暗殺教室 ~僕は平穏に過ごしたい~   作:三十

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個人的な理由で急ピッチで仕上げました。

……感想読んだら書きたくなっちゃったんです。


カルマの時間

 

 いっちにーさんし、ごーろっくしっちはっち。

 

 

 烏間先生が教師を勤める体育の時間。

 

 クラスのみんなの元気良い声が澄みきった青空に響き渡る。

 

 設備に恵まれないE組ではあるもののこの穏やかな運動場での一時は本校舎では味わえない趣がある。

 

 確かに本校者の方が機能的には優れているのかもしれないが、情緒的にはこちらの方が好ましい。

 

 何かを善しととるか悪しととるか、結局のところは捉え方一つなのだろう。

 

「晴れた午後の運動場に響くかけ声。平和ですねぇ。……生徒の武器(エモノ)が無ければですが」

 

「八方向からナイフを正しく振れるように! どんな体勢でもバランスを崩さない!」

 

 ……うん、今回ばかりは殺せんせーと同意、かな?

 

 

◇◆◇

 

 

 今日から体育の時間は烏間先生の受け持ちとなった。その時間を利用し僕らに暗殺の基礎を教えてくれるのだと。

 

 殺せんせーは不満の声を上げたもののクラス全員がそれに反論、仕方なく砂場でいじけるという結末に至った。

 

 僕は参加したことがないため知らないのだが、反復横跳びで分身したあげくあやとりを行いやってみよう等と戯れ言を抜かしたらしい。

 

 体育は人間の先生に教わりたい。当然の帰結だった。

 

 ……まあ、うちの父さんならできるだろうけど。時間流の加減速とか得意だし。

 

「でも烏間先生。こんな訓練意味あんスか? しかも当の暗殺対象(ターゲット)がいる前でさ」

 

 という前原君。

 

 気持ちは分からなくもないが、基礎はしっかりと学んだ方が良い。

 

 確かに怪物相手には心許ないかもしれないが、その心許ない技術すら儘ならないのではなおのこと化け物には通用しない。

 

 それに父の友人には武術に長け蹴りでミ=ゴを殺せる人だっているのだ。一撃で。

 

 ……父もそうだけど、あの人も大概だよなあ……本人は巻き込むなって文句を言うけど。

 

 いつの間にか前原君と磯貝君の二人がかりの模擬戦になったが、烏間先生はそれをあっさりといなしてみせた。

 

「俺に当たらないようではマッハ20の奴に当たる確率の低さがわかるだろう」

 

 倒れ込んだ二人に言い放つ。

 

 二人とも驚いてるなあ。

 

「見ろ! 今の攻防の間に奴は砂場に大阪城を造った上に着替えて茶までたてている」

 

 こっちとしては大阪城(アレ)の方が驚きだが。

 

 よく造れたな、ホント。

 

 ともあれ、今後は体育の時間に暗殺の基礎を学ぶこととなった。

 

 僕としては暗殺への参加以前にスキルアップの機会として有り難い。

 

 出来ることなら武器の密造について教わりたいが流石に高望みが過ぎるだろう。そもそも防衛省の領分から外れるだろうし、精々爆薬の扱いくらいか?

 

 ……それも流石に無茶だろうけど。

 

 

 

 

 授業終了後それは起きた。

 

「カルマ君……帰って来たんだ」

 

「よー。渚くん久しぶり」

 

 赤羽(あかばね)(カルマ)

 

 暴力沙汰を起こし停学を受けE組に来た、(自分で言うのもなんだけど)僕とは別の意味での問題児。

 

「わ。あれが例の殺せんせー? すっげホントのタコみたいだ」

 

 既に話は聞いていたらしく、ジュース片手に軽々しく近付いていく。

 

 ……絶対何か企んでる。

 

 一年の時同じクラスだったけど、結構な愉快犯気質だったし、関わったら面倒そうと思ってたから良く覚えてる。

 

 無貌より相対的には遥かにましとは言え進んで巻き込まれたいとは思わないだろう。

 

「赤羽業君……ですね。今日が停学明けと聞いていましたが……初日から遅刻はいけませんねぇ」

 

「あはは……生活のリズムが戻らなくて」

 

 そう言いながら手をさしのべる。

 

 握手のつもりなのだろう。十中八九、罠だろうけど。

 

