危機感を覚える今日この頃です。
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これからも精一杯頑張ります。
まるで今さっき洗濯したように見える白く透き通った服。
血色のいい健康的な肌。
肩まで伸びた栗色の髪。
それに合わせたような同じく栗色の大きな目。
地盤の緩みで傾いた木の褐色の枝に優雅に腰をおろし、長く伸びた足をぶらぶらさせる覚醒者。
彼女はまるで美女のように、あくまでも人間のように見えた。
しかし今木の上にいるのは人ではない。覚醒者だ。
今の覚醒者は妖気を抑える必要がなくなったと見たのか、全身から妖気が漏れ出している。
戦士のそれとは違う、黒く淀んだ禍々しい妖気。
ノエルは剣を構え、いきなり地面を蹴った。
不意打ちで相手の隙を突いて攻撃する。これは覚醒者を倒す時、もっとも有効な戦術だ。
昨日、洞窟で休む前の相談で、ハンネが提案したことだ。
その時は、何を研究してるんだと笑い者にしたノエルだが、いざ考えてみると、なかなか事実だ。しかし……
無解放の状態での最速の速さで、槍のように木を駆け上るノエル。
猫のような身のこなしで木の上に降り立つ。しかし、そこには覚醒者の体はない。
代わりに隣の木の幹から、女性が凶悪な笑顔でノエルに手を振った。
しかし、世の中、そう上手くいくものではない。
瞬間、バカでかい妖気が、4人の戦士を襲った。
女性の姿が変貌していく。顔が歪み、体が中心から膨張する。みるみるうちに肌が黒みを帯びその姿を変えていく。ネグリジェは散り散りに裂け白が宙を舞った。
座っていた幹が重さに耐えかねて折れる。枝が粉々に割れ、葉が音を立てて一斉に地面に落ちる。
「ちっ、やっぱり待っちゃくれねぇか」
高い木から軽々と地面に着地したノエルが、はるか上を睨む。
「あら、待つとでも思った?卑怯者」
人の3倍はある頭をもたげ、先ほどより若干低い声で覚醒者が問うた。
その巨大さたるや、彼女が首を動かすたびに付近の木や枝がバキバキと折れる。
まあ、それは、木が密集して生えているせいもあるのだが。
「へっ、そっちこそ逃げてんじゃねぇよ!」
その挑発を皮切りに、フィオラたちは一斉に覚醒者に飛びかかった。
まるで大蛇だ。
黒く光る皮膚に剣を構えながら、フィオラは思った。
訓練生の頃、蛇を見つけてはそのとぐろに目を見張ったものだが、この覚醒者は、まさに大蛇だ。
ただ、全身をぐるりと無数の目が覆っていることと……それに、異様に皮膚が硬いことを除けば、だが。
「えいやっ!」
昨日の作戦通り、全身の力を込め、首の皮に剣を叩きつける。
しかし、頑丈な黒い皮膚に剣は全くと言っていいほど通らず、逆に体ごと弾き返される。
背後に木を見つけ、ぶつかる直前にそれを蹴り、その反動で再び覚醒者に突っ込む。
……反動で勢いも付いている、今度こそ首を!
