エレンを変身ヒーローにしてみた   作:Shinji

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■反撃の龍爪■ その1

――――少年"エレン・イェーガー"は外の世界に憧れている。

 

 

「薪……終わった。早く帰ろ? エレン」

 

「ちょっと待てってミカサ! 何時もなら この辺りを巡回してた筈なんだけど……」

 

「……これ以上の"寄り道"はダメ」

 

「も、もうちょっと! もうちょっとダケ探させてくれよ!」

 

 

それと同時に両親を除いて、一人の人物を非常に尊敬していた。

 

故に何時もの用事を幼馴染のミカサと終えた彼は、外出した今日も"その兵士"を探す。

 

"先端の壁"に居る兵士ならば駐屯兵団ばかりしか居ないが、その兵士は例外であった。

 

エレンが"その兵士"の顔を良く知っているのも有るが、もう一つ決定的な事が有るのだ。

 

……だが"この日"は何故か見つからずにおり、ミカサに腕を掴まれてしまっていたのだが。

 

 

「また怒られる」

 

「ちょっ!? 放せって!(相変わらずの馬鹿力だなッ)」

 

「おいおい。何を騒いでんだ? 街中でよ」

 

「!? は、ハンネスさんッ!」

 

「…………」

 

「余り周りに迷惑掛けてると、確保しちまうぜ? ……ってな」

 

 

遂に彼女に強制連行され様とした時。

 

2人の背後から話し掛けて来た声に振り返ると、両手を腰に添えた大男が立っていた。

 

それは駐屯兵弾のハンネスであり、彼こそがエレンの探していた人物である。

 

よってエレンの表情が一気に明るくなるが、逆にミカサは俯いてしまいカオは窺えない。

 

 

「今日はどうしたの? 何時もみたいに巡回して無かったの?」

 

「してたさ。だが少し早めに切り上げて来たトコだ」

 

「そうなんだ。それで……今日も一人で?」

 

「あァ。奴等は相変わらずさ」

 

「……お酒……」

 

「!? 全くッ。そんなんでイザと言う時に戦えんの!?」

 

「イザって……"巨人"が街に入って来た時にか?」

 

「そうだよ!!」

 

「残念だがオマエの予想通りだろうよ。だが悪く言わんでやってくれ。奴等が50メートルの壁を どうにか出来るとは思えんし、俺達が"タダ飯食らい"とバカにされてる時だからこそ、此処が先端の町だろうが平和に暮らしてけるんだぜ?」

 

「クッ……でもハンネスさんはッ」

 

「……欠かさず見回りを続けてる」

 

「ハハハッ。意味の無い事だとは分かっちゃいるんだがな。無駄な"待遇"も有るし俺が少しでも働きゃ~左程 五月蝿くは言われないんだから楽なモンさ。何より酒は一仕事 終えてから飲む方が抜群に美味いからな」

 

「え、えっと……その……ゴメン」

 

「気にすんな。万が一 巨人が来たら ちゃんと務めて見せるさ。先ずは避難を優先させて報告が先だが」

 

 

そう笑って話すハンネスの話を、彼を見上げながら聞いていた2人は顔を見合わせる。

 

元"調査兵団"のハンネスとは まさに"こう言う男"であり、前線を退いた今 大抵の面倒事を一人で担っていた。

 

百年もの間 平和だと言う事から部下の怠惰な仕事を許容し、簡単とは言え自分は全うに働いて威厳を保つ。

 

"駐屯兵団"の隊長として言えば一概には"良く遣っている"とは言えないが、エレンは彼に とても懐いている。

 

調査兵団志望のエレンには"止めとけ"としか言わないハンネスだが、不思議と翼の描かれた背中を追っていた。

 

元とは言えど"調査兵団"の知り合いがハンネスしか居ない事も大きいだろう。

 

そんな彼の言葉を聞いてエレンは他の兵士への怒りが消え、ミカサも何時の間にか憤りが無くなっていた。

 

