東方大魔王伝 -mythology of the sun- 作:黒太陽
-紅魔館-
ざわざわ……
「宴会に参加する人は咲夜さんが中央に作った特設会場へどうぞー!」
夥しい数が紅魔館に集まっている
「……早く行け、後がつかえている」
戦いから3日、今日はレミリアが主催する祝勝パーティー
「ちょっとミスト!もっと愛想良くしてくださいよ!」
「……門番に愛想は必要無かろう美鈴」
幻想郷の復興はすぐに済んだ、魔王軍は人間の里など施設を避け無駄な破壊をしなかったからだ
魔界に避難していた者達が少し働いただけでもう殆ど前と変わらない状態に戻っていた
「ダメです!そんなんだから紅魔館はおっかない所だって言われて人が来ないんですよ!て言うかミストが来る人全部警戒して睨むのが8割くらい理由なんですからね!」
「……レミリア様は喧騒を好まぬ、問題は無い筈だ」
バベルボブルから譲られた世界樹の葉で死者も生き返り怪我人も永琳と回復したバーンによって全快し何も問題は無い
「そんな事ありませんー!お嬢様は皆でワイワイするのが実は結構好きなんですー!じゃなきゃ紅魔館でわざわざ主催でパーティーなんて開きませんからー!あの大人ぶった態度はカリスマぶってるだけで本当は寂しがり屋さんなんですー!」
「……今が忙しくて良かったな、普段だったら咲夜殿に死刑にされるか魔理沙に密告されてレミリア様直々に死刑だったぞ」
「はわわ……貴方は言いませんよね?ミスト……?」
「さぁな……それは知らん、だが今言えば間違いなくお前はパーティーが終わるまで門番、終わった後も門番、当然食事など有りはしない、その後気分で処刑だろうな」
「お願いしますミスト!言わないでください!このとーり!ぱふぱふしてあげますから!ほら見てくださいこのふくよかな胸!!して欲しくなって来たでしょう!?」
「要らぬわ……」
幻想郷は平和を取り戻したのだ
「まるで夫婦みたいですね、師匠とミスト」
「おや、珍妙な挨拶をする破門した変態・鈴仙・土門華院・イナバじゃないですか」
「変態じゃありません!仮に変態だとしても変態と言う名の拳士です!」
「あっそうですか、では
「冷たい!チルノより冷たい!あっ!?ちょ!姫様、てゐ押さないで!?えっ医者の方の師匠?なにか……?はい?邪魔しちゃ悪い?何の事ですか?ア~レ~!」
「……永遠亭の参加を確認した」
門番兼受付をこなす二人の妖怪と魔族
「あ~やれやれ、やっと落ち着きましたね、早く開始にならないかなぁ~」
「開始までまだ30分ある、それまでは気を抜かず与えられた使命を果たせ」
「わかってますよ、ミストは本当に真面目ですよねぇ」
「……お前がユル過ぎるだけだ」
見えない信頼が確かに有った
「ふふ~ん♪」
「どうした?やけに機嫌が良いな」
「えへへ……いえ、ちょっとですねぇ、さっき鈴仙に言われた事が嬉しくてですね」
「……変態と言う名の拳士、と言ってくれと言われた事がか?やはりお前は変わっているな」
「なんでそっちなんですか!違いますよ!夫婦って言われた事です!」
「……確かに言っていたな、それが何故嬉しいのだ?」
「それだけ私達が仲良く見えるって事だからですよ!いっそ本当に結婚しちゃいます?私達!」
「冗談はよせ」
「本気と書いてマジです」
「……私は暗黒闘気の集合体……人間の様には……」
「そんな事いいんですよ!心から大切と思える人が居て……そんな人と一緒に居れるだけで幸せなんだってわかったんです」
「美鈴……」
「フフッ……その気になってくれたらいつでも言ってくださいミスト!あ~でも変に型に嵌めるよりはこれくらいが私達には一番かもしれませんね、これくらいの距離が、ね」
