MA-RIONETTE   作:Stupido

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こんにちは、Stupidoです。



無意識の赴くまま

 

PM17:50

 

  「買い忘れはないな...よし」

 

 自宅近くのスーパーをでて、妹に渡されたメモと腕に下げているレジ袋の中身を確認する。人参、玉ねぎ、固形カレールー...今夜は多分カレーだな。

 外は夕暮れの橙が空を染め、足早に帰路につくサラリーマンや、楽しそうに喋りながら歩く学生の姿が見てとれた。

 人通りの多いスーパー沿いの商店街を、少しだけ足早に通り抜ける。時刻は六時前、日が完全に沈むのも時間の問題だった。

 午後の講義のあとで高校時代に良くしてもらっていた陸上部の先輩―といっても俺は陸上部ではなく帰宅部だったのだが、友人の先輩ということで知り合い、勉強などの面倒を見てもらった事もある―から部活のお誘いを受けて見学していたらこんな時間になってしまった。断ればよかったのだが、入る部活も決めていなかったし見学だけでも...という考えで、すっかり買い物を頼まれていたのを忘れていた。

 が、一通の連絡が来たことによって思い出したのだ。

 

 『晴香:去勢 (17:40)』

 

 たった一言でここまで恐ろしいものもあるまい...見た瞬間全身に鳥肌がたち、全てを思い出した...というか、思い出さなくてはいけなかった。

 そして、急いでスーパーに駆け込んで今に至る。

 

 進学した公立大学からスーパーまではおよそ10分程度の距離で、スーパーを挟むように商店街が直進ルートを貫いている。この商店街を抜け、少し路地を進むと自宅のあるマンションへ着くのだが、商店街を抜けたあたりは人通りが少なく、車がほとんど通らない一車線道路が真っ直ぐ伸びている。生々しいバブル期の遺産のようなシャッター街だ。

 その通りを通ればかなり早く家に着くことが出来る。早く帰らねば去勢されてしまう...ッ!流石にそれは避けなければというか、妹に去勢されるのは何としても阻止しなければいけない。勿論、妹でなくともだが。

 段々と客寄せの声も少なくなってきた頃、丁度シャッター街のところまで来た。

 所々点滅する街灯の下をくぐって家路へと向かう。

 ここまでくると人通りはほとんど無く、かなり不気味だ。どこからヤのつく怖い人たちが飛び出してきても不自然ではないだろう。しかしそれなりに治安の良いこの地域ではまず有り得ないだろうが...

 

 (そう言えばここ、小中と通学路から外されてたんだよな...)

 

 自宅から歩いて20分ほどの所にあった小中一貫教育の学校には、この道を通って商店街をまっすぐ抜けると半分の時間短縮ができるのだが、この雰囲気がいけないのか通学路として使うことが出来なかった。遅刻しそうになった時はお世話になったものの、この独特の感じ、慣れないな...

 最近の映画で似たようなところを見た気がするな…寄〇虫だっけ…なんとなくその時の状況を思い出してより警戒心を強めてしまった。しまった、気を紛らわせようと思ったのに。

 

 「あ!居た!」

 

 「わぁぁっ!?」

 

 警戒心バリバリで歩いていた俺に、突然背中からかけられる声。驚きすぎてレジ袋を落としかけた。涙目になりそうな中腰で、後ろを振り向いたところで声の主が妹の秋 晴香ということに気づく。不思議そうな顔でこっちを見ていた。

 

 「は、晴香か...驚かせるなよ...」

 

 「意味わかんない...」

 

 まだ心臓がバクバク言ってるよ...無理やりお化け屋敷に入れられた時を思い出してしまう。ホラーやオカルトの類がかなり苦手な俺にとって、お化け屋敷とか廃墟とかこういう寂れた雰囲気は厳しいのだ...誰にも聞こえない心の中でそう言い訳をする。

 息が荒い俺を見て嘆息する晴香。今年から高校生だというのに幼さの抜けきらない可愛い部類の顔立ち、同年代の中でも小柄な体躯。着ているのは近くのN高校の制服だ。どうにも着られている感が拭えないのは仕方ないのかもしれない。

