東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第40話 闘宴する正義

 

 

-妖怪の山・にとりの研究所-

 

「よし、戻って来れたな……敵は無し、良かった無事か」

 

転移装置が揺らめき妹紅が現れた

 

「お?おおっ?」

 

ロビンと共に中に居たにとりが首を傾げている

 

「にとり!こっちはどうなってんだ?」

 

妹紅が問うとにとりは警戒した様に身構えている

 

「ルナはわかるけどなんで妹紅?まさか偽物じゃないだろうな……?」

 

にとりは妹紅が帰ってきた事を知らない、だから敵の罠と疑っている

 

「偽物じゃないって、正真正銘の藤原妹紅さ」

 

「……ゴメン、私もそうだと思ってるけど状況が状況だからさ、悪いけど調べさせてもらうよ……ロビン!」

 

「リョウカイ、スキャンカイシ!」

 

ボロボロのロビンの機械が光り、にとりの端末に結果が送られる

 

「……声紋と妖力紋一致、モシャス及び魔術反応無し、だけど藤原妹紅の可能性5%……以前の妹紅とは別種の可能性有り、オイ!近よるんじゃあない!」

 

「100%私だっての、壊れてんじゃねぇのか?なんで5%なんだ……」

 

「ムッ!新たなスキャン結果が!何々……胸部の戦闘力7.5cmのAA、完全一致、藤原妹紅の可能性200%……フムフム!ペチャパイが決め手か、いやぁよかった!疑いは晴れたよおめでとう!」

 

「殺すぞ?」

 

「まぁまぁ今は非常事態だから、アッハッハ……それよりあんた帰って来てたんだ」

 

「そこらへんは終わったらだ、で?こっちはどうなんだ?」

 

「どうやらバーンがソルと一騎討ちに持ち込んだみたいだけど戦況は悪いね、指揮官や主力クラスが一気にやられてかなり危なくなってる、ロビンの予想じゃ良くて30分持つかどうかさ」

 

「そうか……わかった」

 

そのままルナを背負ったまま外へ出ようとする妹紅

 

「待て待て!フラフラじゃないか!そんな体で行くつもりなのか!?」

 

「当たり前だ!止めても私は行くぞ!」

 

「だから待てって!あんたが言ったら聞かない奴なのはわかってるよ!だけどそのまま行ったら自殺行為だ!近くに丁度良い奴が居るからちょっと待って!すぐ呼ぶから!」

 

妹紅を強引に止めて端末をいじるとすぐに兎がやって来た

 

「無事かーい?」

 

「てゐ!」

 

警戒する様に来たのは結構な傷を負っているてゐであった

 

「丁度良い奴ってお前だったのか!」

 

「え?何の話?っていうか妹紅!?」

 

てゐは驚き慌てふためいている

 

「ん?どういう事だにとり?」

 

「ああ、タイミング良いけどコイツじゃないよ、てゐ、あんた何しに来たの?」

 

「え?あたしゃただ転移装置が無事か確認しに来ただけさ……それよりなんで妹紅がここに居んの?」

 

「それは終わったらだってさ、それよりあんたも空いてるなら尚丁度良い!妹紅に付いていってやって!」

 

「そりゃあ、構わないけど……一人でかい?言っちゃ悪いけど自信無いよ?」

 

「大丈夫!もう一人助っ人呼んでるからね!近くだったからもう来るよ!」

 

すると外から新たな兎が飛び込んで来た

 

「救難信号を受けて来ましたー!私が来たからにはもう好きにはー……およ?敵が居ない……」

 

「なんだうどんげじゃん」

 

来たのはダブルドーラを撃破した後も戦っていた鈴仙だった

 

「って妹紅さん!?え?敵!?まさかソルの仕業!?オノレ魔王軍!許さん!」

 

「何回言えば良いんだよ……」

 

うんざりしながら妹紅は誤解を解く

 

「……成程、バーンさんの所に行きたい訳ですね!わかりました!任せてください!」

 

「私なんかが行っても意味無いかもしれないけどさ……だからってじっとなんて出来ないんだ……頼む」

 

「んじゃ行くとしようか」

 

3人は研究所を出て今だ熱気荒ぶる戦場へバーンの元を目指して向かう

 

(待ってろバーン……私が……行くから……!)

