やぁ。
その少年が常人以上の実力を有するのにどれほどの努力をしてきたのかを知っている者はこの会場でどれだけいるのだろうか?
魔力が完全にないことが判明するまで、少しでも魔力が増えればと増強剤を飲んだりするのは当然で、魔力が出てきても身体が出来てなければ意味がないと小さいころから山で修行を重ねていた少年アスタ。
その彼が今、会場で試合を見守っている者達を驚愕させている。
幼少期の頃からずっとその背を見てきたユノ。
ここ最近ではあるが、共に修行を行ってきた仲でもあるセッケ。
そして彼の魔力がないことを知りながらも少年の夢を後押ししたシャムミッド。
彼等以外にここまで戦える事が出来るとはだれも考えてもいなかっただろう。
だからこそ良い。
例え魔力がなかったとしても、彼ら魔導士に対抗することはできるのだ。
「…ほぅ」
「団長?」
ヤミの側近(ほぼ強制的)であるフィンラルはヤミの呟きに反応した。
アスタの魔法を斬り裂く大剣を創成魔法ではないかと考察していたのだが、そうじゃないとヤミの発言があったからだ。
「ありゃ魔力を
「えっ…?」
「妙なのが現れやがったな」
この状況を生み出したであろう本人には目を移していないが、ヤミはそうだろうと当たりをつけ、ニヤリと笑みを浮かべるのだった。
「フッハ!オレだってな、成し遂げたいものがあるってんだ!」
青銅創成魔法
“青銅具・
+
身体強化魔法
正直なところ、この会場でセッケがアスタに勝つ可能性は低かった。
試験時間的にもそうなのだが、戦いの場が狭い。
かつて試合を行ってセッケが勝利を収めた戦いも、セッケが引き撃ちを行う形でアスタへダメージを稼ぐことが出来たからだ。
戦いを行っている空間は逃げ回ることは厳しいものがあり、周囲には受験生がいる。
いくら試験といえども、周囲の者を巻き込む戦い方は良い印象は生まれない。
かといって生半可な砲撃ではアスタは切り伏せてくる。
となればやれることは一つ。
(真正面から殴り勝つ!)
創成するのは腕に付けられた籠手。
そして腕の動きに追従するように動く大きな青銅の腕だ。
腰を落として構えるセッケは背後の大きな両腕もあって、かつて日の本で悪逆を尽くした鬼を想起させる。
最も今のセッケの雰囲気は鬼神というよりは守護者に近いものだが。
「そりゃそうだ!」
セッケの終わらせる覚悟を感じ取ったアスタも同調する。
己の武器は魔法を斬り裂く大剣とこの場に立つまでに鍛え上げてきた肉体。
この二つで困難を切り開いてきた。
そしてセッケは自分に対して接近戦を挑む姿勢。
これは負けていられない。
「「だからこそ、お前に負けねぇ!!」」
両者同時に駆ける。
青銅の右腕がアスタが駆ける一歩手前を薙ぐようにして地面を削り取っていく。
眼前の地形が変化したことでアスタにそのまま突進させるのを許さない。
(これでお前は踏み出せない!飛んで来い、アスタ!)
(足場が…!だけどここで引くことなんてできねぇ!!)
しかしアスタも後退する意思はない。
ここで引いてしまえばそれこそ魔法が使えるセッケの思うつぼだからだ。
何よりもここで引く行為はアスタ自身が許さない。
(走れないなら、飛ぶしかねぇ!)
削られたことで段差が生まれた地面に足をかけ、跳躍。
大剣を突くように構え、セッケへと飛びかかった。
距離も跳躍により大分縮んでいる。
このままの勢いをつかえばセッケへ刃が届く!
「そんなことはさせねぇ!!」
「!!」
対するセッケ、読み勝つ。
アスタの眼前には青銅の左腕がセッケの盾の役割をして待機していた。
アスタ持つ大剣はあらゆる魔法を斬ることが出来る。
故にいくら頑丈な盾を構えていても、魔法である以上防ぎきることはできない。
だが大剣は止めれずとも、使用者本人の速度は落とすことができる。
速度が落ちれば、ギリギリ躱せる!
「これで終わりだ!!」
薙いだことで後ろへ移動している右腕を握り構えて振り下ろす!
