やぁ。
各自に配られた魔力を流せば浮くことが出来る箒。
移動手段で多用するものであるが、魔力の流し方に慣れていないとひっくり返って頭を地面に打ち付けたり、制御できずに壁に激突したりする。
魔導書を手に取ったばかりの若き団員候補であったとしても才能を秘めている者達は難なく乗りこなすことが可能であるため、各団長らが自分の団員に相応しいものたちとそうでは無いものを篩にかけるためよく用いられてきている手法だ。
会場では空を自由に飛び回っている者と地面すれすれで不安定な飛行をしている者に分けられていた。
一人を除いて。
「うぉぉおおおおおおお飛べねぇえええええ!!」
魔力を一切有していないことが判明しているアスタである。
生まれ持った体質なのか、それとも後天的に魔力を失ったのかはわからないが魔力がなければ当然箒に流すことも出来ないため、ただ一人だけ地面に両足をつけたままになっている。
魔法騎士団を目指す者としては魔力がなければ話にならない。
移動手段、戦闘手段だけでなく、家を建てたり回復したりとなにかにつけて魔力が重視されるこの時代。
全く魔力がないという存在そのものが異端であろう。
「ふむ…?おかしなことだ。例え幼子であったとしても魔力を有していれば多少浮かせることはできるはずだが…」
「………」
「ンフフフフ。ここに来たことは何かの手違いじゃないのか?」
当然事情を知らない各団長たちはその姿に困惑している。
この試験だけでなく、これ以降の試験でもアスタが魔力を放つことは疎か魔力を生み出すことすらなかったのだからそれは当然だろう。
「なぁシャムミッド…」
「どうしました団長」
「お前、あの小僧の件…知ってただろ?」
「当然ですよ」
他の団員と違い、静かに見守るシャムミッドを一瞥してヤミは問うた。
止めなかったのかと声音と視線で問いかけられている。
わかった上で止めなかったのは悪趣味じゃないのかと。
「私が止めたとしても彼は必ずこの場に立っていたでしょう。それに関しては断言できますし、彼は他から認められてよいほどの努力を積み上げてきてます。恐らくは…団長の御眼鏡に適うかと」
「そこまでいうほどか…」
そういうとヤミは静かに会場へ意識を戻した。
最終試験は二人一組で行われる戦闘試験。
魔法騎士団は戦いも担う集団である以上、ある程度の戦闘能力も求められる。
そこを計るのも至極当然。
そしてこの試験が一番の見せ場であることも受験生はわかっていた。故に自分よりも弱そうな存在を見つけようと必死になっていた。
(ヤ、ヤバイ…今のところオレずっと叫んでいるだけだ……!!)
当然ある意味で団長らの興味を引いていたアスタも必死だった。
全ての試験で叫んだだけで終わってしまったため当然だろう。
ここで強そうなやつと戦って、自分でもやれることをアピールする。それが一番現状を打破できる方法だった。
(いやしかし魔力のないオレと闘ってくれるヤツなんでいるのか…?)
しかし一番の課題である。
事情を知らない者達からすれば魔力を持たない存在と戦っても何の利もない。
一方的に勝って終わっても己の評価を上げるとは緊張しきっている受験生らは思っていなかった。
「アスタ!オレとやろうぜ!!」
彼の事情を知る者以外は。
「おぉ…セッケェ~~こんなオレと闘ってくれるんですかい…!」
「フッハ!当たり前だろ」
活躍する機会はなかったとはいえ、シャムミッドと共に
この会場内でもアスタの実力を理解している数少ない一人だ。
(一番弱いヤツと…セコ――!)
(あれじゃ一瞬で終わっちまうな…)
他の受験生はそんなことを考えているのだろう。
セッケはそんな受験生らと戦うつもりは一切なかった。
「よろしくなセッケ!」
「当然だアスタ。言っとくが加減はしねぇぞ」
「当然!!」
互いに意欲を見せたところで拳を合わせ、全力で戦うことを誓うのだった。
「――以上がルール説明だ。当然ながらどちらかの降参及び戦闘不能で試験終了とする。回復魔法が使える魔導士が待機しているから、思う存分自分の力を奮ってくれ。それでは最初の対戦者、前へ――」
ウィリアムの説明を聞き終えた受験生たちは最初の対戦者の邪魔にならないよう会場の中央から離れ、ドーナツを描くように集まっていく。
この場で、今後の人生を決める試験が行われるのだ。
会場は否応なしに緊張感に包まれていった。
最終試験のために中央に立つ最初の二人はアスタとセッケだ。
程よく距離を取って魔導書を構える。
深すぎない呼吸をとりつつ、セッケは静かに全身に魔力を纏わせていく。
アスタも先ほどまで浮かれていた姿は何処へやら。セッケのみを見据え、周囲の情報を排除していた。
「始め!」
―――――!!
