暗殺教室 ~僕は平穏に過ごしたい~   作:三十

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思いの外ネタがあったので連載として投稿。
ただし次回は暫く投稿出来ないと思います。

尚、作者はクトゥルフ神話TRPGのルールブック等を持っていません。魔術等は適当です。
また、主人公の情報収集について突っ込みどころが多数あるかもしれませんがスルーして頂くと幸いです。

また、今回は多数のネタバレが存在します(今更かもしれませんが)。

それでは、どうぞ。


考察の時間

 

「どうしたものかな……」

 

 

 時刻は深夜。

 

 僕は自室のパソコンの前で溜め息をついた。

 

 パソコンの画面に写っているのはある研究所──ここからそう遠くない──での爆発事故に関するSNSの書き込みである。書き込みによると月の爆破とほぼ同時刻にそれは起きたらしい。

 

 その爆発事故が殺せんせーによるものだと仮定するならば、月の爆破が殺せんせーの仕業ではないと証明してしまった。

 

 それは同時刻に起きたのだ。

 

 具体的な時刻やどちらが先なんて分からないが、もし殺せんせーが研究所から脱走して月を爆破したなら──或いは考えにくいが月を爆破してから紆余曲折を経て研究所に戻り爆発事故を起こしたなら──同時刻にそれが起こるのはあり得ない。

 

 月までの距離と殺せんせーの最高速からして殺せんせーが研究所から脱走して月を爆破するにしても月を爆破して研究所を爆破するにしても優に半日以上かかるのだ。しかもそれは最短距離であり航行経路によっては丸一日あっても足りない。

 

 殺せんせーに遠距離攻撃手段があるなら別かも知れないがそれは本人に否定されたことである。そもそも地上から月を破壊する威力の何かを放ったら相当目立つだろうし天体観測をする誰かしらの目撃情報があって然るべしだろう。ネットにも月は突然蒸発したとあった。

 

 だが政府は月の爆破を地球の破壊の根拠としている。地球であの月の爆破と同じことを起こすのだと。

 

 であればあの月の爆破は実験だったのだろう。

 

 それがどんなものかは知らないが、兎に角あの実験結果は殺せんせーが地球であの月の爆破と同じことを起こすことを示してしまった。

 

 恐らくそれを知った殺せんせーが、いやその結果によって処分が決まったと知った殺せんせーが脱走して研究所を破壊したのが研究所の爆発事故の真相なのだろう。

 

 まあ、こっちについてはそんな問題はない。ある程度想定していたことであるし僕自身に何かしらの損害が起こり得るという訳でもない。

 

 問題はもう一つの調査結果。

 

 一人は殺せんせーと入れ換わるように姿を消した者。

 

 もう一人は殺せんせーと時同じくしてやって来た者。

 

「雪村先生に茅野カエデか……」

 

 昼休みの後、体調の不調を理由に早退し雪村先生と茅野カエデの二人の調査を行った。

 

 超破壊生物と同じタイミングでの転入、しかも難関な試験をクリアしながらE組に来たという点で疑惑を持つには十分だろう。そうでなくとも同じクラスならプロフィールくらいは確かめるつもりだったが。

 

 本校舎に出向き教頭から話を伺うと案の定茅野はわざとE組に来たらしい。

 

 優秀な成績で転入試験を合格(パス)したものの理事長室に飾られていた盾やトロフィーを壊し、自らE組に行くことを申し出たのだと。

 

 また、市役所で確認したが学校に提示された住民票は偽造のようだ。茅野カエデも当然偽名だろう。

 

 市役所は兎も角教頭の方は説得で何とか聞き出したかったのだが理事長から口止めされていたらしく失敗してしまった。理事長から情報を得られるならそれが一番なのだろうがあの人は妙に隙がないしそれは叶わないだろう。危ない橋は渡りたくない。

 

 まあ、予想より魔術を多用してしまったが結果としては上等だ。消費した分の魔力水晶は時間をかけてまた作ればいい。

 

 そして雪村先生について改めて調べると彼女には妹──雪村あかりが存在し、それは僕らと同年代。

 

