終わりなき飛翔   作:コーリング

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今回はちゃんと投稿できました!(それがどうした)
少し文を長くしてみました。(だからどうした)

戦闘シーンを書くのは初めてです。生暖かい目で見ていただければ幸いです。


第3話 朝

取っ手を掴む手が汗ばみ、内側から体に震えが走る。

理由は簡単。この先に待つ未来が、とてつもなく怖いからだ。

ここで、引き返したい。そんな衝動に駆られる。しかし、フィオラはその腕に力を込めた。

 

「あっ」

 

余りにも呆気なく扉は開き、口から小さくそんな声が零れる。

……やるしかない。行くしかないんだ。

 

フィオラは観念し、目を瞑ると部屋の中に足を踏み入れる。

 

 

 

「遅かったじゃない。理由でもあるのかしら?」

 

艶めいた声がフィオラに問いかける。

小さな窓から差し込む夕日に、鎧を纏った少し背の高い1人の戦士の姿が浮かび上がった。

妹と同じく色素の抜け落ちた銀髪を、背中に伸ばし、細められたその両目は、妹よりも鋭く光を放つ。

それとも……闇か。

 

「いいえ。待たせてごめんなさい」

 

「その通り。よく出来ました」

 

戦士の口角が緩む。

それに安堵の息をつくフィオラ。しかし、安心するにはまだ早すぎた。

 

「けれど……あなたは、私を待たせた罰を受ける必要があるわね」

 

低い、地の底から這い上がってきたような声。それがフィオラを再び震わせる。

 

「もう罰は決めてあるわ」

 

「ず、随分早いね」

 

「もちろんよ。あなたが30分も遅れたから、考える時間はたっぷりあったのよ」

 

「……」

 

責めるような素振りは全くない、ましてや殺意を感じるわけでもない。

それなのに、いつの間にか歯が震え出し何も言葉が出てこない。

ただ、声が怖い。

 

「いつもと同じのにしましょうか」

 

甘ったるい口調とは裏腹に、姉の眼光は鋭くフィオラを射抜く。

……何もされていないのに、体がまるで痺れたように動かない。

その彼女の眼前で、姉は剣を抜いた。

 

 

 

夕日が沈みきり、部屋の中が暗くなる。

なんとか部屋に灯をともそうとするように、壁の陰の燭台に炎が小さく揺らめく。

迫り来る暗闇になんとか生きようと、小さな炎は虚しく、抵抗になっていないような抵抗をしていた。

 

 

剣先が唸りをあげてフィオラに迫る。

 

目を狙われている……!

 

剣に付与された姉の妖気から、彼女はそれを確信する。

だが彼女は動かない。動きたくとも、姉の眼光に文字通り力が抜け、フィオラは、もはや何をすることも敵わないように思えた。

 

 

 

ガン!

不愉快な金属音が響き、部屋にもうもうと砂埃が舞う。剣が貫いたのは、つい先ほどまでフィオラの眼球があった、壁だった。

 

 

 

「あら……」

 

姉の口から溜息が漏れる。失敗を悟ったのだ。

フィオラの妖気は、自分の剣のすぐ横にあった。

 

「あなた、今回はちゃんと避けたのね。褒めてあげるわ」

 

「……っ」

 

はあ、はあと肩で息をするフィオラ。

正直、もう駄目かと思ったのだ。体が動かないのだから、どうせ無理だろうと。だが人間、火事場の馬鹿力というのもたまには出るようだ。

 

妖気を引き上げたら跳躍力が増すのなら。もしかすると。

自身の妖気を爆発的に高め、瞬間的に横に飛びのいた。だが、もしあと半歩遅れていたら、剣が目に突き刺さっていた。

 

「返事はどうしたの」

 

「……ごめん……なさい……忘れていました……」

 

落ち着かない息の中で、なんとか声を絞り出すフィオラ。せわしない荒い呼気が、平らな岩壁にぶつかって跳ね返る。

 

「やはり、あなたには罰が足りないみたいね。罰を2倍に増やしましょうか」

 

「……」

 

「3倍にしてあげてもいいのよ。それを2倍で済ませるなんて、私ったら随分優しいわね」

 

姉はくつくつと妖艶に笑うと、剣をフィオラの喉元に向けた。

 

「剣を抜きなさい。続けて罰を受けるのよ」

 

 

 

