空の花《チェロ・フィナーレ》ただいま更新停止中 作:雪宮春夏
さて、今回読んでみると分かると思いますけど、この物語、春夏としては原作と比べて随分雰囲気変わっているなぁと感じています。まぁ、これが二次創作の醍醐味ですよね?(オイ!)
ブーイングは受け付けませんので悪しからず。
一応アンチ・ヘイトはつけようと思います。
イタリアンマフィア、ボンゴレファミリー十代目の右腕、獄寺隼人の朝は早い。
彼の朝の日課は起床後、軽いランニングがてらの見回りから始まる。
事務が苦手な者が多い十代目守護者達の中で、十代目の傍近くに仕える関係もあり、どうしても獄寺は事務仕事が多い割合となってしまう。しかしそれで体が鈍り、いざという時に十代目の守護に支障を来してしまっては守護者の名折れである。
そんな理由と実益を兼ねたランニングはボス業を主である綱吉が継いでから……もう一年近く続けていた。
ランニングを終えた獄寺は出発する際に持って出たミネラルウォーターで水分を補給しながら、主の起床前にも関わらず、随分屋敷が騒がしくなっていることに気付いた。
近くにいた給仕の人間にウォーターボトルを返しがてら尋ねると、彼女からは思いもよらない言葉が返ってきた。
ピーピーピーピー
耳元で何度も同じボタンを押しているような、そんな電子音が聞こえた。
やけに大きなその音は、どこか俺の心をざわつかせ、おかしな感じにさせる。
ぼんやり夢心地な思考で、起きないとと俺は思案を始めていた。
電話だったら出なきゃいけないし、目覚ましだったら止めないといけない。
(あれ? でもいつも隼人が起こしに来るから俺目覚ましなんて一つもこの部屋には置いてないし、ボスになってからは隣の部屋に必ず人が詰めてる生活だから電話だってもう持ち歩いてないんだけど……)
不審に思いながらも、途切れる様子も無く鳴り続けるそれにいい加減俺の我慢も限界になる。布団から出るのは癪だが、ここは大人しく出て、鳴っている音を止めてから二度寝しよう。そう決意して、目を開けようとした俺は……その瞬間、強烈な殺気を感じて飛び退いた。次に俺が受け取った刺激は、今まで俺が横たわっていた地点に、ジリッという音と共に発生した、何かが焦げたような匂い……サイレンサー付きの銃による発砲が行われた証拠である。
「ほぅ。安心したぞ。まだ感は鈍ってねぇみてぇだな」
隙間が空いていた扉を開き、そう俺に声をかけてきたのは、まだ五歳にも満たない幼い少年だった。
虹の代理戦争……それは今から四年前のこと。俺がボス業に就く前に、最後に関わった大規模な戦闘で、その内容は、嘗て「最強の7人」という呼び名を冠された、七人の「最強の赤ん坊」アルコバレーノの代理人が、彼らが主催者である鉄仮面の男、チェッカーフェイスにかけられた、虹の呪いを解くためにバトルロワイヤル方式で、戦いあうと言うものだった。
勿論うまい話には裏があるという格言通り、主催者の狙いはその呪いを解くことでは無い。
彼らの人脈を使って、新たに呪いをかける次の「最強の7人」を選出させる為の猿芝居だったのである。
その行為はその一度だけで無く、俺が生まれる遙か前から何度も繰り返して行われていたもので、中にはその呪いを受けながらも生き残った者達もいた。それが「マフィア界の法の番人」と呼ばれてた復讐者である。
彼らはチェッカーフェイスが自ら次の「最強の赤ん坊」を生み出すために呪いをかけるタイミングで、彼に一矢報いる為に、無断で虹の代理戦争に参加した。
彼らはチェッカーフェイスを殺すために、当時呪いにかかっていた七人を道連れにしようとしたのだ。
俺はそれに反発し、彼らの野望を阻止するために、他の六人の代理人達と合同で連合を作り、復讐者達に打ち勝った。
また、新しく呪われるものを出さないためにも、何人かの人々の力を貸して貰ったのだが、そこは長くなるので割愛するとしよう。
とにかく、そうして、新たな呪いの犠牲が生まれることも無くなり、役目を終えた当時のアルコバレーノ達も、呪いを解かれ……成長を始めた。
その一人がここにいる彼、リボーンである。
「……というか、リボーン。俺が気付かずに銃が当たっていたら、お前どうするつもりだったんだ?」
「そん時はおめぇが死ぬだけだぞ。俺に殺される程度の実力なら、抗争でも余裕で死ぬだけだろうからな」
フッと、シビアな笑いを零す家庭教師は、いつの時代も俺に関しては嫌になるほど厳しい。最もそうして貰わなければ、ここまで生き残ることは出来なかったであろうという自覚がある俺には、文句など言えるはずも無い。
そんな事を考えていた俺に構わず、リボーンは顔を顰め、「それで……」と続けた。
「さっきからピーピーピーピー喧しいが一体これは何の音だ? 昔みてぇに夜寝ながらゲームしてたんじゃねぇだろうな?」
