「あ、やっべ」
四時間目が終わった昼休み。
いつも通り鞄から弁当を取り出そうとして、その弁当が無いことに気付いた。
「蒼空、どうしたの?」
「ああ、弁当忘れちまった。仕方ないし、購買でパンでも買ってくるから、先食っててくれ」
ヴィーネにそう言い、財布を手に購買へ向かおうとする。
「あ、じゃあさ、今日は学食行ってみない?」
「学食?」
「うん。一度行ってみたいの」
「なるほど…確かに俺も興味はあったし、行ってみるのもいいか」
「じゃあ、決まりね」
席を立ち上がり、隣のガヴも誘おうと声を掛ける。
「ガヴ、俺とヴィーネ、今日は学食に行くつもりだけど、お前も来ないか?」
だが、ガヴは上の空で髪の毛を弄っていた。
「ガヴ、どうした?」
「具合でも悪いの?」
心配になり声を掛けると、ガヴは溜息を吐いて話し出す。
「私たちってさ、人間界に来て暫く経つでしょ。それで、実際来て思ったんだけどさ…………人間ってこんなに沢山いらなくね?うじゃうじゃウゼェ……」
友人(天使)に、存在を否定された…………
「天使の言葉とは思えない台詞ね……それより、今日のお昼は学食に行かない?」
「学食!?あそここそ、人間のたまり場じゃん!そこに自分から行きたいって、ドMなの?」
「違うわよ!」
「まぁ行ってもいいけどさ、学食ってお金掛かるでしょ?幾らまで出してくれんの?」
「なんで奢ってもらう前提なんだよ……」
「それと、サターニャも誘おうと思うの」
「サターニャも?………そう言えば、サターニャっていつもどこで食べてるの?」
言われてみればそうだな。
昼休みになると、教室にサターニャの姿は無く、何処かに行ってるみたいだ。
幸いにも今日は、まだサターニャは教室にいる。
サターニャの方を向くと、サターニャは辺りを警戒する様に確認し、そして何処かへと向かった。
「なんか挙動不審に出て行ったな」
「追ってみましょうか……」
サターニャの後を付けると、サターニャはどんどん人気のない所へと移動し、そして屋上に繋がる階段の前で止まる。
そして、階段に座ると持ってきた包の中からおにぎりを出して食べ始めた。
まさかのぼっち飯………
いや、人気のない所に移動した時点である程度察してはいたが。まさか本当にぼっち飯だったとは………せめての救いは便所飯じゃないことだ。
「アイツ、いつもこんな所で食べてたのか……」
「こんなことなら、もっと早くに気付いて上げるべきだった……」
「今からでも遅くないし、誘おう」
俺たちは頷き合うと、サターニャに近づく。
俺達に気付いたサターニャは驚く。
「うわああっ!?ガヴリール!?ヴィネットに蒼空!?何でここに!?」
驚き出すが、すぐに自分の今の状況に気付き慌てておにぎりを隠そうとする。
だが、うっかりおにぎりをまだ手を付けていないおにぎりと共に落とす。
「あっ!?」
「何やってるんだよ…」
「くっ……甘いわね!私にはまだ奥の手があるんだから!」
そして、今度はメロンパンを取り出す。
「ワン!ワン!」
すると何処からか白い犬が現れ、サターニャのメロンパンを奪い、何処かへと逃げて行った。
「ああっ!?」
「奥の手がなんだって?」
「なんで犬が………」
「サターニャ……ドンマイ」
サターニャは悲しみに暮れ、膝を付く。
「サターニャ、ごめんね。一緒に食べる人がいなかったんだね」
「なっ!?いや、えっと、その……別に一緒に食べる人がいなかったわけじゃなくて、むしろ私は一人で食べたかっただけで、下等生物共と集団で食べること自体愚の骨頂って言うか!」
「落ち着け」
涙目でそう言うサターニャを見ていられず、俺はサターニャを止める。
「これからは一緒に食べましょう」
「だから違うって!そう言うの別にいいから!」
「いや、でも本当にサターニャを誘いに来たんだが」
「え?私を?本当に?」
「本当」
「冗談じゃなくて?冷やかしじゃなくて?」
「どんだけ疑うんだよ……」
誘われたことが嬉しいらしく、サターニャは嬉しそうな顔をする。
だが、すぐに自分が締まりのない顔になってることに気付き、いつもの調子に戻る。
「私は孤高の悪魔、胡桃沢=サタニキア=マクドウェル!魔界の支配者になる者!そんな私が群衆の中で食事を摂るなんて笑止千万!貴方達とじゃれ合ってる暇はないのよ!」
「じゃあ三人で行くか」
「う、うん」
「寂しくなったらいつでも来いよな」
「ちょっ……!?こ、今回は特別に行ってあげてもってちょっと!待ちなさいよ!」
「ここが学食かぁ」
「美味しそうな匂いが……人は多いけど」
「へぇ~、こうなってるのか」
学食に着くと、上級生や同級生が入り乱れて席に座り、昼飯を食べていた。
学食なんて初めてで少し新鮮だな。
「まずは何をするのかしら?」
「ふふ、どうやら私の出番の様ね」
「サターニャ、学食に来た事あるのか?」