「下の名前で気安く呼んでよ。とりあえずよろしく先生!」

 

「こちらこそ。楽しい一年にしていきましょう」

 

 そうして互いに手を握り、

 

 

 殺せんせーの触手が溶けた。

 

 

「⁉」

 

 驚愕する殺せんせーを尻目に赤羽君は左手に持っていたジュースを捨てる。

 

 機械的な音がして袖の中から対殺せんせーナイフが突き出た。

 

 そしてそのまま驚いて動きを止めている殺せんせーにナイフを突き刺し──

 

 

「……へー。ホントに速いし、ホントに効くんだ対先生(この)ナイフ。細かく切って貼っつけてみたんだけど」

 

 ──慌てて退いた殺せんせーによりそれは不発に終わる。

 

 握手した手の平にナイフの刃を仕込んでいたらしく、これ見よがしに手を向けている。

 

「けどさぁ先生。こんな単純な『手』に引っかかるとか……」

 

 攻撃を回避され、だけど赤羽君に残念そうな素振りはなく、

 

「しかもそんなところまで飛び退くなんてビビり過ぎじゃね?」

 

 寧ろ楽しそうに、

 

「殺せないから『殺せんせー』って聞いてたけど」

 

 大胆不敵に、

 

「あっれぇ。せんせーひょっとしてチョロイひと?」

 

 殺せんせーを挑発していた。

 

 

 ……うん、やっぱ関わらないようにしよう。

 

 

 

 

 彼は頭の回転が速い。

 

 先生と生徒。

 

 その立場から越えられない一線を把握して駆け引きを仕掛け殺せんせーを翻弄している。

 

 それを人とぶつかるためだけに使うのはもったいない気もするが。

 

 ……授業中にBB弾をばらまくのはまだしも、ジェラート盗み出すのはどうかと思う。

 

 まあ、そんなことはさておき。

 

「……にしても何であそこまでするかな」

 

「? カルマ君のこと?」

 

 放課後の玄関にて渚君と合流。

 

 尤も帰り道が異なるため坂道を下るまでの間だけだが。

 

「いや、殺せんせーのこと。僕が言うのもなんだけどさ、問題児抱えてまで何で先生になったのかなって」

 

 と言ってもある程度は絞り込めているし想像もできないこともないが納得できるかは別である。

 

 人の価値観は人それぞれであり真の意味で『分かり合える』何てことは不可能なのかもしれない。

 

 尤も殺せんせーが何故先生になったか知りたいのも本心ではあるのだが。

 

 羨望か、償いか、契約か。

 

 それによっては対応も変わるのだが……

 

 まあ、それが分かったら苦労はしないだろう。

 

 殺せんせーのことは国家機密であり詮索は難しい。まして本人が過去を語りたがらないのであれば少しずつ探っていくしかない。

 

 だから、その答えが返ってくるなんて思ってもみなかった。

 

「ある人との約束らしいよ?」

 

「えっ⁉」

 

 予想外の回答に驚いてしまったのも無理のないことだろう。

 

「え、約束って、え、それ、本当?」

 

「う、うん。本人がそう言ってたから……」

 

 絶句。

 

 まさか本人から聞き出せたとは思わなかった。

 

 こういう時、自分の詰めの甘さを感じる。

 

 いや、それより約束、だったか。

 

 つまり彼は雪村先生との約束で──

 

 ──あぁ、割りと穏当で面倒なパターンか……

 

…………

 

 可能性としては低かったが、殺せんせーが雪村先生との交流によりE組の担任に憧れ、どうせ一年後に死ぬならと雪村先生の死後に担任を乗っ取りに来たなら面倒だけど手っ取り早かった。

 

 気紛れで人と関わる怪物なんてろくな者がいない。心変わりして被害が出る前に討伐してそれでお仕舞いだったし、そのために労力を使うのも吝かではなかった。というか諦めがついた。

 

 償いなら言い方は悪いが殺せんせーの独り善がりだし、事と次第によっては殺せんせーを殺して解決でも良かった。

 

 自分の手を下す気にはならないが、今は茅野カエデがいる。もし推察通り彼女が雪村あかりなら、その目的は真相の究明か復讐だ。そして復讐なら『雪村先生への償い』として彼女に殺されるよう説得すればいい。勿論ご破算になる可能性も高いが、殺せんせーの対応次第では魔術の使用も視野に入る。

