バカとE組の暗殺教室   作:レール

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私と貧しい二人と裏山サバイバル(後編)

〜side メグ〜

 

 吉井君や磯貝君と椚ヶ丘学園の裏山へ山狩りに来た私は、川辺で釣った魚を焚き火で焼いて美味しく頂いていた。

 とはいえ魚を捌いたのは二人で、私は焚き火の準備をしただけだけどね。私も女子としてちょっと料理の勉強してみようかしら。

 

「自然の中で、自分達で釣った魚を焼いて食べる。こういうのって何かいいわよね」

 

「そうだよな。やっぱり自然の中でしか学べないことってあると思うよ」

 

 最近は趣味でアウトドアを始める人も増えてるって聞くし、街中の喧騒から離れて自然に囲まれて過ごすのは悪くない。

 まぁ既にE組がそんな感じの環境ではあるけども。そこはプライベートだからこその良さもあるってことで。

 

「うんうん。川の水を飲んでお腹が少しムカムカしたり、その辺の山菜を食べて舌がピリピリすることだって自然の中でしか体験できないことだよね」

 

「それは出来れば体験したくない経験だわ」

 

 思いっきり自然の水と山菜に当たってるじゃないのよ。吉井君の言う山狩りは正真正銘のサバイバルね。

 とはいえ何の事前知識もなく適当に山菜を食べるのはどうかと思う。毒のある山菜だってあるわけだし、下手したら命に関わるものだってあるかもしれない。

 

「吉井君、何でもかんでも手の届くものを口に入れたら駄目よ。中には食べられないものだってあるんだから」

 

「なんかそれ、赤ちゃんに対する注意の仕方と同じじゃない?」

 

 そういう赤ちゃんと同じことをしてるんだから仕方ないじゃない。

 だけど流石に山狩りに慣れてるだけあって、私が心配していたことは杞憂だったらしい。

 

「もちろん調べてから口に入れてるし大丈夫だよ。でもサバイバルをするんだったら、汎用食用テストは一度やっておいて損はないと思うんだよね。いつだってネットが使える環境にあるか分からないんだし」

 

「それって確か野草が食えるかどうか判断する方法だっけ?」

 

「そうそう。まぁ僕の場合、事前に調べた上で極力毒性の弱い野草を選んだけどさ。今はネットで調べられたり植物鑑定用のスマホアプリだってあるわけだし、余程の状況じゃないと必要ないけどね」

 

 どうやら吉井君はわざと自然の水や毒草を食べて当たったらしい。

 確かにサバイバルをする上で実体験を伴うことは有益だと思うけど、それにしたってわざわざ毒に当たりに行かなくても……余程の状況ってどんな状況を想定してるのかしらね。

 

「というわけで、お昼からは木の実やキノコなんかの山菜採りをしていこう。当然だけど不用意に食べないでね。あとは動物もそうだけど、蛇なんかもいるから気をつけて――」

 

 と、急に吉井君が口を閉ざしてしまった。

 

「……? 吉井く――」

 

「シーッ」

 

 いきなりのことで気になって声を掛けようとしたものの、吉井君は指を立てて静かにするように私達へジェスチャーしてくる。

 私は磯貝君と顔を見合わせたけど、磯貝君も分からないといった様子で首を捻っていた。いったいどうしたんだろう?

 

 改めてどうしたのかと視線で尋ねると、吉井君は無言で私達の後ろを指差してきた。

 それに釣られて私と磯貝君もそちらへ顔を向ければ、対岸の草むらに赤色の頭で身体が大きめの鳥が潜んでいた。あの特徴は……雄のキジね。こっちにはまだ気付いてないみたい。

 すると吉井君は荷物から何かを取り出した。今度は小さな声で話し掛ける。

 

「……それは?」

 

「自作のスリングショット。折角だからあのキジを仕留めようと思って」

 

 そう言うと吉井君は川辺で適当な石を拾い、それを弾代わりにスリングショットを構えた。かなり集中している様子なので、私と磯貝君も静かに成り行きを見守る。

 

「ッ!」

 

