東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第33話 超勇者黙示録

 

-紅魔館・図書館-

 

「!?……バカな!?これは……」

 

不意に月から感じたよく知る力に天を見上げるバーンの顔は驚愕に染まっていた

 

(不吉な力が消えたと思えば次は竜闘気だと!?それにこの強さと感じ……まさか……)

 

それを真に知っている者は幻想郷ではバーンただ一人

 

そして、ある意味バーンはソル以上にその者をよく知っていた

 

「貴様だと言うのか……ダイ……」

 

自らを負かした相手だったから……

 

(いつかの余が見た悪夢ではない、正真正銘のダイだ……ここまで届かせる竜闘気、竜魔人……ソルめ!まさかトドメを刺しておらずこの様な切り札に……ッ!?)

 

平行とは言えその恐ろしさを誰よりも理解するバーンは焦りを隠せない

 

(ダイがソルに味方するとは思えぬ、ならば何かをした筈……いや、そんな事は今は重要ではない、ダイが敵に存在する!それだけが重要なのだ!)

 

チルノが倒された時以上の焦り、それだけダイが敵に回る事が幻想郷にとって危険だという事に他ならない

 

(フランや大妖精でも厳しかろう……キスショットならば……ダメか、既に時間が切れておる、誰かを送るにしても手負いばかり……誰も勝てぬ……このままでは月が全滅の事態に……)

 

バーンは戦争が始まって初めて本気で悩んでいた

 

(余が向かうか……しかし純狐とヘカーティアから余が幻想郷に縛られる存在だと露呈している、下手をすれば月に行った瞬間に死ぬやもしれん)

 

実際は純狐とヘカーティアはバーンの秘密を話してはいない

 

そして仮に聞いていた所で戦いを求める魔王軍はそんな真似はしない、実行しそうでそれが可能だったキルギルとグレイツェルはもう死んでいる

 

バーンの懸念は杞憂なのだがそんな事がわかる筈がない、命が懸かった事であり自身の死が幻想郷の敗北を確定させると思うからこそ悩むのだ

 

(仕込みは既に出来ているのだ……地上も思わぬ援軍でまだ持つ……!この関門を突破すれば勝ちの芽が見えてくるのだ……!どうにか……どうにか切り抜けられんかお前達よ!?)

 

拳を握り願う様にバーンは目を閉じる

 

(似合わぬと思う……情けないとも充分承知している……)

 

バーンはかつてハドラーがそうした様に、自らもそうした様に強く想いを飛ばす

 

(奇蹟を起こしてくれ……)

 

縋る様な祈りを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス-

 

「……成ったか、竜魔人……」

 

感じた力の鳴動に映像を見ずともソルは理解した

 

(あの子どもにそこまで成る必要がある敵か?それとも竜魔人にならねばならん敵が新たに来たのか……?だがまぁ見てはおらんが竜魔人になったのならば問題はあるまい)

 

バーンと違いソルはダイに興味が無いのか全く気にしようとしない

 

「……ダイか」

 

ふと言葉を漏らす

 

(あの頃の余はどうかしていたな……)

 

ソルが己が居た平行世界で地上を消し、ダイを倒した日

 

(ダイにトドメを刺さず傀儡にしてしまうとは……)

 

あの時、ダイは瀕死だったがまだ生きていた

 

握り潰そうとしたが強靭な体が耐えてしまいギリギリの所でダイは生きていたのだ

 

(余を二度と戻れぬ鬼眼王にまで追い詰めたのだ、当然抹殺する筈だった……しかし、生殺与奪の権利を持ち、もはや虫の息で横たわるダイを見て、あの時の余は思ってしまったのだ……「この力を消すのは惜しい」、と……)

 

あの時は野望を叶えた最頂期、今の様に空虚ではなかった

 

ダイを配下に誘う程に評価していた事も有り、気紛れも含んでいたに違いないがとにかくダイは殺されなかった

 

(自らの意思で軍門に下るのが一番だったが愛する地上を消した張本人の軍にだ、そうなる筈もなし……ならばそのうち気が変われば良し、死ねばそれも致し方なしと身動きすら出来ぬよう厳重に封印を施し幽閉した)