アスタもセッケの意図に気づくがもう遅い。
青銅の右腕がアスタの頭上から振り下ろされ―――
(やべぇ負ける)
セッケの反撃を喰らうとアスタは直感的に悟った。
背を護る盾の様に大剣を構えたとしてもそのまま上から潰される。
跳躍し、地面から足が浮いているこの状況では方向転換して躱すことも不可能。
つまりそれがアスタが今まで行ってきた直感的な戦い方が出来ないということだ。
思考が止まる。
故に
「んなっ!」
―――振り下ろした右腕にアスタの大剣が突き刺さっていた。
これまでのアスタとの試合でセッケが“青銅具・大双装”を見せていなかったように、アスタが己の武器を手放すようなことは決してなかった。
当然だ。
この大剣があるからこそ、アスタは魔導士と戦えるのだし、何より魔法を斬ることが出来るのだ。
それを手放すなど、己の命綱を手放すことに等しいのだ。
だからこそ虚を突かれた。
アスタは大剣を手放すはずがない。
その認識が決着を分けたのだ。
「セッケ。やっぱりお前はすげぇ。だけどな」
大剣に貫かれたことで青銅の右腕が消失する。
上に大剣を投げた反動で進路を強引に変えて地面に着地したアスタを、意識を上に向けられたことでセッケは一瞬見逃した。
「この勝負、オレが勝つ!!」
すぐさま声の方向へと意識を向けたセッケを待っていたのは、顎から頭上へと突き抜けていく衝撃だった。
「勝負あり!!」
試合終了の合図が会場に響く。
試合を最後まで見ていた新米は、実は今の戦いは夢なのではないかと思いたくなった。
最終試験の最初の試合。
というのに内容はそんな可愛いものではない。
下級魔法騎士どころではない。中級階級者以上の試合を見せられていると言っても過言ではなかった。
それほどまでに魔法を極めていたとわかる。
そしてそんな試合で勝利を収めた魔力を持たない少年。
魔力こそ至高の考えを持っている者ほど、先ほどの試合を受け入れる事が出来ないだろう。
現に声を震わしながらアスタに対して中傷する言葉を投げかけている貴族もいる。
パチパチパチ
少しずつ現実を見てざわざわと音が増えていく中で、シャムミッドは拍手でアスタの勝利を迎え入れた。
当然だ。
己の努力で自分が扱き上げたセッケに打ち勝ったのだ。
アスタが行ってきた努力を褒め称えずしてどうするのかと。
そんなシャムミッドの姿勢にヤミが追従し、それに習う様に『紅蓮の獅子王』や『碧の野薔薇』の団長らが拍手でアスタの勝利を祝った。
アスタは真剣な目を魔法騎士団達に向けてくる。
シャムミッドはその視線に気づいて軽くうなずくとアスタは堪えるように一拍置いて、拍手をしてくれた者達に頭を下げたのだった。
◆
「…フッハ。負けちまったか」
試合が終わり、軽く治療を受けたセッケは少しして目を覚ました。
周囲を確認して戦いの行く末を覚えていなかったことを確認したことで、自分が先の戦いで負けたのだと理解したのだ。
簡易的な休憩所には白を基調とした布で外と隔たれていたが、奮起する声とそれに比例して大きく響く魔法の衝突音がすでに何試合か終えたことを教えてくれた。
「………」
魔法で治療されているため、外傷はすでに存在していない。
だが今、セッケは動きたくなかった。
アスタに負けることはこれが初めてではない。
しかしこの大舞台で、敗北を喫したことをすぐに受け入れれるほど、セッケは出来た人間でもなかった。
「――――ふぅ…」
額に右手を乗せて視界を暗くする。
少しずつ悔しさが腹部から喉元に上がってきた。
「悔しいなぁ」
「えぇ、本当にお疲れ様でした。セッケ」
「!!」
透き通った声がセッケの耳に入るや否や飛び起きた。
彼女にこれ以上情けない姿を見せたくないという気持ちがあったのもあるが、正直なところこのタイミングで入ってきてほしくはなかった。
「失礼しますね」
だがそのようなことはシャムミッドは承知の上だろう。
自分よりも圧倒的に権威も実力も上だというのに、断りを入れて入ってくる彼女にセッケはこれからも色んな意味で勝てる気がしなかった。
