東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第30話 強き者ども

 

-幻想郷の魔界-

 

「……ぅ」

 

美鈴は目を覚ました

 

「目が覚めたか、良かった」

 

視線を向けると慧音が微笑んでいた

 

「ここは……私は確か戸愚呂……と……」

 

ボーっとする意識で思い出していると慧音が答える

 

「安心しろ、ここは皆が避難している幻想郷の魔界だ」

 

「そうですか……でも誰が私を?……ミストですか?」

 

「何故そこでミストの名が出るのかは置いといてお前をここに連れてきたのは紫だ」

 

「……わざわざ迎えに来たんですか?」

 

「いや、流石に八雲紫といえどそこまで余裕は無いだろう、スキマが急に開いてお前だけが送られてきたんだ、推測の話になるが密かに細工していたんだろう」

 

「細工……?」

 

「ああ、意識が途絶え自力で動けなくなってから一定時間が経つと密かに仕込んでいたスキマが発動してここに送られてくる……そんな感じの細工だ」

 

「……と言う事は私だけじゃないですよね?それにその言い方だと……」

 

「……そうだ、戦う者全員に施されている……意識不明の怪我人が次々送られて来ている……死体もな……」

 

「……」

 

「今は早い段階で送られて来て比較的軽傷だった永琳が目を覚まして皆で負傷者の治療にあたっている所だ」

 

「……そうですか」

 

美鈴は起き上がろうとして体に走った激痛に悶えた

 

「よせ!重傷なんだぞ!動くんじゃない!」

 

「し、しかし……まだ皆が戦っているのに……!」

 

「気持ちはわかるがその体では無理だ、安静にしていろ!」

 

「……永琳さんに頼んで動ける様にしてください」

 

「馬鹿者!そんな事許可出来ん!それに永琳はつい今しがた送られてきた瀕死の風見幽香に付きっきりだ!」

 

「……ッ!!」

 

拳を握り締める美鈴、この無力感がとても耐え難いのだ

 

「気持ちは皆一緒だ……頼む、安静にしていてくれ……頼むから……!」

 

「……」

 

拳に手を添え懇願する泣きそうな慧音を美鈴は見る

 

「わかりました……すいません……」

 

力みを抜き従った

 

 

 

「勝てますよね……?」

 

「当然だ、勝つにきまっている!だから安心してもう少し寝ていろ」

 

「はい……」

 

美鈴が力無くまた眠る

 

「……」

 

そんな美鈴の手を握りながら慧音は美鈴の位置からは見えない後方へ振り向き

 

広がる怪我人と死体の列を見た

 

(この数……既に半数を越えて……)

 

千を越える数、そして今も増え続けている

 

(勝ってくれ!頼む……散って行った者達の為にも……!)

 

慧音では魔王軍の一兵士にも勝てない、行けばエスタークの時の様に足手纏いになるだけ、ルナとは違いそれが充分に痛い程わかっているから行かないのだ

 

「勝ってくれ……」

 

だから願い、祈るのだ

 

それが託した者が出来る唯一の信頼なのだから……

 

「こんな時に……」

 

淀んだ魔界の空を見上げながら慧音は想う

 

(妹紅が居てくれれば……)

 

行方知れずの友を想う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス-

 

「ここまでやるとはな……」

 

王座でソルは感心していた

 

(五大軍団長はゼッペルを残し全滅、戸愚呂にキルギルを加えガルヴァスまでも……更には兵数も半数まで減らされたか)

 

新たに寄越させた酒を一口頬張る

 

「大したものだ、ここまで凌ぐとは思わなかった」

 

しかしその顔に焦りは無い

 

「だが代償は安くはなかったな、主力の離脱……相討ちも多い、機甲師団の戦闘放棄と超竜軍団の全滅は予想外だったが戦局を覆すには至らなかった」

 

映像を見て小さな笑みを見せる

 

「幻想郷は残り1000を切ったと言ったところか、対してこちらはまだ3000……」

 

盤面を眺め消えた駒を取り除く

 

「モノが違う、いくら呪法で力が抑えられようが肝心の迎撃戦力のレベルにバラつきが有り過ぎた……それではレベルがほぼ均一化している兵共を押しきる事は出来ぬ、軍団長を討たれ多少の混乱は有ったが元より戦いだけを求める者達だ、すぐに立て直す」

 

「2体の王は気になるが所詮は枷着き、ゼッペルが自由になれば問題は無い……もはや詰み将棋か」

 

勝利を感じ始めたソルは妖しく微笑む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-月の都-

 

「もう一息です……頑張ってください!」

 

ソルパレスの入口前の依姫率いる挟撃阻止部隊

 

(あの魔族がかなりの数を蹴散らしてくれたお陰で終わりが見えた……しかしこちらも限界……)

 

残り数十体まで減った魔王軍の兵士、対して誰もが疲労困憊

 

(ここまで来て……ダメなのか)

 

勝てない事を悟るも意思だけは折れない依姫達は最後の突撃を仕掛ける

 

 

ズドオッ!