「そうかもしれんな、我等は……これぐらいが一番、かもしれんな」
今日も仲良く紅魔の館で過ごす
「全員、グラスは行き渡ったわね!」
会場のステージでレミリアが立っている
「今日は幻想郷がソル率いる魔王軍に勝利した祝勝パーティーよ!余計な御託も無いし気遣いも無用!バーンに手を出すのが禁止な事以外は無礼講よ!好きなだけ楽しみなさい!以上!乾杯!!」
「「「かんぱーい!!」」」
盛大な打ち上げが始まった
「死ぬまで食うぞ!」
「死ぬまで飲むぞ!」
「死ね死ね!死んでも世界樹の葉が余ってるから大丈夫だ!」
「あれ?山積みにされてた唐揚げが消えてる……」
「ハドラーが作った竜田揚げもだ!」
「馬鹿な!?始まってまだ1分も経ってないぞ!?誰がこんな酷い事を……!」
「恐ろしく速い飲食、俺でなきゃ見逃しちゃうね……犯人は……!」
「そう……私よぅ」
「お前は西行寺幽々子!?」
「貴様が食ったのか!?」
「ざけんな!皆で食うもんだろうが!ってか色々おかしいだろ!食う速さと量とかが!明らかに体積より食ってるぞ!?」
「食事は戦場、早い者勝ち……食えない奴が悪いのよ」
「コイツ……!?」
「あんな狂った幽霊に負けてられるか!いくぞ皆!」
「うふふ……知るがいいわ、私の食欲は……まさに食を支配する力だと言う事を!」
食戦が始まった
「ローンー・ベールークーさんッ!」
満面の笑みで妖夢が食事を持っている
「どうした?」
「約束を果たして貰いに来ました!」
「約束……?……ッ!!?」
思い出したロンが酒瓶を落とした
「勝ったら食べてくれる約束……でしたよね?」
「うっ……あ、あぁ……勿論覚えている……」
何やら此方も雲行きが怪しい
「それでは……」
妖夢は幸せそうにスプーンに料理を掬い準備を始める
「……今はせんぞ」
「!!?……何故です!!」
驚愕する妖夢にロンは冷や汗を流しながら言い放つ
「この俺は……こと約束に限り虚偽は一切言わん、やってやる……やってやるが……あの時、その時と場所の指定まではしていない、それをお前も思い出せ、つまりだ……俺がその気になるのは10年、20年後という事も俺の気分次第……という事だ……!」
「そんな……!?」
妖夢の夢である女の子が一度は夢見るであろう「あーん」
そんなみっともない真似を公衆の面前で晒せるか!とロンは苦しい言い訳で逃げに走る
「わ、私……一生懸命頑張ったのに……」
妖夢の目に涙が浮かんだ
「おい……よ、妖夢……?」
「ソルには及ばなかったですが……テリーには約束通り……勝ったのにぃぃぃ……!!」
ポロポロ涙を流しながら慟哭する
「ま、待て!泣くな!」
回りから非難の目が向けられる
「あーらーらーこーらーらー!なーかしたーなーかしたー!」
「魔理沙……!」
ニヤニヤしながら見てくる魔理沙を斬ってやりたいが今はそれどころではない
「私の事嫌いなんですかぁぁぁ……!」
「クッ……!?」
妖夢の辛そうな泣き顔が堪える
「……わ、わかった」
だからロンは観念した
「やってやる……やってやるからもう泣くな……」
「本当ですか!ヤッター!!」
パアッとまるで演技だったかの様に一瞬で笑顔になった妖夢に頭を抱える
(チッ……オレともあろう事が妖夢が喜んでホッとするなんてな……)
いそいそと料理を掬う妖夢を見ながら人並みの幸せを感じていた自分に……
「ハイッ!あーん!」
「……」
差し出されたスプーンをせめてもの抵抗で無愛想に目を閉じ口に含む
「美味しいですか?」
「……ああ、美味い」
惚れた弱味とはかくも恐ろしい、まさかあの気難しいロンにこんな恥ずかしい事をさせるのだから
「ウハハハハハ!アーハハハハハハ!」