 

誇りが命ずるままに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ウオオオオオオオオオオオオオオオッー!!」」

 

 

 

鬼の拳が衝突する

 

 

「ヌゥ!?」

 

「ッウ!?」

 

 

ぶつかり合う互いの拳は大きさの違いなど関係無く弾かれ合う

 

「オオオッ!!」

 

「オアアッ!!」

 

広がる衝撃が空気を、大地を、幻想郷を揺らす

 

「ヌウアアアッ!」

 

巨大な鉄槌が振り下ろされる

 

「……ッ!?」

 

大地が爆ぜ、出来たクレーターと受け止めた巨拳の間で顔を僅かに歪ませる小鬼

 

「フフフ……どうした?同じ状態と言えどこの体格差は苦しいか?」

 

押し潰さんと上から力を加える笑う大鬼

 

「……オオッ!」

 

バーンが腕を振りかぶり巨拳を打つ

 

「ウヌッ!?」

 

弾かれた勢いで仰け反り体勢を崩すソル

 

 

ズドオッ!

 

 

勢いをつけて放たれたバーンの拳が打つ

 

「ッ……ヌゥゥ!」

 

腕で防御したが巨体が押される威力

 

「体格は問題では無い、か……だろうな、このレベルになれば体格は問題にならぬのは当然か、それでこそ鬼眼王、大魔王を名乗れる力を持つ者が成りし魔獣の本領よな」

 

「そうだなソル……しかし、多少の差は覚悟していたがほぼ互角とは驚いたぞ」

 

「貴様にとっては嬉しい誤算だっただろうな、余にとっては腹立たしい事この上無いが」

 

勝ち続けた己と敗者であり見下すバーンが互角なのがソルは気に入らない

 

「……腹立たしいのは余の方だ、何から何まで迷惑な奴め」

 

そんなソルへバーンは匂わす、自分の方が上と思っていたと

 

「吠えるではないか……負け犬風情がァァァ!!」

 

 

ドギャア!

 

 

怒る鬼神が打つ

 

「グッ……ッ!!」

 

 

ズドオッ!

 

 

魔力の波動が打ち返す

 

 

「「ガアアアアアアアアアッ!!」」

 

 

咆哮を機に始まる鬼の殺し合いは幻想郷を激しく鳴動させ凄まじさを物語る

 

 

「カラミティエンド!」

 

全力を込めるバーンの手刀が腕を粉砕する

 

「カラミティエンドォッ!」

 

もはや手刀とは言い難きソルの大手刀が切り返す

 

「ヌゥゥ……!」

 

千切れた腕とヒビ入る体を治しながら六芒魔方陣に展開したイオナズンを爆発させるバーン

 

「オオッアアアアッ!」

 

粉砕された腕とヒビ入る肉体を再生させながら蹴り入れるソル

 

「グッウゥ……ッ!?」

 

受け止めた脚がバーンを掴み取る

 

「ヌゥン!」

 

投げ飛ばされ大地が爆ぜる

 

「ハアッ!」

 

間髪入れず突き入れられる拳

 

「砕けて散れぇ……!」

 

何度も打ち下ろされる鬼神の巨拳、ただの殴打が幻想郷を揺らす、単純にして明解なる力の見せ方

 

 

ガッ

 

 

「ムッ!?」

 

手応えが変わる

 

 

グアアッ!

 

 

ソルの巨体が持ち上がり叩き付けられる

 

「良い様にやってくれるではないか」

 

粉塵から飛び出た流血のバーンが手をかざし呪文を唱える

 

「マヒャド……ヌゥ!?」

 

ソルの周囲を凍てつく冷気が覆い四肢を凍らせていく

 

(これは……狙いを……!)

 

「いくら余でも貴様自体を氷結させるのは不可能、だが局所に絞れば可能となる、小手先だが有効な戦術だ」

 

そしてバーンはソルに向かう

 

「この程度で余を封じれると思うかッ!」

 

氷が砕け起き上がり手を伸ばす

 

「思ってはおらぬ」

 

すり抜けたバーンが巨顔へ翔る

 

「!?」

 

「だが……一瞬でも止めればそれで充分な機になる」

 

 

ドッ……!

