この素晴らしい毎日に祝福を!   作:暇潰しと思いつきの人

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第七話 ジャイアントトード―Ⅱ

「パーティを募集して、戦力を強化するわよ! この私が居るわけだから、募集するのはもちろん上級職オンリーね!」

 

 ギルドのテーブル席。朝食として頼んだ定食を食べ始めようとする俺たちの目の前で、アクアが叫ぶ。

 その内容は、朝っぱらから聞きたくないくらいに馬鹿馬鹿しく、本当に馬鹿みたいなものだった。

 

「カズマ、ちょっと向こうの席に移動しよう」

「ああ、わかった」

「無視するなーっ!!」

 

 いや、だって、なぁ? と、定食の乗ったトレーに手をかけている俺とカズマが首を捻る。

 

 昨日の討伐で、アクアとカズマは散々な目にあった。

 だから、もう少し戦力を集めて安全な討伐に向かおうという、アクアの前向きな気持ちは理解したい。

 だがしかし、俺もカズマも下級職だ。伸び盛りの低レベル冒険者だ。

 何を言いたいかと言えば、

 

「ここは駆け出しの街だ、駄女神。そういう奴は大抵、既にパーティを組んでるかとっくの昔に旅立ってるって」

「それにだ、駄女神。お前は良いかもしれないけど俺は最弱職の『冒険者』なんだぞ? よしんば集まっても、そんなエリートばかりが周囲に居れば俺たちの肩身が狭いわ」

 

 アクアの願望は、俺たちの意にまったくそぐわないのである。

 あれ、ていうかカズマ君。君、今ナチュラルに俺も含めませんでした?

 

「二人して駄女神呼ばわりしないでよ! なによなによ! 私が何したっていうのよ!!」

「どうどう、馬と鹿の女神ならもっと落ち着いてどうどう」

「私は水の女神よ! み・ず・の・め・が・みっ!!」

 

 ギャースカと叫び、涙目になって暴れだしそうになっているアクアをなだめる俺。

 てか、遠まわしに馬鹿の女神って言ってることにはツッコミを入れないのか。

 

「あー、ダイナ。大変残念なお知らせがある。……アクアの知力は本当に同情するレベルで低い上に、レベルアップしてもステータスが変わらないらしいんだ。本当、可哀想なことだが」

 

 溜め息を吐いていた俺に、隣に座るカズマが何を考えているのか察したのか小声で教えてくれる。

 真相を知った俺は急にアクアを見る目が優しくなり、ちょっと泣くのを我慢しながら口を開いた。

 

「……あー、なんだ、アクア。カエル肉いるか? 俺の分、食べて良いぞ?」

「え、いいの!? やったー! 私の偉大さをようやくわかってきたようね!!」

 

 ヤバイ、不憫な子のように思えてきた。同情を禁じえないくらいに。

 今泣いた女神がもう笑っている。そんなにカエル肉が好きか。

 

「なぁ、話は戻すけど、実際今から募集して人なんて集まるのか?」

「まぁ、集まる時は集まるぞ。昼から夕方に掛けて活動するようなのも居るし」

 

 俺の定食からカエル肉を持って行き、美味しそうに頬張るアクアを尻目に相談再開。

 

 冒険者なんて大層な呼び名ではあるが、日本人としての観点からしてしまえばその実フリーターとさして変わらない。

 いや、命を賭ける上に支出の激しさもあるだけ、フリーターよりもたちが悪いだろう。日本に居た頃の方がまだマシだとさえ言い切れる。

 労基法、労災、保険、エトセトラはなにそれ美味しいの状態。

 浮浪者でもなければ、暖かい食事やまともな寝床もある現代日本がどれだけ偉大であったかなど、語るまでもないだろう。

 

 話が脱線してしまったが、冒険者の行動する時間というのは十人十色だ。その日の気分次第だとも言える。

 大抵は朝に集まってクエストを受注するのだが、そこは時間に縛られない冒険者。昼から来て活動する者も居る。

 俺たちのように、難易度が高くて手に負えず戦力を求める者も居るだろう。クエストは設定された日時までに達成出来れば良いのだ。

 