 

(その後に天界を制圧し、新たな戦地へ向かった最初の場所……そここそが幸か不幸かキルギルの居た後に創造神となる大魔王の庭だったのだ)

 

(キルギルを配下に加え、奴が魔勇者を改造していた事を知り、余は思いついてしまった……「ダイを改造出来ないか」、と……)

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

『オレに何をする気なんだ!?』

 

「今から貴方を改造しソル様のナイトになって貰います、素晴らしい!」

 

『い、イヤだ!そんなの絶対にイヤだ!!』

 

「何故イヤなのです?光栄に思うところですよ?」

 

『やめろ……やめろぉぉーーーーーーッ!!?』

 

「ヒョーッヒョッヒョッ!!」

 

 

 

 

 

                ・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

(キルギル主導の改造が始まったが流石は神々が造った竜の騎士であり初の異端児でもある双竜の超騎士……手始めに成長を抑制する改造を施し時間は作ったが改造は難航を極めた)

 

(精神が疲弊し失敗するかもしれぬと聞いた頃には余は既に数多の戦いを経てもうさしたる興味も残ってはいなかった……)

 

(そして……遂にキルギルは成し遂げた、勇者を見事生きたまま意のままに操れる魔勇者に改造したのだ)

 

長い時の果てに勇者は変えられてしまった

 

神々の加護が宿る体を改造、何万もの魔術を施し理性以外を完全に掌握し操り人形と化した、魔術との反発で体はゾンビに近くなったが戦闘能力はそのまま

 

更に魔界に落ちたダイの剣も探しあて装備させる事により最強の戦闘人形が完成したのだ

 

ソルの騎士であり魔勇者・ナイトバーンとして……

 

(せっかくと試運転を兼ねて人知れずナイトをその時戦っていた天魔王へぶつけた、初戦としては突飛だったが殺されようが構わなかったからだ……)

 

(だが……勝ってしまった)

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『ウググググ……わ、我は……万物の王にして……天地のす、全てを束ねる者……その我が何故に、こ……この様な醜い木偶人形に……』

 

「……」

 

『わ、我の身体が崩れてゆく……な、なぜだ!き、貴様は……何者……うぐっ!!』

 

「……」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

その変わることのない強さは平行のオルゴ・デミーラすら打ち倒す

 

(ヴェルザーと戦闘をしていて手負いだったとはいえ天魔王を死闘の末に降し、ダイは己の内に秘める闘いの遺伝子を更に成長させた……)

 

生きながら傀儡になった事で竜の騎士としての力を失わなかった事がダイを更に強くさせた、ちなみにヴェルザーはこの時に見ておりキルギル以外で唯一ナイトの存在と正体を知っていた

 

(その力はおそらく魔王軍最強……しかしもう使う気は無かった……)

 

それきりでナイトは封印された

 

既に空虚と成り果てていたソルにはナイトが酷く邪魔と感じられるようになっていたのだ

 

(此度は魔王軍を気兼ね無く戦わせる為にあえて使ったが……やはり使うべきではなかった)

 

強過ぎる故に邪魔

 

かつては評価し欲した力だったが今はただただ邪魔なだけ

 

使えば勝つ必勝の駒だとわかっているから見る気も起きないのだ

 

「……ム?」

 

ソルはナイトが居る部屋からダイとは異なる力を感じる

 

(聖なる力を感じる……強い力だ、まだこれ程の者が居たとはな……)

 

ロランの力を感じるも見る気にはならず来訪者を待つ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス「騎士の間」-

 

「早く離れるんだルナ」

 

ダイの剣を抑えながらロランは告げる

 

「は……はい……!」

 

「……!」

 

慌てて下がろうとするルナを斬ろうとダイは剣を持つ腕に力を込める

 

「!?」

 

ロランの剣が動かない、ダイは驚く様に目を見開く

 

「……フンッ!」

 

ロランが両手で持った剣に力を込めるとダイが持ち上がり振り抜きで吹き飛ばされる

 

「……コロシテヨ」

 

ドウッ!