見ていた者達の中から爆笑する声が聞こえる
「面白ぇもん見せてもらったぜー?えぇ?まさかあのロンがラブラブするなんてなぁ……ククッ……!アーヒャヒャヒャヒャッ!!」
当然魔理沙である
「……星皇剣を持ってこい妖夢、そしてお前の楼観剣もだ……行くぞ!魔女狩りだ!!」
「初めての共同作業ですね!わかりました!魔理沙!恨みはありませんが覚悟!」
「ハッハー!あばよバカップルー!捕まえてみやがれだぜー!」
愉快な追いかけ合いが始まった
「オラ射命丸返杯だ!」
「いぃ!?早過ぎですよ萃香さん!て言うか既に樽5個くらい飲んでますよね!?まだ始まったばかりなのに!?」
「あんだァ?幻想郷最速が聞いて呆れるねぇ!こちとら結局は雑魚しか倒してないから消化不良でイライラしてんだ!付き合いなぁ!」
「欲求不満の八つ当たりですか……勘弁してくださいよ……」
「何か言ったかい?」
「いえ何も!さぁ飲みましょう!負けませんよ~……はぁ……理不尽ですぅ……」
「私が相手するから退きなさい」
「幽香さん!……お言葉に甘えます!」
「オーイ射命丸、酒の追加を持って来なー……おや幽香じゃないか、一緒に飲るかい?」
「ええ、付き合ってあげるわ」
「どしたい、えらく機嫌良さそうじゃないか」
「まぁね……強いのを倒したからね、あんたと違って」
「ケッ……流石はドラゴンスレイヤー殿だねぇ、余裕がありなさるありなさる……羨ましいこったよ」
「だから慰めてあげる、感謝しなさい」
「おーおーありがたいねぇ、んじゃまぁ……付き合って貰うかね、ありがと幽香」
「じゃんじゃん持ってくるがいいぞハドラー!つかはよせい!」
「忍……オレは他の料理もせねばならんのだ、お前に作る超魔爆炎ドーナツばかりにかかってられん」
「知るか阿呆!よいからさっさと持ってくるのじゃ!」
「チッ……偉そうに……」
「偉いもん!儂は怪異の王じゃもん!」
「あら、美味しそうなドーナツですね、おひとつ頂いても?」
「私達も食べる~!」
「何じゃあ……?訳のわからん服着た住職が大勢引き連れてきおってからに……これはやらん!全部儂のモンじゃあ!」
「まぁそう仰らず……折角の宴なのですから仲良くしましょう、ね?」
「ふん!他のモノならいざ知らずじゃがこのドーナツだけは譲れぬ!それを儂から奪おうと言うのなら……これはもう戦争しかないのぅ?」
「……よろしいのですか?」
「何がよろしいのじゃ?まさか怪異の王たる儂に勝てると思っとるのか?口が過ぎるぞ三下ァ……バーンの顔があるから大人しめにいるが気に食わん魔法使いが相手だと加減が出来んかもしれん……見逃してやるからさっさと視界から消えよ」
「説法だけでは足りぬ様ですね……」
「足りるどころか要らぬ世話じゃアホンダラ!はよ失せい!」
「では仕方ありません……いざ、南無三!」
「誰に向かって吠えとる……ぶち殺すぞヒューマン!」
「小町さん!……あれ?小町さんだけですか?」
「おお~守矢の
「神奈子様と諏訪子様も用事が有って遅れるそうなんです、何の用事かまでは教えてくれませんでした」
「あたしも教えて貰ってないけど何かはわかるよ、多分そっちと一緒の用事さ」
「そうなんですか?まぁいいや……それより次のコミケに出す新作をバーンさんとロランさんで攻めようと思うんですがどう思いますか!?」
「……いいんじゃないかい?バレなきゃ……」
「キャー!ルナちゃーん!」
「イタタ!痛いですって青娥さん!」
「ん~無事で良かったわ私と妹紅の愛娘~!」
「お母さんの方に行ってくださーい!」
「恥ずかしいからヤーダ!」
「なんで~放して~!」
「そこまでだ青娥!」