しかし大蛇は首をひょいと動かし、フィオラの攻撃はいともたやすくかわされた。
ふいに戦場の空気が変わった。
それを感じ取り、フィオラは何十度目かの木肌を蹴り、剣を構えながら周りを見回す。
すると、長髪をなびかせて戦士がフィオラの方に飛んでくるのが見えた。
その顔には焦りが浮かんでいる。
「あれ、どうしたんですかハンネさん。作戦では確かメラニーさんと目玉を潰しているはずじゃ……」
「メラニーに無理を言って抜けてきた!」
眼下では、ノエルに近づこうとする巨体の脇腹を切りつけるメラニーの姿があった。
「それより、目の数が多すぎる。やってもやってもキリがない」
「こっちも、皮膚が硬すぎて剣が通りません。どうするんですか?」
話しながらも、2人で首を突っ込んでくる大蛇と飛んでくる木を避ける。
耳の横を大蛇の頭が通り過ぎ、フィオラのすぐ隣の木にぶつかった。
「こうなったら、当初の計画は捨てる。やつの不意をつくんだ」
「どうやって?不意をつくと言っても、視力を奪わないことにはどうにも……」
ハンネは背後から飛んできた丸太を避けると、剣を覚醒者の後方に向ける。
焦りを感じても、彼女の頭の回転は速い。
流石に場数を踏んでいる。
「見ろ。やつの頭の後ろには、目がないんだ」
「ほんとだ……」
そこに目はなかった。
何故それに今まで気づかなかったのか、とフィオラはかすかに歯嚙みする。
「だから、私とメラニーがやつの注意を引きつける間に、不意をついてノエルと一緒にそこを攻撃しろ。それで問題ないよな?」
「え、ちょっと」
「他の3人もそれでいいと言っている。早くノエルと合流しろ!」
フィオラの返事を聞く間も無く、ハンネは飛び去っていった。
森の中に響く激しい斬撃音。木が次々と折れ、落ちるたびに地面が轟音を立てて揺れる。
もはやそこは薄暗い森ではなく、覚醒者が動いた後はぽっかりと広場のようになっていた。
「逃げるな。すぐ逝かせてやる!」
メラニーが森の奥へと後退する巨体に追い縋り、旋風のように剣を叩きつける。
陽動だ。
地面を蹴り、ノエルと共に高く飛び上がるフィオラ。腕を伸ばし、首をかち割ろうと剣を構える。しかし。
覚醒者は頭をひょいと横にずらし、いとも簡単に2人の剣を避ける。
その拍子にまた太い木が折れ、それが重力に従って落ちるフィオラに飛んでくる。
間に合わない!
「っ!」
声にならない悲鳴。フィオラはとっさに剣を一閃、邪魔者を両断する。
「残念。後ろよ」
次は気をつけなさい、そんな声を聞いた瞬間、腹に熱いモノが走った。
斬った木の後ろからこちらに飛び出す、大蛇の長い舌。それが更に伸長し腹部を貫く。
熱に遅れて頭を駆け巡る痛み。全身の力が抜ける。
背後から胴体に飛びかかるハンネを黒く尖った尻尾でおもちゃのように吹き飛ばす。ハンネは何メートルも吹っ飛んでいき、地面にポトリと落ちた。
覚醒者は下から見上げるメラニーたちに、見せつけるようにフィオラを左右に振り回す。
「全然覚醒者に慣れてないのね。お嬢さん。覚醒者だって戦士の妖気は読めるのよ。全然不意打ちになってないわ」
更にフィオラの腹を這う舌。覚醒者が一言話すたびに激痛が体を飛び跳ねる。
「あんまり美味しくないわ。用済みよ」
声と同時に舌が引き抜かれ、フィオラはぼとりと音を立てて地面へと落ちた。
「フィオラ、無事か!」
ノエルは思わず名前を呼ぶ。
しかし、ナンバー13の戦士はピクリとも動かず、その目はきつく閉じられていた。
穴があいた腹部からは血が泉のように湧き出、みるみる地面へと広がっていく。
「致命傷に近いな。大丈夫か?」
ノエルの横からメラニーも声をかける。いくら平静を装うとしても、心配は隠しきれない。
フィオラの返答はない。
しかし、その体から漏れ出る血が、妖気が、状況を物語っている。
歴戦の2人には、フィオラが重傷を負ったことがすぐに分かった。
そして、未だ動かぬハンネと目の前で沈黙したフィオラ、2人は今、戦力にならないことも。
「2人だけになってしまったな」
メラニーの声は暗くなっていた。
ノエルはそっぽを向き、彼女らしくもなく呟く。