些か呆れたような口調で例えとしてあげたのは、今から四年前はよくやっていた行為で。
暗に「成長していないのか?」と詰られているのと、同じである。
「あのなぁ。いくら俺でももうそこまで子どもじゃ無いっての!」
そう声を荒くする俺に、どうだかなと鼻で笑うリボーン。怒りを覚えつつもいつも通りの彼に俺は少しホッとする。
俺がボンゴレファミリー十代目を継いだ時に、リボーンと当時のボンゴレ九代目が交わした俺をボンゴレ十代目に育てるという契約は終了した。
元からリボーンは、ボンゴレ所属の人間ではなく、あくまでフリーでボンゴレに雇われていただけという立場。
契約が解ければ自然と、その縁は切れるのが道理というものだろう。そうして俺の予想通り、リボーンは滅多にボンゴレへ……俺の元へ足を向けなくなった。
そのリボーンが何の連絡も無く、いきなり現れこの言いぐさなどだから、怒るよりも変わりない姿にホッとしたと言うのが正しいのでは無いだろうか。
しかしそんな俺個人の感傷など、この唯我独尊我が道を行くが標準装備のリボーンに、考慮して貰える筈がなく、物思いに耽っていた俺は米神に当てられた冷たい鉄の塊の感触で、現実を……無論、彼が怒りを抱いているという危険な状態である事を思い出した。
普通なら、自分よりも体の大きな相手に銃など向けることは出来ないだろう。
しかしそこは嘗て赤ん坊であったことの数少ない強みか。何せ彼にとっては、あの頃己よりも大きな体は当たり前である。
当然五歳児になった現在においても、そのハンデは大して変わらなく……結果、子どもの体で大人を圧倒すると言う仰天事件が起きるのだ。
「ボ、ス。俺が何を言ったか、分かっているな?」
ちゃきりと当てられた銃口が、冗談では無いことを示している。現実に戻った耳には確かに何から発せられているのかは分からないながらも、朝から止まることの無い、ピーピーという音が鳴り響く。
よくよく耳を澄ますと、それは俺の寝台のすぐ近くから聞こえているようだった。
何度も銃で小突いてくるリボーンに、急かされるように辺りを探ると、その音源は直ぐに見つかったが。
「……何これ?」
「往生際が悪ぃぞ。やっぱりガラクタじゃねぇか」
カチリと、撃鉄を起こす音に、思わず俺は非難の声をあげる。
「ちょっと待ってよ! 誰が置いたのかは知らないけど、これ俺のじゃ無いって!!」
そう言い募る俺が掲げて見せたのは、掌サイズの十字架だった。
いや、バランスが大分悪いので、一見十字架のように見えるものの、よく見ればこれは小刀の形をしているようだった。
ルビーのような鮮紅色のガラス製で、握っている手はヒンヤリとした冷たさを伝えている。
鞘に入った状態を模して作られているが、刀としての形は前述の通りどこか不均一だった。
刀の切っ先ー
さながら、十字架を模しているかのように。
「ふざけんな! テメェじゃなきゃ誰がここにものを置く! この部屋は基本ボスにしか使われてねえんだぞ!?」
強い口調で詰問するリボーンの表情は以前見慣れたポーカーフェイスと異なり、どこか苛立っているようにも見える。その理由は俺には分からなかったが、長年の習慣から余計な刺激しない方が良いことは分かる。
リボーンを苛立たせていた音源を見つけたには良いものの、一向に止める気配が無かった俺にも非があったのかもしれない。
今にも引き金を引きそうなリボーンを何とか宥めながらも、根本的な原因である音を止めようと手に持つそれをいじくり回すが、ボタンの一つも見あたらない。
目に見えて狼狽える俺にとうとう堪忍袋の緒が切れたのか、リボーンの指は迷うこと無く引き金を引いていた。
死ぬ気弾を撃たれたことなら何度もある。しかし純粋な殺気を帯びた目で睨まれ、実弾の銃を向けられた経験は気づけば一度も無かった。……だからこそ俺は避ける事が出来なかったのだ。
頭の中で鳴り響く超直感が、何かがおかしいと訴えていたのもあったのかもしれない。
サイレンサー付で銃声が消されていなかったら、今頃警備の人間が雪崩となって押し寄せていただろう。
さて、撃たれたはずの俺が何故吞気にこんな言葉を並べられているかと言うと。
「全弾、外されてる……!」
そう。部屋中穴だらけにはなったものの、俺自身には掠り傷一つ無い。因みにリボーンは銃をぶっ放す事で気が済んだのか、既に俺の視界からは消えていて、あの音もいつの間にか止まっていた。
「た……助かったぁ」
しかし俺の体は、突然襲われた緊張の連続で糸が切れたのか、ヘロヘロと体から力が抜けていた。
できればこのまま再びベットにダイブしたい所だが、残念なことにそれは難しいと言わざるを得ないだろう。
時というのは無情である。
(……というか、本当にこれ、何なんだ?)