現ナンバー23の戦士、セレナ。

全部合わせて47人いる戦士の中で、最も中間的な強さを持つ女。

まだ18歳と戦士の中では若いが、生まれ持った反射神経と知性でここまで成り上がった、それなりの実力を持つ戦士だ。

更に、その美しさは群を抜き、目が鋭い眼光を発していない時の彼女は下位ナンバー、ともすれば上位ナンバーの中にも憧れを抱かせた。

その上、統率力も決して低くなく、将来彼女を一桁ナンバーにと望む者も多い。

 

要は、あとは戦闘力が少し上がれば不足はないというわけだ。

 

そして、フィオラはそのほぼ完璧超人の妹だった。

 

 

 

「……っ!」

 

派手な剣激音を立てて剣がぶつかり合い、真っ赤な火花が辺りに散る。

フィオラの渾身の一撃を剣で防ぎ、その勢いを利用してセレナが壁まで後退する。

否、後退というよりは、フィオラに弾き飛ばされたのに近い。

 

なおも追撃の手を止めず、剣を振り上げフィオラはセレナの元へ向かう。

妖気を爆発的に高め、壁まで一気に加速する。

 

これだけ見れば自分の方が優勢に見えるが、現状は逆だ。

完全に姉にいいように弄ばれている。

天井があるため得意の跳躍ができず、妖気読みも封じられているのだ。

もはやフィオラは、つい先ほど覚えた技を使用しなくてはならないほどの危機的状況に追い込まれていた。

 

何せセレナが疾いのだ。

ここにいたと思った時には、もうその地点には姉はいない。

とても妖気を読んでいる暇はないし、そもそもフィオラはそこまで妖気を読むのが得意ではない。

当然の帰結としてフィオラは、妖気を全く読まずに戦っていた。

 

 

フィオラにとって妖気とは、戦いに不可欠な物だ。

妖魔を倒す時、妖魔がどこにいるかということから、次にどこを動かすのかというものまで全てを、妖気を読むことで判断している。

何せ経験が浅いので、そういった方向の勘はゼロに近い。だからおぼろげながらも妖気読みに頼るしかない。

そんな訳で、彼女にとって妖気は、第2の剣だった。

 

網を持たないで魚を獲る漁師がいないように、剣を持たない戦士などいない。

2つの剣を失ったフィオラにとって、ナンバー上は、下に10以上の開きがあるセレナでさえもがとてつもない強敵になっていた。

逆に見れば、それだけ、跳躍と先読みに頼りきっているということだが……

 

 

 

「えいやっ!」

 

放った斬撃は、虚しく壁を薄く削る。

今その瞬間まで、確かにここに居たはずなのに。

剣が切り裂いたのは、ただの空気だけだった。

 

「あら、おかしいわね」

 

背後から声が響く。

ガシャンという音を立てて、フィオラの手から大剣が落ちた。

 

「せっかく評価を少しあげようかと思ったのに。最初の一撃を躱せたのは、やはりまぐれといったところかしら」

 

ぴたりと首にセレナの剣が当てられる。

ひんやりとした感覚が背筋を震わせ、フィオラは床に座り込んだ。

 

 

 

「私はただ、あなたの剣が私の体に触れる直前に防御したり、避けていただけよ。まあ、たまにはわざと食らってあげたけれど。

それなのにその体たらく。ナンバー23にいいように扱われて、ナンバー13として恥ずかしくないのかしら」

 

「……」

 

「まさかとは思うけれど、ここで泣いたりなんてしないわよね。ナンバーの面汚しよ」

 

「泣いてなんか……いないよ……セレナお姉ちゃん」

 

「お前がそれを口にするな!」

 

セレナの整った顔が醜悪な怒りに歪む。その禍々しさに、ひっとフィオラは息を飲んだ。

姉の剣先が激しく震え、すぐに止まる。

 

「お前が、いいえあなたにはナンバー13は身分不相応よ。私が相応にしてあげる」

 

立ちなさい。

怒りを封じ込めるようなその声は、今まで聞いた姉のどの声よりも、フィオラを怯えさせた。

 

 

 

日が暮れ、月が上りきってもそれは終わらなかった。

 

 

 

 

 

「ん……」

 

目が覚めると、フィオラはベッドに寝かされていた。

少し大きくなった窓から朝日が差し込み、フィオラの顔を照らす。

だが、姉の姿はない。

 