 

 

拳がソルの本体を打ち抜く

 

「グフウッ!?」

 

めり込む拳が威力を物語る

 

「流石に堅いな……」

 

「ゴハッ!?」

 

頬を打たれ血が飛散する

 

「ゴッ……ウグゥ!?」

 

上乗せした魔獣部分と同化している故に本体のソルは手が出せず打たれるまま

 

「……これが」

 

手刀を構えソルの胸に突き入れる

 

「ッカア!?」

 

「再現だ……!」

 

本体を裂き、そのまま鬼神の肉体を裂いていく

 

「余が敗北した時の……な!」

 

手刀が鬼眼へ到達する

 

 

バコンッ!

 

 

露出していた鬼眼を硬質の瞼が覆う

 

 

キンッ……!

 

 

「何ッ……!?」

 

バーンの手刀は止められた

 

「愚かなりバーン……余が誰と戦ったと思っておる?貴様と同じダイだぞ?」

 

裂かれたソルが……笑っていた

 

「奴が力の源である鬼眼を断とうとしていたのは……経験済みだ!」

 

全身から波動を放ちバーンを引き離し

 

 

ドギャア!!

 

 

アッパーが打ち飛ばした

 

「故に鬼眼を守る瞼は更に堅牢にしている、鬼眼王ですら容易く断てぬまでのモノになァ!」

 

追い付き、鉄槌を食らわせバーンを大地に叩きつける

 

「浅知恵で勝てるほど余は甘くは無いぞ……?バーン……?」

 

降り立ち埋まる敗者を見下す

 

「……ヌグゥ……ゴフッ!?」

 

吐血しながらもバーンは立ち上がる

 

「確かに……甘くは無かったか、流石は余が勝てなかった勇者との死闘を制した勝者……要の部分では傲らぬか」

 

互いに傷を再生させていく

 

「力こそ正義……それが余の変わらぬ信条だ」

 

その最中、不意にソルが呟く

 

「……」

 

バーンは何もせず聞き入る様にソルを見る

 

「その信条を元に勝った、勝ち続けた……生まれてから今まで常に……な」

 

「……それがどうした?」

 

攻撃は互いにせず、再生音の中で二人は言葉を交わす

 

「ふと疑問になったのだ、勝ち続けた余と何故敗者の貴様が互角なのか?貴様の信条は折られている……ならば何が貴様をそこまで高めたのかが気になったのだ」

 

ソルは勝ち続ける事で今の強さを得た、数多の王を凌駕し天災すらも従える至高神に

 

その自分に肉薄するバーンの力の根源に興味を抱いたのだ

 

「……最初に言った筈だ」

 

バーンは答えた

 

「友の為に……余は強くなれた」

 

己の力では無いと

 

「負けたからこの幻想郷に導かれ、友と言う太陽を得た……太陽を失わぬ様にする内に、余は強くなれた……全ては負けたからこそ得られたのだ」

 

バーンの戦う理由はあくまで友や仲間の為、自分の為に戦う気など全く有りはしない

 

全てはただ友の為に……

 

それが勝ち続けたソルに肉薄出来る理由

 

 

「……戯言だ」

 

ソルの声に怒りが滲む

 

「負けて得るだと!得るとは勝ったからこそ!負けて得るモノなど無い!得るのは惨めな敗者の烙印のみ!」

 

敗北を受け入れているバーンに堪らなく腹が立つ、負けて良かったと宣う信条を捨てたその生き様が許せない

 

「それすらも余にはもはや気にならぬ」

 

「負け犬の言葉だ、それは……死ねば何も得れぬ、貴様は偶然生き延びただけ……」

 

「その偶然が余をここに導いた、感謝している」

 

「うつけが……!」

 

何の後悔も反省も見せないバーンがソルを苛立たせる

 

「それに太陽だと……そんなものは妥協に過ぎん!貴様は生きていたにも関わらず逃げ、諦め、妥協した魔族の!いや、余と言う存在の恥晒し!魔界を捨てた愚王めが!」

 

「否定はせぬ、それで?それがどうかしたか?まさかくだらぬ舌戦をしに来たのか?わざわざ次元を越えて……御苦労な事だ」

 

「……ッッ!!」

 

バーンにこの手の言葉は何も響かない、真の意味でバーンは全てを捨てて幻想郷に居る

 

幻想郷だけがバーンの生きる世界なのだから

 

「目障りだ……!バァァァァン!」

 

瞼を開いた鬼眼から魔弾が発射される

 

「グウウゥ……」

 

鬼眼砲とも言うべき力の塊、それは触れた一瞬で防御したバーンに多大な傷を負わせる

 