 

着地したダイが竜闘気を高め構えを取り斬りかかる

 

「ッ……!」

 

迎えたロランのロトの剣が火花を散らし押し合う

 

「くっ……!?」

 

今度はロランの剣が押される

 

先程はルナを斬るのに充分な力しか入れてなかったがロランの予想外の腕力に押し返された事で次は全力で斬りかかった

 

「くおお……おっ……!?」

 

その力はロランにとっても予想外の力でありダイは片手持ちなのに自分の両手持ちを容易く押し込んでくる

 

持つ剣がダイの剣と同じくオリハルコンから作られたロトの剣でなければとっくに刀身が折られ両断されている程の力

 

 

「……ウオオッ……!!」

 

 

ズズッ……!

 

 

ロランが咆哮をあげると秘められた勇者の闘気が揺らめき立ち昇る

 

 

「オオオオーーーーーッ!!」

 

 

ドウッ!

 

 

緑に変わった闘気が一気に肥大化し勇気を表す深緑の闘気の柱を打ち上げた

 

「本気で行く……!!」

 

血の活性

 

ロトから受け継いだ血と経験により常人を遥かに越えた力を持っていたロランはその血を活性化させる事で真の力を発揮出来る

 

ズドオッ!

 

出された前蹴りがダイを打ち飛ばし天井へ叩きつける

 

「……!」

 

流石は竜の騎士か、直ぐ様天井を蹴って反撃に出たダイの剣が迫る

 

ドギャア!

 

それは横薙ぎの一閃で弾き飛ばされ、頑丈な壁に体を埋め込ませた

 

「悪いが容赦はしない」

 

竜魔人となったダイを上回る膂力

 

ロランはロトの先人達とは違い一切魔法を使えない、戦いは剣と肉体のみの完全前衛、生粋のバトルマスターだった

 

同じロトの血を引く他の仲間は魔法を使えるのにロランは使えない、だが腕力と肉体の頑丈さは比較にならないレベルにあった、長いロトの歴史でも異端に属する彼ではあったが見方を変えれば魔法に分配される力すらも肉体に行ったと考えるとこのバカげた力も納得出来る

 

その高さは幻想郷でバーンを除き最強の腕力を持つフランよりも強い、戦いにおいては空を飛べ弾幕も有るフランが有利かもしれないが純粋な力比べではフランに勝ち目は無く、バーンにすら勝てるかもしれない程に強烈

 

不完全だったとはいえそれでも大魔王並の力を持った破壊神を破壊した男の名は伊達ではない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう……」

 

そこまでの力、それに気付く者も居る

 

氷獄のフィールドでチルノを看ていたゾーマが月を見上げる

 

「来ていたのか……ロトの末裔よ……」

 

かつて自らを打ち倒した勇者の力を感じ妖しく笑う

 

「バーンの差し金か……まさかここで因縁の血を感じる事になるとは思いもしなかった……存亡を賭けて戦った大魔王と勇者が曲がりなりにも共闘する、中々面白い事態と言えような」

 

ゾーマはロランを知らないがその血だけは忘れもしない

 

闇と竜を滅した忌々しくも何故か誇らしいと思う人の持ち得た可能性の天辺

 

「相手もかなりの者の様だが……楽に勝てると思わぬ事だ」

 

勝敗に興味が無いゾーマは気に入った氷精を眺めながら時を過ごす……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズオオオッ!!

 

 

魔竜の闘気が瓦礫を吹き飛ばす

 

「……」

 

持てる竜闘気を最大限に高めたダイが斬りかかった

 

 

ドウッ!!