 

 

兵士達の後ろで轟音が鳴り断末魔が聞こえる

 

「なに……?何が……」

 

断末魔が近付いてくる

 

 

ズバアッ!

 

 

依姫達の前に居た魔物が両断されたのを最後に月に居た兵士は全滅した

 

「大丈夫か!?」

 

青い服を身に纏い、不死鳥の剣を持った勇者が立っていた

 

「貴方は……?」

 

「救援に来た味方だ!」

 

「そうでしたか……助かりました、感謝します」

 

九死に一生を得て安堵した依姫が礼を述べると肩を掴まれ揺さぶられる

 

「ルナは……!皆はどこに!?」

 

「こ、この中に居ます!私達は挟撃を防ぐ為にここに居ました!」

 

「わかった!ありがとう!」

 

知るや直ぐ様ソルパレス内へ走っていく勇者

 

「……よくわかりませんが、何とか死守出来たみたいですね」

 

緊張が切れ皆同時に座り込む

 

「……残ったのは9人ですか……」

 

本当にギリギリだった、勇者が来てくれなければ全滅していたのはこちらだったのだから

 

「少し休憩しましょう、そして……」

 

「わかってる……全滅させたけど増援が送られてこないとも限らない、だろ?」

 

「……そうです」

 

「そん時はそん時だ、たった9人だけどやってやるさ!」

 

「だな!任せとけよ!」

 

「……ありがとうございます」

 

微笑み合う9人

 

「!?オイ!」

 

「わかってる……!」

 

同時に気付き立ち上がる

 

「……出てこい!」

 

気配の元へ依姫が叫ぶと建物の陰からヒョコッと一人の妖精が姿を現した

 

「やぁやぁご苦労!」

 

「……この妖精は……確か名はクラウンピース……」

 

軽い感じに手を挙げる妖精に依姫は見覚えがあった

 

へカーティアの配下である地獄の妖精

 

「頑張ったね!偉い偉い!ご主人様も喜んでるよ!」

 

お気楽そうに笑顔で寄ってくるクラウンピースに依姫が剣を向ける

 

「それ以上近づくな」

 

「え!?なんで!?」

 

「なんでも何もない!お前は月を攻めた邪神の下僕、幻想郷の敵……討たなければならない敵だからよ!」

 

実際に確認したわけではないが敵だと聞かされているしそうとしか考えられないへカーティアの配下であるクラウンピースを敵ではないと思わないのは当然の事

 

「私達を始末しに来たのね……やってみなさい!」

 

依姫の意思に残る8人も戦闘体勢を取る

 

しかし誰もが満身創痍、数は9対1だが相手はチルノと大妖精に次ぐと言われる強妖精、勝てるかは怪しい

 

「違う違う!あたいは戦いに来たんじゃない!」 

 

ブンブン手を振り否定するクラウンピース

 

「……では何を?」

 

確かに戦う意思は無い様だが罠の可能性も有るから油断無く依姫は問う

 

「あんた達に来て欲しい所があるんだ!案内してやるぜ!」

 

入口とは違う方向を指差す

 

「……」

 

依姫は考える

 

(罠……?誘い出して一網打尽に?しかし……ならもっと効果的な相手を嵌めるべき、月なら頂点クラスを……たった9人、それも満身創痍の相手を嵌める理由が……)

 

クラウンピースの真意を探るが明確な答えを出せないまま睨み合いが続く

 

「……じゃあいいよついてこなくて!あたいだけ行ってくるから!じゃあね~」

 

軽やかに踵を返しクラウンピースは去っていく

 

「どうする?」

 

「……行ってみましょう、罠ではなさそうですが放っておくのも不安が残りますので」

 

9人はクラウンピースの後を追う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドドドドドドドドドォ!!

