東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-闇の彼方に- 狂飢の章

 

 

 

 

「えへへ……お久し振りですルーミアさん!」

 

「そうね……久し振り……」

 

 

静かな夜の丘で再会した妖の精と妖の王は笑みを浮かべ合う……

 

 

 

 

 

 

 

 

「食べて良い?」

 

「ダメでーす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで遠い昔から仲が良かったかのように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつ復活してたんですか?」

 

「復活はずっと前よ、来たのは今日」

 

幻想郷の中で一番仲が良いと言える相手に会えた常闇ノ皇の顔はとても嬉しそうに見える

 

「そうだったんですか?じゃあ言ってくれたら良かったのに!」

 

「先に用事が出来ててね……」

 

大妖精に会うのが常闇ノ皇の目的の1つでもあった、それが遂げられたからこんなにも穏やかに笑っているのだ

 

「でも、本当に……久し振りですよね、4000年くらい経つのかなぁ?また会えて嬉しいです!」

 

大妖精も常闇ノ皇にまた再び会えた事に喜びを覚えている

 

「ふふっ、おかしな奴……食われかけた相手に再会して嬉しいだなんて」

 

「うー……そりゃあ、あの時は怖かったですけど、でも……そんな人でもまた会えたら嬉しいんです、だって……もう会えない人も沢山居るから……」

 

今に至る時の中で多くの別れを経験して来た

 

 

親しかった人達、妖怪達

 

仲間

 

大好きな友達

 

 

数えきれない別れを繰り返した大妖精の心は自然の摂理という事を悟り納得している

 

だが、それでもやはり嬉しいのだ、昔の知り合いに再会するという事は

 

 

「それに……ルーミアさん変わりましたもん!今は全然怖くないです!」

 

「怖くない……か」

 

常闇ノ皇は闇が広がる空を見上げる

 

「百鬼夜行を潰す者……暗黒の太陽とも空を亡くす者、空亡なんて言われ……恐れられた事がある私が……怖くない、か」

 

昔ならば怒り狂う言葉だったが今はそれが無性に心地好い

 

「……変わりたかったなぁ」

 

だから溢れた

 

秘めた決意が弛んだ口から少しだけ

 

 

「あの……ルーミアさん?」

 

悲しげな顔をする常闇ノ皇に大妖精は自分の服をまさぐり飴玉を差し出す

 

「こんなのしかないですけど良かったら食べてください、お腹減ってるんでしょう?」

 

出された飴玉を見て次いで心配そうにする大妖精を見た常闇ノ皇は微笑んだ

 

「要らない」

 

「なんでですか?そんなに……痩せてるのに、もうずっと食べてないんじゃないんですか?」

 

拒否された事がわからなくて戸惑う大妖精に常闇ノ皇は観念した様に……いや、聞いて欲しいかの様に口を開いた

 

「食べられないのよ……私は命を食らう者だから、生きたままじゃなきゃ体が受け付けないの……だから、そんな物や命が完全に消えてしまった後のお菓子や料理なんかは……食べられない……酒や飲み物なんかは大丈夫なんだけどね……だけどそんなのじゃ満たされない」

 

それが大妖精の厚意を断り、レミリアのアップルパイを食べなかった理由

 

常闇ノ皇はそうしなければ生きる為の食事を出来ないのだ

 

そしてそれこそが常闇ノ皇が恐れられた原因、そのせいで幻想郷が出来る前の妖怪や人間は絶滅の危機を感じる程に食われたのだから

 

「ッ……」

 

その答えが大妖精に常闇ノ皇の今を理解させ、何も言葉を出させなかった

 

(食べなかったんだ……理由はわからないけど……復活してから今まで……ずっと……)

 

それはどんなに辛い事だろうか……

 

食べたくても食べれないのではなく、食べれるが食べない

 

己の絶対的な欲求にして存在意義を環境ではなく己の意思で拒絶しているのだ

 

(どれ程の理由と……どれだけの覚悟を持てば……こんなになるまで……)

 

バーンや他の者が一目見ただけでわかる程の痩せ様、それはまさに覚悟の重さと深さが表れているのは容易に理解出来る程

 

 

 

「だから気にしなくていいわ、気にするだけ損だし時間の無駄」

 