「!?貴方は慧音(満月白沢バージョン)!」
「ルナを放して貰おうか!」
「……イヤだと言ったらどうなるのかしら?」
「こうするのさ!勇儀!」
「はいよ~」
「なっ……!?鬼を呼んでどうするつもり!?まさかいやらしい事をする気!?エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」
「違うわ!行くぞ勇儀!ロングホーンパワープラス!」
「はいよ~ロングホーンパワーマイナス!」
「ふ、二人の角が意味不明な光線で繋がれて……射線上には私の首が……ま、まさか!?」
「もう遅い!食らえ!「クロス・ハリケーン」!!」
「ちょまっルナごと……きゃあああああああ!!?」
「いやああああああああああああ!?」
「フッ……泥棒猫が栄えた試しはないのだ!……すまないな勇儀、これは手伝ってくれた駄賃だ」
「あたしも楽しかったよまいど~!最後に勝利の決め台詞やっとくかい?」
「うむ、そうだな……では行くぞ!せーの!」
「「ナンバーワーン!!」」
「急に果たし状が来たから来てみれば……やはり貴方達賭け狂いでしたか、河城にとり、十六夜咲夜、蓬莱山輝夜……」
「来なすったね小五ロリ!」
「今日こそが貴方の命日です!」
「麻雀で勝負よさとり!」
「……料理の準備は良いのですか十六夜咲夜?」
「心配御無用でございますわ!メイド長権限でウォルターと助っ人のハドラー様に全てを任せてきていますので!お嬢様には内密でお願いします!」
「知らないわよ貴方……河城にとり、先程からカメハが探してましたが良いのですか?」
「んなもん後!今はあんたへのリベンジしか考えてないからね!今度こそ身ぐるみかっぱいで絶対に泣かせてやるからな!」
「可哀想なカメハ……蓬莱山輝夜、貴方はいつまでもニートせずに働きなさい」
「月の皇族は博打種族よ!舐めないで貰いたいわね!」
「威張れる事ですか……まぁいいでしょう、誰かをカモにせずに真っ先に私に挑んでくる姿勢を評価して相手をしてあげましょう、必ず勝つ勝負をするのは面白くはありませんが……ね」
(((絶対殺す……!!)))
「ねぇ龍神……あんたろくに活躍してなかったらしいじゃない?聞けば最後は大防御しかしてなかったって……」
「そ、そ……そんな訳ないだろ霊夢!メッチャ倒したよ僕も!だだ誰だいそんな根も葉も無い与太話をしたのは……」
「萃香よ」
「酔っぱらいの言葉を信じるのかい君は……なぁ靈夢、君もそう思うだろう?」
(すいません龍神様、死んでください)
「こいつ……直接脳内に……って庇えよ!一人だけ逃げようとすんな!」
「靈夢も情けない負け方してたわね……いくら私が苦戦する様な相手だったとは言え3対1で……また基礎から鍛え直しね」
「ハイ……すいませぇん……」
「ハッ!ざまぁみろ!」
「龍神、あんたもよ」
「イエス、マム!」
「ん~?チルノ!これ要らないの?じゃあたしが食べてあげる!」
「あー!あたいが楽しみに取っておいたかき氷をー!」
「食べるつもりだったんだ、ゴメーン!」
「やったわねフラン!ならあたいだってー!」
「ああー!チルノ!あたしのプリンー!」
「あんたが先に食べたんでしょうが!」
「あたしは最後に食べるつもりだったのにー!」
「食べ物の恨みは恐ろしいって事ね!いんがおう……とか言うヤツよ!」
「あたしとチルノの仲でしょー!」
「それとこれとは話が違うって事よ!」
「このバカバカバカ!バカバーカ!」
「言ったわねフラン!もーあたい怒った!このっ!」
「イタッ……やったなー!こんのー!」
「取っ組み合い始まったな……放っといていいのかパチュリーお母さん?」