 

 

金属が衝突した音とは思えない豪音が衝撃波と共に間を振動させる

 

「ッ……!?」

 

「……」

 

次の唾競り合いは互角

 

ロランが偉大なるロトの血を引く勇者の末裔ならばダイは神々が造りあげた世界のバランスを保つ鬼札

 

更には戦闘生物として造った神々の思惑すら越えた異端の超騎士

 

「……」

 

その騎士が持つ闘いの遺伝子がロランを最高クラスの強敵と認め全力を出したのだ

 

「くっ……!?」

 

それはロトにも決して引けは取らない

 

「……オオオッ!」

 

ロトの剣がダイの剣を押す

 

単純な膂力ではまだロランに分が有る

 

「……」

 

「うっ!?」

 

ダイが体の力を抜き体を浮かせる、急に力の拮抗が崩されたロランはダイの剣を押す形で前のめりにバランスを崩される

 

「ぐあっ!?」

 

押された力を回転に変えて放たれた浴びせ蹴り、ロランは咄嗟にロトの盾で防ぐもバランスを崩されていた事もあり打ち飛ばされる

 

(強い……なんて戦い慣れてるんだ……)

 

ロランにダイを上回る膂力が有るならダイはロランには無い時代に生きた竜の騎士達から積み重なった闘いの経験が有る

 

毒々しいも少年の見た目に微かに残っていた侮りは完全に消えた

 

「……」

 

「ウオオオオッ!!」

 

剣撃が無数に交差し斬り結ぶ

 

「グウッ!?」

 

永き戦闘経験からくる打撃がロランの剣閃の隙間を抜け、打つ

 

「……!?」

 

負けじと打った腕を掴み振り回す、ロランの規格外の腕力もあるがダイの小さく軽い体は抵抗出来ず成す術なく床に叩きつけられる

 

「!?……!!」

 

「チッ……ロトの剣よ!」

 

突き入れた剣を跳びはね避けて距離を離したダイがエビルデインを唱えるもロトの剣から放たれた真空の刃が雷光を斬り払う

 

「オオオオーーーッ!!」

 

間髪入れずにロランが剣を片手上段に構えて飛び込む

 

「……」

 

対してダイは剣を逆手に持って背に回し、前傾姿勢で構える

 

「古流剣殺法!鳳凰縦一文字斬!!」

 

「……!!」

 

受け継がれたロトの剣技と今やその力を助長させる技に成り下がったアバン流刀殺法の奥義・アバンストラッシュがぶつかり合う

 

「ムッ……ウゥ……!」

 

「……!」

 

二人の剣が止まりカタカタと震えているがすぐにロランが押し込み始める

 

「ツアアアアアッーー!!」

 

「!!」

 

 

ズガガガガガガガァ!!

 

 

互いの闘気が剣を弾き、また力に任せた豪剣が斬り合う

 

「ハアアアアアッ!!」

 

竜魔人と成ったダイを僅かずつも押す剣撃

 

ロランは生粋の剣士である妖夢と過去に手合わせした事がある、そして互角の剣術を持っていると幻想郷の皆にはそう思われている

 

しかし、手合わせした二人しかわからぬ事だが純粋な剣術においてはロランが徒手も行うバトルマスターな事もあり剣術一筋の妖夢の方が技量は数段上だった

 

「オアアアッー!!」

 

それを素人目ながらも互角に見せたのは技量差を補って余りある膂力

 

破壊神を越えた化物と迫害された純粋な腕力が剣の一振りを苛烈な破壊剣に変えるからだ

 

「オオォーッ!!」

 

心が折れぬ限り不滅を誇る心剣一体の楼観剣でなければ10秒持たないとまで妖夢に言わしめた破壊の剣技

 

「……!!」

 

それにほぼ互角に渡り合う今や堕とされた竜の騎士ダイ

 

及ばぬながらも同じ豪剣で完全な力負けしていないダイもまた怪物の証明

 

アバン流の剣技と累積された経験が膂力の差を僅かなものに変えている

 

 

ザシュ……

 

 

「がっ……」

 

そしてそのロランを遥かに越えた戦闘経験が空いた腕をソルすら斬った手刀に変え冷静かつ精密にロランを削る

 

「……アアアアッ!!」

 

 

ゴギャアッ!!