 ()()()()()()

 

「……上級者限定って縛りさえ無ければな」

「……ああ、先輩がそう言うなら、そうなんだろうな」

 

 二人して、遠い目をする。

 俺たちが受けているクエストは、ジャイアントトードの討伐だ。

 ジャイアントトードは本来、中級者向けのモンスターだが……その実、初心者でも時間を掛ければ倒せないこともない。

 パーティは強味だ。俺たちが昨日そうしていたように、もしも一人が捕食されたとしても誰かが助ければ良い。

 ジャイアントトードは捕食中、微動だにしないという特徴もあるので寧ろチャンスとさえ言えるだろう。

 故に、このパーティに食いつくであろうは、基本的に低レベル帯の冒険者なのだ。

 というか、上級職がホイホイと駆け出しの街に滞在しているわけもない。さっきも言ったが、そういう冒険者は旅立って然るべきなのだ。

 旅立っていないとすれば、それはよほどアクセルに思い入れがあるか、それとも何か問題を抱えていてパーティを組めないような問題児なのだ。

 そんなダクネスみたいな奴が、ポンポン居てたまるかという話である。

 いや、引き合いに出して悪いとは思うが……攻撃の当てられない防御特化のドMクルセイダーは問題児認定して良いだろう。

 

「……はぁ」

「ん? どうしたのよ、そんな溜め息なんて吐いちゃって。幸薄そうなのに、もっと幸せが逃げるわよ?」

 

 ダクネスのことを思い出してしまったせいか、思わず溜め息を吐いてしまった。

 それを見たアクアが、あっけらかんとした表情で余計なお世話だと返したくなるような言葉を掛けてくる。

 

「いや、現場で働く前によくパーティを組んでた奴のことを思い出してな」

「え、ダイナって私たちの他に友達居たの?」

 

 ぶち殺すぞゴッデス。

 

「いったー!? 暴力反対! 暴力反対ッ! なんで殴られなくちゃいけないの!? っていうかダイナさん、私にばっかり風当たり強くない!?」

 

 自分が今までしてきた事を思い出せ。最初から心象よくないんだよ、あんたに関しては。

 あと、友達認定されていたのに俺は驚きだよ。

 悪い奴ではないんだけど。一言多いせいで腹が立つんだよなぁ。

 

「今のは自業自得だ、アホ。……しかし、俺も少し意外だと思ったわ。チートがあるんなら、一人で色々と出来たんじゃねーの?」

「いや、俺の貰ったものはそういう類の物じゃないんだ。寧ろ、そのせいで最初死にかけたし」

「……悪いと思うが、そうじゃないかとは思ってた」

 

 言い辛そうにして、カズマは呟く。

 彼は察しが良いし、頭も回る。

 そりゃあ、特典持ちである転生者がこのレベル帯でジャイアントトードと戦ったり土木作業の現場で働いたりしてるわけもない。

 目の前の女神の反応を見るからに、俺のことなど忘れてしまっているのだろうが……。

 

「武器や防具、アイテムってわけでも無さそうだしな。俺つえーとか、異世界で無双するようなもんじゃない才能、とかか?」

「いや、後々成長すればそれも可能になるかもしれないけどな」

「やっぱり、才能系か」

 

 へへ、としたり顔でカズマが言う。

 別に、この二人に隠すようなものでもないし、話してしまうか。

 

「大当たり。俺が貰ったのは、『成長する才能』だ」

「……地味だな」

「うるせーよ」

 

 カズマの歯に衣着せぬ感想に、口をへの字に曲げて答える。

 

「地味だけど、悪くはないんだぞ? 頑張った分だけ、努力した分だけその成果が実感できるしな」

「いや、俺だったらそんな苦労したくないわ。お前ってマゾなの?」

 

 俺はマゾじゃねぇよ!