「……認めぬ」

 

鬼神の巨拳が打つ

 

「貴様を認めぬ!その態度は!満たされた顔はなんだ!!」

 

「ッウ!?」

 

押し潰す様に出された肘打ちを受け止めるバーンの顔を歪ませる

 

「在ってはならない存在だと言うのに……!」

 

巨体の猛攻がバーンを襲う

 

「貴様は……貴様はァァァァ!!」

 

一方的な攻撃が続く

 

「……」

 

打たれるままのバーン、しかしその表情に怒りは無い、確実なダメージはあるのに何故か余裕すら感じられていた

 

「オノレェェ……!まだ続けるかァ!」

 

反面、優勢な筈のソルはバーンと違い激昂している、余裕など感じられない

 

「消え失せろ腑抜けがァァァ!!」

 

それはソルがバーン故

 

遥かな太古から力こそ正義と信条を掲げて勝ち続けたソルは真のバーンと言える、一番変化の無いバーン

 

だが敗北し幻想郷に来たバーンは変わっていた、信条も位も捨て復讐もしないまるで勇者達の様な正反対

 

それを許せる筈がない、突き進んだソルが容認する筈がない、同一の自分が吐き捨てた生き方をしているのだから

 

己であるが故に絶対に許せないのだ

 

 

ズドオッ!

 

 

下方から飛び出た何かがソルを打ち、後退させる

 

「ヌッグッ!?……カイザー……フェニックス……!!」

 

目前で翼を広げる不死鳥にバーンが並ぶ

 

「流石、と言う他あるまい……効いたぞ」

 

バーンにソルの様な必死を感じさせる様子は全く無い、下手をすれば殺されるにも関わらずその顔に余裕を感じさせる

 

「勝者の拳は余には堪える」

 

それはバーンが受け入れているからに他ならない

 

敗北、そこから繋がった幻想の奇蹟、その何もかもを

 

「だがその程度ではまだ兜を脱ぐ訳にはいかぬな」

 

幻想郷に来る前の自分、来た後の自分、どちらも受け入れ、異なるモノに変えていたからバーンはソルに対し敵以上の特別な感情を持っていない

 

それ故に同一人物でありながら精神的な差が生まれているのだ

 

 

「行け……皇帝たる不死の鳥よ」

 

カイザーフェニックスがソルに翔る

 

「フェニックスゥウィングゥッ!!」

 

鬼神の巨掌が轟音をあげ振り抜かれる

 

「な、何ィ!?」

 

カイザーフェニックスは弾き返されず逸らされ脇を抜けていく

 

「バカな……有り得ぬ筈……」

 

鬼眼王で繰り出したフェニックスウィングでさえバーンの不死鳥を返せない、直撃は防いだが向きを変えるのが精一杯だった事が同じ状態にいるソルには理解出来ない

 

「侮るなよ、それは余の誇りだぞ」

 

同じ象徴を持つ一人の友がずっと追い求めた誇りの炎形、故にバーンにはどの技より、どの呪文よりも特別であった

 

それは最高技の天地魔闘の構えすらも越えている

 

それだけの想いと力を込めた誇りの不死鳥は簡単には破らせない、妹紅の名を墜とす事に繋がるから

 

何が劣ろうともこれだけは譲れぬ絶対の誇り故に

 

 

「チィィ!……ウガァ!?」

 

バーンを殴ろうとしたソルは背に衝撃を受け前のめる

 

「ッ……敗鳥めがァ……!」

 

脇を抜けていったカイザーフェニックスの突進によるもの、バーンは外されたカイザーフェニックスを消さずに操り無防備なソルを奇襲させていた

 

「消えろォォーーー!!」

 

力を込めた手刀を構え、振り抜く

 

「余を放置してやれると思うか?」

 

「!!?」

 

巨顔の前に居るバーンに気付くも遅かった

 

 

「フェニックスウィング!!」

 

 

下段から振り抜かれた高速の掌底が巨顔の顎に炸裂し、打ち上げた

 

 

「カイザーフェニックス!!」

 

 

放たれた不死鳥と同時に1羽目の不死鳥が飛翔しソルに向かう

 

 

「神炎「天火明命」!!」

 

 

命中した2羽の不死鳥が太陽を思わせる大炎の球体を成し、ソルを炎獄へ閉じ込めた

 