 

 何れにしてもすぐに殺せんせーを殺す計画を立てることができ、上手くいけば防衛省だの外部からの刺客だの煩わしい心配事から解放されるが、二人の間に取り決めがあるなら話は別だ。

 

 正真正銘、殺せんせーは一年間教師を全うするのだろう。心変わりなどしないし、他のことでは代わりにはならない。まあ、地球を本当に爆破したりはしないだろうが。

 

 僕は魔術などの技術を平穏を守る以外に使う気はない。また、使う際にはその相手を選ぶくらいはしている。故に、「本人に害意も悪意もなく、明確な行動指針があり、そして直接的な実害はない」これだと骨を折る気にはなれない。

 

 ましてや殺した後には調査も入るだろう。世界を滅ぼす超生物だ。確実に殺せたか、どのように殺したかはその確認くらいは行って然るべきだ。

 

 魔術の存在は表沙汰にはできないし、適当に誤魔化す必要もある。場合によってはつてで協力を頼むしかないがあいつらに借りを作るのは百億積まれても割に合わない。

 

 ……とりあえず、僕が殺せんせー暗殺計画を立てることはこれでなくなったらしい。

 

…………

 

「どうしたの? そんなに驚いて……」

 

「ん、ああ。正直答えが帰ってくるなんて思わなくてさ、びっくりした」

 

 あはは……。と笑い誤魔化す。

 

 殺せんせーが先生になった理由は黙っていた方が無難だ。防衛省が僕らに殺せんせーの情報を隠すのは暗殺のモチベーションもあるのだろうし。

 

「にしても約束、か……誰とかは知らない?」

 

「いや、流石にそれは話してくれなかったから……」

 

「そっか」

 

 そこで会話を打ちきる。上手く誤魔化せただろう。

 

 それにしても、約束、か。

 

 

 雪村先生は最期、何て言ってたんだろう?

 

 

※ ※

 

 

 翌日。

 

 やや遅れつつも遅刻はせず無事教室に辿り着き、教卓の上の()()を目撃した。

 

 

 タコ。

 

 

 ナイフが突き立てられたタコが教卓の上置かれていた。

 

 ……殺せんせーのつもりなんだろうけど、また幼稚な……

 

 席に着きながら内心苦笑する。あんなもので取り乱す人はいないだろうに。

 

 やれやれ、と思い思考に没頭する。

 

 にしてもタコか……

 

 どうしてもクトゥルフを連想してしまうのはやはりああいったものに関わりすぎたせいだろう。

 

 こうしてみると教卓が祭壇でタコを生け贄とした儀式をしてるみたいだ。

 

 そういえば殺せんせーのトレードマークってタコなんだっけ……

 

 クトゥルフ……

 

 いやまて、黄色い姿から黄衣の王の亜種かと思ったが、寧ろクトゥルフか?

 

 いやないだろ。あれは確か海の神性のはずだし、空を飛んだりとかはしないだろ。

 

 いや、しないと言うだけでできない訳じゃない、か? でなきゃ宇宙を渡って地球に来れないだろうし……

 

 待て、そもそも前提がおかしい。彼はあくまで実験で産み出された怪物だ。そんな神性がどうとか、そうじゃなく、

 

 つまりは既存のものに囚われない新種?

 

 違う! 新しく神を産み出すとかいくらなんでもできるはずがないだろ!

 

 だからアレは新種でもなく、既存のものからなって……

 

 複合体(ハイブリッド)

 

 いや待て⁉ そもそもハスターとクトゥルフは敵対してたはずだろ⁉ いつ同盟を組んだ⁉

 

 いや、そうか! 既に既存の枠組みから逸脱しているからこそ旧神の印(エルダーサイン)が効かなかったのか⁉

 

 どうする⁉ 校舎に仕掛けられたトラップに気付いてないようだから魔術関係の知識はないと考えていたが、よもや相手にさえされてなかったか⁉

 

 いざとなれば殺せるどころじゃない、いつでもあいつらはぼくをころせる……ッ!