「ああ、だけどよ、感じるか?ほら気づけよ、ハンネがチビの所に向かってんのが」
メラニーがはっと顔を上げる。
「少なくともまだ生きてる。それは確かだ」
戦力にならないことを嘆くよりも、生きていることを喜べ。
メラニーは空を仰ぎ、口を噛む。
それは戦いの基本だ。それを一瞬でも失念した自分が情けなかった。
たとえ苦手な者が相手でも、間違った行動は取れないメラニー。彼女がするべきことはただ1つだけだった。
「……気づいた。……悪かったな」
最後の一言をノエルは聞かなかったことにした。
自分に向きなおる2人を視認し、地上のはるか上で大蛇が頭をもたげる。
「話し合いは終わったみたいね。
それじゃ行くわよ、地面の藻屑となりなさい!」
声とともに2人に向かって覚醒者の頭が突っ込んでくる。顔色を変えず左右に飛び退く2人。
律儀にも攻撃予告をしてくれたので、非常に受け身が取りやすい。
衝撃音とともに土塊が舞いあがり、地面が陥没した。
「お前、本当に曲がったことが嫌いなんだな。私と同じだ」
メラニーの声に覚醒者が横を見る。
首までが大量の目を持った漆黒の大蛇、頭は口以外人間のような顔。
改めて見ると、生理的に受け付けない姿だ。もはやとても人とは呼べまい。
だがそんな姿になっても、この覚醒者には"平等"という概念があるようだった。
こちらが話している時は終わるまで待つし、攻撃を始める時はきっちり予告してくる。
何より、この覚醒者は、不当に出し抜かれるのを極端に嫌う。
世の中そう上手くはいかないことを戦士時代に学ばなかったのだろうか。
「あなたと同じ?その割に平然といきなり攻撃してきたじゃない、あなたの仲間は」
「お前より頭は固くない、ってことだよ。それに……」
メラニーは剣をきっちりと構え、高らかに吠える。まるで先ほどの自分を叱るかのように。
「私は間違ってはいない。お前ら負け犬に平等なんて必要ない、ただ倒すのみだ!」
メラニーの目が金色に光り、次の瞬間、再び土埃が一帯を舞った。
妖気が更に跳ね上がる。
大蛇の舌が幾重にも裂け、そのうちの数本がノエルたちに向かって放たれる。
それを剣で横に捌くメラニー。しかし捌いた剣の横から更に新しい舌が1本、彼女を突き刺そうと胴体に迫る。それをまた剣で受け流す。
形成不利。とても攻撃には回れない。
そう判断し、メラニーは舌を剣で左右に蹴散らしつつ、じりじりと相手に気づかれないよう後退する。
速度を求め、顔つきと共に体つきも変化し始める。50パーセントの解放だ。
絶え間のない舌の攻撃と剣のぶつかり合いで、両者の間に火花が散った。
一方ノエルは、自慢の素早さで触手にも似たそれらをやすやすと回避し、あっという間に大蛇の顔の下へと滑り込む。だが、喉笛をかっ切ろうとした瞬間大蛇がノエルの方へと大きく飛び上がり、ノエルは押しつぶされる危険を避けようと直感的に左に飛んだ。
それが、悪手となった。
メラニーは、1本ずつ飛んでくる舌を剣でひたすら防いでいた。もし多方面からくるのが相手だったら、こうはいかなかったに違いない。
では、なぜ今まで1度に1本しか飛んでこなかったのか。それは、覚醒者が、自分の急所を狙うノエルに意識を向けていたからだ。
そしてノエルの攻撃が一瞬止まった今、覚醒者の全意識はメラニーに集中してしまった。
メラニーに、大蛇の絡み合った舌が何十本も唸りを上げて迫る。どれを最初に弾けばいいか考えたその時ーー
メラニーの頭上を黒い影が覆った。
胴体を二方から挟まれ、メラニーは苦しげに息をもらす。
腹は覚醒者の胴体に、背後は木に押さえつけられ、金色の目も銀色に戻る。
覚醒者がぐいぐいとかける力が木ではね返り、本来の2倍の力で押されている。
いくら半人半妖で妖力解放しているといえども、絶望的な力の前に体は悲鳴をあげていた。
「ふざけないでよ。誰が負け犬ですって?」
はるか頭上からこれまでにない低い声で問う覚醒者。まるで遠雷のような声。
その背後からノエルがメラニーを助けようと剣を覚醒者のうなじに叩きつけるのが見える。
しかし高低差はどうにもならず、あと1歩というところで弱点には届かなかった。