 時々思い悩むこともあるけれど! 成長できる実感があるって結構嬉しいもんなんだよ!!

 

「あのな、頭に来たからって女神を選んだお前にだけは言われたくないわ。アクアが時々クソニートって口走ってるが、お前……日本ではてんでダメな人間だったんだろ」

「ああ!? それを言ったら戦争だろうが!! ちょっと表出ろ!!」

「良いぜ来いよステータス平均普通以下! 成長する才能によって伸びた俺のステータスで返り討ちにしてやらぁ!!」

 

 売り言葉に買い言葉。

 俺もカズマも歯止めが効かず立ち上がり、お互いを睨みあう。

 そして牽制しあうように、言いようもないポーズを取り合う。

 一触即発な空気を出しておいてなんだが、俺もカズマも本気で喧嘩をするつもりはない。

 実際、カチンとは来たがそれはお互い様なのだ。

 てかお前、なんで荒ぶる鷹のポーズとか懐かしいもん引っ張り出して来てんだよ。ちょっと笑いそうになったじゃないか。

 

「おーい、男馬鹿二人ー! パーティ募集出して来たからちょっと大人しくしてなさいよ。まったく、恥ずかしいったらありゃしないわ」

「「お前が言うなッ!!」」

 

 二人してハモった。そして行動力あるなこの女神!

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆このすば!◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 結局、今日はアクアが出した募集もあってギルドで待つことになった。

 もしも誰かがあの募集を見つけて、俺たちのところへと来るかもしれないからだ。

 ジャイアントトードのクエストの期限は三日。最悪、このメンバーで倒せないこともないので今日くらいはということになったのである。

 というか、まぁ、あの後お互いに恥ずかしくなって行く気が失せたというのもあるが……。

 

「なぁ、アクア。もう太陽が西に傾き始めるような時間になっちまったぞ。やっぱ、ハードルを下げるべきじゃないのか?」

 

 窓側にあるテーブル席に座ったカズマが、向かい側で涙目になっているアクアに尋ねる。

 彼女が求人の張り紙を出したは良いが、昼過ぎまで粘ってはみたものの誰も来ていない。

 いや、一応まったく見られていないわけではないようだが……やはり上級職のみと募集要項に書いてあるのがいけないのだろう。

 何の冗談だと、募集用の掲示板から聞こえてくることもあった。

 アクアが目に涙を貯めて俯いているのも、それがこたえているせいでもあるのだろう。

 

「だって……だってぇ……」

 

 力なく呟くアクアが、少し可哀想に思えてくる。

 だが、この女神が求めているのは即戦力だ。

 待っている間に何故、上級職オンリーか聞いてみたところ魔王を早く倒すためには相応の実力者が欲しいからだと言っていた。

 それを聞いて募集の張り紙の内容を確認しに行った俺は、愕然とした。

 アクアが張り出した求人はジャイアントトードを倒すための一時的なものではなく、長く組むことを前提とした固定パーティだったのである。

 書き出してあった内容は思い出したくもないものだったが、彼女も女神として一応働く気概があるようで……その結果がこれである。

 

「このままじゃ、誰も来そうにないな。なぁ、アクア。お前の気持ちは汲んではやりたいが……」

 

 良い心象を持ってはいないが、これでも一応知り合いではある。

 友人だと向こうが思ってくれている以上、甘っちょろい話ではあるが無下にはできない。

 まぁ、アレだ。どんな奴でも、そんな顔をされれば放っておくこともできないしな。

 そんな事を考えながら、アクアを説得しようとしたその時だった。

 

「募集の張り紙、見させていただきました。なんでも、上級職の冒険者をお探しだとか」

 