困らせるつもりは無かった常闇ノ皇はそう言って話題を変えようと微笑んだ

 

「じゃあ……私がお手伝いします!」

 

それを押し退け大妖精が宣言した

 

「手伝い……?何をする気?」

 

急に生き生きと言う大妖精に怪訝な顔を向ける常闇ノ皇に大妖精は身を乗り出す

 

「ルーミアさんが食べられるように!です!」

 

ガッツポーズを取る大妖精

 

「色々試してみましょうよ!それでもしその中にルーミアさんが食べられるものがあったら万々歳じゃないですか!それか食べれるように頑張ってみましょうよ!」

 

「……」

 

一人語る大妖精だったが常闇ノ皇は冷めた瞳を既に虚空へ向けていた

 

「そんなものは無いわ、それに努力なんて無駄、出来ていたなら今こんな不様じゃあないわ」

 

そう、それが出来なかったから今、こんなにも空腹なのだ

 

「そんなのわからないじゃないですか!」

 

大妖精は強く言う

 

「きっと有りますよ!だって世界は広いんですから!絶対ルーミアさんが食べられるものがありますよ!それに料理だって食べれるようにもなれます!ルーミアちゃんがなれたんですから!ルーミアちゃんが出来たんですからルーミアさんだって絶対出来ますよ!」

 

力説する大妖精だったが常闇ノ皇には響かない

 

「……私の前の肉体を入れ物にしているだけの奴と一緒にするな、似てはいるけど別人、アレと私では存在の格が違い過ぎる」

 

それどころかルーミアと同一視され不機嫌にすらなっていた

 

「よくわかりませんけど……とにかくやってみましょうよ!ね!」

 

「だから無駄だって……」

 

諦めさせる為に一蹴しようとする常闇ノ皇だったが止まった

 

「ダメ……ですか?」

 

諦めない純粋な眼差し

 

「……」

 

結果が見えているのは自分が一番わかっている、知っている

 

「……」

 

それでも……

 

「はぁ……わかった、好きにしなさい」

 

そう答えてしまった

 

 

「やったー!じゃあ明日色々持ってきますね!どこに集まりますか?」

 

「ここで良いでしょ、アテなんて無いし」

 

「わかりました!絶対居てくださいね!約束ですよ!」

 

「わかったから静かになさい、お腹に響くのよ」

 

笑顔を見せる大妖精にそっぽを向く常闇ノ皇だが口元は緩んでいる

 

「絶対ですからね!じゃあ……また明日です!」

 

「はいはい……」

 

嬉しそうに帰っていく大妖精を見ながら常闇ノ皇は

 

「……」

 

嬉しそうな、しかしそれでいて悲しげな表情を静かに見せるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-翌日・紅魔館-

 

「アーーーーッ!!」

 

チルノは激怒した

 

「あ、あたいがつつ、作った……かき氷が影も形も無い!!」

 

持参したおやつが無くなっていたから

 

「犯人はあいつ等なのだー!」

 

ルーミアが指差す

 

「あ、ヤバい、見つかった」

 

「もー!だから部屋で食べようって言ったのに兄さん」

 

「だって溶けるだろ?かき氷は溶けたらただの水なんだぞルナ」

 

「そんなの知ってるよー」

 

ソルとルナが隠れて食べていた

 

「ゆ、許せん……」

 

犯人を確認したチルノはわなわなと震えた

 

「絶対に許さんぞ虫けら共!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!一匹たりとも逃がさんぞ覚悟しろ!!」

 

その怒りはまるで冷気的な氷嵐の小宇宙

 

「やめてチルノちゃん!それ以上冷気を高めないで!」

 

大妖精が諌めるも好物を盗まれたチルノの冷気は留まる様子を見せない

 

「ソル……まずあんたから血祭りにあげてやる」

 

今も生ける最強、その名を冠する幻想の氷帝が幼子に殺意を見せつける

 

「ヤッベー!バカの世界チャンピオンが怒った!逃げるぞルナ!」

 

「逃げろ逃げろー!」

 

こんなのはいつもの事の様に二人は楽しそうに飛び去って行く

 

「さっそく伝説の大魔王のクソガキを成敗しに出掛ける!後に続けもこたん!……じゃなかったルーミア!」

 

「はいなのだー!」

 