 

 

無縁塚の中央から東に張られた魔力結界内で轟音が鳴り続けている

 

 

「恋風「スターライトタイフーン」!!」

 

「金木符「エレメンタルハーベスター」!!」

 

 

二天が同時に放つ異常弾幕が襲う

 

 

「ギアアアアアアアアッ!!」

 

 

それを俊敏な動きと力で回避粉砕する魔獣

 

 

ズドドドドドドドドドドドド……!!

 

 

「す、すごい……」

 

別に張られた結界の中で見ていたレティはそれしか言葉が出なかった

 

(あの化物に通用する威力を出すには完全詠唱が必須!だけど悠長に詠唱なんて出来ないから詠唱術最上位の超速詠唱!同時に次の術式も構築しながら安全位置を維持、更にはメドローアをいつでも撃てる様に準備まで……!)

 

(そしてなんて威力の弾幕……!隙を作る先生のフォローに撃っているだけなのに1発1発が私のメラゾーマより上!それを高速で動き回りながら……あ!もうあんな所に!?)

 

御伽に語られる伝説の魔法使いとはきっとこんな感じなんだろう……

 

自分が神経を磨り減らすまでしてようやく出せる全力を優に上回り、それが普通とばかりに当然の様に行う

 

(私が入る隙間なんて全く無い……)

 

二天の本気を間近で改めて見たレティが思わずそう感じてしまう程にレベルが違っていた

 

(それについていける化物……一体なんなのアレは……?)

 

同時にその魔女の二天を相手に1歩も退かない破壊獣に戦慄を覚える

 

 

「月符「サイレントセレナ」!!」

 

動きを読み追い詰める様に弾幕を放つ紫天の賢者・パチュリー

 

「魔弾「テストスレイブ」!!」

 

呼応し隙有らば一撃を決めんとする黒白天の大魔導士・魔理沙

 

「ギッ!?」

 

二人の猛攻がゼッペルの逃げ場を無くした

 

「今よ魔理沙!」

 

「わかってる!食らいやがれ!恋符「マスタースパーク」!!」

 

力の閃光が魔獣を飲み爆発を起こした

 

「どうだ?手応えは有ったけどよ」

 

「……ダメージは与えてはいるわね」

 

並んだ二人が爆煙を見つめる

 

「ほんの少しだけ」

 

「そうかよ」

 

同時に左右に飛んだ

 

「ギィィィ!」

 

直後に爆煙からゼッペルが飛び出し二人の居た位置に着地する

 

「ギギィ……ギアアッ!」

 

その体は少し焦げ付いたくらいで大したダメージは無い、そしてすぐに治った

 

「またか……どうすんだよパチュリー!これじゃキリがねぇ!このままだと魔力切れでこっちがお陀仏になっちまうぜ!?」

 

「わかってるわ……メドローアを当てられれば話は早いのだけど……」

 

再び襲ってくるゼッペルに応戦しながら二人は話し合う

 

「無理だ!私が決め役だから攻撃が当てられてるんだからな、あんな計算高い真似が私に務まると思うか?」

 

「思わないわね、さてどうするか……」

 

「オイ!アレはやっぱり無理なのか!?」

 

「無理よ、未完成の魔法だから攻撃しながらは私でも出来ない、それに実物と予想式の誤差の修正もしないといけない……何よりその間に魔理沙一人で相手をしなくちゃならないのよ?間違いなく死ぬわ!」

 

「チッ……やってみなくちゃわかんねぇ!……って言いたいところだけどその通りだな」

 

あの魔理沙が根性論で押し通せないほどゼッペルの力は高い、二人が協力してようやくの拮抗状態を作っているのがそれを表している

 

「ドチクショウめ……アイツが先にへばる可能性は?」

 

「期待できないわね、取り込んだ法式からほぼ無尽蔵に魔力が涌き出ているから……」

 

「クソが!マナスティス……やっぱとんでもない邪法だぜ」

 

凄まじい魔気を放つゼッペルに苦笑う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館-

 

「……これか」

 

バーンの指が本棚から取ってきた本のあるページで止まった

 

(マナスティス……強大さのあまりかつて大陸をも吹き飛ばしたという恐怖の魔法、その危険さ故に古の賢者によって封印されたという破滅の魔法であり究極へ至る魔法……深淵の1つか)

 

今一番の脅威であるゼッペルの持つ力に当たりをつけたバーンは膨大な図書館の中から禁呪と呼ばれる危険な魔法の欄に向かい、その中でも特に危険とされたパチュリーしか回覧出来ない区画から望みの本を見つけていた

 

「その呪文を口にした者はやがて強い力に支配され、大陸を一瞬で消滅させ、ついには己自身をも滅ぼす破壊の神に姿を変えるというもの……か」

 

眉間に皺を寄せ考え込む

 

(破壊の神に……やはり似ている、エスタークが使用した進化の秘法に……)

 

(進化の秘法がマナスティスを真似た……?いや、破壊神は授けたと言っていた、ならばマナスティスを作った者が進化の秘法を真似た、か……?)