「グオオッ!?オオオオーーーーッ!!?」

 

絶える事無き不尽の炎が体を焼く

 

(……ソルよ)

 

炎を維持するバーンは内心語る

 

(貴様は確かに強い、勝ち続けたその力に疑いは無い、強者との戦いの内に強くなったのは容易に想像出来る……だが、それは余も同じ)

 

バーンとソルの精神的な余裕の差にはもう1つ理由があった

 

(ムンドゥス、エスターク……どれも貴様が相手をした者に引けは取らぬだろう……しかし、余は知っている……勝ち続ける貴様が出会わなかった、想像も出来ぬ様な悪夢の存在を……)

 

思い出すだけで戦慄する、未だに撃退出来た事が夢とさえ思う

 

(暗い夢(ダークドレアム)……破壊の神……)

 

己を遥か超越した存在、格やレベルを越えた究極、力の行き着く終点であり力そのもの

 

大魔王すら羽虫の如く消し去る己が信条の体現者と戦った事が有ったから

 

(だからだろうな……貴様を恐ろしいとは些かも思わぬ、皮肉な事だがな……)

 

それに比べれば(ソル)など可愛いものなのだ

 

(……かと言って油断はせぬ、余は負ける訳にはいかんのだからな……現状は互角、勝敗は未だ田湯っておる……アレを使わずに勝てるか……?)

 

バーンが炎球に居るソルを睨む

 

 

「この太陽神ソルを舐めるでないわーーーッ!!」

 

 

鬼眼の波動が炎を消し飛ばす

 

「グヌッ!?」

 

操る呪文を壊された反動がバーンを襲い追撃を行う動きを止めさせる

 

「ヌウウゥゥゥ……!!」

 

存分に焼かれ、肉体の2割を消し炭に変えられたソルが煙を昇らせながらゆっくりと降りてくる

 

「バァァァン……」

 

再生させていくが治りが遅い、極限の死闘に底が見え始めていた

 

「……」

 

バーンは既に再生は終わっているが実のところそう変わらない、魔力を消費し過ぎて先程の大技の様な事は軽々しく撃てない状態にあった

 

「……負けられぬ」

 

再生が終わったソルが呟く

 

「貴様には……貴様にだけはッッ!!」

 

鬼の肉体を激しく滾らせ殴り掛かった

 

「……それは」

 

同じく拳で合わせたバーンも叫ぶ

 

「余とて……同じ事ッッ!!」

 

壮絶なる攻防が始まる

 

 

 

 

「ゴハアッ!?」

 

 

互いに負けられない理由が有る

 

 

「ガフウッ!?」

 

 

不変の信条の為、そう在り続けた正しき己の為に

 

 

「グアアッ!?」

 

 

友の為、野望の代わりに得た新たな太陽の為に

 

 

「ウガアアアアッ!?」

 

 

どちらが正しいのかは言葉では決まらない

 

 

「ハァ……ハァ……バーン……!」

 

 

「クッ……ハァ……ソル……!」

 

 

故に戦うのだ、勝ち、正しさを証明する為に

 

 

 

「「ウオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」

 

 

 

存在を懸けて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オアアッ!」

 

「ヌガアッ!」

 

衝突、もう何度目かもわからない

 

「バァァァン……ガハアッ!!?」

 

至る場所に血と肉片が飛び散り死闘の凄まじさを物語る

 

「ハァー……ハァー……ソル……!」

 

そしてようやく……優劣が見えた

 

「ゴフッ……ガハッ!?」

 

ソルの巨体が膝をつく

 

「遊びが……過ぎたな……!」

 

ダメージは激しいがしっかりと立っているバーン

 

「ッ……!?」

 

「余と戦うまでに他の者に余計な力を使い過ぎた……その傲りが今、表れた」

 

「ッッ……!!?」

 

優勢の位置に立つはバーン

 

優劣を分けたのはソルの傲り、何をしようと負ける気の無かった魔族の神はその傲慢故に自らの首を絞めていたのだ

 

「まだ……負けておらぬ……!」

 

激昂たる気迫でソルは立ち上がりバーンを睨む

 

「貴様には負けておらぬわッッ!!」

 

手刀がバーンを打ち払う

 

「……!」

 

返す拳が打ち抜く

 

「ガアアアアアアッ!!」

 

勝者たる自負が、魔神の意地が息の根を止めんと唸る

 