「チルノちゃん!闇雲に紅魔館を動き回るのは危険だよ!もっと情報を集めてからでも……」

 

「臆病者は付いてこなくともよい!ルーミア早くしろ!」

 

「はいなのだー!」

 

意気揚々と二人は出発する

 

「あー……行っちゃった、前に罠に嵌められて酷い目にあったのもう忘れたのかな……」

 

置いてけぼりを食らった大妖精だったが別に残念ではなかった、むしろ二人がソルとルナと遊ぶ事を幸いに思っていた

 

「あの、レミリアさん……」

 

「どうしたの大妖精?改まって?」

 

「お願いがあるんですけど……良いですか?」

 

「悪いけれどバーンはあげれないの、ごめんね」

 

「違います!」

 

「じゃあ久し振りに膝に乗りたいのかしら?それなら構わないわよ」

 

「そ、それはしたいですけど、でも今は違うくて……もう!レミリアさんのイジワル……」

 

「ふふっ!ごめんね、可愛いからついイジメたくなっちゃうのよ、それで?どうしたの?」

 

「むぅ~……えっと、厨房を貸して欲しいんです、それと図書館を使わせてください」

 

「なんだそんな事……許可なんて要らないのに本当に律儀な子ね、良いわよ、好きに使いなさい」

 

「ありがとうございます!じゃあさっそく使わせて貰いますね!」

 

許可を貰えた大妖精はパタパタと早足で厨房へ向かっていく

 

 

 

 

 

「……奴に会ったようだな」

 

「みたいね、あの様子じゃ大妖精だけ」

 

残るバーンとレミリアが言葉を交わす

 

「放っては置かぬだろうな、当然か」

 

「それが大妖精という子だからね、理由を言わないのは私達に気を使ってる……昔に共闘した事はあるとは言え立場的には敵に近いもの、限り無く黒に近いグレーって所かしら」

 

常闇ノ皇と大妖精の接触、良いか悪いかはわからない、わからないからバーンは不安を感じる

 

「……何も起きなければよいが、な」

 

「違うわバーン、既に起きているのよ……心配は結果に至るまでの過程にこそ有る、大妖精が関わった事で過程が変化するかもしれない、問題は変化するならそれが結果をどんな風に彩るか、よ」

 

「結果をどう彩るか、か……そうか、そうだな……」

 

バーンは寂し気な瞳を閉じる

 

(今だ紫から誰かが食われたと言う報せは無い、ならば常闇ノ皇……やはり貴様は……もう……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大妖精料理を作ってるのだー!」

 

「しーっ!バレちゃうでしょルーミア!」

 

隠れて厨房の外から張り込みをしているのはチルノとルーミア

 

「上手くいったわね!あたいとルーミアがソルとルナと遊ぶと見せかけて大ちゃんを尾行する!全然気付いてないわ!あたい達の演技力ったらサイキョーね!」

 

「サイキョーなのだー!」

 

隠れているのにバレそうなほど声が大きいが幸いバレていない

 

「それにしてもやっぱり男ね!大ちゃんがお弁当を作る男のツラ!絶対拝んでやるわ!」

 

「やるのだー!」

 

やる気だけは満々の二人

 

 

「ふんふ~ん♪」

 

 

「あっ!出てきたのだー!お弁当持ってるのだー!」

 

「よーし!追跡するわよ!後に続けー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

常闇ノ皇は変わらずそこに居た

 

(何をしているのかしら私は……)

 

腰を下ろした場所から一切動いていない

 

「……」

 

動かない理由が有る、動けない理由も有る

 

だがそんな事は一切見せずにその場所で待ち続ける

 

(バーンの事……言えたザマではないわね、こんな……不様な姿……こんな事になるのなら、私は……)

 

その後悔は今だから出る、少なくとも幻想郷に舞い戻る前は希望を秘めていた

 

「いくら思おうが今更……か」

 

今は無い

 

無いが皇は何もしない、出来るのにしない

 

したくなかった

 

(このまま終わる……それが一番なのかもしれないわね)

 

もはや先を考えていない皇の瞳は虚空だけを見つめている

 

 

 

 

 

「お待たせしました~!」

 

その掛けられた声に反応する

 

「……本当に来たのね、妖精」

 

視線をやって来た大妖精に向け呆れた様に小さな溜め息を吐く

 