 

 

凄まじい反応の速さで体が痛みを感じる前にダイを裏拳で殴り飛ばす

 

飛んだダイはまた壁に衝突し瓦礫に埋もれる

 

(この手応え……やはり……)

 

顔色は変わらないが内心は苦くダイの埋もれる場所を睨む

 

「……」

 

「……!」

 

立ち上がり姿を見せるダイにロランは駆けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-無縁塚-

 

「ウオオオッ!!」

 

雄叫びをあげたハドラーが魔物を殴り殺す

 

「ハァ……ハァ……」

 

ガルヴァスとの戦いで大きく消耗し更に鎧の魔剣も砕けてもう無いハドラーは息を切らしながらも持たせる為に奮闘する

 

「まだだ……かかってこい!」

 

有るのは諦めを知らぬ挫けぬ心

 

それだけで戦い続けている

 

「ぐおっ!?」

 

ハドラーの背に呪文が当たる

 

「チィ……!」

 

妖魔師団の生き残りである呪文使いが遠距離から狙っていた

 

「ベギラゴン!!」

 

閃熱呪文を唱え呪文使いごと直線上の敵を狙う

 

「チッ……!!」

 

しかし呪文は出なかった、魔力が足りないのだ

 

「……魔力が尽きかけているか、ならば……!ベギラマ!!」

 

残り少ない魔力だが出し惜しむ気の無いハドラーは中位呪文を放つも威力が足らず倒しきれない

 

「がああ……ッ!?」

 

止まない呪文が遠距離から飛来しふらつく、隙を逃さず付近の魔物が攻撃を仕掛けてくる

 

「オアアッ!」

 

迫る魔物を魔炎気で焼き払うも遠距離からの呪文に対応出来ず集中砲火に晒され膝を着いてしまう

 

「グウウ……オオオオオオッ!!」

 

防御の構えから気合いで立ち上がるも依然として止まぬ集中砲火の嵐にまた体が下がり始める

 

「チ……ィ……ここまで……か……!?」

 

死を予感したハドラーは苦しみの中で……笑った

 

 

「ウオオオオオオーーーーッッ!!」

 

 

これが最後とばかりに力を絞り特攻をかける

 

死ぬにしても死に方がハドラーにはあった

 

このまま座して息絶えるよりは最後の最後まで挫けぬ心で戦い、誇りを抱いて死にたかったのだ

 

(ジゼル……約束は守れなかった……だがせめて!お前が誇れる父で在る為に……戦いの内で、誇りを抱いて逝く!)

 

最後の特攻が決まる……

 

 

「やめとけ……今日び神風なんざ流行らん」

 

 

その前に呪文使いが一斉に倒された

 

「ロン・ベルク……」

 

倒れた呪文使いの背後に居たのは休憩を終えたロンだった

 

「そら」

 

ロンが手に持っていた小瓶を投げ渡す

 

「なんだこれは……まさか酒か?」

 

「オレが暇を見て作った魔法の聖酒だ、飲めばエルフの飲み薬までとはいかんが魔力は回復する、体力もな……アルコールで痛みも和らげれる、今のお前には丁度良いモンだ」

 

「……」

 

飄々としているロンに覚悟を邪魔されたハドラーは渋い顔で睨んでいる

 

「お前、自分で言ってたんじゃないのか?諦めない強い心の力を持てって……オレの聞き間違いだったか?」

 

「……言ったな」

 

「ならバカな真似はするな、お前を待っている娘が居る……その娘が本当に望むのは美化された犬死になんぞではなく、生きたお前だ」

 

「……」

 

「遺されるのは……一人ぼっちは寂しいもんだ……生きて帰ってやれ」

 

「……恩にきる」

 

諭されたハドラーは小瓶を飲み生きる為に前を向く

 

「一人で行くつもりか?」

 

「それがどうした?」

 

「アホウ……」

 

ロンはハドラーの背に立ち背中を合わせる

 

「用心棒が要るんじゃないかと聞いてるんだ」

 

「……背後を任せていいか?」

 

「フン……任されてやる」

 

二人の息が今、完全に整った

 

「ところでお前、オレがやった鎧の魔剣はどうした?」

 

「……壊れた、すまん」

 

「そうか……戦いの内に死んだなら構わん、蔵で死んだ様に生きるよりはアレも本望だっただろう」

 

「……よし、行くぞ!!」

 

