終わりなき飛翔   作:コーリング

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お見苦しい点も多々あると思いますが、できるだけ頑張ります。
また、十分な見直しをしないまま投稿してしまったことをここにお詫びいたします。



純粋な心
第1話 印


窓から人影が見えた。

それを認識すると同時に、少女は窓際から勢いよく立ち上がった。

廊下に走り出、一目散に出口に向かう。

少女の心は踊り、その足音はリズミカルに廊下を彩った。

 

やっと帰ってきた!

 

そう小さく呟き、少女の頰が緩む。

彼女はこの時を、この瞬間を待ち望んでいたのだった。

 

 

 

 

うお……ぉん!

 

満天の星空。その中を、ひときわ明るく月が光る。

狼の遠吠えは、あたりに広がる山々の暗闇に吸い込まれて消えていった。

 

 

 

 

『満月の日は、狼と妖魔に用心しろ』

 

そんなことわざがある。

妖魔とは、この大陸に存在し、人の内臓を食らう化け物だ。

しかし、内臓を食らう時以外は人に擬態しているため、人の目では妖魔の見分けがつかない。

更には、ごく一部の例外を除き、人は妖魔に勝てないのだ。

そこで、クレイモアと呼ばれる半人半妖の戦士たちが作り出された。

 

……そして少女は、その訓練生だった。

 

 

 

 

 

「ねえねえルヴルさん!」

 

岩肌に取り付けられた予備灯が、小さく揺らめく。

その炎が照らす廊下に、明るい足音が響きわたる。

きつく高く束ねられた2つ結びの銀髪が、耳元で、毛先をきらきらと輝かせながら揺れた。

 

 

 

この2週間というもの、フィオラはずっと男を待っていた。

毎日夜遅くまで、部屋に空いた穴を窓がわりに外を眺める。

消灯時間が来ると灯は消え、月の光のみが部屋を照らし出す。

だがフィオラは部屋の中で、ひとり窓際に座っていた。

 

 

随分前から男はここにいなかった。担当の戦士が任務についたのだ。

だが、フィオラは彼に話したいことができた。

早く、印を受けたい。

それは自分だけでなく、彼にとっても重要なことのはずで。

だからフィオラは、夜も男の帰りを待った。彼が帰ってきた時、誰よりも先に会えるように。

 

 

 

 

「ねえ、ルヴルさんったら!」

 

黒ずくめの背中めがけて、小さな声で叫ぶ。

今は夜も遅い。流石に周りの訓練生を起こす気は無かった。

しかし、少女の気遣いをいいことに男は歩みを止めない。黒い帽子がひょこひょこと揺れる。

 

 

2週間待った。睡眠時間を削った。わたしに、これ以上待てと?

それが自分の都合であることを知りながらも、男の態度にフィオラの眉がひくひく動く。

まるでわたしを無視するかのような態度。

何か緊急の用事でもあるならともかく、とてもそうは見えない。

それなのに、何故わたしの話を聞いてくれないの?

 

 

その夜は、男にとって不運なことに少女の機嫌は最高潮に悪かった。

 

 

 

フィオラは瞬時に男の背に立つと、ひょいと腕を伸ばしその黒い袖を掴む。

男は動けない。

動きたくとも、物凄い力で掴まれては、1歩も踏み出せないのだ。

渋々といった様子で、男はフィオラを振り返った。

 

「何だ、こんな夜中に」

 

子供は寝る時間のはずだ、と顎をしゃくる男。

じゃあその寝る時間の6時間後に帰ってくるルヴルさんは、どうなんですか。

思わずそう言い返しそうになり、慌ててフィオラは首を振る。

話題がそれては意味がない。

 

 

フィオラは真剣な表情を浮かべ、息を吸い込んだ。

 

「ルヴルさん、お話があります」

 

まるで別人のような声。

普段の無邪気な子供らしさは抜け落ち、そこには凛とした佇まいの少女がいた。

それを見、男の黒眼鏡が光る。

 

「わたしに、印をください」

 

フィオラははっきりと、そう言った。

 

 

 

 

「急にどうした?今までお前がそんなことを口にしたことはなかったはずだが」

 

「こう思ったんです。クレイモアは戦士だと。人を守るために命をかけて戦う、英雄だと」

 

フィオラには、少し年の離れた姉がいる。幼い頃共にさらわれ、スタフに来てからはずっと一緒だった。

その姉が珍しく任務から帰って来た時、こう呟いたのだ。

 

"わたしたちは、人のために戦っている。なのに……"

 

その後の言葉はすぐに寝息に変わってしまったが、その一言はフィオラの脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

 

 

だが、それを知らぬ男は口を歪める。

 

「英雄になりたいのか?随分と夢想的だな」

 

「いいえ、違います。わたしは英雄になりたいわけでは全くありません。ただ、人だけでなく英雄も、守ってみたいんです」

 

一生懸命に言葉を紡ぐフィオラ。

 

姉は、戦士の中ではそこそこ強い方、その姉が、ボロボロに傷ついて帰って来たのを見た時。

フィオラは姉を助けてあげたくなった。

姉の力になりたいと思った。

 

 

「そうか。だがそれは結果的に、自分も英雄の仲間入りをすることになるぞ」

 

お前にそんな力があるのか?

黒眼鏡の光が鋭さを増す。

だが……

 

「少なくとも仲間の足を引っ張らない程度の実力はあると思います」

 

臆するな。

姉はナンバー23、全戦士の中で強い方ではない。

けれど、決して弱いわけでもない。

その妹のわたしなら、まあ30番台くらいにはなれるだろう。

それならお荷物ではないはずだ。

 

 

「……わかった。では、ダーエの許可が下り次第、卒業試験を受けさせる」

再び廊下を歩き出す男。どうやら彼には一分一秒の暇もないようだ。

 

「卒業試験、ですか」

 

だが、フィオラは短く呟いた。

足を止め、さっと男が振り返る。

 

「不満か?」

 

「いいえ」

 

首を振るフィオラ。

不満ではない。ただ、彼女は印をもらうのに夢中で、試験のことなどすっかり忘れていたのだ。

これから気をつけなくては、と内心でフィオラは気を引き締めた。

それが通じたのか、男はまた歩き出した。

 

「では、もう寝ろ。日が上らないうちにな」

 

「はい。おやすみなさい。ルブルさん」

 

やった!

遠ざかる黒い背中を見やり、フィオラは小さく飛び跳ねた。

卒業試験が何かは知らないが、実技ならまあまあ自信がある。

この時、フィオラが印を受けることは、ほぼ確定した。

 

 

 

 

 

「本当にいいのか、ダーエ」

 

ルブルは、男を見つめた。

左半分が爛れた顔を向け、相手がルブルを見返す。

 

「ああ、いいさ。あの姉妹は失敗だ。姉たちを見てわかった」

 

「では失敗作をなぜ生かしておく?」

 

男は、当たり前だと呟く。

大きな目がさらに見開かれ、引きつった口が動いた。

 

「あいつらは、私の部下が沢山のものを犠牲にして勝ち取った戦利品だ。そう簡単に殺すこともなかろうよ」

 

 

うおお……ぉん!

遠くで、狼が鳴いた。

 

 




読んでいただき有難うございます。
これからも、ご都合主義にならないよう、努力していきます。
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