「来ますよ!約束したじゃないですか!」

 

だがその顔には自然と笑みが浮かんでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

「簡単なのばかりですけど作ってみました!どうぞ!」

 

包みを広げ笑顔で大妖精は弁当を差し出す

 

「……」

 

それを皇は一瞥だけすると

 

「無理」

 

すぐに視線を戻した

 

「え……?」

 

即答に驚く大妖精は理由を目で訴える

 

「……見たらわかるのよ、食えるか食えないかくらいね……それは食えない」

 

答えは無理だった

 

「で、でも!た、食べてみないとわかりませんよ」

 

「……そこまで言うならいいけれど、体が受け付けなくて吐き戻すだけよ?せっかく作ったそれをゴミにしたいならやってやるけど……やってみる?」

 

「う、うぅ……」

 

食べれない、そう言われては大妖精もこれ以上食べてとは言えず項垂れた

 

「……お前が悪い訳じゃないの、悪いのは私……だから気にしなくて良いわ、それはお前が食べなさい」

 

「う~……はい……」

 

とても残念そうにしながら申し訳なさそうに大妖精は弁当を食べようとする

 

 

 

 

「あー!あんた!」

 

 

 

 

そこへかん高い声が響く

 

「お前は……」

 

「チ、チルノちゃん……?ルーミアちゃんも……な、なんで……」

 

現れたチルノと怯えた様に木陰から覗くルーミアに驚く大妖精と常闇ノ皇

 

「なんであんたがここに居んのよ!って言うか大ちゃんイジメたな!?」

 

一場面だけを見ていたチルノはしゅんとしている大妖精を見て常闇ノ皇が大妖精に何かしたんだと思っている

 

「許さない!絶対にだ!あたいがブッ飛ばしてやるから覚悟するのね!」

 

その頂の力から作った氷矢が無数に構えられた

 

「……」

 

常闇ノ皇は興味も向ける事無く静かに目を閉じている

 

「待ってチルノちゃん!違うの!」

 

すぐさま大妖精がチルノの前に立ち塞がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館-

 

「父上ー母上ー!」

 

「ヒマー!遊んでー!」

 

ソルとルナが二人の所へやって来ていた

 

「あら?チルノとルーミアと遊んでたでしょ貴方達?」

 

「そうなんだけどチルノとルーミアも大妖精も居なくなってたんだ」

 

「大妖精も……?」

 

「うん、だから遊んでよー!」

 

「うーん、遊んであげたいのはやまやまなんだけど……」

 

困った顔でレミリアはバーンを見る

 

「父と母は仕事があって付き合えん、ミストに遊んで貰えソル、ルナよ」

 

「「はーい!」」

 

元気良く駆け出していく二人を見ながらレミリアは溜め息を吐く

 

「本当は遊んであげたいのだけどねぇ」

 

「もう無理出来る体ではないのだお前も余も……人の子ならばそれでも十分だがあやつ等の相手は務まらぬ」

 

「歳は取りたくないわね本当……まぁ、それよりも……」

 

「わかっておる、彩りが複雑になるやもしれんな」

 

「ええ……」

 

運命を感じた王女は感じたままに口ずさんだ

 

「純色の緑、最も強き青氷、別れた幼き暗色……塗られていく、黒より黒い、闇色の下地に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「退いて大ちゃん、そいつブッ飛ばせないから」

 

「待ってってチルノちゃん!だから違うの!」

 

一触即発の空気を漂わせる丘

 

幻想郷最強が明確な攻撃の意思を見せている氷威の場

 

チルノの意思1つで簡単に戦場に割れ変わる薄氷の場

 

「……え?違うってどういう事?なに?イジメられてないってこと?」

 

そしてそれを破ったのもまたチルノであった

 

「そうだよ!それより隠れてついて来ていきなりルーミアさんを攻撃しようとするなんてヒドイ!怒るよチルノちゃん!!」

 

「ご、ご、ごめん大ちゃん!?」

 

単純なのかバカ故か流れる様に責めてきた大妖精にチルノはすぐに氷矢を消して機嫌を取ろうとわかりやすくペコペコしている

 

「ハッ……」

 

それを見ていた常闇ノ皇が一笑した

 