 

「ところで何時もよりも早く終わったって事は、何か理由が有るの?」

 

「そう言えば お前達が知るワケ無かったな。"アレ"が見えたし そろそろだと思うぞ?」

 

「えっ?」

 

「(エレンが寝てた時の……狼煙……)」

 

 

≪カンカンカンカンッ!!!!≫

 

 

「!? そうかッ! 英雄の凱旋だ!!」

 

「エレン。早いトコ行かないと見れなくなっちまうぜ? 俺は道の整備をやらんとな」

 

「こうしちゃ いられないぜ! ミカサ、ボサッとしてたら置いて行くぞ!?」

 

 

唐突に鳴り響いた鐘の音。

 

それは調査兵団が帰還して来た事を住民に伝える合図。

 

エレンは何よりも"この瞬間"を楽しみにしており、直ぐに駆け出して行ってしまった。

 

よって其処にはミカサと、苦笑しているハンネスが残される。

 

ミカサは即エレンを追う様では有るが、去り際にハンネスに棘の有る視線を向けた。

 

 

「……だから早く帰りたかったのに」

 

「相変わらず勘の良い娘だ。きっと立派な兵士に成る」

 

「私はエレンと居られれば、それで良い」

 

「そうか」

 

 

手早くソレだけを告げると、ミカサも駆け出してエレン背中を追った。

 

エレンはハンネスの、ミカサはエレン……と妙な関係が出来上がっている。

 

正直ミカサはハンネスの事は好きではないが、単にエレンが一方的に興味を持っているダケで嫌いでも無い。

 

幾らグリシャに恩が有るとは言え本当で有れば、過去の話をせがんでくるエレンの事を永遠に避けて欲しい。

 

だが それだとエレンが悲しむだろうし、ハンネスが調査団を勧める様な事を告げた時は一度も無かった。

 

ハッキリと"絶対にダメだ"と言って貰えれば救われるのだが、それは調査兵団だった彼には言わせられない。

 

つまり大人の対応でエレンの相手をしてくれており、ミカサはミカサの遣り方で考え直して貰うしか無いのだ。

 

さてハンネスは暫く頭を掻きつつミカサの後姿を眺めていたが、溜息を漏らすと誰にも悟られぬ様 呟いた。

 

 

「アイツに使って貰えりゃ良いんだが……いや。此処が平和な限りは……二度とゴメンだな……」

 

 

現在は駐屯兵団の小隊長と言う立場で有りながら、調査兵団のシンボル・双翼の背中を持つハンネス。

 

彼は何を隠そう10年前に派遣された調査兵であり、馬も使わず只ひとりで帰還した過去が有る。

 

実際には止む得なく取り残された人間達の中での一人の生還者だったが、それでも歴史的な快挙だった。

 

得れた情報は"夜に巨人の動きが鈍くなる"と言う事 程度でしか無かったが貴重な情報なのは間違い無く、更には生身の人間が立体機動装置も無しに一人で生還すると言う希望 迄もを見出したのだ。

 

故に残念ながら重症を負っていたハンネスが調査兵団に戻る事は無かったモノの、気が乗らない彼を内地の上層部は英雄と称え、双璧のシンボルを持ちながらも駐屯兵団のに所属させる事で先端の町の治安維持に当てた。

 

その恩恵で駐屯兵団が飲んだくれていようと、調査兵団がボロボロに成って帰ってこようと、大きな不満が出ない事に僅かにながらにも繋がっており、ハンネスも決して真面目では無いが自分の境遇を受け入れていた。

 

そんな中でグリシャ伝いで唯一双翼のシンボルで町を翔ける彼を知ったエレンが、興味を示さない筈が無い。

 

未だに何も"あの時"の事は話してくれないが、何時かは聞き出してやろうと彼の背中を常に追い駆けている。

 

無論 悪い気はしないハンネスだったが、地獄の体験を考えれば自分の事を父の様に慕うエレンに同じ境遇を辿らせるのは気が引ける反面……"ある事"を理由に積極性が高いエレンに対し一つの可能性を見出していた。

