映画のネタバレもあるかもしれないので、注意してください。それと、たぶん駄文ですので、その点でもご注意を。イチャラブです。
「た~きくん♡」
そう声をかけながら、リビングのソファでテレビを見ている男性に、満面の笑みで歩み寄る女性の名は宮水三葉。
声をかけられて彼女の方を向く男性は、彼女の恋人の立花瀧である。
「ん? 三葉、どうした?」
「んーふふ、何のことかわかってるくせに~♡」
彼氏からの問いかけに、もったいぶった答え方をする三葉の表情は、これ以上ないといっていいほどにゆるんでいる。
彼女の友人たちであるカップルが見たら、「うわぁ……まさかまた狐が憑いたんか……」「でも、糸守がなくなった後ずっと元気がなかったから、あれはあれでいいかもしれんやね。でも流石にあれは……」と、今の彼女の幸福を祝いながらもドン引きしてしまうほどのゆるみっぷりである。
「え~? なんのことだがわからないなぁ~?」
しかし、彼氏である瀧の顔もものすごくにやけており、三葉の顔に負けず劣らずのインパクトを誇っていた。
この彼女にして、この彼氏あり、である。
「も~う、ちゃんと答えないとあげるものもあげない……よ……?」
が、三葉のにやけていた表情がとつぜん無表情になっていき、それにつられるように彼女の言葉も尻すぼみになっていった。
そんな彼女の様子に、瀧も疑問を感じてキョトンとした顔になったが、三葉の口から飛び出した言葉に背筋が凍るような感覚を覚えた。
「たきくん……? その
そう、今日はバレンタインデー。女性から男性へ、愛の形をチョコレートにして贈る日である。
三葉はこの日をとても楽しみにしていた。なぜなら、糸守にいたときは「巫女がそんなことをするのは良くない」と祖母にたしなめられ、東京に移ってからはいろいろと忙しく、異性にチョコを贈ることなどできなかったからだ。(決して彼氏がいなかったからではない、作らなかっただけなのだ)
今まで一度も「好きな異性にチョコを贈る」という、ほとんどの女子が一度はやってみたいであろう体験をすることができなかった三葉にとって、大好きな瀧にチョコを贈る今年のバレンタインデーは非常に楽しみなものであったはずなのだ。
だというのに、ソファに座る瀧の前にあるテーブルの上には、包み紙に包まれたチョコらしきものが置かれていたのだ。
先ほどの二人のやり取りからもわかるように、もちろん三葉が贈ったものではない。ということはつまり、別の女性からこのチョコをもらったということになる。彼女である自分を差し置いて。
目がちょっと、いや、かなり怖くなってきた三葉の視線に耐え切れず、瀧は慌てて答える。
「い、いや! このチョコは違うから! アレだから!
こ、高校生の時にバイトでお世話になった先輩から、義理チョコとしてもらったやつだから!
そう! 義理チョコ! 義理チョコだから! 決して本命じゃないはずだから!
確かに憧れていた時もあったけど! それだけだから! 恋愛感情はなかったからはずだから! たぶん!」
しどろもどろな話し方になってしまうばかりか、言わなくてもいいことまで言ってしまう瀧。
そんな瀧を、ジトーとした目で見ていた三葉だったが――
「……ップ……アハハハハハ!」
噴き出したかと思うと、突然笑い出してしまった。
先ほどまで不機嫌だった彼女の急激な変わりように瀧は呆気にとられてしまうが、そんなことお構いなしに三葉は笑い続ける。
「アハハハ……ちょ、ちょっとした冗談なのに、クフッ、ほ、本気にしちゃって……ぷふっ、慌てる瀧くんおかし~、アハハハハハ!」
「!! お、おまえなぁっ……!」
そこまで聞いて、瀧は自分が彼女にからかわれていたことに気づき、顔を真っ赤にさせて立ち上がったが――
「――へ?」
その瞬間を狙ったかのように、三葉に抱き着かれてしまった。
「あ、あの、三葉さん?」
いきなり抱き着かれて、顔をさらに赤くした瀧が三葉に問いかけるが、彼女は答えない。
瀧がちょっと目を動かしてみると、瀧の顔と同じくらい真っ赤になった三葉の耳が見えた。
女性経験がまるでない瀧は、抱き着かれたことの嬉しさや恥ずかしさ、さらに三葉もそんな感情を持っていることに気恥ずかしさを覚えたことが原因で、何も言うことができなくなってしまった。
抱き着いた三葉も何も言わず、心地いいがなんともきまりが悪い時間が過ぎていった。
「……でも、嫉妬はしてるんやよ?」
「……ごめん」
瀧から謝罪の言葉を聞くと、三葉は満足そうに頷いてから瀧から離れ、キッチンの方に向かっていった。
瀧の心臓がまだドキドキしてるうちに、三葉は愛しい彼へのプレゼントをもって帰ってきた。
この日のために、材料から形までこだわりぬいて作ったそれをもって。
「はい、バレンタインの贈り物」
「……ありがとう、三葉」
瀧からのお礼の言葉に、三葉は「どういたしまして」と軽く返した。
言葉こそ少ないものの、二人の心の中は幸せと喜びでいっぱいだった。
三葉は、大好きな彼にチョコを受け取ってもらえたことが、瀧は、愛しい彼女からチョコを贈ってもらえたことが、言葉にできないほど嬉しかった。
包み紙を丁寧にはがしていき、箱のふたを開けると、ハート形はもちろん、星形などの多種多様な形をしたチョコレートがたくさんつまっていた。
瀧はそのうちの一つをつまみ、口に運んで、ゆっくりと味わった。まるで味わっている時間の長さが、三葉への愛情の深さを表しているかのように。
三葉はそんな瀧の様子を見ながら、早く感想が聞きたいなぁと胸をドキドキさせていた。
ようやく瀧が口を開き、その口から三葉の待ち望んでいた言葉が発せられた。
「とても旨いよ、三葉」
その言葉を聞いて、三葉はまたもや幸せな気分になった。自分が作ったチョコを美味しいと、ほかならぬ瀧が言ってくれたことが、どうしようもないほど嬉しかった。
「そ、そう……? ど、どんなところが美味しい……?」
「え? ど、どんなところがって……?」
瀧は返答に困ってしまった。三葉が作ってくれたからこんなにも美味しいんだなとは思うが、どんなところが美味しいかと言われると、言葉で説明するのは難しい。
どう答えようかと悩む瀧だったが、突如いい考えが浮かんできて、ニヤッと笑った。
瀧はチョコレートを一つ口に入れると、そのまま三葉の顔に自分の顔を近づけ、
「――――んっ!?」
その唇を、奪った。
顔を離すと、瀧はいたずらっ子のような顔を浮かべて三葉に問いかける。
「――どうだ? どこが旨いかわかっただろう?」
不敵な笑みを浮かべる瀧に、「まったく、この男は……」と顔を真っ赤にさせてつぶやく三葉だったが、まんざらでもなかったので、すぐに笑みを浮かべて彼の質問に答えてあげた。
「――とっても、甘かったよ」
こうして、二人の初めてのバレンタインデーは、チョコよりもずっと甘い日となって過ぎていったのである。
なお、ホワイトデーは瀧くんの白いのでお返しを(ry