 

「ヌアアアアアアーーーッッ!!」

 

 

太陽神をここまで突き動かすのはただバーンの存在が許せないだけではなかった

 

心の奥底に封印したある想いが何よりも起因している

 

「……」

 

打ちつ打たれつの至上の攻防の最中、バーンは何も吼えぬまま静かにソルを見つめている

 

「そうか」

 

迫る巨拳を弾いたバーンが呟く

 

「最初から貴様から怒りとは違う何かを感じてはいた、今……ようやく理解した」

 

「何……?」

 

その言葉にソルの体が止まる、バーンが何を言いたいのかが気になったのだ

 

「フフッ……そうか、そうであったのか、成程な……」

 

「……」

 

一人面白そうに笑うバーンを睨む

 

そして口は開かれた

 

 

「貴様……余をう……」

 

「!!?」

 

 

ソルの目が見開かれる

 

 

ズドオッ!!

 

 

巨拳が打ち込まれる

 

「黙れェェェェ!!」

 

異常な怒気を出しながら何度も拳を振り下ろす

 

「そんな事は有り得ぬッ!!」

 

自らに言い聞かす様に叫ばれる言葉

 

(そうだ……有り得ぬ!有り得ぬのだそんな事は!)

 

心に触れられたソルは狂った様に攻撃を続ける

 

(……それを認めてしまえばッ!余の今までを……信条を否定してしまう事になる!それだけは断じて有り得ぬ!)

 

右腕に極大の力を込める

 

 

「消え失せろォォォォォ!!」

 

 

終の一撃が放たれた

 

 

「!!?」

 

拳圧が粉塵を晴らした刹那、ソルは見た

 

 

「天地……魔闘ッッ!!」

 

 

バーンの構えを

 

 

ズギャア!

 

 

拳が命中する

 

「ッッ!!?」

 

しかし打ち抜いてはいなかった、力を上げた掌底が受け止めていたのだ

 

「オオオオーーーッッ!!」

 

それも刹那、瞬時に受け止める拳を払いのけたバーンは唱え先行させた不死鳥と同時にソルへ飛び立つ

 

「ウオッ……オオオオッ!!?」

 

命中した不死鳥が炎爆を起こし仰け反らせる

 

「ッ……ハッ!?」

 

気付いた時には手刀が体に切り入られる瞬間であった

 

「終わりだ……」

 

「グオッ!?オアアアアアッッ!!?」

 

体を両断していく手刀が鬼眼に迫る

 

「アアアアアアアーーーーッ!!」

 

「グッウゥ……」

 

全身から放った波動がバーンの顔を歪めさせる

 

「……ハアッ!!」

 

手刀が振り抜かれた……

 

 

 

 

「……」

 

バーンがソルを見つめている

 

「クッ……ヌゥ……グッ……」

 

(浅かったか……)

 

トドメには至っていなかった

 

(波動にカラミティエンドの威力を殺された、瞼に阻まれ両断は出来なかった……だが)

 

しかしバーンは勝利を確信していた

 

「ヌゥゥ……ウゥ……!」

 

(僅かに切り入り鬼眼を損傷させた、もう満足に力は出せぬ)

 

己を知る故の確信であった

 

「貴様は……いや、今から死ぬ貴様にはもうよい事か……トドメだ、ソル」

 

揺るがぬ勝利にゆっくりと近付いていく

 

「……ッ!?」

 

体を痙攣させる事しか出来ないソルはバーンを睨みつける

 

(バカな!余が……余があんな……敗者ごときに……!?)

 

認められない

 

絶対絶命に瀕していながら受け入れられない

 

(有ってはならぬ……!余を否定した貴様が勝つなどふざけた事は……!勝つのは余でなければならないのだ!不様な敗者ではなく……太陽をこの手にした……魔界に光を与えた……勝者たるこの余でなければ!!)

 

 

相手が己故に……

 

 

(認めぬ……!認めぬぞ!余は……余は……!!)

 

 

だからか……

 

 

 

ドクン……

 

 

 

(大魔王を越えた……天魔に君臨する太陽神!)

 

 

そこに至れたのは……

 

 

 

ドクン……

 

 

 

(魔族を永劫照らし続ける……不敗の神なのだ!!)

 

 

 

ドクン……!