 

だがハンネスは190cmの大男ながら基本 臆病な人間であり、いたずらに時を過ごしているダケであった。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

845年……唐突に出現した"超大型巨人"と"鎧の巨人"。

 

その2体の巨人の出現により先端の町"シガンシナ区"は壊滅的な損害を受けた。

 

超大型巨人が吹き飛ばした瓦礫の雨で人々は押し潰され、侵入した巨人には生きたまま食われる。

 

イェーガー家とミカサも例外では無く、今は父の姿は確認できない上に母のカルラが倒壊した瓦礫に首から下の殆どが挟まれてしまい、もはや子供2人の力では どうにも成らない絶望的な状態であった。

 

 

≪――――ズシンッ、ズシンッ≫

 

 

「エレンッ! ミカサを連れて逃げなさい!!」

 

「逃げたいよ俺も!! だから出てくれよッ! 早く一緒に逃げよう……!!」

 

「でも母さんの足は瓦礫で潰されて――――」

 

「そんなの俺が担いで走るよ!! 急げミカサ!!」

 

「わ、分かってるッ」

 

「どうして何時も母さんの言う事を聞かないの!? 最期くらい言う事を聞いてよ!!」

 

「ハンネスさん達は きっと何処かで戦ってるんだッ! 此処で諦めて堪るか!!」

 

「!? ミカサァッ!!」

 

「……駄目……駄目……」

 

 

≪――――ズシンッ! ズシンッ!≫

 

 

「このままじゃ3人ともッ」

 

「早くしろミカサ!」

 

「う、うん……あッ」

 

「良い心掛けだなボウズ」

 

 

≪ヒュッ――――ダンッ≫

 

 

「!? ハンネス……」

 

「ハンネスさん!?」

 

「どうして此処が……」

 

「細かい話は後だ。何やら最悪な状況と来てる」

 

「た、助かったわ! 2人を連れて逃げてッ」

 

「見くびって貰っちゃ困るぜカルラ! 俺は巨人をブッ倒して きっちり3人とも助ける!」

 

「10年間もブランクが有って何が出来るの!? 古傷も多いって話なのに……戦ってはダメッ!」

 

「あァ。分かってるさ。今のままの俺じゃ巨人1体も倒せねェかもってな。だが ようやく恩を返せるぜ」

 

「だったら!!」

 

「は、ハンネスさん……」

 

「……どうすればッ……」

 

「とにかく"あの一匹"を倒す事が先だ。下がってろエレン。ミカサは少しでも"重み"を抑えてやってくれ」

 

「う、うん」

 

「……はい」

 

「(全く。やっぱり何事も無く過ごせる様には成らなかったか)」

 

 

≪――――ガシャンッ≫

 

 

決して望みの無い可能性に賭けて、何とか母を救出しようと努めるエレンとミカサ。

 

そんな2人の頑張りに応える様にして、アルミンから話を聞いたハンネスが宙から現れた。

 

するとエレンは泣きそうに成りながら喜びを露にし、彼なら今の状況を何とかしてくれるだろうと安堵する。

 

しかしカルラは大人一人で何とか出来る瓦礫では無いと悟っており、あくまで子供を連れて逃げる様に叫ぶ。

 

その言葉にエレンは顔を青くさせ、ミカサも悲痛な表情で今回ばかりはハンネスに頼り気な視線を向けた。

 

対してハンネスは戦う気の様だが……何と彼は徐(おもむろ)に兵士の命綱で有る立体機動装置を外してしまう。

 

 

「えぇっ!?」

 

「……ッ!!」

 

「は、ハンネス!! 貴方なに考えてるの!?」

 

「黙って見とけ。変身!!」

 

 

≪――――ボゥッ!!!!≫

 

 

「うわぁ!!」

 

「きゃっ!?」

 

「なんなのッ」

 

 