元魔王と剣士は力を合わせ敵を迎え撃つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああっ!?お前等!!?」

 

カメハが叫び声をあげた

 

「オレ達とやるにはまだまだレベルが足りなかったな小僧!」

 

倒した3匹の魔物の頭上でベグロムが笑っている

 

「ッ……靈式「五重奏結界!夢想……!!」

 

まともにやっては敵わないと結界で縛ろうと靈夢が霊力を練る

 

「遅せぇ!!」

 

「きゃああッ!?」

 

察知したベグロムのイオラが靈夢に直撃し吹き飛ばす

 

「てんめぇ!調子に乗んなよ!!」

 

仲間がやられて怒った正邪は能力をベグロムに向ける

 

「ぬあッ!?なん……だこりゃあ!?体が思った様に動かせねぇ……!?」

 

ひっくり返す能力により体の操作を逆にされたベグロムの動きが止まった

 

「初見殺しだよ戦闘狂!トドメ刺してやらぁ!」

 

順応される前にケリをつけようと正邪が弾幕を形成する

 

 

ズドッ!

 

 

ベグロムの乗るワイバーンが瞬時に放ったブレスが正邪を吹き飛ばした

 

「お!直った……助かったぜ相棒!」

 

「ぎゅあ!」

 

ワイバーンの頭を撫でてやるとベグロムへ頬ずり嬉しがる

 

「くっ……そ……なんて連携だ……」

 

苦しく喘ぎながら正邪が睨む

 

「オレを誰だと思ってんだ妖怪!ヴェルザー様に鍛えられた六将最強のドラゴンライダーだぞ?超一流のドラゴンライダーなら当然だろうがよ!」

 

六将で最弱のベグロム

 

その弱さからバカにもされていたベグロムだったがガルヴァスが武人として変わろうとした事に触発され着いていく為に力を求めドラゴンライダーとしての才を鍛える為ガルヴァスに願い、ヴェルザーの超竜軍団へ預けられた

 

「なら竜の方を……」

 

「甘ぇ!」

 

「いがっ!?」

 

ワイバーンに能力を使うが即座にベグロムに火炎を吐かれ邪魔される

 

超竜軍団で血の滲む修行を経たベグロムは気づけば六将の誰よりも強くなっていた、六将全員でも敵わぬ強さ、ガルヴァスでさえ舌を巻くまでに強さを上げていたのだ

 

「どうやらお前は相手の強さで能力を掛けれる人数が決まるみたいだな、オレか相棒ならどちらかしか不可能……だが知っての通りオレも相棒、どっちかしか強くないなんて事ぁねぇ!」

 

その強さに隙は無い

 

竜を強くさせるのはドラゴンライダーならば当然の事だが操るベグロムもそれだけでは怠惰だと自身も鍛えた

 

その考えもありベグロムは最弱から最強の将として不動の位置に居るのだ

 

「へッ!マシなのは確かだが……!」

 

ベグロムと竜の攻撃が正邪と靈夢を蹴散らす

 

「オレ達には勝てねぇ!」

 

「くっ……ガハッ!?」

 

「うぅ……はぁ……はぁ……」

 

二人は敵わず地に這う、蓄積したダメージにもはや限界

 

「大丈夫か!?しっかりしろ!」

 

パーティーメンバーを倒されたカメハも既に戦う事が出来ず見守る事しか出来ない

 

「トドメは刺さねぇ……楽しかったぜお前等」

 

決着を見たベグロムは飛び去ろうと上昇する

 

「待て……!?」

 

「こ……の……逃がす……かぁ……!?」

 

あの戦局を左右させる程の敵を他へ行かせる訳にはいかないと二人は立ち上がろうとするが立てない

 

「じゃあな」

 

ベグロムが3人の前から飛び去ろうとした瞬間

 

 

「よく頑張ったわね……ナイスファイト」

 

 

3人の背後から少女が歩み出た

 

 

ドンッ!