青銅創成魔法
“
合図と同時にアスタが駆けだすよりも早く、セッケは地面に手をついて魔法を起動させる。
外敵の攻撃から主を護る様に水色をした防壁が左右も固めるように5枚ほど瞬時に形成された。
飛び越えられないように、そして銃砲を狙われない様に大砲の口は高めの位置に作られているが、魔力で誘導する砲弾を発射するためなんら支障はない。
視界は水色になっているとはいえど遮るほどのものではなく、相手の動きを確認しながら一方的に銃撃を浴びせるのをコンセプトに生み出されたセッケの魔法。
ある程度の場数を踏んでいる者が見ればこれだけでセッケを経験者だと見抜いた。
「行くぜアスタァァアア!!」
「来い!セッケぇ!!」
魔力装填…発射!!
ズドォン!
そんな砲撃音を発生させながら5つの砲門から放たれる魔力弾がセッケの誘導にあわせて動き、アスタのいる位置に着弾する。
着弾した場所は大きく破裂して瓦礫を周囲に飛び散らせるが、周囲に待機している騎士団員らが壁を作って受験生を護っていた。
「おいおい、あいつほんとに今年が初めての受験生なのか…?」
「すっげぇ…」
「一瞬で決着がついちまった…」
目の前の光景を見てそんなことを呟く他の受験生。
団長たちは静観しているが側近らは大小あれど、多彩な反応を示していた。
「………まだだ」
誰の呟きか。
土煙が着弾地点を隠して数秒、セッケの方へと急速に伸びる。突進していく速度に煙の方が追いつけず、隠れていた存在が現れた。
アスタだ。
少年は誘導された砲弾を躱し、そして手に持つ大剣を盾に飛散物から身を護ったのだ。
煙で互いの視界を遮り呼吸を整えて正面突破。
普通であれば魔力感知で位置を把握することも可能なのだが、魔力を持たないアスタは感知されない利点がある。
最短距離で一気に接近し、アスタとセッケの間に立つ防壁を上段から一刀両断した。
「フッハ!!やっぱり無傷かアスタ!!」
「いつまでもお前に抜かれたままのオレじゃねぇ!!」
先の一撃で勝ったなどとセッケは微塵も考えていなかった。
眼前の魔力を持たない少年は肉体戦において自分を常に圧倒してきたのだ。
物心ついたときから常に身体を鍛えてきたアスタは大人数人程度で止まる筋力ではない。
初めて戦い、そして敗北したときから、セッケはアスタに対して当然乗り越えてくるだろうという信頼をしているのだ。
だからこそ、この状況でもすぐに対応できる。
青銅創成魔法
“
アスタは強い。接近戦では対処が困難なほどに。
しかし対処ができないわけではない。
「だがなアスタ!オレも成長するんだぜ!!」
防壁を突破したことで壁に対する意識が薄れた瞬間を狙っての頭上からの攻撃。
アスタに叩き切られずに済んだ2つの防壁砲門から弾薬が天へと発射され魔力弾が破裂。そこから内部に詰められていた青銅が重力に従って降り注ぐ。
降り注ぐは青銅製の小型弾丸。
貫通とまではいかずとも、着弾すれば魔力が破裂してダメージを与える技だ。
多少の進路妨害のために適当な大きさの足場を作りながら後退するセッケに対し、アスタの取った戦法は実に単純明快。
弾に当たる前に突っ走る。
「うぉおおおおお!!」
「――ぐぉっ!!…フ、フッハ!!変わってないな!!」
時雨がアスタの体に当たるよりも早く、アスタの足はセッケの元へ身体を運ぶ。
想定を上回られたセッケは苦笑いをしながら青銅の棘や壁を作って応戦するが全て突破され、アスタの頭突きを腹部に喰らうことになった。
腹部を押さえるセッケを見たアスタは、漸く自分が一撃を与えたことに笑顔を見せ
「当然だ。オレは魔法帝になる男だ!」
受験生全員に聞こえるように
団長らに意思表明をするように
そして自分の進んできた道が間違っていなかった事を実感するように
アスタは大声で宣言するのだった。
・青銅創成魔法“青銅の防壁大砲”
横幅2メートル高さ5メートルほどの壁を作り、その上部に砲門がついている防壁を作る魔法。
任意で枚数を増やすことが出来、魔力が許す限り作ることは可能。なお発射できる魔力まで残っているかは考えないものとする。
流石に原作通りの球体砲じゃ一瞬で終わってしまうので今回はアスタの進撃を少しでも防ぐために使用した。
壁自体も水色であるが透けて壁の向こうを視認できるため、攻防一体魔法としては使いやすい部類である。
・青銅創成魔法“青銅の楔時雨”
今回は“防壁大砲”の砲を使って起動したが、実際は頭上へ打ち上げれば基本放てる広範囲攻撃。
今回は殺傷能力を抑えた楕円型の爆弾だったが、鋭利な先端に変えて針の雨からの爆発なんて芸当も出来る。
モチーフはFGOが誇る幸せ夫婦の宝具「
・セッケ強化しすぎじゃね?
細かいこったぁ良いんだよ。
インフレしていくだろうし、強化来たってかまへんかまへん。
尚敵側も強化される可能性がある模様