 そして僕の経験則からして茅野カエデと同一人物だろう。根拠のない勘のようなものだが。

 

 だがもし彼女が、雪村あかりと茅野カエデが同一人物なら、彼女がE組に来た理由は想像がつく。

 

 彼女の姉、雪村あぐりは、

 

「月の爆破事件、研究所の爆発事故、その同日に死亡、か……」

 

 全く、どうしたものか。

 

 

 

 

「……まだ不調そうだが、大丈夫か?」

 

「ちょっと夕べ眠れなかっただけで、問題ありません」

 

 体育教師としてE組の副担任になることを理事長と交渉、その結果E組への赴任が決まったためそれを伝えるべくE組を訪れたところ九頭龍君と遭遇した。

 

 体調の不調を理由に昨日早退したことは聞いており、顔色が優れなかったため声をかけたが特に問題はないらしい。

 

 九頭龍宗沙。

 

 暗殺の依頼を断った生徒。

 

 とはいえそのことに文句があるわけではない。

 

 そもそも彼らの本分は学業であり地球を守る義務などない。

 

 まして、本来ならば彼らの力を借りず俺達が体を張ってでも対処すべき事案であり、寧ろ守るべき対象である国民(彼ら)の力を借りざるを得ない状況からしても不甲斐ない話だろう。

 

 それに全く参加しないという訳でなく必要なら協力をするというスタンスらしい。それだけでも十分有り難い。

 

「そうか、無理はせず体には気をつけてくれ。それと、明日から俺も教師として君らを手伝う。その事を伝えに来た。よろしく頼む」

 

「そうですか、よろしくお願いします。烏間先生」

 

 先生、か。

 

 教員免許は持っていたが、まさか先生と呼ばれるとは思わなかった。

 

 正直なところむず痒い思いはある。

 

「……ところで奴はどこだ?」

 

「ああ、あそこです」

 

 そう言って指し示す先には、

 

 

「ほら、おわびのサービスですよ? こんな身動き出来ない先生滅多にいませんよぉ~」

 

 

 

 木に縄で吊るされた奴が軽快な動きで槍の刺突や銃の乱射を躱していた。

 

 

「なんでも、クラスの花壇を荒らしたらしく、その罰としてハンディキャップ暗殺大会を開催してるそうです」

 

「どう渚?」

 

「うん……完全になめられてる」

 

 九頭龍君が持っていた棒は槍を作るためのものだったらしい。

 

 顔を緑のしましまにして完全に嘗め切っていた。

 

 くっ……これはもはや暗殺と呼べるのか!

 

「でも待てよ。殺せんせーの弱点からすると……」

 

 そう言ってメモ帳を確認する渚君。奴の弱点を纏めてるようだが、何かあるのだろうか?

 

「ヌルフフフフ、無駄ですねぇE組諸君。君達が私を殺すなど夢のまた……あっ」

 

 枝が折れる音がして地上に落下する標的(ターゲット)

 

 それに群がり攻撃する生徒達。

 

 ふと弱点メモを覗き見ると『カッコつけるとボロが出る』とある。

 

 ……成る程、役に立つな。

 

 縄に絡まりながらも必死で脱げ出し、宿題を倍にすると捨て台詞(ゼリフ)を吐いて飛びさって行く標的(ターゲット)

 

 生徒達は「今までで一番惜しかった」とか「殺すチャンス必ず来る」とか「殺せたら百億円何に使おう」など嬉々として暗殺を語っている。どう見ても異常な空間だ。

 

 ふと本校舎で見かけた生徒を思い出す。

 

 彼らはE組になりたくないと切羽詰まったように語っていた。

 

 ──不思議だ。

 

 生徒の顔が活き活きしているのは、標的(ターゲット)が担任のこのE組だ。

 

 

 

「取り敢えず教室戻るか」

 

 そう前原君が切り出し片付けを始める生徒達。

 

 失敗したことは残念そうだがそれでも彼らの顔は明るい。

 

「にしても中々殺せないね」

 

「まあ仕方ないって。それにまだチャンスはあるさ」

 

「もっとこう、弱点とかねえかな」

 

「少しずつ見つけて行けばいいって」

 

「……まあ、無いこともないかな」

 

 

「「「え?」」」

 

 九頭龍君の何気ない呟きに近くにいた生徒達が固まる。

 

 俺自身も驚いた。あの怪物の弱点を見つけたのか?