一息つきながら、改めて俺は手の中にあるガラス製の一品に意識を戻した。
昨日の朝までは無かったはずだ。それは間違いないだろう。
そして俺は、こんな壊れ物を部屋に持ち込んだ記憶は無い。しかし。
(……昨日の夜、思い当たるものがあると言えば……)
そこまで考えた俺は、ふと視線を感じ、窓の外を眺め……それを見つけた。
「よっ!」
邪気の無い顔で片手をあげる、自称天使様を。
己はあまり良い印象を持たれていない。だからこそどうするかを思案したアクセスはなるべく親しみさを持たれるように、フランクに接してみようと試みて……現在死に目に会っていた。
「さぁて……説明、してくれるよね?」
語尾は疑問系になっているが、そこから発せられる雰囲気はどう見ても強要だ。意訳するならば、キリキリ話せが適切だろう。
ニッコリと笑う姿は一見愛らしいが、その笑みを向けられるアクセスはその背後に悪魔以上の恐ろしい何かを見た。
「……何か、人選間違ってねぇ? 本当にこいつ、清い心の持ち主かよ?!」
思わず最後には悲鳴をあげるアクセスに、俺は自然と冷めた態度で接していた。
「いや、先ず曲がりなりにもマフィアに清い心求めるそっちが間違ってると思うけど?」
寧ろ、十代の若さでボンゴレの業を継承した俺から見れば、清い心ではマフィア界では生きてはいられないだろう。
リボーンを含め、あらゆる者から甘いと評された俺とて、敵対する者には容赦することは無い。
それがマフィア界での常識である。
「そんでね。悪いけど俺、君を味方だとは今の所思っていないわけ。だからさ。話す気無いなら容赦なく拷問するけど……」
良い?と尋ねる前に、アクセスは自ら口を開いていた。
「話します!どうか話させて下さい!!」
どうやら天使と言えども、痛みには恐怖を覚えるらしい。
アクセス曰く、その十字架は俺が怪盗となるための専用アイテムであり、同時に武器なのだと言う。
併用で通信機能と、悪魔探索機能もついており、アクセスからの通信が入った時は「ツー」と、悪魔が、若しくは悪魔が憑いた人間が近くにいる時は「ピー」と音が出るらしい。
「……って、ピーならさっき、煩いくらいなってたけど」
十字架を見ながら俺は呟くが、その答は何となく分かっていたのかもしれない。
「あぁ。俺も見たけど、あのガキ悪魔が憑いてるぞ! 怪盗の出番だな?」
「ちょっと待てぇ!!」
放っておけばとんとん拍子で話を進めそうなアクセスを引っ掴み、俺が向けたのは疑念の目だった。
頭を過ぎったのは巨大な不信感だ。
あまりにもアクセス達……ひいてはその上にいる自称神様とやらに良い方向に、話が進みすぎている。
(そう。……自作自演を疑っても良いぐらいには……!)