「誰がお母さんよ……気になるならあんたが止めてきなさいよ妹紅」
「じゃれてるだけだから放っとく……ほら、ケーキ取ってきてやったぞ、数量限定のハドラー特製ケーキだってよ、これが最後の3つだった、ほら大妖精も食べろよ」
「気が利くじゃない、ありがと……って何コレ?手が込み過ぎじゃない?いえ、とても美味しそうだけど……」
「聖母竜風味だってよ、優しい味がするらしい」
「わー!ありがとうございます!本当に美味しそうです!」
「だな、さぁ食べようぜ」
「しかし……賑やかね……」
「ですね……でも……」
「だなぁ……宴って言うよりは喧嘩祭りだよな……イテッ……箸が飛んできた」
「まぁ私達も結構戦って来たし血の気が多くなるのは当然かしらね……あ、大妖精に何故かピンポン玉が飛んできて当たったわ」
「卓球してる奴もいんのかよ……あ、オイ、あっちでサッカーしてるぞ」
「あっちでは野球ね、プロレスもしてるしライブしてるところもあるわね、将棋や麻雀も……もう何でもありね」
「いたた……もう、危ないですよ」
「あ……陰陽玉が大妖精の方に……」
「当たったわね……ケーキに」
「ああーーーー!!」
「ヤバイな、逃げとこうぜ」
「そうね、スカラ掛けといてあげる」
「助かる」
「いい加減にしてください!!本気で怒りますよ!!」
「「「スイマセンデシター!!」」」
思い思いに時を楽しんでいる
「お母さーん!!」
「おおどうしたんだルナ涙目で……」
「青娥さんと慧音さんにイジメられたの……」
「ったく……お前の事になったらたまにおかしくなるからなあいつ等、悪気どころか愛情しかないからまぁ許してやってくれ」
「うん、わかってるよ」
再会した親子が微笑みを交わす
「そろそろ聞かせてくれないかしら?」
傍のパチュリーが聞いた
「貴方今までどうなってたの?」
妹紅が行方不明だった理由
「あー……それな、なんつーかな……まぁ簡単に言えば私死んでるんだよ」
「!?……それはどういう意味?」
確かに生きて目の前に居る妹紅が自らを死人と言う、余計に理由が知りたい
「そこは私が説明してあげるわぁ」
ハドラーが追加で作った竜田揚げを大皿ごと抱えながら幽々子が口を挟んだ
「この妹紅はね、幽霊なのよ」
「幽霊……?」
「そう、私と同じ幽霊……ダイちゃんの加護のお陰なのか生身と大差無い感じなのだけどね、私くらいしかわからないから気付かないのも無理無いわよぅ」
頬を掻く妹紅を見ながら若干険しく幽々子は続ける
「本当、生きてて良かったわぁ……もしそんな状態で死んでいたら魂が消滅して肉体が有っても蘇生が出来なくなってたんだもの」
「……また無茶したのね、アホ妹紅」
「知らなかったんだよ……幽々子に警告されてヤバイんだとわかったけどもう退けないところまで来てたし……」
「だとしても、貴方はもう少し命の価値を知りなさい」
「上手く終わったんだからもういいじゃんか……」
「まったく……心配する身にもなりなさい、ねぇルナ?……では死体は?貴方の肉体はどこにあるの?」
「ああ……この中だよ」
ルナが付けているバーンの御守りを指差す
「時間が止まってるみたいでさ、あの日私が死んだままさ」
「そうなの……どうして死んだの?」
「さぁ……?頭痛がしてたくらいしかわかんね」
「私が診てあげるわ」
現れた永琳がバーンの御守りに触れ念じると妹紅の遺体が出現する
「……蓬莱の呪いね」
「そんな……嘘……」
「知っているのかパチュリー!?」
「全く知らないわ」
ズッコケる妹紅とルナ
「だけど予想は出来てる、肉体と魂の相違……ではないの永琳?」
「正解よパチュリー、妹紅は不老不死から人間、つまり普通に戻ったけれどそれは肉体だけの話だった……魂までは適応出来なかった」