 

推測を伸ばしていくが真実は今はどうでもいい、今幻想郷にマナスティスを使った者が居る、それが問題なのだから

 

(対抗策は無し……まともにやり合えば勝ち目は無い)

 

そして打倒がいかに困難たるかをわかっていた

 

(……しかし)

 

だがバーンには希望が有った、場合によっては自分が出向く事も視野に入れていたバーンだったが本に希望を見つけたのだ

 

(読み込まれた形跡が有る、この項目だけ何度も……それも最近まで……)

 

こんな物を読むのは知る限り二人しかいない、いつまでも研鑽を怠らない二人の友しかいないとバーンは確信していた

 

(お前達ならば可能な筈だ……勝て……!余の愛弟子ならば……!!)

 

二人の強さを信じる

 

(問題は月……災厄を感じさせる魔力と……まだ何か有る)

 

そうなれば得たいの知れない力を持つ者が居る月が気がかり

 

(……妙な胸騒ぎがする……死ぬなよ……)

 

一抹の不安を胸に瞑想する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス「滅びの間」-

 

「どおりゃあーーッ!!」

 

 

ズドゴォォ!!

 

 

フランが放つ渾身の一撃が災厄の王の巨体を浮かす

 

「爆裂拳!」

 

続けて出した連続殴打がソルパレスを揺らす

 

「うーりゃりゃりゃりゃー!」 

 

幻想郷一の腕力からなる打撃はまさに凄まじいとしか言えない

 

並みの魔物では一撃でミンチになる剛撃、それを一切の遠慮無く打ち込んでいるのだ

 

「フランちゃん下がって!」

 

「オッケー大ちゃん!」

 

大妖精に呼応し尻尾を掴み振り回す、これも幻想郷一の怪力が成せる力技

 

「うりゃあ!」

 

床に叩きつけ離れる

 

「えーい!」

 

直後に撃たれた大玉の弾幕が災厄の王に当たり爆発を起こす

 

「フランドールゥゥゥ……キィィィィクッ!!」

 

爆煙収まらぬ所に壁を蹴ったフランの飛び蹴りが炸裂し災厄の王が床を削りながら吹き飛ぶ

 

「今度はどうかな?」

 

傍に寄った大妖精がフランに問う

 

「うーん……ダメっぽいかなー」

 

フランが答えると災厄の王はムクリと立ち上がった

 

「やっぱり……ダメージは与えてると思うんだけどあんな無反応だとわかんないや」

 

ピンピンしている災厄の王に苦笑する

 

「フランちゃん……目は、ダメなの?」

 

大妖精は聞いた

 

「うーん……効くと思うんだけど試してないの」

 

「どうして?」

 

「なんか嫌な感じがするんだよね……使ったらもっとヤバくなりそうな気がするの」

 

「嫌な感じ……」

 

フランはレミリアと同じく運命に関わる能力を持つ故かこういった予感めいた事を言う時が有る

 

「そっか……」

 

そんな時は大体間違ってないと知る大妖精は素直に破壊の能力の使用を諦めた

 

「じゃあどうしよっか?」

 

「とにかくボッコボコにして動けなくしてやろっ!再生出来ないみたいだし!」

 

「それが一番かな……うん」

 

大妖精は納得し頷く

 

「危ない大ちゃんッ!!」

 

頷きのほんの一瞬、一瞬だけ目を離した瞬間に災厄の王は大妖精に飛びかかっていた

 

 

ドウッ!

 

 

衝撃波が間を揺らす

 

「させる……かぁ!コンニャロー!」

 

「フランちゃん……!」

 

大妖精の前に仁王立ちしたフランが災厄の王を受け止めていた

 

「グゴアーッ!!」

 

「ぐぬぬぬ……!!」

 

押し合う災厄の王とフランだったが均衡はすぐに崩れフランが徐々に押されていく

 

「こんの……!わっ!?」

 

突然災厄の王が自ら離れバランスを崩す

 

「……!!」

 

すぐさま睨み付け追いかけ、呼応する様に災厄の王もカウンターで噛みつこうとするが避けられ、追に伸ばした手は蹴り払われる

 

「グゴオオオオオオオオオオッ!」

 

フランに成されるがままに打たれる災厄の王が反撃に放った尻尾も虚しく空を切る

 

「そりゃあー!」

 

「ゴガアッ!」

 

 

ズドオッ!