 

 どうする? まもりを固める? どうやって? こっちの攻撃なんてつうようしないのに? たいこうすべくかみを招来する? なにをよべばいい? 今すぐにげる? だめだ。あいつらはどこまでもおってくる。にげられるわけがない

 

 

 ゆだんしたつめがあまかったぼくはここでしぬまだやりたいこともたくさんあったのにいやだまだしぬのはいやだおねがいたすけてまだみらいがあるんだなにげないにちじょうをおくりたかったみんなとわらってはなしてけんかしたりもしてそんななんでもないことでいいんですおねがいたのむぼくからこのたいせつなひびをとらないでおねがいしま──

 

 

「九頭龍君ッ!」

 

「ッ! あっ、なっ、なに、が」

 

 教室を見渡すとクラスのみんながこちらを心配そうに見つめている。また発作が起きたらしい。

 

 殺せんせーも心配そうに体を支えてくれているが、今だけは存在しないでいてほしい。

 

「大丈夫ですかッ! 顔色真っ青な上涙と唾液でぐちゃぐちゃですよ⁉」

「あっ、ぁあ──あう……ああ」

 

「ちょっ⁉ 九頭龍君ッ! 九頭龍君ッ!!」

 

 ──薄れ行く意識の中で嘲笑う神性の声が聞こえた気がした……

 

 

 ※ ※

 

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫です……」

 

 気がついたら保健室だった。烏間先生が心配そうに声をかけてくれる。

 

「えーと……今、授業は……」

 

「もう放課後だ。帰るなら送るが?」

 

 そう、心から心配する声を聞き、内心申し訳なく思ってしまう。

 

 ……本当に、大丈夫です。ただ、タコと殺せんせーを見て邪神を連想しただけですから。

 

「いえ、お気遣い結構です……少し歩きたいので……」

 

「そうか……無理はするなよ」

 

 本当、お気遣いありがとうございます。

 

 

 結局、その日は授業を受けることもなく帰路につくこととなった。

 

 殺せんせーにも挨拶はすべきかと思ったけど、正直しばらくは視界に入れたくない。

 

 

 

 マーフィーの法則というものがある。

 

 それは先達の経験から生じたユーモアと哀愁溢れる経験則である。

 

 例えば、『落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率はカーペットの値段と比例する』とか『洗車をすると雨が降る。雨が降ってほしくて洗車をする場合を除いて』、『試験開始前に憶えたことは試験には出ない』など、ああ……と思わず納得してしまう一種のあるあるネタだ。

 

 それに照らし合わせればこういうことだろう。

 

 会いたくない相手は会いたくない時に遭う。

 

「おや? 九頭龍君、大丈夫ですか?」

 

「はい……ところで……一体何を?」

 

 目線を上げると、触手によって作られたネットが赤羽君を捕らえていた。

 

 何これ?

 

「いえ、ちょっとカルマ君の暗殺を受けていたところです。……カルマ君、自らを使った計算ずくの暗殺、お見事です」

 

 そのまま赤羽君に語り始める殺せんせー。

 

 赤羽君の右手には拳銃が握られていた。

 

 ……飛び降りたのか、暗殺のために。

 

「音速で助ければ君の体は耐えられない。かといってゆっくり助ければその間に撃たれる。そこで、先生ちょっとネバネバしてみました」

 

 これでは撃てませんねぇ、ヌルフフフフ。と笑う殺せんせー。暗殺は失敗したらしい。

 

 ……うわぁ、凄いくっついてる……これとれるのかな。

 

「ああ、ちなみに」

 

 そして殺せんせーは、

 

「見捨てるという選択肢は先生には無い。いつでも信じて飛び降りてください」

 

 暖かく、赤羽君に諭すのだった。

 

 

 きっと殺せんせーは僕らを裏切るようなことはしないだろう。

 

 標的(ターゲット)である以前に、教師として。

 

 真摯に僕らに向き合ってくれる。

 

 それを確認し、僕は心から安心した。

 

 

 

 良かった……この様子なら上手くいきそうだ……

 

 

 

 兵は拙速を尊ぶ。兵法の基本らしい。

 

 早速明日にでも仕掛けよう。

 

 

 面倒事を対処する目処がたち、僕の心は晴れやかだった。

 

 

 

 

 

 

「さて、先生はカルマ君と上に行きますが、九頭龍君は?」

 

「いえ、結構です……それと、できるだけ視界に入らないでください」

 

「ちょっ⁉ 先生何かしました?」

 

「いえ、ちょっと存在が……」

 

「それどうしろと⁉」

 




実は殺せんせーが邪神などといった設定はございません。

ハスターもクトゥルフも無関係です。
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