更には彼の象徴でも有った調査兵団のジャケットまでもを脱いでしまうと、ハンネスは方膝を折って一言。

 

3人は確かに"変身"と聞こえ、同時に彼の全身が炎に包まれた事でエレンとミカサは顔を覆った。

 

だが全く熱くは無く、むしろ暖かさ さえも感じ……未だにハンネスのカラダは深い炎に包まれている。

 

それは10秒程は続いていたが、やがて炎の中から現れたのは見知ったハンネスの顔では無かった。

 

全身の金色のボディに頭部や肩の赤いフレーム。

 

メタルヒーローを思わせるような外見を持ち、手に当たる部分は船の錨のような形状の刃となっている。

 

完全に人間でも巨人でも無い"何か"で有り、巨人の襲撃以上の非現実的な事に3人は言葉を失っていた。

 

ムリも無い……顔見知りであったハンネスが唐突に人外へと変貌を遂げたのだから。

 

 

「ハンネス……さん?」

 

「……ッ……」

 

「!? それとも巨人!?」

 

『冗談は止せカルラ。俺は正真正銘の人間だ。この"鎧"の内側は紛れも無い"俺"だぜ?』

 

「でもソレって一体――――」

 

『生憎 説明している暇は無ェ。ちょっくら片付けて来るから此処で待ってろ』

 

「う、うんッ!」

 

 

ノイズ混じりの声でハンネスは そう告げると、単純な跳躍で姿を消しエレンが身を乗り出して目で追う。

 

生憎ミカサは言われた通りに瓦礫に力を込めており、心の中で行動に溜息を吐いた。

 

だが今の絶望的な状況は何も変わっていないと言うのに、不思議と恐怖は無かったミカサであった。

 

さて醜い女性の容姿をしている巨人とハンネスが対峙すると、真っ先に右腕を振り下ろしてくるのだが……

 

 

『おぉっと!』

 

 

≪バコオオオオォォォォンッ!!!!≫

 

 

『オラァッ!』

 

 

≪――――ガコッ!!!!≫

 

 

ハンネスは軽く後ろに跳んで回避すると、直ぐに踏み込んで巨人の前腕を蹴る。

 

そして巨人の顔面に強烈なキックを叩き込み、巨人を仰向けにダウンさせた。

 

蹴ったハンネスは勢いをそのまま巨人を飛び越える様なカタチで着地している。

 

 

「す、凄ェ! デカい巨人を蹴り倒したぜ!?」

 

「ハンネス……どう言う事なの?」

 

「……分かりません」

 

 

だが巨人の弱点は"うなじ"な為に直ぐに起き上がろうとし、未だエレン達よりハンネスを標的にしている。

 

それは変体した彼を"人間"と認識するのに十分な理由であった。

 

さて置き。巨人が立ち上がるのには左程 時間が掛からない様に思えたが……

 

 

≪――――スタッ≫

 

 

「へっ?」

 

 

ハンネスが腰を低く構えたと思うと、エレンが瞬きした時には彼は近くに居た。

 

どう言う訳か巨人を通り過ぎて背を向けており、エレンの目の前で仁王立ちしている。

 

だがハンネスの"鎧"に少し変化が見られていて、僅かに曲げた両肘からは それぞれ両肩の方へと突き上げる様にして、炎を纏う長い角の様なモノが生えているのだ。

 

よって全く状況が飲み込めずにマヌケな声を漏らしてしまうエレンだったが――――

 

 

≪ドゴオオオオォォォォンッ!!!!≫

 

 

『いっちょアガりだ』

 

「……!!」

 

 

"鎧"の角が納められたと同時に、遠くに居た"起き上がる途中"の巨人の頭部が盛大に吹き飛んだ。

 

それにより巨人は起き上がる事も無く絶命し動かなくなった。

 

行った者は紛れも無く鎧姿のハンネスであり、何やら途轍もない力を持つ模様。

 