 

 

 

「……!」

 

バーンが足を止める

 

(何だ……鬼眼から鼓動を感じる……)

 

妙な様子のソルを注視するも何かはわからない

 

 

 

「バーンよ……」

 

 

ソルが語りかけた

 

「改めて……言わせて貰う」

 

同時にソルの体全てを光が覆った

 

(こ、これは……進化……すると言うのか!?鬼眼に己を進化させる力は無い……まさか……!奴が言っていた大いなる闇の根源か!?)

 

バーンは悟った

 

ソルは更なる高みへ向かおうとしているのだと

 

「バカな……」

 

思わずそう溢してしまう程バーンには信じられない事だった

 

 

 

「太陽神、この名に……敗北は許されていない」

 

 

 

目も眩む極光が照らす

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

光が収まりバーンが目を開く

 

「なっ……!?」

 

そこには鬼神の巨体は存在していなかった

 

存在していたのは同じ目線に立っていた

 

「余と……同じ……」

 

ソルの体は戻っていた、バーンと同じ人の形に

 

(鬼眼王の力のまま……その……姿に……)

 

バーンは即座に理解した、あの額に鬼眼が有るソルは人の形態に戻ったのではなく、鬼眼王のままあの姿に成ったのだと

 

「勝つのは……やはり余でなければならぬ」

 

これぞ異なる道を進んだ因果平行が見せる可能性

 

鬼眼と言う己の源、その力の本質をバーンよりも理解していたが故に、不敗の誇りと愚かなまでに己を信じる魔王軍の為に至れた

 

唯一至高の姿

 

 

ソルは成ったのだ

 

 

成した偉業と強さに敬意を籠め、魔王軍の象徴たるその神名を名実共に本物にしたのだ

 

 

太陽神(ソル)に!!

 

 

 

 

 

「奇蹟を……起こすか!?」

 

予想だにしていない事態に、覆された結果がバーンに驚愕と冷や汗を与える

 

「奇蹟……か」

 

 

ズンッ……!

 

 

一気に肉薄したソルが手刀を振り下ろす

 

「グッ……ヌゥ……!?」

 

同じく手刀で受けたバーン、押し合う力が大地を震わせる

 

「貴様と一緒にするなよ、そんな勇者共が好む安い言葉で括ってくれるな……これは余の力だ」

 

「チッ……イィッ!!」

 

弾き合った二人は距離を取り見つめ合う

 

「と言っても劇的な差は無い、上昇こそしてはいるが精々数%程度だ、無駄を削いだ……が正しい表現かもしれぬな」

 

(そうだ……ダメージも回復はしたがある程度だ、全快ではない……しかしそんな事よりも脅威に感じるモノが有る!心が平静を得た!狂気に近い怒りを深く飲み込み、氷の様な殺意だけが……魔獣を越え我を取り戻したか)

 

怒りに突け込んでいた部分も有ったバーンは冷静さを取り戻した事が何よりも脅威だと感じている

 

「……」

 

明らかな苦境、それでいてバーンは尚も

 

「フッ……」

 

余裕気にふてぶてしく笑った

 

「……まだ笑えるのか貴様」

 

そんな態度にソルは冷ややかに見つめながら構える

 

 

「決着をつけようではないか……バーンよ」

 

「望むところだ……ソル!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        嘆き光が波に飲まれ

 

 

       痛みの中で君は目醒める

 

 

       傷つけたから出来る絆が

 

 

 

 

 

 

       孤独を 今 描き始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだ続きます。

ここまで来るとバトル内容が難産です……散々書いて来たもんなぁ……どうですかね?


・現在の主な犠牲者(リタイア含む)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ、にとり、霖之助、アリス、美鈴、幽香、竜王、紫、青娥、芳香、輝夜、常闇ノ皇、忍、バラモス、靈夢、正邪、カメハ、ロラン、ルナ、妹紅?、フラン、大妖精、魔理沙、パチュリー、早苗、藍、諏訪子、さとり、神奈子、橙、依姫、妖夢、豊姫、ゾーマ、文、勇儀、ロン、レミリア 計41名 

魔王軍 六将(5/6)、キルギル、親衛騎団(6/6全滅)、純狐、へカーティア?、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)?、テリー、ゴリウス、キル、ガルヴァス、グレイツェル、ヴェルザー、ゼッペル、災厄の王(ジャゴヌバ)、ナイト(ダイ) 計26名 
                    増減無し


次回も頑張ります!

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