 吉井君が息を吐き切った次の瞬間、引き切ったスリングショットのゴムを手放して弾代わりの石が撃ち出された。

 撃ち出された石は綺麗に真っ直ぐ飛んでいき、狙いを違うことなく雉に命中する。暗殺訓練を積んでいるだけあって、銃以外でも射撃の命中精度は高いわね。

 石が当たった雉は激しく地面をのたうち回ると、次第に動かなくなっていった。正直こんな風に生き物が殺されるのを見るのは初めてだわ。なんか何とも言えないような感じがする。

 

「……よし、ちょっと見てくるよ。二人は此処で待ってて。すぐ戻ってくるから」

 

 吉井君はすぐさま次の石を拾って二発目を撃てるように構えてたけど、雉が完全に動かなくなったことを確認すると川上へ駆けていった。仕留めた雉を回収しに行ったのね。

 少しすると対岸で倒れた雉の元へ吉井君が辿り着き、雉を回収すると再び川上へ駆けて私達のところへ戻ってきた。

 

「上手く頭に当たったみたいで半矢にならなかったよ。これなら内臓も傷付いてないかな」

 

 そう言うと吉井君は荷物からナイフを取り出し、手袋を着けて雉の死体を解体するため刃を当てる。

 

「今から下処理で腸抜きするけど、ちょっと慣れてないとキツいかも。磯貝君は今後も山狩りするなら見といた方がいいと思うよ。……片岡さんはどうする?」

 

「……そうね、折角だから見学させてもらうわ」

 

「分かった。気分が悪くなったら無理しないでね」

 

 そうして吉井君は手慣れた様子で雉の下処理に取り掛かった。

 若干血生臭かったりしたものの、ほんの二、三十分くらいで作業は終わったかしら。

 吉井君があっという間に終わらせたから実感は少ないけど、これを自分でするってなったらとても大変だと思う。

 

「猪や鹿なんかの大型動物は内臓も取るけど、鳥なんかはそのまま熟成させるんだ。まぁ下処理の方法は人それぞれみたいだから、自分でやるなら改めて方法は調べた方がいいよ」

 

 下処理を終えた雉は新聞紙で包み、密閉袋に入れてから自前のクーラーボックスへ入れた。あとは肉を熟成させて後日解体するらしい。

 その時にまた私と磯貝君は、雉の解体を見学させてもらうことにした。やるからには最後までやりたいしね。

 

 

 

 

 

 ガサゴソッ!

 

 

 

 

 

 と、吉井君が雉を片付けたところで背後で草むらの揺れる音がした。

 私達はハッとして後ろを振り返ると、そこには気付かないうちにこっちを覗き込んでいる熊がいた。

 

「って熊……!?」

 

「あー、焼き魚や下処理した雉の臭いに釣られて来ちゃったのかな。僕もつい、警戒を怠ってたよ」

 

「随分落ち着いてるけど大丈夫なのか?」

 

 私と磯貝君が緊張する中、吉井君は何事もないかのように平然としている。

 

「まぁ野生動物って基本的に人を怖がるからね。慌てずに刺激しなきゃそう近付いてくることは――」

 

 なんて余裕そうにしてた吉井君だったけど、熊が草むらを出てきたことで言葉が途切れた。普通に近付いてきたわね。

 

「……冬前でお腹が空いてるのかな? それとも単純に僕らに興味を持ってるのか……取り敢えず片岡さん、念のため催涙スプレー出しといて」

 

「分かったわ」

 

 私は言われた通り、釣りの時に渡された熊撃退スプレーの代わりである催涙スプレーを構える。吉井君が言うに奥田さん特製のものらしいから、きっと効果は十分でしょう。

 熊は私達を警戒しているみたいだけど、だからといって逃げるような素振りは微塵もない。

 

「うーん……せっかく捕まえた雉や残りの魚を取られたくないし、荷物を漁られて使い物にならなくなるのも嫌だな」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。ここは大人しく避難した方がいいんじゃないか」

 

「えっと、熊から逃げる時は背中を向けずにゆっくり距離を取るんだっけ」

 

 熊は背中を向けて逃げる相手を本能的に襲うって言われてる。こういう状況では何よりも冷静に対応することが大事なのよ。

 でも吉井君はその逃げ方をする気はないようだった。

 

「本来はそれで合ってるんだけど……今回は僕ら流で行こう」

 

「僕ら流って……」

 

 

 

 

 

「もちろん……暗殺教室流だよ!」

 

 

 

 

 

 そう言って吉井君は全速力で駆け出した。

 そんな吉井君に反応して熊も攻撃的になる。

 

「二人は適当に隠れてて!」

 

「ガアァァッ!」

 

 吉井君は私達や荷物から注意を引くように、敢えて大きな動きで熊を避けつつ山の中へ入っていく。熊も本能に従って吉井君へ襲い掛かった。

 適当に隠れててって……そんな吉井君を囮みたいに出来るわけないでしょ!