 

「おい、弱点って何だよ?」

 

「ねえ、教えて?」

 

「というかどうして気づいたの?」

 

「ちょ⁉ みんな落ち着いて!」

 

 いつの間にかクラスのみんなが集まって来ている。

 

 殺せなかったあの標的(ターゲット)の弱点を見つけたと言うなら仕方のないことだろう。

 

「弱点っていうか、動きが速いなら押さえつけて動きを止めてから殺せばいいってだけだけど 」

 

「押さえつけてってどうやって?」

 

「えーと、クラスのみんなでしがみつくとか」

 

「いや、それじゃあ簡単に逃げ出せるんじゃない?」

 

 そう岡田さんが反論する。

 

 確かにマッハ20で動く怪物がそれだけで押さえられるとは思えない。が……

 

「そうでもないと思うよ? 多分殺せんせーの筋力はそんなに強くない。実際、クラス全員を運んだりは出来ないらしいし」

 

「え? 何でそんなこと知ってるの?」

 

「昨日本人に聞いたから」

 

「「「はあ⁉」」」

 

 そう。確かに聞いていたし言っていた。

 

「マッハ20って聞いてさ、クラスのみんなで海外旅行とか出来ないかって聞いたけどそんなには運べないって言ってたし重量には限界あるよ。多分だけど」

 

「確かにそんな質問していたな」

 

「いや、お前何聞いてるんだよ」

 

「ちなみに人を乗せて運ぶこと自体は出来るらしいよ? 通学に便利そうって言ったら断られたし」

 

「……確かにそれも質問していたな」

 

「本当にお前何聞いてんの⁉」

 

 代表して突っ込む岡島君。

 

 俺自身あの質問がこんな風に役に立つとは思わなかった。

 

「試して見る価値はあるか?」

 

「殺すよりは簡単だろ」

 

「スキンシップって言えば油断するかも」

 

「教室戻って作戦会議しようぜ」

 

「殺せんせーが帰ってくる前に」

 

 口々に語り合い急いで片付けを始める生徒達。

 

 去り際に「サンキュー九頭龍」や「他に何か知ってたら後で教えて」などと声をかけ、九頭龍君も笑ってそれに応じていた。

 

 全員が教室に戻り、のんびりと片付けていた九頭龍君のみがこの場に残っている。どうも彼はマイペースらしい。

 

「それじゃあ、僕も教室に戻りますね」

 

「ああ。にしても、正直意外だったな」

 

「何がですか?」

 

「いや……暗殺の依頼を断っていたから弱点を考えて提示したりするとは思わなかった」

 

 あのやり取りから弱点を導きだしたことが、と言おうと思ったが少し失礼な気がして思いとどまる。

 

 どちらにせよ意外に感じたことは事実だ。

 

「ああ、別段口出しするだけなら特に労力はありませんからね。それに暗殺の依頼を断ったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、それに対する返答も。

 

「……俺達のことが信用できない?」

 

「ええ、まあ」

 

 一度言われたことを考えてしまい回答に時間がかかってしまったが、まあ、確かにいきなり現れて地球を守るために怪物を殺してくれと言っても信用なんてできないのも無理はないだろう。

 

 信用がなく協力できないなら信用を得られるよう努めるべきだ。

 

「ああ、勘違いしないで欲しいのですが、別に怪しいところがあって信用できないんじゃありませんよ? もっと根本的でどうしようもない部分で信用できませんし、少なくとも烏間先生個人は信用してます。また、烏間先生がどうであろうと関係がありません」

 

 が、その考えを正すように彼は言葉を続けた。

 

「どういうことだ?」

 