メラニーは小柄な体を力無く揺らし、ほぼ気力のみで無理やり口を動かす。
「お前ら、覚醒者の……ことだ……」
「……どこがよ。どこが負け犬だって言うのよ」
覚醒者は自信たっぷりな口調を崩さない。だが前とは違い、その声は震えていた。
メラニーを押さえる力が心なしか強まる。
「おや……声が震えている。お前も……本当は……知っているんだろう?」
「何のことよ!」
更に力が強まった。
メラニーは、痛みに痙攣する右腕を上げ、指を1本立てる。
「お前は、2つのものに負けている。1つは、覚醒する衝動……
そして、もう1つは……」
もう1本指が立った。
「もう1つは、死の恐怖だ!」
「だから、黒の書を使わなかった、だから、覚醒した、
それでもまだ死にたくなかったから、今もおとなしくしないで、私たちに反撃するんだ!」
メラニーは全力で叫ぶ。覚醒者の意識が逸れるようにと。
そして、その体勢が崩れた瞬間、ノエルが弱点を攻撃できるようにと。
「うるさい、あなたたちは分かってないのよ!」
しかし、その声に何か異様なものを感じ、メラニーの顔が引きつった。
「フィオラ、おいフィオラ、目を覚ませ!」
体を強く揺すぶられ、戦士の目がゆっくりと開いた。
安堵の表情を浮かべたハンネの姿が見える。しかしそれは途切れ途切れにぼんやりとしている。
それほどまでにフィオラの受けた傷は深かった。
「ハンネさん……今、どうなっているんですか」
掠れた声で呟く。その合間に引き攣れたような呼吸音が混じる。
腹の痛みさえもはや時折感じるのみになり、それは嫌でも己の運命を悟らせた。
ただ、背中に広がる湿った地面が唯一の感覚となる。
「ああ、メラニーとノエルが頑張っている。お前は安心して傷を治せ」
「無駄ですよ……」
フィオラの目に涙が浮かんだ。
左脇腹から脊椎の付近を通り背中に抜ける大きな穴。触手が貫いた後だ。
地面の向こう側が見えるほどの傷口。どんな馬鹿が見ても、助からないのは一目瞭然だ。
もはや手足の感覚もなくなり、自分が剣を握っているかどうかもわからなかった。
死期を悟り、頰を涙が伝う。
「わたしは……多分もう戦えません」
「なにを言っている。そんなわけないだろう」
ハンネはまるで当惑したような表情で言った。
そのおよそ戦場に似つかわしくない顔に、不意に怒りが湧き上がる。
当惑する余裕が、どうして戦場にあるのだろうか!
「ハンネさんは何も分かっちゃいない!」
声が震える。嗚咽まじりのわめき声にも似た、暴力的な声。
その言葉の激しさにハンネの目が細められる。
「何も分かってないのはお前の方だ」
頰を張り倒されるような衝撃がフィオラに走った。
ハンネの静かな、それでいて肺腑に響く、鋭い声。
山を飛ぶハヤブサが鋭く獲物を捕らえるように、ハンネの言葉はフィオラの心を打つ。
今まで気弱な戦士とばかり思っていたのに、そのハンネをわたしは怒らせたんだ。
それほど酷いことをしたんだ。
心の片隅に、いこごちの悪さが湧き上がる。
傷にかかった長髪をかき上げ、ハンネはフィオラの手を握る。
「お前はまだ、余力を残している。それになぜ気付かない」
打って変わって優しい声が心に染みる。
「どこに……そんな力があるように見えます……」
「大きな声を出せる元気は残っているんだろう。フィオラ、妖力解放しろ。仮にも防御型だろ!」
「え……」
フィオラの目が見開かれ、視点が合う。
言われてみればその通りだ。
苦しさに我を忘れて、無意識のうちにわたしは死のうとしていたのかもしれない。
「妖気をあげて、傷を治すんだ」
確かにそうすれば治るだろう。
フィオラは一応防御型、再生能力はそう低くはない。しかし……
「わたし、5パーセントを超える妖力解放なんてほとんどやったことありません……」
握られたフィオラの手が小刻みに震える。
「怖いのか?」
「こんな傷ついた体でそんなことしたら、わたしまで覚醒してしまうかも……」
「大丈夫だ。私が付いている。それに、覚醒する原因の大半は、欲をかきすぎてしまうことだ。
お前にはかくような欲なんてないだろう」
「でも……」
「いいか、フィオラ。このままこうしていても死ぬだけだ、そう言ったのはお前だろう。