「どういう事だよ?」
納得している二人に理解出来ていない妹紅は首を傾げる
「貴方の魂が無意識に不老不死だと認識していたのよ」
妹紅の肉体をパチュリーと弄りながら永琳は答えた
「えぇ……だけどそれが何で私の死に繋がるんだ?」
「貴方……人間に戻ってから一回も私に診せに来てないでしょう?」
「……だな、頭痛が酷くなって診て貰おうと思ってたら死んだからな」
「それよ、人間は体に異常が有ればすぐに診て貰うのが常識、じゃないと驚く程あっさり死んでしまうから……貴方は人間戻ったのに心の何処かで死んでも何とかなると無意識に思い込み、自分を蔑ろにして、死んだ……蓬莱の呪いとは中々的を得ているでしょう?」
「……」
「まぁ仕方の無い事よ、蓬莱人から人間に戻ったのは貴方が初めてだし子育てで余裕も無かった……これから気にする事ね」
「わかった……で、結局死因はなんだったんだ?」
「脳腫瘍ね、かなり酷いのが有ったわ」
「うげぇ……治るのか?」
「もう治したわ」
「……やっぱりキツイかぁ……うぇ!?」
「私を誰だと思ってるの?パチュリーが助手に入れば魔法も使って瞬時よ、後は幽々子に手伝って貰って体に戻った後に世界樹の葉で蘇生させれば大丈夫よ」
「あの一瞬で……やはり天才か……」
「これからは定期的に診せに来なさい」
永琳はヒラヒラ手を振りながら永遠亭のメンバーの元へ戻っていった
「ほらほらお母さん!世界樹の葉もらって来たから早く早く!」
妹紅は再び生を受け、幻想郷に完全に帰還した
「どうやら無事に生き返れたようだな」
「ん……?どっかから声が……」
話掛けられた妹紅が周囲を見回すが声の主は見つからない
「此処だ藤原妹紅」
「お母さん!下だよ下!」
下を見ると足元にゴブリン程の体の小さな魔族が見上げていた
「お前……バラモスか?」
「如何にも、久しいな藤原妹紅……会いたかった」
それは元の体格の10分の1にも満たない小さなバラモスだった
「お前どうしたんだよそれ?」
「お前と話がしたいとゾーマ様経由でバーンに頼んだのだが急では仮の肉体がこんなものしか用意出来なかったらしくてな……情けないがまぁ話す分には問題は無い」
「……バラモスってよりはパラモスってくらい可愛いなオイ」
意外な再会に二人は笑う
「バラモスさん!助けてくれてありがとうございました!」
「そういやルナを助けてくれてたな、ありがとなバラモス」
「借りを返せたなら……来た意味が有ったか」
「まぁ楽しんで行ってくれよ!」
「そうだな……」
古き知人と握手を交わす
「僅かだがせっかく現界したのだ、我等も楽しむとしよう」
「待てバラモス……我等?」
「そうだ、現界したのは私だけではない……」
「おいおい……大丈夫なのかよ……」
「よし、ようやく落ち着いたか……待たせたなジゼル」
「お疲れ様ですハドラー様~!」
『相変わらず可愛いですね』
パーティーに招待されたジゼルを含めたハドラー一家が集まっていた
「見~つ~けた!」
「ムッ……幽々子か」
嬉しそうな幽々子に背後から抱きつかれた
「ねぇハドラー……私と一緒に白玉楼に住まない?」
「どうした急に……」
「ハッキリ言って惚れちゃったの!貴方に!いいえ!料理を食べて益々惚れちゃったわ!だから結婚しましょ!お願~い!」
「……気持ちは嬉しいがオレは……」
ハドラーはやんわり断ろうとする
「ねぇジゼルちゃん!新しいお母さんが欲しいでしょう?」
「ふぇ!?」
だが幽々子の暴走は止まらない
「ヌッ!?なんだ……オレの体から何かが勝手に飛び出してくる……聖母竜!?お前か!?」