「唯一私とまともに戦りあえたあの氷精がなんとまぁ情けない……笑わしてくれるわね」

 

常闇ノ皇は小馬鹿にした笑みを浮かべながら聞こえる様に言った

 

「あーん!?何よ何よお前ー!」

 

バカにされたと感じたチルノが詰め寄っていく

 

「チルノちゃん!!」

 

「ち、違うって大ちゃん!挨拶、そう挨拶しようと思っただけだから!「何よ何よお前久し振りね!」って事!」

 

「調教されてるわねぇ……フフフ」

 

どうやら喧嘩にはならないみたいだ

 

 

 

「……で、大ちゃん何してんの?」

 

「えっとこれは……」

 

バレてしまった大妖精は仕方なく事情を話した

 

「なーんだそうだったの!あたいてっきり大ちゃんに彼氏が出来たんだって思ってた」

 

「出来ないよ~、お付き合いするならバーンさんみたいな人が理想だもん……」

 

「……大ちゃんって変な所でバカよね、そんな奴居るわけないじゃん」

 

「そうだね……チルノちゃんにバカ呼ばわりされるのは納得いかないけど……チルノちゃんにバカ呼ばわりされるのは納得いかないけど私もそう思う」

 

「……なんで2回言ったの?」

 

「大事な事だから2回言ったんだよチルノちゃん」

 

「大事なの?」

 

「そうだよ?」

 

「そうなんだ?まぁ……いっか」

 

どこか納得してないチルノだったが考えてもわからないから気にしない事にして常闇ノ皇の前に立った

 

「てな訳であたいも手伝ってあげるわ!有り難く思え!」

 

ビシッと宣言した

 

「……好きになさい」

 

勝手にしろと言わんばかりにそっぽを向いたまま常闇ノ皇は答える

 

「て事だからもう大丈夫よルーミア!」

 

「あ……ルーミアちゃんも居たんだった」

 

二人は木の陰から様子を伺っているルーミアを見る

 

「……」

 

ルーミアは怯えた様子で出てこようとしない

 

(そうだよね、ルーミアちゃんは怖いよね……)

 

元は同じ体で居た本当の体の持ち主であり命を貪り食らう闇の暴王、誰よりも恐ろしさを知っていたから怖くて仕方ないのは当然だった

 

「大丈夫だってルーミア!こっち来なさいよ!」

 

「……本当に大丈夫なのかー?」

 

「当ったり前よ!もし何かあったらあたいが守ってあげるわ!だから安心しなさい!」

 

「……わかったのだー」

 

説得されて渋々出てきたルーミアはチルノと大妖精の背に隠れながら常闇ノ皇を恐る恐る見る

 

「……心配しなくても何もする気は無いわ、元気そうね……片割れ」

 

「う、うん……なのだー……」

 

思いがけない常闇ノ皇の言葉にルーミアは困惑気味

 

「チッ……仮にも私の体を使ってるんだ、もう少し堂々として欲しいわね」

 

「ご、ごめんなさいなのだー……」

 

「……謝るな、別に怒ってるわけじゃない、気に入らないだけ」

 

「ごめんなさいなのだー……」

 

「……もういいわ、好きになさい……」

 

呆れた様に常闇ノ皇はそっぽを向く

 

「私は寝るわ、持ってきたそれは要らないからお前達で処理するのね」

 

そう言って常闇ノ皇は瞑想する様に静かに目を閉じた

 

「あ、ルーミアさん……んむ~……」

 

大妖精は困った様に数秒唸ると二人へ向く

 

「食べよっか」

 

「賛成!」

 

「うんなのだー!」

 

 

 

「……フンッ」

 

 

3人の幼子が皇の周りを囲う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの日は早かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……何かないかなぁ……」

 

紅魔館の図書館で3人の幼子は頭を悩ませる

 

「ルーミアさんにも食べられそうな物……何か良い物載って、ないなぁ……」

 

「魚とか豚さんはダメなの?生きたままなのはアレだけど……」

 

「ダメみたいだよチルノちゃん、私も聞いてみたけど動物とかは命が小さ過ぎて料理と変わらないんだって……食べられる命の最低が人間だって言ってた」

 

「それは……ダメね」

 

「うん……」

 

「よし!ルーミア!頑張って探すわよ!後に続けー!」

 

