---天才。
生まれつき優れた才能が備わった人物。彼らはみな、努力では至らないレベルの才能を持つ。この物語の主人公である
◆◆◆
「ソラトー! いつまで寝てんだ! さっさと起きやがれ!」
ソラトが一人暮らしを住むアパートの一室の前で、兵藤一誠が叫んでいる。ソラトとイッセーは親友である。ソラトがまだ小さい頃に彼の両親が他界したこともあって、兵藤家は彼を実の息子のように可愛がっている。そんな事情もあってソラトとイッセーは実の兄弟のようによく一緒に行動しているのだ。
「いい加減起きないと遅刻するぞー!」
とにかく朝が弱いソラトを起こしにいくのはイッセーの日課となっている。
学校では万能の天才と呼ばれているソラトだが、イッセーからすれば朝も一人で起きれないただの怠け者にしか見えない。来る度にいい加減にしろと正直思うイッセーだが、それでもこうして毎朝来るのは何だかんだ言ってソラトを親友だと思っているからである。
「……朝っぱらから大声出すな。頭に響くだろ……」
アパートの一室の扉が開き、中から眠そうな目をしたソラトが恨めしそうにイッセーを睨む。
ボサボサの茶髪に澄んだ碧の瞳、寝起きでも十二分な端正な顔立ちの少年だ。
「人に起こしにこさせて第一声が文句かよこの野郎!?
というかいい加減に一人で起きろよ! 何歳だお前は!」
「あーもう煩いうるさい。すぐに準備するから黙って待ってろ」
そう言ってソラトは部屋の中へと消えていった。
一体どこの俺様キャラだよ、とぶつぶつイッセーが文句を垂れていると、制服を着崩したソラトが出てきた。朝食だろうか、口に彼の大好物であるチョコドーナツを咥えている。
「そこはドーナツじゃなくて食パンだろ……。
というかお前、ほんとそれ好きだよな。お前がそれ食べていない日とか見たことないぞ」
「欲しいと言ってもやらないぞ。このドーナツだけは例え神様が寄越せと言ってもやらん」
「別にいらねえよ……。ってもうこんな時間!? 急ぐぞソラト!」
「全く、朝から慌ただしいヤツだ」
「お前のせいだろぉぉぉぉがぁぁぁぁ!!」
何時もと変わらない朝、何時もと変わらない日常。それが今日も明日も続く、そう二人は思っていた。
だが、今日を境に二人の日常は大きく変わっていくことになる。
◆◆◆
ソラトとイッセーの通う駒王学園は数年前まで女子校だったということもあり、現在でも男子に比べ女子の比率の方がかなり高い。となれば、数の少ない男子は必然的に女子の注目の的になる。その中でも、イッセーとソラトは特に注目を集める二人だ。
少し性癖に問題はあるが、それを除けば面倒見がよく誰にでも分け隔てなく接するイッセーとどこまでもクールで王子様系の顔立ちのソラトの二人は女子からの人気が高いのである。
「あっ、兵藤君と神鬼君。おはよ~!」
「おはよ~!」
教室に入ると、二人を見付けた女子生徒が朝の挨拶をする。
「おう、おはよう」
「おはよう……」
対照的なトーンで挨拶を返すイッセーとソラト。これも毎朝の見慣れた光景である。
「あははは、神鬼君は相変わらず眠そうだね~」
椅子に座るなり早速睡眠を開始したソラトを見て女子生徒が言う。それを見てイッセーが呆れた表情で言った。
「あれだけ走ったのにまだ眠いのかよ。一体どんな身体してるんだよ」
「兵藤君って確か、毎日神鬼君起こしに行ってるんだっけ?」
イッセーの日課は学校内でもそれなりに有名となっている。そのことはイッセーも知っているのだが、一部の者には通い妻と呼ばれていることまで知らない。
「まぁな。いい加減朝ぐらい一人で起きろよってほんと思うぜ……」
「それでも毎日行ってるんだよね。相変わらず面倒見がいいよね、兵藤君って」
「まぁあいつとは付き合い長いしあいつは俺がいないと何かと危なっかしいからなぁ」
「ほんとに? 全然そんなイメージないんだけど。だって学園が誇る万能の天才だし…」
ソラトが万能の天才と呼ばれている所以はその飲み込みの異常な早さである。本人曰く、大体のことは一度やれば感覚的にコツを掴めるらしい。
それならば何故、朝に起きることも感覚的に掴めないのかとツッコミたくもなるのだが。
「んー、まぁ確かにそこだけ見ればあいつは本物の天才なんだけどさ。あいつって自分の気持ちとかその時の感情を相手に伝えるのが物凄く下手だからよく勘違いとかされるんだよ。ほらあいつ、あんまり表情とか変えないだろ?」
イッセーの指摘に女子生徒はこれ以上ないぐらいに納得する。
良くも悪くも、ソラトは冷静沈着でクールだ。
その場の雰囲気やその時の感情に流され行動することは皆無で、ほとんど喜怒哀楽を見せない。感情表現豊かなイッセーがいつも一緒なので余計にそれが目立つのだ。一部の生徒から『感情のない人形のようだ』と言われるのもその為である。
「そんな性格だからあいつっていつも自分一人で抱え込んでしまうんだよ。だから俺が見てないとダメって訳だ」
「ほんと、兵藤君って神鬼君のお兄さんみたい」
そんなことを話しているうちに、担任の先生が教室に入ってきホームルームが始まる。
先生が来たことに気付かず、いまだ机に伏せているソラトをイッセーはやれやれといった表情で起こすのであった。