しかし説明している暇は無いので、言葉を失っているエレンに近付くとハンネスはノイズ混じりで喋る。

 

 

『今の所 近付いて来る巨人は居ねェな。手伝えミカサ』

 

「は、はい」

 

「!? 今みたいにドカンと助けられないの?」

 

『この姿は瞬発力と爆発力は有るが純粋なパワーは余り無い。変身するのは久し振りだし、無理に力を使ったらカルラを巻き込んじまう可能性だって有る。だからエレンは見張りをしてろ。巨人が来たら大声を出すんだ』

 

「分かったよ!!」

 

『さ~てカルラ。もう少しの辛抱だぜ』

 

「あ……有難う」

 

「ごめんなさい」

 

『んっ? 何か言ったか? ミカサ』

 

「なんでもない」

 

 

――――3分程を要したがカルラは何とか瓦礫から這い出る事ができ、今はミカサが彼女を気遣っている。

 

 

「うわああぁぁッ! ハンネスさん!? 巨人が沢山来たァァ!!」

 

『3人とも此処を動くな。近付いて来る奴らを蹴散らしてから脱出するぞ』

 

「で、でもデカいのは居ないけど数が多いよ!?」

 

「嗚呼……私の所為でッ」

 

「…………」

 

『大丈夫だ。任せて置け』

 

 

自信満々でハンネスが告げた通り、此処からは一方的な展開であった。

 

3~4m級の巨人 程度はハンネスの回し蹴りで首を飛ばされ、腕のブレードでは"うなじ"ごと首を狩られる。

 

大型巨人の時は一瞬どころでは無い早さで決着が付いたので実感が湧かなかったが、今のハンネスは3人の近くで人間離れしているとは言え非常に分かり易い攻撃で戦っている為、エレンは自然と握る拳に力が入っていた。

 

恐れられている巨人を千切っては投げ千切っては投げる快進撃……まさに英雄と称えられるに相応しい強さ。

 

以前からハンネスに憧れていた事も有り、エレンが興奮するのも尚更。

 

勿論 先程の迄の絶望は何処へやら。

 

あのミカサでさえ瞳を輝かせて戦況を見守り、カルラも一体の巨人を倒す度に手を叩いていた。

 

 

「……左の方から3体も」

 

『よしきた! アレで全部だな!?』

 

「良いぞッ! ハンネスさん! やれやれッ! 殺っちまえ!!」

 

「す、凄いわハンネスッ」

 

 

――――カルラの救出時間を含めて10分で撃破21体。リヴァイ兵士長に匹敵する戦績である。

 

 

『コレで片付いたな。逃げるぞ? おぶされカルラ』

 

「え、えぇ」

 

『エレンとミカサは走れるな?』

 

「勿論!!」

 

「……はい」

 

 

こうして何とかエレン達は"向こう側"に逃れる事ができた。

 

他の兵士に託したカルラにはミカサが付き添っており、エレンは変身を解いたハンネスと向かい合っている。

 

3人を送り届けるとハンネスは再び戦地に戻ると言ったので、エレンが彼を引き止めたのだ。

 

 

「ち、ちょっとハンネスさんッ! 何処に行くんだよ!?」

 

「タダ飯食いだったツケを、まだ払い終えて無いからな。まだ逃げ遅れている人間が居る筈だ」

 

「だったら……せめて立体機動装置が無いとッ!」

 

「な~に、俺の戦いは見てたろ? それに今は"超大型巨人"と"鎧の巨人"の姿は無い。何とか成るさ」

 

「だったら俺も一緒に行く!!」

 

「!? エレン……お前って奴は……」

 

「俺だって調査兵団を目指すんだッ! 少しくらいは役に立って見せるよ!!」

 

「エレン!」

 

「ぅえっ?」

 

「それなら今から俺の言う場所で待っていろ。必ず帰って来る。今のオマエが付いて来ても邪魔だからな」

 

「だけどッ」

 

「場所は――――だ。忘れるなよ!?」

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……数時間後。

 