「了解なのだー!次は果物の図鑑を見てみるのだー!」

 

「じゃあ、私は食べれそうな料理作ってみるね」

 

 

 

 

 

「……」

 

王は静かに見届ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ?あんたってさ……ずっとここに居るの?」

 

「……何よ?急に……」

 

「あたいの友達は皆居なくなっちゃってさ……あんた強いでしょ?バーンと同じくらい、だったらバーンと同じでずっと居るのかな?って」

 

「……さぁね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレもダメだった……次はどんな料理にしようかな……」

 

 

 

「手伝ってあげるわ」

 

「レッ、レミリアさん!!?」

 

「何を作るの?」

 

「いやっ、あの……」

 

「いいから一緒に作るわよ大妖精」

 

「!!……ハイッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父上~!チルノが構ってくれないからヒマだよ~」

 

「もう暫し待て、代わりに妖夢を呼んでおいてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間はあっという間に過ぎていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……なのだー」

 

「……一人で来て、何?」

 

「私は料理出来ないし本を読むのも苦手だからお話に来たのだー」

 

「そう、私はお前と話す事なんて無いけどね、妖精とままごとでもしてろ」

 

「あうぅ……いいのだー、一緒に居るだけで……いいのだー」

 

「あっそ」

 

冷たくされるルーミアだがめげずに常闇ノ皇の隣へ遠慮がちに座り、背を預けた

 

「……」

 

一瞬の苛立ちを覚えた常闇ノ皇だったがすぐに心が落ち着く

 

(チッ……餓鬼が、舐められたものね……フンッ、まぁいいわ)

 

虚空を眺め続ける皇

 

(……お腹減ったわねぇ)

 

感じるのは絶えず襲い日増しに強くなる空腹感だけ

 

(……)

 

その時、皇はふと思う

 

(食ってやろうかしら……)

 

それは傍に居るルーミアに対して

 

(元は私の体、言わば私の物……取り返すだけ……そう、そうよ……問題なんて無い、誰にも文句は言わせない……フフフッ……そうよ、悩む必要なんて無い……食えば良いのよ……アハハ……)

 

口元が緩み、肉を容易く噛み千切る鋭き歯が妖しく光る

 

「ハァァァァ……!」

 

頭が下がり、幼き己の命へと闇の大顎が近付いていく

 

(ようやく……食え……)

 

 

 

……ポフッ

 

 

 

 

ルーミアの頭が皇の膝に落ちた

 

「…………こいつ」

 

常闇ノ皇が視線を向ける

 

(眠ってる……)

 

そこには膝の上で安らかな寝息を立てているルーミアの姿だった

 

「……」

 

皇の動きは止まり、見つめる

 

「スー……スー……」

 

何の警戒心も無い、油断しきった寝顔

 

「……」

 

心を許し、信用されたから見れる寝顔

 

「……ハァ……」

 

溜め息を吐いた皇は体の力を抜き木に強く持たれる

 

「なんて不細工な寝顔よ……食う気が失せたわ……」

 

そっ、と髪を撫でて皇も眠りについた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……皇の帰還から1週間が経った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……食べれない、要らない」

 

今日も失敗だった

 

「……」

 

作った料理に一切手をつけない皇に大妖精は震えている

 

「食べて……くださいよ……」

 

焦りと悔しさが身を震わせるのだ

 

「……」

 

皇は何も言わず虚空を見つめている

 

 

「食べてください!!」

 

 

怒鳴りあげる大妖精

 

「……」

 

そうしてしまう程に皇は更に痩せ細っていた

 

「ルーミアさん!!」

 

この1週間で調べるだけ調べた、試せるだけ試した

 

でもダメだった

 

皇に栄養を与える事は出来なかったのだ

 

「……」

 

そしてこの2、3日で急に痩せ始めた事が否応にもなく終わりを予感させ声を荒げさせる

 

「お願いですから……」

 

「大ちゃん……」

 

「うぅ……」

 

もう3人に出来る事は「食べられる様になる」という奇蹟が起きる事を祈るだけだったのだ

 

 

 

「フフッ……」

 

3人を見て皇はふと笑った

 

「……なんで笑ってるんですか」

 

心配してるのに何が可笑しいのかと大妖精が睨む

 

