんで俺の知り合う人ってこんなちょっとズレたところがあるの。

 ウィズさん、楽しそうに話してくれるし変なこと言って水を差すのも気が引けるし、そして何より善意で紹介してくれてるから胸が痛むんですけど!

 

「……その、基本的にウィザードが使うようなものが多いんですね」

「魔法の力を利用していますからね。制作する方も多くがウィザードですから、自然とそうなります」

「……なるほど?」

 

 ランサーである俺には、まったく縁が無いということがわかった。いや、一部使えそうだなと思うものもあるが、やはり値段がお高い。

 アクセルに居る冒険者は、そこまで金を持っているわけでもないだろう。

 俺も神様特典というものがあるから、今こうやって冒険者をやれているようなものだ。

 これがなければ、今こうして装備を整えて、整備に出して、散策なんて悠長なことは出来ていない。

 

「あの、どうでしょうか。興味を惹いたアイテムがあれば、助けていただいたというのもあるので割引いたしますが……」

「いや、すいません。ちょっと、この値段を買えるような余裕は……」

「……そうですか」

 

 少しでも、俺が何か買ってくれることに期待していたのだろう。ウィズは本当に残念そうに、表情を曇らせる。

 俺が魔法職でお金にもう少し余裕があるなら買っても良さそうなものもあるのだが、いかんせん今の職はランサーだ。

 こればっかりは、縁がなかったものと諦めてもらう必要があるだろう。

 

「そうですよね、ごめんなさい。押し付けがましかったですよね」

「いえ、そんなことは。もしかしたら今後欲しいものが出来るかもしれないので、その時はここに来ますよ」

「本当ですか!?」

 

 なにこの人、感情の動き激しすぎて可愛い。

 

「ではでは、その時は是非、ウィズの魔法道具店へお越しください! 寧ろ、たまに遊びに来てくださっても構いませんから」

「そうですか? じゃあ、時々顔を出させてもらいます。マジックアイテムに興味がなくなったわけでもないんで」

 

 こういったアイテム群は見ているだけでも面白そうだし、使い道だって考えつくかもしれない。

 最初は不気味だと思っていたが、ウィズさんの説明もあって興味がもっと湧いて来たのもある。

 使い道が出来れば、それを宣伝しても良いだろう。これはお節介かもしれないが……。

 

「はい! お待ちしています!」

 

 彼女の笑顔が見れるならば、なんて少し気障なセリフが頭に浮かんだ。

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