「個人を信用できるかと組織を信用できるかは別の問題ですよ。組織を運営するなら多数派を支持し少数派の意見を切り捨てるのはやむを得ないことです。例えば爆弾で生徒もろとも殺せんせーを殺す計画を立てても仕方のないことです。客観的に見れば地球全人口七十億人と中学生三十人なら天秤にかけるまでもないですし、寧ろ世界を守るためなら手を汚す決断も想定しなければ国民に対する不実でしょう。切り捨てられる側は堪ったものじゃありませんが」

 

 そう語る彼は普段と変わらない調子だった。

 

 彼と話すのは今日で二度目だが、さっきクラスのみんなと話していた調子で温度を感じさせない言葉を紡ぐ彼には戦慄を覚える。

 

「ただの中学生に政府が期待しているとは思いませんし、今後殺せんせーを殺す刺客が現れることでしょう。中には僕らを蔑ろにする人もいるでしょうし、それだけならまだしも僕らに危害を加えるものも出てくるかもしれません。……失礼な話ですけど組織人ならば上の命令には従わざる得ませんし、烏間先生のことが信用できても頼れるかは別の話です。下手に逆らえば解任されて終わりでしょうから」

 

 穏やかな様子で、何気ない調子で、淡々と言葉を紡ぐ。

 

 そしてそれらは反論の難しいものばかりだった。

 

「僕が守りたいのは世界の未来でなく日々の日常です。悪の怪人だろうと正義のヒーローだろうと日常を脅かすなら僕にとっては同じことです。害悪でしかない」

 

 確かにそうなのだろう。

 

 本来ならば彼は普通の中学生であり、当然の教育を受け平穏に日常を送る権利が当たり前に存在する。

 

 その当たり前を何より大事にしているのが目の前の彼なのだろう。

 

「だから、暗殺の依頼は断りました。依頼を拒否したからこそできる立ち回りもあるでしょうし、世界なんて重いもの抱え込みたくないですから」

 

 長々と話してしまいましたが、今度こそ教室に戻りますね。これからもよろしくお願いしますね、先生。

 

 そう言い残して彼はその場を去っていった。

 

 

 前に話した時は深く考えもしなかったが、確かに地球の存亡以前に彼ら自身もまた守られて然るべきなのだろう。

 

 暗殺について嬉々として語り合おうと彼らが普通の中学生であることは変わらない。

 

 であればその彼らの日常を守ることこそ俺のすべきことではないだろうか?

 

「先生、か……」

 

 ふと、呼ばれるとは思ってもいなかった呼称を呟いていた。

 

 

 

 

 烏間さん、もとい烏間先生に本心をある程度打ち明けることにした。

 

 少なくとも個人としては信用のできる人だし僕らに危害が来ないよう働いてくれるだろう。

 

 ただ組織という立場があるためこれ以上を望むことも難しいが、長期的に見て押さえるべきポイントは外部の刺客くらいだ。

 

 事実、殺せんせーに対してはもう大分警戒のレベルを落としている。実際あれ自体は急を要する対処は必要ないだろう。

 

 茅野カエデについては今後次第だが、向こうもすぐには行動に移したりはしないはずだ。

 

 最悪中間試験や期末試験で本校舎に復帰すればそれで縁も切れる。逃げるみたいで嫌だし最後の手段としておくが。

 

 というより逃げたところであの醜悪な異形共は待ち構えているだけだ。一々逃げてなんかいられないし切りがない。

 

 目の前に面倒の元凶があり分かりやすい要注意人物がいてそれに備える環境も揃っている。被害が出たときそれを抑えることや隠蔽するのも楽だし寧ろ恵まれた環境であると言えるだろう。

 

 その元凶にしたって地球を爆破するのは一年後なのだ。気がついたらアザトース召喚のカウントダウンが始まってた時に比べたら大分余裕がある。

 

 焦る必要はない。対処できる問題から少しずつ消化していけばいい。

 

 

 あくまで僕は平穏に生きたいだけなんだから。

 




Q.攻撃の反対は?
A.迎撃or反撃or先制攻撃

主人公の思考はこんな感じです。
面倒は御免だから首を突っ込んだりします。
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