ハドラーの体から光が飛び出し幽々子と同じくらいの竜が立ち塞がった
『貴方でしたか泥棒猫は……』
ブチキレた聖母竜である
本来ならドラゴラムをしなければ表に出れない筈だがなんか怒りで奇蹟を起こしていた
「あらぁ?もしかして前の彼女か何かかしら?」
「妻です」
「オイ、お前を娶った覚えは無いぞ聖母竜?そして調子に乗るな幽々子」
「竜なんて趣味悪いわねぇ……私が目を覚ましてあげましょ!」
「下品な胸をしたアバズレが戯言を宣っていますね……ハドラーは私の者です!去りなさい淫らな霊よ!」
「オイ……聞いているのか二人共……?」
ハドラーは無視された
「どうしてもハドラーを私とジゼルから取ろうと言うなら仕方ありません……実力で退治してあげましょう!」
「こちらとしても望むところ、花の下で眠るがいいわ、聖母の竜!」
ハドラーを賭けた女の戦いが始まった
「竜が妻なんて身の程を知りなさ~い!」
「キィィィ!この泥棒アバズレ猫め~!」
しかし始まったのはポカポカと殴り合うキャットファイト
「私が一番ハドラーを愛してるのよ~!」
「私です~!」
決着は長引きそうだ
「やれやれ……」
当のハドラーは興味が無くジゼルに紅魔館式の紅茶を注ぎながら二人の争いを眺めていた
「中々モテるではないか若僧」
すると見た事の無い魔道士風の老人?に話掛けられた
「!!?」
ジゼルが目を見開きハドラーの背後に隠れた
「……まぁ悪い気はせんがまだオレは嫁など作る気は無い、だがジゼルが聖母竜を母と思い、オレを父と思っているなら既にそうなのだろう……それ以上は望まん」
「欲の無い男だ、魔族らしかぬ奴よ」
「……それに幽々子が来れば我が家は餓死するからな、どうやって白玉楼があの大飯食らいを養っているか不思議なくらいだ」
知らぬ間に聖母竜が勝ち、幽々子は負けた
「ところでじいさんも飲むか?今ならオレが作った菓子もあるぞ?」
「……どれ」
「自信作だ、美味いか?」
「不味い……儂の口には合わぬ」
「フハハ!ハッキリ言ってくれるなじいさん」
謎の老人と楽し気に会話するハドラー
「……!!?」
「ぐおっ!?」
キャットファイトをしていた聖母竜が突如幽々子など目もくれずハドラーをしばいた
「いきなり何をする聖母竜!」
「貴方こそ何て事を!あわわ……ど、どうして貴方様がこんな場所に……!」
聖母竜が酷く怯えている
「……その様子、竜の本能だけではないな……母の知り合いか?」
「は、ハイ……女王様が御存命時に御世話になった事があります……」
「どうした聖母竜?それにジゼルもだ、このじいさんがどうかしたのか?」
「口を慎みなさい貴方!」
ハドラーはまたしばかれた
「よい聖母の竜よ……竜ではないこやつがわからぬのも無理は無い、それに此度は無礼講、多少の無礼は許してやろう」
「お、温情感謝します……」
聖母竜は平謝り
「……このじいさんは何なのだ?」
「……竜王様です」
「……何?」
「ですから竜王様です!我等全ての竜の頂点に立つ竜神様です!」
「……このじいさんがか?」
「そうです!あのヴェルザーすら仔竜扱いする最強の竜です!貴方より格上なんです!」
「フッ……冗談はよせ、オレをかつごうなど片腹痛いぞ」
「あああッ!まだそんな事を!お願いですからもう貴方は黙っててください!鼻タレ魔王になりたいのですか!?」
聖母竜にいくら説明されてもハドラーは信じない
「……稀有な境遇に在る魔族よ」
竜王がハドラーに話しかけた
「信じられぬか?」
「フハハ!引っ込みがつかんのはわかるがもうよせじいさん、嘘じゃないなら竜になってみせるのだな」
「フン……ではとくと見るがいい……王の中の王の姿を……!」
竜王が正体を現した!