 

 

同じ魔獣のゼッペルは攻、防、スピード、全てが高い、それに比べると災厄の王はスピードがかなり劣る代わりに攻が異常に高い、僅かにだがフランを上回る膂力がそれを表している

 

それにゼッペルにも言える事だがどれだけのダメージが与えられているか、あとどれだけ体力が残っているかがわからない事から精神的にもよろしいとは言えない

 

「何か弱点……弱点ないかな……」

 

大妖精も積極的に攻撃するが役に立っているかは微妙なところ

 

体の弱い妖精である大妖精も鍛えたのは弾幕と風を操る力のみ、冷気一辺倒のチルノよりは広く出来るが多少程度、言ってしまえば一芸特化のチルノとそう差は無い

 

一撃で休みになってしまいかねない妖精故に相手が強ければ強いほど不利の落差が他より激しいのだ

 

頂点の力関係はチルノを除いて同等だが敵との相性によっては不利になってしまう大妖精はそういう意味では頂点最弱とも言える

 

「バーンさんやパチュリーさんが言ってた……こういう時は攻撃を休めてでも相手を観察して勝機を見つけろって……!」

 

頂点の知恵である賢者の助言を思いだし攻撃の手を緩め深く災厄の王を見る

 

 

「……グッ!」

 

 

その時だった

 

フランと攻防を繰り広げていた災厄の王が呻くと体から障気が溢れ目が更に赤く光る

 

「!?……フランちゃん離れてッ!」

 

叫んだ時には遅かった

 

 

ズガァッ!

 

 

「イッタァ……!?」

 

押し飛ばされたフランが壁に埋もれていた

 

(パワーが跳ね上がった!?)

 

驚愕する大妖精を前に災厄の王が四つん這いの体勢のままフランへ駆ける

 

「この……!?」

 

出された掌を受け止めるが止めきれず更に壁内に押し込まれる

 

(フランちゃんを完全に越えて……!?)

 

想像を越えていた

 

今の災厄の王が出すその膂力は100%の戸愚呂が出すモノと同等、それを無造作に出しているのだ、ハッキリ言って異常

 

「こんのぉぉ……!」

 

腕が押し返される

 

「まだまだァァァ……!!」

 

押し返された手が蹴り飛ばされる

 

「どうだぁ!」

 

紅黒のオーラを出したフランがガッツポーズを取っていた

 

(流石フランちゃん!本気出したら本当に凄い……!でも……)

 

増大した災厄の王の強大な膂力に付いていけるフランの力に笑みが溢れたが同時に不安を感じる

 

(フランちゃん並みのパワー……まだ上がるかもしれない、防御力はとっても高いしそもそも効いてるかもわかんない、私達は呪文が使えないし……弱点が、無い……?)

 

有効策を見出だせないこの化物に限りない脅威を感じていたのだ

 

(唯一スピードだけは全然速くない、やっぱりフランちゃんの言ったとにかく攻撃が一番……かな?)

 

だがそこで諦めるほど大妖精は弱くない、皆と一緒に戦う為に持った力を使うのは今なのだから

 

「よーし!やっちゃうぞー!」

 

意を決した大妖精はフランと共に激しい攻撃を放つ

 

 

ドドドド!ズドオッ!ドドドド……!

 

 

大いなる風精が放つ弾幕の嵐の合間に炸裂する王妹の剛撃

 

 

 

「……」

 

形勢的には押している、そんな最中で

 

(うーん……)

 

フランは内心唸っていた

 

(先伸ばしにしてるだけって感じ……)

 

運命を感じる能力から悪手に近いものを災厄の王から感じ取っていた

 

(ヤバいかもしんない……)

 

されど、もう止められぬ意思は突き進むしかなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス「騎団の間」-

 

「フーッ!フーッ!」

 

息荒くルナが3人の親衛騎団を睨んでいる

 

(や、やっぱり甘くない……強い……!)

 

距離を取っていたルナへ獣王の影が斧で切りかかる

 

「フッ!……ッ!?」

 

飛び退いて避けたルナの側方から飛び込んできた武道家の影の拳が迫る

 

「ウッ!?ッゥ!?」

 

トベルーラを使い空を飛べない武道家の拳を空中移動でなんとか避けるも速い拳速を避けきれず頬を掠める

 

(このまま空中から攻撃……ハッ!?)