 どこか幼さの残る、気だるさを含んだ少女の声がしたのは。

 俺とカズマが振り返り、アクアも顔をあげて来訪者の方を見る。

 そこに立っていたのは、日本人が思い浮かべるような魔法使いを形にしたような服装の少女だった。

 紅いワンピースのようなローブに、黒いマント。大きな二つのボタンと笑う口元のような装飾で飾られた三角帽と手に持った杖。

 左目には眼帯が付けており、帽子に隠れてはいるが黒髪が肩口くらいまで伸びていた。

 そして、何より印象的なのはその紅い瞳だろう。歳は中学生くらいにしか見えないが、その顔立ちは美少女としか言えないほどに整っている。

 彼女は左手で眼帯を隠すようにしてから、杖を持っている右腕を大きく開きマントを翻す。

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードにして、最強の攻撃魔法……爆裂魔法を操る者!」

 

 空気が凍った。

 カズマと俺はそんな奇抜で独創的すぎる自己紹介らしきものを行った少女を見たまま、固まる。

 なんだろう、見てはいけないものを見たような気分だ。

 主に、俺の黒歴史的に突き刺さって胸が痛くなる。

 

「……冷やかしにきたのか?」

「ち、ちがわい!!」

 

 硬直から帰ってきたカズマの一蹴するような言葉に、彼女は慌てて否定を口にする。

 名乗り方があまりにもアレだっただけに、気持ちはわかる。

 だが、ちょっと――うん。可哀想だから、その反応は許してあげて。

 

「その紅い瞳。あなた、もしかして紅魔族?」

 

 アクアの問いに、めぐみんと名乗った少女は頷く。

 この世界にはエルフといった亜人種がたくさん住んでいるのを知ってはいるが、見た目が人間と相違ない種族も居るのか。

 

「いかにも! 我は紅魔族随一の攻撃魔法の使い手! 我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く! のですが……すいません、図々しいお願いですが、何か食べ物を頂けないものでしょうか……」

 

 意気揚々としたところから一転、少女は途中で力尽きたのかばたりと倒れて言葉を続ける。

 俺もカズマも目の前で倒れられたせいか見捨てられないので、定食を折半する形で奢ることにした。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆このすば!◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 アクアがしてくれた説明によると、紅魔族は生まれつき高い知力と強い魔力を持っている種族らしい。

 大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めていて……()()()()()()()()()()()()という。

 めぐみんというのは、本名らしい。彼女曰く、街の人の方が変な名前をしているそうだ。そこらへんは、生まれという奴が関係するだろう。

 一応、アークウィザードであると名乗っていたわけではあるが嘘ではないか冒険者カードも見せてもらった。

 職業を示す欄には確かにアークウィザードと書かれていたし、ついでにステータスの確認もしてみれば高い魔力値を持っていた。

 

 冒険者カードは偽造することができない。それを疑うこと自体、不毛である。原理は知らないが。

 

 というわけで、めぐみんという新たな仲間を加えて、俺たちは昨日に引き続きジャイアントトード討伐の続きをすることにした。

 幸い、夕暮れまでまだ時間に余裕がある。

 カズマにとっては修行、めぐみんにとっては実力のお披露目、俺にとっては修行と小金稼ぎをするのに十分な時間が取れそうだ。

 アクアにとっては、わからん。あの女神がこのクエストに燃やしているのは、多分カエルへのリベンジであるとは思うが。

 

「爆裂魔法は最強魔法。ですがその分、発動するまで時間が掛かります。呪文が完成するまで、あのカエルの足止めをお願いします」

 

 そう言っためぐみんが杖で指し示す先には、のんびりとしている一匹のカエルの姿があった。

 なるほど、それなら今、俺の出番はなさそうだ。

 

「おい、カズマ、アクア。俺はこの子の護衛をしてるから、行って来い。何、また食われたら助けてやるさ」

「一人だけ楽しようとしてんじゃねえ! って、そうか。ダイナの場合倒せるからめぐみんの実力が見れなくなるのか」

「そうそう。他に出てきたら、そっちは俺がやるよ」

 

 槍の穂先を地面に突き刺し、小さく笑う。

 めぐみんの俺を見る目が少し怯えているように見えたが、気にしない。こればかりは慣れてもらうしかないだろう。

 