 磯貝君も同じ気持ちだったみたいで、すぐに私達は行動へ移した。

 

「そういうわけに行くか! 片岡、吉井を追い掛けるぞ!」

 

「えぇ!」

 

 何が出来るかなんて分からないけど、とにかく放っておけなくて吉井君と熊の後を追った。

 熊は確か時速五十キロメートルで走れるって聞くけど、吉井君はフリーランニングを駆使して木の間を切り返しつつ逃げている。私達も離されずに着いていけるくらいだ。

 

「ゴァッ!」

 

「なんの!」

 

 少しでも開けた場所に出ると熊は距離を詰めてくるが、吉井君も負けじと熊の腕を掻い潜って避けていく。傍から見ててハラハラするわ。

 僅かな時間そうして熊との攻防を繰り広げていた吉井君だったけど、私達のいた川辺を離れた辺りで木の上へ跳び上がった。どうやら木の上でやり過ごすみたい。

 

 しかし木の上へ避難した吉井君に対して、熊も木を登って執拗に吉井君を追い詰める。

 そう言えば熊って木登りも出来るんだったわね。まぁ枝移動でのロングジャンプを駆使すれば、熊が登ってきても問題なく乗り切れるでしょう。

 

「ふふっ、この時を待ってたよ」

 

 だと言うのに吉井君は他の木へ移ることはなく、驚くことに熊へ目掛けて木を跳び降りた。

 しかもただ木から跳び降りたんじゃない。枝を持ったまま上へ跳び上がり、その枝の反動を利用した急降下である。

 

「食らえ! 絶・天◯抜刀牙!」

 

 よく分からない何かの技名を叫びつつ、吉井君は熊の鼻頭へ向けて飛び蹴りを放った。

 熊に限らず顔は動物の弱点だ。特に鼻の良い動物は鼻に神経が集中してるって聞くし、最悪の場合、動物に襲われた人が逃げきれず生き残るために攻撃するべき場所でしょう。

 どうやら吉井君は最初から逃げるつもりで山を駆け回ってたわけじゃなく、如何に熊を撃退するか考えて動き回っていたらしい。本当に無茶するわね。

 

 木登りしていた熊は前脚が塞がれていて、吉井君の飛び蹴りを成す術もなく食らった。

 その衝撃で熊は木から落ち、反対に吉井君は熊の頭を蹴って再び木の上へ跳び上がる。

 

「ゴゥアアァァッ!」

 

 熊も思わぬ反撃で半ば混乱しているのか、地面へ落ちると一目散に駆け出した。

 狙ったわけじゃないだろうけど、駆け出した熊は不運なことに私達の方へと向かってくる。

 

「片岡は催涙スプレーを準備! 俺が気を引くから隙を突いて使ってくれ!」

 

「オーケー!」

 

 磯貝君は前へ飛び出すと熊を待ち受け、私はいつでも催涙スプレーを使用できるように身体の前で構えた。

 吉井君と熊の攻防を見てて思ったけど、よく考えたら熊よりも烏間先生の方が断然速い。流石に皮膚が厚くて倒すのは簡単じゃないでしょうけど、撃退するだけならそう難しそうじゃなかった。

 

 こっちへ突進してきた熊は磯貝君へと標的を定めると、勢いのままに強靭な前脚を振るってくる。

 たった一撃でも受けたら一溜まりもない熊の攻撃だけど、磯貝君の動体視力と身のこなしがあれば然程危険じゃない。野球大会で進藤君のスイングも難なく躱してたし、熊の単純な攻撃を躱すくらいわけないでしょう。

 

 続け様に覆い被さろうとしてくる熊を磯貝君は横跳びに避け、更に立ち上がろうとした熊へいつの間にか私達の上まで移動していた吉井君が頭を踏み付ける。

 

「二人とも無茶しちゃ駄目だよ!」

 