 

火を出そうとしたルナは気付いた、剣士が居ない事を

 

「うわあっ!!?」

 

死を予感したルナが咄嗟にその場から離れるとルナが居た場所を真上から剣士が剣を振り下ろしながら通り過ぎ、床に着地した

 

「あ、危なかった……」

 

空中とかなりの間合いを維持し呼吸を整えるルナ

 

(全力で避ける事にだけ集中してギリギリだ……全員私より強い……特にあの剣士が飛び抜けて強い……!)

 

ルナでは厳しいのレベルを越えていた

 

(一番弱いのはリザードマンかな、それでも勝てないけど……)

 

先程から戦い始めたルナだったが防戦一方どころか生きるのに必死だった

 

攻撃なんて出す暇も無い、空を飛べる有利を活かし全身全霊で回避に努めなければ既に死んでいるレベルの相手達なのだから

 

(でもなんとか時間稼ぎは出来てる、このまま頑張って耐えればその間に皆がソルを……)

 

子どもなりに必死に考えて行動したのだろう、それはわかる

 

「……」

 

剣士が合図を出すと獣王と武道家が火に包まれた先に向かう通路へ走っていく

 

「あっ!?」

 

ルナが考えたそれはルナなりの必死の考えだったが所詮はガキの浅知恵に過ぎない

 

誰でも勝てるのなら3人で相手をする必要は無い、1人でも居れば良いのだから2人を先に行った3人の所へ向かわせ騎団長のナイトへの援護をすれば良いのだ

 

ルナの実力を数度の攻防から完全に見切った故の判断だった

 

「そうかそうだよ!あぁもう!」

 

自分の考えの甘さを痛感したルナは2人より早く通路の前に立ち塞がる

 

「「……」」

 

待ってましたと言わんばかりに2人は立ち止まり、ゆっくりと構える

 

親衛騎団のこの行動の結果には2つの良道が有った、1つはルナが見逃しナイトへの援護成功、2つ目はルナが妨害に来て始末してからナイトを援護しに行く

 

要はどちらでも良かった、何故ならルナは1人で十分なのだから

 

「ふぅぅ……よし、覚悟は決まったぞ」

 

先に行った3人の為に1人で相手をする誓いを果たさんとするルナは本格的な対峙を決意する

 

(……お母さん、力を貸して……)

 

分の無い戦いだと知るからこそ無意識に母へ祈っていた

 

 

……ポゥ

 

 

身に付けているバーンの御守りが淡い光を点滅させる

 

 

「行きます!!」

 

 

見える事なく飛び込んでいった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッソ!やっぱダメだ!」

 

苛立つ魔理沙が声をあげる

 

「……そうね」

 

パチュリーも表情が苦い

 

(メドローアではなくディスアピアランスアローなら……ダメね、動きが速過ぎて追いきれない、操作に集中しないといけないから私を狙われたら終わり、それに動き回る魔理沙やレティに当たりかねない……)

 

(防御力も高くて再生能力持ち、攻撃は食らえないし厄介過ぎる……僅かな合間に何とか誤差は修正したけどやはりそんな隙が無い)

 

連携で何度か攻撃を食らわせたものの状況は良くならない、体力と魔力を使った分悪くなったとも言える状況

 

(時間が掛かるマダンテも論外……本当に……どうしようかしら……)

 

追い詰められていくパチュリーに魔理沙が叫んだ

 

「こうなりゃ一か八かだ!パチュリー!準備しろ!」

 

「……」

 

長い付き合いだ、言いたい事を理解出来ないパチュリーではない、魔理沙はパチュリーの為に一人で戦うと言っているのだ

 

「……本気なのね?」

 

「当たり前だろ!このままじゃ魔力が無くなったらチェックメイトだ!勝負に出るしかねぇ!」

 

確かに魔理沙の言う通りこのままでは先に力尽きるのはこちら側、なら勝負は早く仕掛ける方が成功の確率は上がる

 

「……」

 

上がるがそれは魔理沙を犠牲にしなければならないのは間違いない、だから難色を示す

 

「言っとくが自棄じゃねぇぜ!私を信じろ!なんなら私がぶっ倒してやるって腹積もりでいるんだからな!」

 

だから魔理沙は力強く言ってのけた、死ぬ気は無いと

 

「……わかったわ」

 

魔理沙の意思と元よりそれしか手が無かったと考えたパチュリーは魔法式の作成に入る

 

「よし……やってやるぜ!!」

 

呼応し魔理沙がゼッペルに突っ込む為に構えた

 

 

 

「……ギギッ!?」

 

その時、突然ゼッペルの動きが止まった

 

『いつまで手子摺っておるゼッペル……』

 

ゼッペルにしか聞こえないソルの声

 

『蹴散らせ』

 

同時に何かが外れ、いや進んだ

 

 

ズズズッ……!