ハンネスに言われた通り、エレンの希望によってウォール・ローゼ"のとある避難場所の村"にまで逃れた3人。

 

既に日は完全に沈んでから暫く経っており、カルラは重症だった事も有り既に死んだ様に眠っている。

 

だがエレンは不眠でハンネスの帰りを信じて待っており、ミカサも無駄だとは言葉に出さないが傍に居た。

 

恐らく彼は今夜ハンネスが戻って来なくても、暫くは此処に居るのだとゴネるだろう。

 

……とは言えミカサも彼には大きな借りが出来てしまったので、エレンが妥協する迄は待つ予定である。

 

もう命の危険は無い為 外に出ていても問題は無いし、このまま外で寝てしまっても大丈夫かと思っていると。

 

 

「!? エレン」

 

「……ぇあ?」

 

「何かが来た」

 

「う、うわッ!」

 

 

≪――――ダァンッ!!≫

 

 

ミカサが何かに気付き宙を指差したと思うと、それは2人の目の前に着地した。

 

それにより気丈にも寝まいとしていたエレンの眠気は一気に覚めたのだが……

 

(最後の力を振り絞って)着地したモノを見て2人は驚愕する。

 

落ちて来た存在とは待ち人であるハンネスだったのだが、黄金の装甲は全身がボロボロであった。

 

四肢は何とか無事だが右手と左足の装甲は大きく砕かれており、左手と右足の力だけでの着地。

 

それによって更にハンネスの体に負担が掛かった様で、彼は左膝を付いた状態からグラりと左に倒れた。

 

同時に変身も解けてしまい、僅かな炎が消えると其処には血塗れのハンネスが残されていた。

 

装甲の状態を見た通り右手と左足が見るからに折れており、まさに満身創痍の状態である。

 

 

「……酷い……」

 

「は、ハンネスさん!? しっかりしてくれよ!!」

 

「悪かったなエレン……遅くなっちまった」

 

「誰か呼んで来ないとッ」

 

「頼むッ! 急げミカサ!!」

 

「待て! それよりも聞いてくれ……エレン・ミカサ」

 

「な、何だよ?」

 

「……ッ……」

 

「お前達には……この力の事を話す……本当は巻き込みたくは、無かったんだがな……」

 

 

――――此処で自分の右手を握るエレンの頬を、ハンネスは血塗れの左手で撫でながら思う。

 

 

≪俺だって調査兵団を目指すんだッ! 少しくらいは役に立って見せるよ!!≫

 

 

「(あの勇気でガキのオマエに"全て"を託したく成っちまったんだよな……)」

 

 

涙目で自分を見つめるエレンとミカサに"力"の真相を告げる為、何とか声を絞り出し始めるハンネス。

 

実際の所……先程の彼の圧倒的なチカラは元からハンネスが持っていた物では無い。

 

以前 正義感の強かった彼は調査兵団が危うく成った状況で、自分達の命を投げ出して本体を逃す"殿"部隊に自分から志願し、最期まで巨人と抗おうと仲間達と共に立ち向かった。

 

だが次々と同胞が死んでゆく恐怖から一人逃げ出したハンネスは、ひとつの朽ちた白骨死体を発見する。

 

その死体が身に付けていた"腕輪"が彼に奇跡を呼び、人間の身ながら黄金の鎧を纏う戦士へと変えさせたのだ。

 

しかし凄まじい機動は肉体への負担が半端では無く、暴れた結果 限界を知ったハンネスは直ぐに帰還を選ぶ。

 

消耗を考えなければ容易に長距離の移動が可能だった点と、彼が臆病だった事が生還を果たした結果と言える。

 

だがハンネスは巨人に対する恐怖から再び"力"を使って戦いに赴く気は起きず、すべてを隠して今に至った。

 

"力"を活かせば少しの間は無敵の強さだが誰にも見られたくないし、彼そのものは巨人を倒した事が無い為だ。

 