「……だ、ダイナさんは見た目通りの実力をお持ちのようですね。我が護衛を立派に果たしてくれること、信じていますよ」

 

 おい、目が泳いでるぞ。

 

「取って食ったりしないから、安心しろ。……一応、コンプレックスなんだ、怯えないでくれると助かる」

 

 はぁ、と深く溜め息を吐きたくなった。

 そりゃあ、目付きが怖いだの、もっと愛想よくしろだの、色々言われたり絡まれたりもしたが露骨にされると流石に傷付く。

 アクアは怖いもの知らずなせいか気にしてくれないし、カズマも最初こそ怯えた様子を見せることもあったが、今では普通に接してくれているから良いが。

 まぁ、クリスとダクネスは例外だろう。冒険者ならば、色々な人間と関わることもあるだろうし……見た目で判断してくれないのは非常に助かっている。

 何やってんのかねぇ。携帯も電話もメールもないこの世界、そういうところに不便さを感じてしまうのは元現代日本人のさがではあると思う。

 

「あ、ごめんなさい。気をつけます……」

「素直でよろしい」

 

 あんな厨二病全開な言動を口走るような子だから、ちょっとずれてるのかと思えばそうでもないようだ。

 そうやって素直に謝れるということは、根は良い子なのだろうと思った。

 まぁ、その厨二病的なところに胸が抉られることもあるが……それは俺のせいなのでお門違いというものか。

 

 そうしている内に、元々標的にしていたカエルとは別にもう二匹、左右から挟むように移動してきていた。

 一番近い位置に居たカエルにはカズマたちが担当することになり、めぐみんが一番遠い右からのカエルを、そしてその中間くらいの距離に居る左側を俺が受け持つことになった。

 

「おい、行くぞアクア。リベンジするなら今だぞ? お前、元なんたらなんだろ? たまには、元なんたらの実力を見せてみろ!」

「元ってなによ! 失礼ね、現在進行形で女神よ私は!」

 

 いや、元なんたらだろ。散々醜態さらしておいて、なにを今更。

 そんなアクアの発現に反応しためぐみんが、首だけをアクアに向けて呟く。

 

「女神?」

「をたまに自称することがある可哀想な奴なんだ。そっとしておいてやってくれ」

「……かわいそうに」

「ちょっとダイナまで!!」

 

 どう言おうが、事情を知らない奴がお前を女神だと信じられるわけがあるか。

 喚くならその実力をここで示してみろ。俺はお前に同情や心配はするが、遠慮だけは絶対にしないと決めたんだ。

 そんな事を考えていると、カズマに煽られたのか涙目になったアクアが召喚するように取り出した杖を振り上げて突撃を開始する。

 そしてこっちまで聞こえるくらいの声で技名を叫び、ゴッドブローとの時と同じような展開を見せていた。

 今回の技名は『ゴッドレクイエム』らしい。

 てか、その杖どうやって喚び出してんだお前。地味にすごいな、さすがは駄女神でも女神か。

 

「っと、こっちもやっとくか。カズマ、ちょっとめぐみんを頼んだ」

「ああ、わか……高ッ!?」

 

 アクアが身を呈して一番近いカエルの足止めをしているとは言え、俺も自分の仕事をしなければ。

 俺はめぐみんをカズマに任せ、習得しているランサースキルのひとつ、『ジャンプ』で補正された跳躍力で高く飛び上がりった。

 高度は小さな建物くらいなら飛び越えられる高さまで昇った俺は、担当しているカエルに狙いを定めて槍を振りかざす。

 

「チェイサーッ!」

 