ベッドの横に備えられていた椅子に座ってセッケを見つめるシャムミッドの視線をどうにかしようと、セッケは乱れていた掛布団を綺麗にたたむも彼女は何も発さない。
明らかに待っていた。
「…フッハ。すいません師匠。負けてしまいました」
そんな師に対して素直に頭を下げた。
他の受験生達と違って彼女の扱きを受けていたセッケは彼女の手を煩わせていた自覚はある。任務の合間を縫って鍛えてくれるシャムミッドに感謝しかない。
だが先の試合で負けてしまった。
個人間での試合ならまだよかった。だが全団長が見ている中での敗北は彼女の顔に泥を塗ってしまっただろう。
彼女に鍛えられている事実は知られてはいないが、結果としてそうなってしまっているのが何よりも悔しかった。
「謝る必要はありません。確かに結果は負けてしまいましたが、とても素晴らしい試合でしたよ」
シャムミッドは頭を下げたままのセッケを抱き寄せ頭を撫でる。
普段のセッケであればすぐに飛び退くのだが、それもしないとなればそれほどまでに重く受け止めているのだろう。
そう判断したシャムミッドは言葉をつづける。
「いつも伝えているはずです。敗北や失敗は受け入れて乗り越えないと成長できないと。厳しいことを言いますがセッケ。貴方は自分が天才ではないことを自覚しているはずです」
「…っ!」
「でしたら先ほどの敗因は何か。答えは単純。努力不足です。貴方の努力を越えるぐらいアスタは努力を続けてきた。でしたらセッケ、貴方がこれからやるべきことはなにかわかるはずですよ」
「はい師匠。…アスタに負けないくらい鍛えて、ユノに負けないくらい魔法を極めてやります…!」
アスタが魔力を持たずして努力のみでここまで実力を高めてきた鬼才ならば、ユノは生まれ持った魔力と四つ葉の魔導書に認められた努力も出来る天才だ。
セッケはそうではない。
シャムミッドに会わなければ魔導書を少し早めにもらえたことで、魔法を多少使えたことでふんぞり返っていた凡才だろう。
二人のライバルに努力量と魔力量がそれぞれ劣っている自覚があるセッケだが、かれらにはない武器がある。
それが
『例え凡才であっても、努力を突き詰めれば天才をも超える』
それがシャムミッドの持論であり、常にセッケに言い続けている言葉。
だからこそ必死になって修行についてくるセッケを伸びしろが悪いと切り捨てずに、改善点を上げながらずっと見守ってきてくれていたのだ。
「~~~師匠ッッ!!」
「!」
シャムミッドから離れ、ベッドから立ち上がる。
突然動いたセッケにすこし驚きながらもセッケの覚悟を決めた表情を見て、シャムミッドは言葉を待った。
「俺はもっと努力します!これまで以上に、次は必ず勝って見せます!!」
「えぇ。楽しみにしていますよ」
「~~ッ!そしてッ!」
「ん?」
セッケは目を瞑りながら叫んだ。
「一人の男として!
「――――……えっ」
宣言するや否やすぐさま休憩室から飛び出していったセッケの背をシャムミッドは目線で追うことしかできなかった。
セッケの発言の意味を理解したからだ。
そして嘘ではないことは、走っていったセッケの表情が真っ赤だったことが証明していた。
「………」
自分以外、誰もいなくなった場所で一人呟く。
当然ながらこの身で生きてきて、働きづめであった彼女。
下心なく本心で高らかに宣言されたのは初めてであり…
「…今のは…そういうことですよね?」
彼女を困惑させ、行動不能にするのには十分な威力であった。
だが伊達に戦場を経験していない彼女。
数分経ってから休憩室を後にしたのだが、彼女の頬はいつも以上に朱に染まっていたことは誰も知りえないことであった。
・青銅創成魔法“青銅具・大双装”
作中でも軽く書いたがモチーフはFGOのマカロン大好き妖怪の宝具「
そして某サンデーの漫画MARに出てくる犬男のガーディアンARM「セイント・アンガー」
右腕を突きだせば巨腕が連動して動く魔法で盾としても使えるだけでなく、大きな手で対象を掴み運ぶなど、巨腕を出すだけであるが故にシンプルで色々と使い勝手が良い魔法である。
・セッケ君
「男なら、負けるとわかっていても、戦わねばならないときがある。」