慌てて立ち上がると、自分が身に何も纏っていないことに気がついた。

ベットの上を見ると、ちょうど畳まれた服が置いてある。

……そういえば、切れた痕跡が残ってはいけないといってお姉ちゃんが無理やり脱がせたんだっけ。

 

自身の体を見下ろすも、傷痕は1つとして見当たらない。

フィオラの体は、既に人ではない。半人半妖だ。

だから傷など残らないのが当然だが、それが彼女には悲しかった。

 

服を着、近く床に突き刺さっていた剣を引き抜く。

昨日あれほど血を流したはずなのに、床にも壁にも血痕は全く残っていなかった。

姉が拭いたのだろうか。

 

あの潔癖症な姉が、自分の血を一生懸命拭いている光景を想像し、思わず口元が緩む。

 

 

そう、姉は昔から潔癖症なのだ。

それは、フィオラがあまり持っていない昔の記憶の中にも鮮明に残っていた。

 

 

フィオラの記憶は、全て組織に関係している。組織に来るまでの記憶がないのだ。

あまりに幼かった自分と違い、姉は何かを覚えているようだが、それを話してくれたことはなかった。

 

だから、フィオラは母というものを知らない。母という概念を想像できない。

以前、セレナの友達のイリスが教えてくれて、初めて知ったくらいだ。

 

当時、母を失って間も無く組織に入ったイリスに向かって、『母とは何か』教えて欲しいと言ったことがある。

我ながら残酷なことをしたものだ。

幸いイリスは、子供だからと許してくれたが、あとで姉にはこっぴどく殴られた。

 

 

少し硬めの慌ただしいノックの音が、そんなフィオラの思考を現在に引き戻す。

 

「セレナ、いるか?」

 

イリスの声だ。フィオラはすぐさま立ち上がると、扉を開けた。

 

「おはようございます、イリスさん」

 

扉の隙間から、金に脱色されたおかっぱが顔を覗かせる。

その童顔が微笑み、フィオラの頭を撫でた。

 

「戦士になったのか。おめでとう」

 

「ありがとうございます。これでやっと姉に一歩近づきました」

 

「そうか。よかったな」

 

フィオラの頭をポンポンと軽く叩くと、イリスは真顔になった。

 

「どうしてセレナの部屋に?」

 

「まあ、色々あったんですよ」

 

適当に言葉を濁す。

イリスはそれに首を傾げたが、すぐにまた首を振った。どうやら相当に急いでいるらしい。

 

「そうか。それはともかく、セレナはここにいないんだな?」

 

「はい」

 

「そうか。朝早くに邪魔して悪かったな」

 

イリスはそういうと

 

 

さて、わたしもそろそろ行かなくちゃ。黒服に迷惑はかけられないし。

腕を上げて、うーんと大きく息を吸う。

その拍子に髪がぴょこんと揺れ、思わず笑顔がこぼれた。

 

「まだ、私たちは家族だよね、お姉ちゃん」

 

お姉ちゃんと呼んだだけで叱られた。体の隅々を剣で切られた。危うく半殺しの目にも遭いそうになった。

そんな諸々を思うと、姉が本当に姉であろうとしているのかどうかが疑わしく思えて来る。

 

だが、いつも決まって髪を結んでくれる。

訓練生の時も、今でも、銀髪を結わえてくれる。そして、多分、私たちが組織に来る前からそれは続いている。

それだけでいい。

それだけで、姉がまだ姉だと、わたしを大事にしてくれていると信じることができる。

 

 

できれば、そんな頼りないものではなくもっとしっかりとした根拠が欲しい。

でも、それは高望みというもの。

姉がこんな態度を取るのは、きっと、わたしに強くなって欲しいからだろう。

姉にさえ負けるようではいけないのだろう。だとすれば、悪いのはわたしだ。

弱いわたしが悪い。

 

いつか、昨日のような模擬戦で姉に勝てたら。

そしたら、きっちり姉としてわたしに接してくれるかな。

そしたら、そしたら……

 

神々しく輝く朝日を全身に浴びて、フィオラは自分の大剣を抱きしめた。

 

そしたら、わたしはお姉ちゃんに、大好きだって言おうかな……

 

 

 

 




早く原作キャラクターを出したいです。
キャラ崩壊しないかな……
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