 

 

ゼッペルから黒い魔力が溢れ体を一回り大きくさせる

 

「……!?」

 

ゾワリと戦慄したパチュリーが衝動的にメドローアを撃った

 

「!!?」

 

次の瞬間パチュリーは目を見開く、そこにゼッペルは既に居らず、衝撃音が耳を突いた

 

「ウガッ……ゲホッ!?」

 

見ると大地で倒れる魔理沙の姿と離れて着地するゼッペルの姿、あの一瞬で魔理沙を叩き落としたのだ

 

「魔理沙!?……消符「ディスアピアランスアロー」!!」

 

消滅の弾幕を向け魔理沙を庇う様に撃つ

 

「ギィィィ……アアアアアッ!!」

 

咆哮したゼッペルは高速移動で弾幕を全て回避していく

 

(更に速くなった!?妖夢並み!?力も増大している……破壊神への段階を進んだ!)

 

弾幕を置き去りにする程の速さに精密な操作を用いる消滅弾幕では追いきれない

 

「クッソ……コノヤロー!!」

 

魔理沙も攻撃に加わるが二人をしてもゼッペルを追いきれない

 

「ぐあっ!?」

 

「うっ!?」

 

逆に被弾し始め瞬く間に傷だらけに二人は変貌する

 

(こ、この強さ……破壊神になる直前……!あの最終段階のエスタークと同等……!?)

 

(……マジで詰んだかもしんねぇぜ)

 

恐ろしい強さのゼッペルに手も足も出ない二人、防御に徹して何とか持ちこたえてる状態

 

『なぁ……ちょっと思い付いた事があるんだけどよ?聞いてくれるか?』

 

『奇遇ね……私も思い付いた事が有るのよ、きっと同じ事を……』

 

戦いながら魔力で会話する二人は同時に見た

 

「……え?」

 

レティの方を

 

「私……?」

 

飛び込んできたゼッペルを避ける二人を見ながらレティは首を傾げる

 

『レティ』

 

「魔力の念話……大丈夫ですか先生!?」

 

『時間が無いから簡潔に言うわね、貴方にやって欲しい事が有るの』

 

「何ですか!私に出来る事なら何でもします!」

 

『ありがとう……では今から渡すこの魔法式を組み上げて欲しいの』

 

「魔法式を……何の魔法なんですか?」

 

『マホカトールを元に魔理沙と作ったマナスティスへ対抗する破邪呪文……』

 

パチュリーは告げた

 

 

『マジャスティス!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス「滅びの間」-

 

「うりゃー!」

 

「グゴオッ!」

 

フランの拳と災厄の王の体が衝突する

 

「ダダダダダダァー!」

 

一撃一撃が重い連続パンチ

 

 

ゴオッ!

 

 

構わず振り落とされた鉄槌が叩きつける

 

「風精「大風妖玉精」!!」

 

 

ドオッ!

 

 

追撃させる前に大玉が鉄球を当てた様に押す

 

「グゴ……ゴオッ!」

 

「いっくよー!」

 

打ち払った災厄の王の前には既に立て直したフランが腰を深く落としていた

 

「美鈴直伝のぉ……!必殺!烈風ゥ正拳突きィ!!」

 

 

ズドオッ!

 

 

渾身の一撃が顔面を打ち抜いた

 

「今だよ大ちゃん!」

 

「わかってるフランちゃん!いきます!」

 

二人は弾幕を発生させる

 

「禁弾「カタディオプトリック」!!」

 

「風弾「超真空破!!」

 

 

ズドドドドドドドド……!!

 

 

頂点二人の弾幕は動きが鈍く巨大な災厄の王に余す事なく命中する

 

「このまま押しきろ!」

 

「……うん!了解!」

 

大妖精の言葉に感じる嫌なモノを飲み込んだフランは弾幕に一層力を込める

 

 

 

「グゴアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

弾幕の豪雨から尻尾が飛び出た

 

(!?この軌道……大ちゃんに!?)