「……」
巨大な竜の姿になった竜王を見てハドラーは目をぱちくりさせている
「……は?」
鼻水が垂れていた
「ですから言ったのに……」
「すまん……オレが悪かった……」
申し訳なく項垂れるハドラー
「フフフ……良い顔だったぞ?魔王ハドラーよ……儂を楽しませた褒美をやろう、出てこい……特異な火竜の娘よ」
「ハハ……ハイ……!」
ジゼルが怯えながらハドラーの背から出てきた、聖母竜と同じ竜である彼女に備わる竜の本能が竜王が種の王であるとわからせている
「強き竜となれ娘よ、父を越え、いずれは竜の女王に成るべく頂を目指せ……この竜王に並べる様に、な」
圧倒的な王威から語られる激励の言葉は竜であるジゼルに深く刻み込まれる
「りゅ、竜王様!しょ……精進します!!」
ある意味ハドラーよりも重い者からの洗礼を受けたジゼルは力強く答えた
「良い経験が出来た様だな」
「まさかのまさかでしたけどね……貴方の感覚で言えば魔王軍に居た頃の貴方にとってのバーン、つまり大魔王みたいなものですから……私も鼻水が出るくらい驚いています」
この時から遥か先、新たなる竜の女王が誕生するのなら、これが切欠だったのかもしれない……
ガタッ……!
その頃ある酒盛りをしている場所で少女が立ち上がった
「ん~?どうしたんだい幽香~?」
「あいつは……!」
まるで親の仇かの様な憎悪と探し求めた獲物を見つけたハンターの如く猟奇が混じった顔をしていた
「御礼参りに行ってくるわ……」
「あいよー!負けるんじゃないよー!」
「バーン……作ってみたんだけど」
レミリアが料理を差し出す
「どれ……ムッ……」
「気付いたかしら?」
「薬草を混ぜているな?僅かに回復した」
「そうよ、ハドラーに手伝って貰って薬膳を作ってみたのよ、味も中々美味しく出来たと思うわ」
「……気を使わせたな」
「貴方がまだまだ回復しきっていないなんて見ればわかるわよ、気にしなくていいわ、私が作ってあげたいから作ったんだから野暮な事言ったらダメよ」
「……美味く出来ておる」
楽しき時を過ごす二人
フッ……
「……!?」
突然、館の温度が下がった
「何かヤバイ奴が現れたわね……特に何もしていないのに室温が5℃は下がった……存在しているだけで……何者……?」
「……」
警戒するレミリアを余所にバーンは無表で目を閉じている
そして民の群れがバーンに辿る様に勝手に開き、ひとりの魔族がバーンの前に立った
「来るとは思わなかったぞ……ゾーマよ」
「生きているとは思わなかったぞ……バーンよ」
宴はまだ終わらない……
遅くなりました、宴会です、ちょっと膨らみ過ぎたので分けます。
ていうか幽々子出過ぎぃ!ハドラー様も絡ませ易過ぎぃ!
後先考えずノリでハドラー様と絡ませてたら幽々子が至る場所に出る前編に……ハドラー様と竜王を絡ませるイベントはギャグ的なノリも有りますが竜という設定を活かした助っ人ありがとー!的な御礼の意味もあります。
後編は他のキャラにスポット当てていきたいと思います。
次回……たぶん最終話!頑張ります!