 やれやれ、という風に肩を竦めると、右手に持っていたレジ袋を見せてきた。

 

 「それより遅かったじゃん。買い物私行ってきたよ」

 

 「え、あ、マジで?」

 

 「うん...ってお兄ちゃんも買ってきたの?」

 

 「あー、うん。すまん」

 

 俺の持っているレジ袋を見て一瞬驚いたような顔をして、ふっ、と口元に優しい微笑を浮かべて「いいよ、私が連絡しなかったのも悪いしさ」と言った。

 

 「ただ遅くなるならちゃんと連絡してよね?」

 

 「うっ...すまん」

 

 完全に買い物のことを忘れていた上に、遅くなる連絡も入れなかったのは不注意にも程がある。しかも妹にまで心配をかけてしまったし、気をつけないとなぁ...

 

 どうも今日は妹の機嫌がいいようで、他愛もない会話をしながらバブル街(仮)を抜けた。いつもなら先に帰るとか、そんな事を言い出すくせに今日は何故かニコニコして会話を振ってくる。

 

 「今日学校で何か用事でもあったの?」

 

 「いやまあ、陸上部の先輩に見学に誘われてな」

 

 「...ふーん、もしかして女の人?」

 

 「うん?うん、そうだけど」

 

 「...ふーん」

 

 「な、何だよ」

 

 「べっつにー」

 

 突然ふてくされるのはいつものことだ。話を振っておいてべつにーって...と思わない訳では無いものの、そこに突っ込めば確実に怒られる。妹といえども女の子の気持ちはよくわからない。

 

 そんな普段よりも楽しそうな晴香に、笑みがこぼれてしまう。中学生の頃にいきなり「お兄ちゃんなんて大っ嫌い!二度と顔合わせないで!」と突然殴ってきたヤツと同一人物だとは思えない。...風呂上がりに腰に巻いてたタオルが丁度晴香の目の前で落ちたくらいでさ...家族なんだからいいだろ...

 そんな俺の表情に気づかず、今日何があったとか、埋め合わせしてよねとか、他愛のない会話をする晴香。それに応えながら、俺は不思議と不安に襲われていた。昔もこんな...あれ?なんだっけ...

 

 

 思い出すのは過去の記憶。

 

 

 拭いきれない失敗の記録。

 

 

 いや、考えるまい。考えるまい。

 思い出そうとする頭を必死に理性で押さえつける。

 それが何故かはわからない。ただ、思い出してはいけないことのような気がした。

 

 「どうしたの?お兄ちゃん」

 

 「いや...何でもない」

 

 晴香の声ではっとする。「そっか、それでね」と話を続ける彼女の言葉は最早半分も入ってきていなかったが、僅かな理性で相槌をうちながら全く別のことを考えていた。否、考えることを拒むように考えていた。

 2、3回頭を振って、現実に焦点を戻す。

 どこからか、微かに香る雨の匂い。そろそろマンション前の一方通行道路に差し掛かるというところで、空は薄暗くなり星々は厚い雲に覆われていっていた。

 今日の予報では夜から雨が降るはずだ。流石にそれまでには帰れると思っていたから、折りたたみ傘は家に置いてきてしまっている。

 

 「あっやば!雨降ってきちゃう」

 

 「もうちょっとで家だし気にすることないだろ」

 

 洗濯物干しっぱなしなの!という晴香の怒り方に(主婦か)と心の中でツッコミを入れる。

 なんとなく、話が途切れてしまった。沈黙が続いていたところで少し気まずくなって、こちらから話を切り出してみることにした。

 

 「そういえば、あのメッセージ酷くないか?去勢って...女の子がそんな言葉使うなよ」

 

 するとあっけらかんと晴香は言い放つ。

 

 「あ、そう?でも危機感は煽られたでしょ」

 

 「まあ、そうなんだが」

 

 「そもそもお兄ちゃんが変なメッセージ送ってくるからじゃない...全く」

 

 ん?