しかしアクセスは嘘をついていない。それは悲しかな、俺の超直感が雄弁に語ってくれている。つまり、彼のいうガキ……リボーンに悪魔が憑いたのは確かなのだろう。問題は……。
「その悪魔を憑けたのがその神様本人じゃないのか? 俺に怪盗をやらせる為に憑けたわけじゃないって証明をお前はできるか?」
問い詰めながらも俺は内心その答を分かっていた。
「な……! 何言ってんだ!! 神様がそんなことするわけ無いだろう!?」
「聞いているのはお前の感情論じゃ無い。お前が証明できるかどうかを聞いているんだ」
努めて冷静を装いながらも、俺は証明できないことを確信してしまった。
唯でさえここにいるアクセスはその神様の配下で上の不正を知ることは難しい立場だ。
そしてこの言動を見る限り、アクセス自身も神様とやらに全幅の信頼を寄せている。その可能性を考えることさえ出来ない時点で相手にとってはこれほど使える手駒は無いという者だろう。
「十代目? まだお部屋ですか?」
アクセスと俺しかいない、何とも口を開きにくいが故に沈黙が生まれてかけていた部屋の中に声がかかったのは、この時だった。
声を聞くだけで、それが俺の右腕を自称する嵐の守護者、獄寺隼人だと分かる。
「……良いよ。入って」
迷うこと数瞬。
俺の行動は早かった。
「お……おい! どういうつもりだよ! 綱吉っ!?」
ぼけっとしていたところを突然俺の手に捕まれたアクセスは声をあげる。しかし俺はそれを気にすることなく、入ってきた隼人の眼前に突き出したのだ。
「……どうしたんすか? その手」
それを見た隼人が俺の手と俺を見比べてから困惑も露わに問いかけてくる。
「何って……見て分からない?」
その反応に、困惑したのは俺の方だ。出会った四年前……中学の頃から隼人は不思議なもの……俗にUMAに該当するものに目が無い。自称天使のアクセスなど目の色を変える代物だろう。
しかし俺の予想に反して隼人は困惑した表情のまま、すいませんと謝ってくる。
「その手……どうかしたんすか? 十代目……はっ! まさかリボーンさんに何か!?」
慌てて隼人が手を開いた瞬間、風を切るかの勢いでアクセスが上空へ飛び立った。
(まさか……)
しかし慌てて手の様子を確認する隼人には悪いが俺はそれどころでは無かった。
隼人の様子からアクセスが単なる悪戯の産物である(にしては最初からかなり手は込んでいるが)可能性がグンと減る一つの仮説に辿り着いてしまったからだ。
「見えてないぞ。普通の奴らには俺達天使は見えないんだ」
ご丁寧にもアクセス自身がその仮説を証明してくれた。
「大丈夫ですね。……良かった。リボーンさんが姉貴にあのような態度を取ってらしたんで、もしや十代目にも同じように接せられたのでは無いかと心配だったんです」
目に見えてホッと胸をなで下ろした様子の隼人の言葉に、俺は目を丸くした。
「え? ……ビアンキも来てたの? ……って言うか、あのような態度って……?」
俺の言葉に目に見えて、隼人は慌てていた。まるで俺に言ってはいけない事を言ったというように。
俺はこの時、迷いなく実弾を俺に撃ち込んだ(全弾外していたとは言え)リボーンに、最初違和感を覚えたことを思い出した。
「話して。隼人……ビアンキは一体何をされていたの?」
俺の強い口調に引く気はないことは分かったんだろう。
隼人は小声でそれを話し始め。
俺は……嘗ての彼ならば決してしなかったであろうその行為に顔を強ばらせた。
『マフィアは女を大事にするもんだぞ』
ことある毎に彼が口ずさんでいた彼の信条の一つ。況してやビアンキは何年も長く共にいた愛人だったはずなのに。
「ビアンキが体中に青痣拵えていたって……リボーンが、人の面前で力の限り蹴りつけてたって言うのかよ……!?」
顔面から見る見るうちに血の気が引いていくように感じた。
思わず唾を飲み込むと、カラカラに咽が渇いていることを嫌でも自覚してしまう。
「はい。……何とかここでの暴行は俺が間に入って止めて貰ったんですが……そうしたら俺に銃弾が飛んできました……余計な事はするな。それよりも十代目のことをもっとしっかりさせろと、逆に怒らせてしまいましたが……」
その時の事を思い出したのか、隼人の表情は暗い。俺は隼人に感づかれないように目をアクセスに向ける。
「……悪魔が憑いた奴の性格は豹変することが多い。悪魔は憑いた人間の心を蝕み、己の養分として取り込んでいくんだ」
俺の手が届かないように天井近くの突起に腰掛け、アクセスは俺を睨みつける。
「どうする気だよ。綱吉」
それに続く言葉は想像するのが容易くて、俺は唇を噛み、俯くことしか出来なかった。
「あのガキを助ける為に悪魔を封印出来るのはお前しかいないんだぞ……!」
彼らの敷き詰めた、俺を怪盗にするための包囲網は、俺の意思に関わらずにとうに逃げられない物になっていたのかもしれない。
この分また間空くのが長くなるのかなぁ、と自分でも少し心配しています。
一話当たりの文字数が中々安定しない。
あんまり気にすることでも無いのかもしれませんけど……。