されど過去の自分を思わせるエレンの勇気がハンネスを奮い立たせ、再び巨人と抗った事でカルラを救えた。

 

そうなれば後はギリギリまで前線で務める所存だったが、更なるエレンの言葉が彼の限界を越えさせる。

 

能力を得た事で何となく分かっていたのだ。

 

別の人間に"力"を託す為には白骨死体と迄はいかないが、自分の命を燃やし尽くす必要が有るのだと。

 

よって全てをエレンに託すと決めたハンネスは、巨人の行動が完全に制限され夜るまで戦い人々を救った。

 

それは後に噂と成って多くの人々に伝わるのは さて置き。

 

何とか全てを話し終えたハンネスは、再び腕輪をハメている左手を動かしエレンの左腕を握って言う。

 

 

「そんな訳で……だ。エレン。お前は俺の代わりに……"力"を受け継いでくれるか?」

 

「!? も、勿論だよ!! 断れる訳ないだろ!?」

 

「……だったらハンネスさんは……最初から……」

 

「あァ。どうやら……死ぬ程 消耗しないと引き継げないっぽくてな……たっぷり……殺してやったぜ……」

 

「おいミカサッ! 今度こそ誰か呼んで来い!!」

 

「わ、分かった!」

 

「……後は任せたぜ……エレン……扱いには、気をつけろよ……」

 

「ハンネスさーーーーんッ!!!!」

 

 

瀕死のハンネスの左腕が落ちる寸前に、彼の腕輪が輝いたと思うと互いの手を通してエレンの左腕に収まる。

 

腕輪のサイズは全く違う筈だったが……不思議と大きさが修正されており、チカラが彼を認めた証拠だった。

 

だがエレンは腕輪の変化には目もくれず、安らかな様子で瞳を閉じたハンネスを案じ大粒の涙を零していた。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……それから2年後。

 

父親のグリシャは行方不明のままだったが、3人で励まし合って生活し何とか心の傷も癒えてゆく中。

 

ハンネスの犠牲により調査兵団を目指す事を改めて決めたエレンは、ミカサと共に当然 訓練兵と成った。

 

"あの事件"の翌日には既にカルラは反対していなかったのは さて置き。

 

更に3年が過ぎると早くも2人は訓練兵を卒業する時期と成り、各々が整列し上官の発表を待つ。

 

 

「では最も訓練生指揮が良かった上位10名を発表しよう。呼ばれたものは前へ」

 

『…………』

 

「主席。エレン・イェーガー。2番。ミカサ・アッカーマン。3番……」

 

 

5年前の地獄を乗り越えてハンネスの意志を継いだ2人の子供は、どうやら立派に成長を遂げた様だ。

 

得にエレンは他の同期の追随を許さない成績を維持し、腕輪の力で肉体の基本性能も強化されている。

 

されどハンネスの様に姿を変える事は出来ない為、未だ実力が足りないと努力するのだから敵い様が無い。

 

 

「(まだ変身は遣ろうと思っても全然 出来ないけど……もっと俺もハンネスさんに近付けば!!)」

 

「(エレンには届かなかったけど……絶対に足手纏いにはならない……今度は私が守ってみせる番)」

 

 

――――このい数日後・内地の某所に手紙が届く。

 

 

≪ガサッ≫

 

 

「あんた~ッ、食事出来たわよーッ!」

 

「ほぉ。アイツら遂に遣りやがったか」

 

「ちょっと聞いてるの!? 5年前の働きで沢山お金は貰えたけど、最近ダラけ過ぎてるんじゃない!?」

 

「悪ィ今行く! ……ったく死にそびれるとは思わなかったぜ」




ふと夢で見た話をSSにてしまいました。恐らく原作の再構成で、超不定期更新に成ります。
変身ヒーローの元ネタはMUGENのオリジナルキャラで非常に有名なドラゴンクロウです。
とりあえずニコ動やピクシブ検索すれば一発で出てくるので、知らない方は是非見て下さい。

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