 

 「え?俺何も送ってないぞ?」

 

 「何言ってんのよ、もうボケ始まってるんじゃない?」

 

 んん??

 

 「ほら、これこれ」

 

 見せられた晴香の携帯には、俺がメッセージを受け取るおよそ五分前、17:35分に来たと思しきメッセージが、確かに俺と晴香のトークに送信されていた。

 

 『お兄ちゃん:また明日 (17:35)』

 

 しかし、当然俺は送っていない。その時間はまだ部活動の見学をしていたはずだ。

 ここで、まず浮かんできたのはクラッキング、もしくは遠隔操作ウイルスによる他人のいたずらだ。だが、この可能性はすぐに消えた。まず、このメッセージからして意味がわからない。何らかの意図があるにしてもそれならもっとダイレクトに変なことを言ったりするだろう。それに、その場合俺の携帯に入っているウイルスチェックアプリに何らかの反応があるはずだ。機械には詳しくないが、恐らくは。

 次に浮かんできたのが、本当に忘れている可能性だ。流石に18でボケが始まるとは思いたくないし、思えないのでこれも違うのだろう。

 

 なら、誰だ?

 俺じゃない俺...厨二病とか二面性とかそういうのがあるわけでもない。

 

 足は動かしながらも、俯いて1人で考えこんでしまった俺に、晴香が呆れたように

 

 「変なお兄ちゃん...」

 

 ハァ、と大きくため息を吐いた。

 仕方ないなぁ、と言うと俺の右手からレジ袋をもぎ取って、

 

 「先に帰ってるね、早く自分の世界から帰ってきなよ?変な人に思われるよ」

 

 と、苦笑気味に先を歩く。

 いつのまにかマンション前まで歩いていたようで、道路を渡ってすぐマンションにつく。幸い人目は少ないようで、ハッとする頃にも周囲に人の影は晴香と俺の2人しかなかった。

 

 「おい、ちょっと待てよ!それくらい自分で持てるって!」

 

 「はいはい」

 

 一方通行の道路ということで、気にするのは右側だけでいい...昔からそうだった。

 

 

 

 

 それは、今も昔も同じことで。染み付いた習慣は、簡単には離れてくれない。

 それが、裏目に出た。

 

 

 

 

 「お兄ちゃん早く帰らないとカレー抜きだからね」

 

 イタズラするように笑う晴香。その笑顔は、何よりも眩しく映った。

 夕日に映った横顔。

 その姿に、微笑みを返した、次の瞬間。

 

 

 

 

 突如として猛烈な光に襲われる。

 彼女の左半身、日の沈む方角が光に支配されていたのだ。

 彼女のたっているところは...車道!

 そう考えるや否や、俺は走り出していた。

 

 

 「...っ!」

 

 

 「?」

 

 

 晴香はこっちを向いている。

 猛烈な光にも関わらず、眩しさなど感じないような呑気な顔で疑問符を浮かべていた。

 

 どこかで、似たようなことがあった気がする。

 

 その時...俺はどうしたかな。

 

 声にできない。声が出ない。フラッシュバックする記憶、大量の情報の濁流が言語などとうに流して、無意識の赴くまま体を動かしていく。

 

 不思議だ。

 時間が、やけにゆっくりと動いているように感じる。

 

 ほんの一瞬。ほんと一時が永遠のよう。歩道から飛び出した俺が、晴香を突き飛ばすまでの約数秒の間、俺はそんなことを考えていた。

 

 視界が白く染まる。

 

 あぁ...そうだ。

 俺はあの時...

 

 

 恐らくは間一髪。間に合った俺が突き飛ばした晴香の、驚いた顔に微笑みを返して、

 

 

 

 

 世界が崩れた。

 




如何でしたか?
3回ほど冒頭からグチャって、全部書き直しした結果がこれだよ(呆れ)
読み返してみると意味わかんないですね
でもがんばって考えて、私の文才ではここまでしか出来ませんゆえお目こぼしを。
次回まではチュートリアルみたいな感じです。ある程度落ち着いたらキャラ設定など入れていきますね
では、また次の話で
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