「初めてよ!でも、この学校の形態は既に掌握しているわ!これも全て、我がライバル、ガヴリールに後れを取らない為にね!」
「お前って……本当にバカだな」
「バカって言うな!」
ガヴにそう言うとサターニャは自信満々に俺達を食券の券売機の前まで連れて行く。
「この券売機でまず食券って言うアイテムを購入するのよ!」
まぁ、なんとなく分かってはいたけど、折角サターニャがやる気なんだし、見守ってやるか。
「サターニャ先にやってよ」
「私達よく分からないし」
「お安い御用よ」
そう言ってサターニャは券売機の前に立つが、結構メニューが多くある為、どれを買えばいいのか迷っていた。
迷った末に普通のうどんを買った。
そして、何を思ったのか“まとめ買い”ボタンで四人分のうどんの食券を買っていた。
「なんで私たちまでうどんを食べないといけないのさ?」
「あ、貴方たちの分まで買って上げたんだから、感謝なさい!」
「まとめ買いって文字が読めなかったのか?罰としてお前の奢りな」
「そんな!?」
「もう許してやれって」
「それより、ガヴ。割りばし取って」
「うん……はいよ。蒼空とサターニャも」
「ありがとう」
「サンキューな」
ガヴから割り箸を投げ渡され、それをキャッチする。
だが、サターニャは割り箸をじっと見つめ、ガヴに文句を言った。
「ちょっと!これ一本でどうやって食べろって言うのよ!嫌がらせ?」
「は?もしかしてサターニャ、割り箸知らないの?」
「それ、半分に割って使うお箸なのよ」
「そ、そうだったわ!こんなの常識中の常識よね!」
サターニャは誤魔化す様に笑い、そして、割り箸を横に割った。
「どうしてその形状からそう割ろうと思った………」
「いいから食べなさいよ!」
サターニャが改めて新しい割り箸を割ったのを見て、俺たちもうどんを食べ始める。
「うん、美味しい!」
「これは中々……」
「あの値段でこの味か……文句なしだな」
うどんの味に舌鼓を打つ中、サターニャは一人ドヤ顔していたが、ある物を見つけた。
「ん?ななあじ……からこ?」
「七味唐辛子な。それ、七回掛けると丁度いい辛さになるんだぞ」
「ち、ちょっとガ――」
ヴィーネがガヴに注意しようとするが、ガヴがヴィーネの口を押える。
「サターニャ、掛け過ぎると辛過ぎて食べれなくなるから……って遅かったか……」
俺が注意する前に、サターニャは七味唐辛子を掛けていた。
「振り方が甘い。やり直し」
「そう?一、二、三、四……」
「もっと大きく」
「一、二、三、四、五……」
「もうワンセット」
「随分沢山かけるのね」
ガヴの言葉を鵜呑みにし、結局サターニャのうどんには七味唐辛子がたっぷりと掛かっており、スープが若干赤く染まっており、白いうどんの面にも赤い粒がびっしり付いていた。
「なんか七回処じゃ済まなくなったけど、まぁいいわ。いただきます」
そう言って、サターニャは七味まみれのうどんを啜る。
「んっ!?」
「ちょ、大丈夫!?」
「水飲むか!?」
俺とヴィーネは思わず立ち上がり、サターニャを心配する。
だが――――――――――
「美味しいっ!」
「「「えっ!?」」」
これには俺とヴィーネだけでなく、ガヴも驚いていた。
「辛さがうどんの味を引き立ててるわ。悔しいけど、中々やるわねガヴリール」
「そ、そうでしょ………もっと面白い反応を期待してたんだけどな……」
「サターニャが味音痴でアテが外れたわね」
「意外な形で負けたな」
苦笑していると、サターニャはガヴのうどんのどんぶりを掴み、自分の手元に引き寄せる。
そして、七味をたっぷりと掛け始めた。
「ガヴリールのにも掛けてあげるわ。七回じゃ足りないわよね」
「うわー!止めろー!」
ガヴの叫びもむなしく、ガヴのうどんには大量の七味が掛けられていた。
「どうしろってんだよ、これ………」
七味まみれのうどんを前に、ガヴは呆然とする。
自業自得とは言え、流石に可哀想だな。
「ガヴ、俺のうどんと変えてやるよ」
「え?いいの?」
「辛いのは割と平気だし、それにお前も無理して七味まみれのうどんは食いたくないだろ?食い掛けだが、まだ一口だけしか食ってないから大丈夫だろ?」
「頼むわ」
そう言ってガヴから七味まみれのうどんを受け取る。
ついでに割り箸も一緒に受け取る。
「あ、ガヴ。割りば―――」
「ん?ろうひた(どうした)?」
既に俺の割り箸で、俺のうどんを食っていた。
流石に新しい割り箸を割るわけにもいかないし、このままこの箸を使うか。
ガヴが使っていた割り箸を使い、七味まみれのうどんを啜る。
うん………辛いし、噎せる…………
(あれ?今更だけど、私、蒼空と間接キスしてね?…………まぁ、子供じゃあるまいし、間接キス程度で騒がないっての。………騒がないけど……なんか顔が熱いような………風邪か?)