 そして、気合いを込めた発声と共に空中からジャイアントトードを襲撃した。

 十分に溜めた力を開放した俺の一撃は、重力と言う名の補正を受けて攻撃力を増す。

 どんな世界であれ、上から下に向けて放たれる物理攻撃が弱いはずもなく、俺の体重まで乗った槍はカエルの頭を貫き地面に縫い付けた。

 俺はすぐさま槍を引き抜くと、そのまま念のためにカエルの頭部にある急所に二回、槍を突き刺す。

 そうして動かなくなった事を確認して、カズマたちの方へと体を向けた。

 

「……うはっ、すっげ」

 

 思わず口調を崩してしまうほど、それは凄まじい光景だった。

 めぐみんから放たれているだろう魔力の本流が、標的となっているカエルの周囲を渦巻いている。

 俺は憧れているものを目の前で見ている少年のようにグッと、手を握っていた。

 ファンタジー世界において、切って離せない要素がいくつかある。そのうちのひとつである魔法。

 爆裂魔法はその中でも最強の攻撃魔法というだけあって、俺は興奮が隠せなかったのだ。

 

「エクスプロージョンッ!!」

 

 めぐみんから発せられた声が響くと同時に、凄まじい閃光と爆発が巻き起こった。

 衝撃が突風となって吹き荒れ、巨大な火柱が天高く(そび)え立つ。

 間違いない。ああ、間違いない。爆裂魔法が最強であるという言葉に、嘘偽りなどあってたまるか。

 こんな光景を見せられて、黙っていられる男がいるだろうか。浪漫を感じない男がいるだろうか。

 否、断じて否と俺は言おう。

 それだけ目の前で起こっている魔法が凄いのだ。

 

「おーい、めぐみーん! カズマー!」

 

 爆風が収まったあと、俺は走った。

 カエルの死体など後で回収出来る。

 そんなことより、目の前で見ていたカズマと、その使用者であるめぐみんにこの胸に(たぎ)る気持ちを伝えたくて仕方なかった。

 そして、彼らの居る場所まで行くと、そこから見えたのは巨大なクレーターだった。

 半径十メートル以上も広がっているそれは、爆裂魔法の威力がいかに凄まじいものなのかを雄弁している。

 

「ダイナ、見ろよこれ。すげーな、魔法って……」

「ああ、俺が居た位置からもはっきりと見えた。これならウィザードを目指してみても良かったかもしれないな……」

 

 めぐみんの使った魔法に対する感動を二人で共有していると、それに水を差すように周囲からボコボコとカエルが湧き出してくる。

 どうやら、今の衝撃で目を覚ましたらしい。

 カズマが剣を構え、俺も槍を構え直してめぐみんの方を向く。

 するとそこに、

 

「……おうふ」

 

 うつ伏せに倒れているめぐみんの姿があった。

 

「ふ、我が奥義である爆裂魔法は、その威力が絶大ゆえ、消費魔力もまた絶大。要約すると、最大魔力容量を超えた魔力を消費したので、身動き一つ取れません。近くからカエルが湧き出すとか予想外です。あ、やばい、このままだと食べられます。すいません、ちょ、助け……ぷぁ」

 

 彼女の語る真実に、俺とカズマは呆然とするしかなかった。

 現実と理想のギャップに殴打され、そのままめぐみんが一番近くに湧き出たカエルによって飲み込まれ始める。

 その近くには吹き飛ばされて来たのだろう、アクアの足を口から生やしたジャイアントトードの姿があった。

 目の前に出来上がったカエルとその口から足を出している女子二人というオブジェを見て、やっと俺たちの思考が回り始める。

 

「カズマ、色々と言いたいことはあるが、今はひとつだけ叫びたいことがある」

「ダイナ、奇遇だな。俺も叫ばずにはいられないことが、ひとつだけあるんだ」

 

 槍を振り上げた。剣が掲げられた。

 俺とカズマは、渾身の力で目一杯、叫び声をあげる。

 

「「お前らぁぁぁぁぁあ! 食われてんじゃねぇぇぇぇぇぇえええッ!!」」

 

 俺とカズマの友情は今日、親友に一歩、近づいた。




次回、ダクネス本格参戦(予定)
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