 

かなりのスピードで向かう尻尾の狙いは大妖精

 

(反応……出来てない!刺されちゃう!?)

 

肉弾戦闘を得意としていたから反応出来たフランは咄嗟に大妖精を押した

 

「ッ!?フランちゃん!!?」

 

押された大妖精はすぐに気付く、身代わりになってくれたのだと

 

「フランちゃん!!」

 

尻尾が貫く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「闇符「ジェニュイン・ディマーケイション」……」

 

 

 

 

ズドオッ!

 

 

災厄の王が何者かに放たれた凄まじい弾幕でバランスを崩し尻尾はフランを逸れた

 

 

「誰の餌を殺そうとしてる……?」

 

 

二人の真下、そこには黒い闇の球体が在り、消えると一人の女性が立っていた

 

「……誰アレ?ルーミアのお姉様?それとも忍のお姉様か何か?」

 

「アレは……あわわ……何でここに……!?」

 

破壊神との戦いで僅かに見ていたがほとんど記憶に無いフランは首を傾げ、直接戦ってトラウマになっていた大妖精は慌てふためいている

 

「常闇ノ皇……」

 

そう、来たのはかつてエスタークによって復活させられた妖怪の王、常闇ノ皇・ルーミアだった

 

「……久し振りね妖精、元気にしてたかしら?」

 

「いっ!一応……元気……です……」

 

見上げて微笑む常闇ノ皇に驚きながらも返す大妖精

 

「フフッ……貴方達の頑張りに免じて手伝ってあげる、感謝するのね」

 

「ええっ!?本当……ですか?」

 

「不服?」

 

「い、いえ……!とっても心強い……?です……?」

 

かつての経験から素直に味方と信じられないが嘘は感じれないのでまだ混乱している大妖精

 

「しかし……まさかコレを連れてくるなんてね、ソルって奴はイカレなのかしら?」

 

「えっ?これ知ってるんですか!?」

 

「まぁね……正確には中身の方だけど、中身は見た目以上にもっと……」

 

起き上がり始めた災厄の王へ常闇ノ皇が目を向ける

 

 

 

 

「シノブティカァァ……ファントム!!」

 

 

 

 

災厄の王が殴り飛ばされた

 

「破壊力ゥゥゥ!!」

 

ガッツポーズを決める吸血鬼がそこに居た

 

「あ!忍だ!」

 

「おぉフラン!息災の様じゃの!」

 

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード

 

怪異の王であり今はレミリアの為に忍野忍として助太刀に来た異次元の友

 

「来てくれたんだ!ありがとう!」

 

「フッフッフ!忍お姉様と呼んでもよいぞフラン!」

 

「考えとくね、それより入口は大丈夫なの?」

 

「多分の、途中で別れたカバ魔王が結構蹴散らしてたし問題無かろう」

 

「そっか!」

 

「それよりフランよ……」

 

忍は常闇ノ皇を見る

 

「このマヌケ面した儂のパチモン誰?」

 

「あ……?」

 

常闇ノ皇に青筋が浮かびピリピリと空気が荒む

 

「……あ、こんな時はこれを言え!って本に書いてた」

 

大妖精が呟いた

 

「あーあ、出会っちまったか……」

 

王華の宴はまだ続く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

地獄の妖精に導かれた9人は月の都から遠く離れた場所に来ていた

 

「いつの間にこんな物を……」

 

目前に聳える建造物、都しか偵察していなかった紫には見つけられなかったモノがそこに有った

 

「あたいが案内出来るのはここまで!この後どうするかはお任せ~!」

 

そう告げてクラウンピースは愉快気に消えていった

 

「……行きましょう」

 

意を決した9人は建物入って行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




3場面進行で行こうと思います。
頂点達の相手はやたらに強いので複数人での戦いになります。

魔王軍三強の序列は個としての総合力ならゼッペル〉災厄の王〉ヴェルザーとなり軍団や知性を加味するとヴェルザー〉〉〉(越えられない知性の壁)ゼッペル=災厄の王になります、危険度は災厄の王〉ゼッペル〉ヴェルザーです。
ちなみに大魔王の位に近い順でもヴェルザー〉〉〉(越えられない知性の壁)ゼッペル=災厄の王になります、と言うかゼッペルと災厄の王は獣なので大魔王どころか魔王にもなれません、チョー強い奴止まりです。
少し前に力関係の図をある方から頂きましたが少し修正させてください。

次回も頑張ります!

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