 

 

ベグロムがワイバーンごと霊力で叩き落とされる

 

「後は私がやるわ」

 

「霊夢……様……!」

 

歴代最強の博麗の巫女が毅然と立っていた

 

「うがっ……なんだテメェは!?」

 

「あんたが痛めつけてくれたこいつらの仲間……やってくれたじゃない」

 

「ケッ……また雑魚が来やがったか!返り討ちに……!?」

 

不意打ちに怒ったベグロムだったが霊夢を見て言葉を詰まらせる

 

「……雑魚じゃねぇな、そいつらより遥かに強い……面白れぇ!」

 

戦士の本能が霊夢の強さを感じ昂らせる

 

「相手を願おうか!」

 

「叩きのめしてやるわ!」

 

六将最強と最強の博麗の巫女が対峙する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス「騎士の間」-

 

「オオオオオオッ!!」

 

「……!!」

 

二人の勇者の戦いは続いている

 

「ッ……!?」

 

別次元とも言える熾烈なる戦いにルナは息を飲む

 

「あ……」

 

巻き込まれない様に輝夜と青娥とバラバラの芳香の体を集めて離れていたルナの前で輝夜の体が消える、不死の蓬莱人だからこの後に復活する為に消えたのだろう

 

「……ロランさん……」

 

ルナは願う様にロランを見つめ拳を握る

 

「勝ってください……」

 

そして祈る……

 

 

 

 

 

 

 

ドズッ……

 

 

「ぐうぅ……」

 

腹にメリ込んだ拳に顔が歪む

 

「……オアアッ!」

 

力任せに剣でダイを弾き飛ばすも息を荒く吐いている

 

「……!」

 

まだまだ健在のダイが休ませないと言わんばかりに瞬時に斬りかかってくる

 

「くそっ……」

 

応戦するロランの表情は優れない

 

(あのオーラの防御力が高過ぎる……)

 

何度か四肢による一撃を見舞っているもののダイに大きなダメージが与えられていないのだ

 

(……僕のダメージは無視出来ないレベルになってきた)

 

対してロランは剣の攻撃は受けていないものの度重なる削りが深刻なレベルに近付いていた

 

「……チッ!?」

 

急に離れたダイにエビルデインを唱えられ飛び退き回避する

 

(相性も悪い……)

 

続けざまに撃たれるバギクロスを避けながらロランは不利を感じていた

 

近接戦闘しか出来ないロランに対し呪文が使えるダイに遠近隙が無い、今の様に離れて呪文を使われれば苦しい

 

「なにッ!?」

 

呪文に意識を向けていた隙を突かれ振られた剣は防ぐも足に脇腹を打たれる

 

「グアッ……!?」

 

かといって近接戦闘が有利とも言えなかった

 

竜の騎士の戦闘経験がロランを上回り確実にダメージを加算させる、戦いが長引けばその分更に蓄積され不利になってくる

 

そしてロランの唯一の強みである膂力も竜魔人の莫大な竜闘気によって大幅に軽減されてしまう

 

「……ハアアッ!」

 

このまま続けばロランが先に力尽きるのは確実だった

 

「……古流剣殺法・昇一文字!!」

 

渾身の斬り上げが剣で防いだダイごと天井へ叩きつける

 

(あのオーラを破るには……剣を当てなければならない……!)

 

瓦礫と共に降りてくるダイにロランは考える

 

(間に合うか……いや!やるしかない!)

 

決意する血の勇者は駆ける

 

 

出会う事の無かった勇者達の死闘は終わりを迎えようとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?
圧倒的パワータイプのロランに対して全ての能力が高いオールラウンダーな前衛タイプがダイと言う私的解釈でした。

気付けばそろそろと大詰めになって来ました、まだ長いですけどね……


・現在の主な犠牲者(リタイア含む)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ、にとり、霖之助、アリス、美鈴、幽香、竜王、紫、青娥、芳香、輝夜、常闇ノ皇、忍、バラモス、靈夢、正邪、カメハ

魔王軍 ザングレイ、ダブルドーラ、キルギル、親衛騎団(全滅)、純狐、へカーティア?、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)?、テリー、ゴリウス、キル、ガルヴァス、グレイツェル、ヴェルザー、ゼッペル、災厄の王(ジャゴヌバ)

次回も頑張ります!

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