「吉井には言われたくないぞ!」

 

「二人とも離れて!」

 

 ちょうど伏せる形となった熊の頭が降りてきたので、私は透かさず奥田さん特製の催涙スプレーを吹き掛けた。

 

「ガアッ!?」

 

 流石の熊も催涙スプレーを顔に掛けられて怯んだらしい。今度こそ私達とは違う方向へ駆け出した熊は、あっという間に山の中へと消えて見えなくなった。

 しばらく熊が逃げていった方向を注視し、完全に何処かへ行ったと判断した私は緊張を解いて一息ついた。

 

「……はぁ、何とか追い払えたわね」

 

「適当に隠れててって言ったのに。まぁ無事だったからいいけど」

 

「それはこっちの台詞だよ。吉井が急に走り出した時は驚いたぞ」

 

 本当にね。せめて事前にこういうことをするって言っておいてほしかったわ。

 さっきまで普通にアウトドアを満喫してたけど、まさかこんな生死を賭けたサバイバルになるとは思ってなかった。これが本来の山狩りなのね。

 何はともあれ何事もなくて良かった。三人とも大丈夫だったわけだし、荷物も置きっぱなしだから川辺へ戻ると――

 

 

 

 

 

 ガサゴソッ!

 

 

 

 

 

 と、またもや草むらの揺れる音がして私達の背筋を冷や汗が伝った。川辺じゃないからか、今度はさっきよりも音が近い。

 全員で慌てて音のした方へ振り向くと、案の定というか何というか、やっぱり熊がこちらを草むらの中から覗き込んでいた。

 

「嘘でしょ二頭目っ!?」

 

「二人とも一旦下がるぞ!」

 

「いや催涙スプレーで先制を――」

 

 

 

 

 

「あれ? 三人とも何してるの〜?」

 

 

 

 

 

 今度は即座に臨戦態勢を取った私達だったものの、そんなおっとりとした声が聞こえてきたことで動きを止める。

 全く予想していなかったことに、なんと熊の傍から倉橋さんが姿を見せたのだ。少なくとも熊が倉橋さんに危害を加えるような雰囲気はない。

 

「く、倉橋さん? 倉橋さんの方こそいったい何してるの?」

 

「私は山の中を散歩してただけだよ〜。この子はさっき見掛けたから山の奥へ帰してるの」

 

「えっと、危なくないの?」

 

「全然〜。とっても良い子だよ」

 

 そう言いながら倉橋さんは熊の頭を撫でる。熊の方も嫌がるような素振りはなく、撫でる倉橋さんの手に頭を擦り寄せていた。

 本当に懐いてるっぽいわね。夏休みに行った南の島でもイルカを手懐けてたみたいだし、どうやったらここまで動物に好かれるのかしら。

 

「アレだね、僕も野生動物の対策とか色々言ったけど……倉橋さんを連れていくのが一番効果的っぽいね」

 

「動物の扱いでは倉橋に勝てる気がしないな」

 

 そうして熊を連れた倉橋さんと合流した私達は、荷物を取りに戻ると元々予定していた山菜採りをすることになった。まさか熊と一緒に行うことになるとは夢にも思ってなかったけど。

 

 実際に山狩りしてみた感想としては、まぁ単独じゃなければ何かあっても大丈夫って感じかしら。

 流石に動物を狩るには危険が伴うけれど、魚釣りと山菜採りは安全に行えるでしょう。これなら無理に山狩りを止めさせる必要もなさそうね。

 

 ということで吉井君に加えて磯貝君も、生活スタイルに山狩りが追加されることになった。

 基本的に今後は二人で行うみたいだし、私や倉橋さんも偶には参加させてもらってもいいかもしれない。

 取り敢えず山狩りの最後を飾る言葉として、熟成させた雉は美味しかったって言っておこうかしら。




実際には狩猟期間・禁止猟法・狩猟鳥獣・狩猟制限・狩猟禁止区域など狩猟には多くの法律があります。無免許で行える自由猟法など調べた上で話を作りましたが、話の都合上の違法行為もありますので漫画的表現としてお楽しみください。
ちなみに鳥の解体は血抜き・腸抜き・羽毟りする派としない派、すぐ食べる派・熟成させる派と様々なようなのでどうするか迷いました。
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