仮に覚醒したとして、お前のような経験も浅く力もそこまででない覚醒者なんて、ノエルとメラニーが1発で倒してくれるさ」
ハンネは手を強く握り返し、自分に言い聞かせるように言う。
人をそそのかしてこの段になっても、あくまでこの人は弱気なんだ。
それが少しおかしく思え、フィオラの生気を取り戻した目に微かに笑みが浮かぶ。
「……ハンネさんは入らないんですね」
「安心しろ。経験値はわたしの方が上だ。これでも10年以上組織にいるんだ」
「わかりました。でもその前に……
ハンネさん、私の手を握ってください。そして、ずっと握り続けてください。私が限界を超えないように」
「ああ、わかった」
フィオラは小さく微笑むと、ハンネの心配そうな顔を瞼の裏に焼き付け、そっと目を閉じる。
そして、妖力を解放した。
「っ、ぐっ……があぁぁ!」
思わず見開いた目が瞬く間に金へと変わり、顔に筋が浮かぶ。
傷口の周辺が伸び始め、ゆっくりと修復が始まる。
妖力解放に伴う衝動への抵抗と顔の変形で、フィオラの顔が大きく歪む。
フィオラは今、人と妖魔の狭間で戦っているのだ。
強く握られた手の温もりに、フィオラの意識が僅かに人の側へと戻る。
それを握り返し、フィオラはまた目を閉じた。
昨夜、焚き火の光のみが明るい洞窟の中で、4人で作戦を話し合ったこと。
今回の覚醒者、かなり前に覚醒したナンバー9のジェイダのこと。
頑固なメラニーがしょっちゅうノエルの挑発に突っかかり、その度に気弱なハンネと2人で止めたこと。
昨夜は、今まで過ごした全ての夜の中でもっとも輝いていた。
みんな、思っていたより、いい人たちだ。あまり怒らないし、何より人間味がある。
軽口を叩きながらも、心の中ではお互いを認め合っている。こんな新米のわたしでも、ある程度は認めてくれる。
心が暖かい人たちだ。1晩一緒に居ただけでそれがよくわかる。
3人とも歴戦の戦士だし、きっとわたしが覚醒してもすぐに斬ってくれるだろう。
信頼できる、優しい人たちだ。
こんなところで、死ねない。
こんなところで、みんなを殺させない。
村や町の人が、イリスが、わたしを待ってるんだ。
あの薄暗いスタフの地で、お姉ちゃんが待ってるんだ。
生きなきゃ。生きてまた1年後、お姉ちゃんのところに帰らなきゃ。
傷の痛みはもうない。
フィオラがそっと目を開けると、目の前で、メラニーが木から滑り落ちるのがみえた。
「ハンネさん、どうなったんですか!?」
ガバリと上体をを起こし、立ち上がる。その拍子に腹が一瞬痛んだが、すぐに収まった。
「覚醒者が更に変形したんだ。全身から目だけでなく腕が生えてきた」
「ふざけないでよ。死ぬのが怖くない?そんなの嘘よ!」
顔までもが黒く蛇のように変化した覚醒者が絶叫し、伸びた触手が次々と回避する体力も無いメラニーに突き刺さる。
それを疾風のように切り裂くノエル。
しかし斬っても斬っても触手は再生し、メラニーとノエルに向かう。
話しているうちにも、状況は刻一刻と悪化していく。
剣撃音も1つだけとなり、それさえも防御に徹しているように聞こえる。
少なくとも、ノエルが攻撃ができるような状態ではないのは確かだった。
「メラニーさん、大丈夫なんですか?」
血の海から剣を拾い上げ、フィオラはハンネの真っ青な顔を見る。
「大丈夫なわけないだろう。すぐに向かうぞ、付いてくるんだ!」
焦りを隠さないハンネの声。やはりこれでこそハンネだ。
フィオラはしっかりと頷き、地を蹴った。
「メラニー、無事か!」
「うるさいわね。まだ生きてたのあなた」
覚醒者が吐き捨て、冷静さを失った戦士を突き刺そうと腕を1本準備する。
しかしそれは伸張する前に切り落とされた。
切断面から噴き出る血に、覚醒者の動きが驚きのあまり止まる。
「なっ」
「今度はそうはいきませんよ!」
聞き覚えのある声と共に、ついさっき殺したはずの戦士が、眼前に現れた。
戦闘シーンが難しいです。
戦闘を頑張ると心情がわからなくなり、心理描写を頑張ると戦闘が下手になり……
こういう時は気分転換にクレイモアのアニメでも見るか……