「勝手に無駄な事をして勝手にそんな顔をしてたお前達を見てると面白くてね……」

 

「……ッ!?」

 

その答えに大妖精はカッと目を見開いた

 

「明日また来ます!明日は絶対に食べて貰いますからね!!」

 

怒った様に料理を持って帰って行った

 

「ちょっとあんた!」

 

チルノが詰め寄る

 

「大ちゃん泣かせたら許さないからね!」

 

言うと大妖精を追って帰って行った

 

「また、明日来るのだー……ネ……チャ……」

 

最後に聞こえない様に何かをボソリと呟いたルーミアも二人を追って帰って行った

 

 

 

 

「……」

 

独り残った皇は空を見上げる

 

「可笑しいわけじゃ……ないのよ……」

 

誰にも聞かれないから想いが溢れる

 

「もうそんな時かと思うと……なんだか嬉しくて……ね……」

 

その呟きは風に流され、誰にも聞かれる事は無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-翌日-

 

「今日こそは絶対!ぜーったいに食べてもらうんだから!」

 

決意をしながら大妖精達は紅魔館を出発していく

 

 

 

 

「フッ……」

 

それをバルコニーから眺めていたバーンは微笑ましく笑う

 

「ハイ、紅茶」

 

レミリアも隣に座る

 

「……ダメだったみたいね」

 

「ああ……色々と試したみたいだがな、稀有な食材である仙桃、一粒で10日分を満たす仙豆やら伝説に語られる物、全て……それらでも奴の餌には成り得なかった」

 

「では……もう……」

 

「……だろうな、今日か明日……それぐらいのところだろう」

 

「やっぱり……」

 

「……愚かな奴だ、不可能とわかったならばいっそのこと戻れば良かったのだ、いっそのこと戻り……」

 

バーンが言いかけたその時だった

 

 

 

 

フッ…………

 

 

 

 

幻想郷が夜に変わった

 

「夜?違う、これは……闇……!」

 

「奴の仕業だ!奴の闇の力が幻想郷を明けぬ夜の世界に変えたのだ!」

 

バーンはすぐに原因が常闇ノ皇に有ると知り立ち上がる

 

 

 

ブゥン……

 

 

 

「バーン!!」

 

スキマが開き紫が飛び出してくる

 

「常闇ノ皇の仕業で間違いなかろう」

 

「そうでしょう、しかし……何故今更?」

 

「……奴に幻想郷を支配する気が無かったのは確かだ、余の推測が当たれば奴はおそらく……」

 

バーンと紫の会話をレミリアが割いた

 

「待ってバーン!大妖精達が行ってる筈でしょ!?」

 

「!!?」

 

悟ったバーンはすぐさま紫に指示を飛ばす

 

「紫、お前は妖夢に連絡し人間や妖怪を避難させろ」

 

「……わかりました、衰えた私では足手纏いでしょう、ではすぐに……」

 

スキマが閉じ紫が出ていく

 

「私も行くわ」

 

「ならぬ、お前はもう戦える力は無い」

 

「……それは貴方も似た様なものでしょう!」

 

「それでもお前よりはマシだ、それに確認程度の事をしにいくだけだ……向こうにはチルノが居るのだからな、余程が無い限り問題はなかろう」

 

「……わかったわよ、ミストももう飛んでくるでしょうし一緒にソルとルナを見ているわ」

 

「頼んだぞ」

 

バーンは浮かび上がり飛んでいく

 

幻想郷に巡らせた闇の発生源に向かって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ着くのだー!」

 

「急げー!」

 

「もー!速いよ二人ともー!」

 

3人は常闇ノ皇の場所までもう少しといったところまで来ていた

 

 

 

フッ…………

 

 

 

「アレ?夜になったのだー?」

 

「なんで?どういう事?」

 

不可思議な現象に頭を傾げるルーミアとチルノ

 

「!?……まさか……ルーミアさん!?」

 

大妖精だけは嫌な予感がして急いで飛んでいく

 

 

 

「ルーミアさん!!」

 

いつもの丘へ飛び込んだ大妖精の目に映ったのは

 

 

「ぐる……ギル……!!?」

 

 

目の焦点が消え、憤怒の様な形相で涎を垂らし、狂った闇の力を溢れさせる常闇ノ皇・ルーミアの姿だった

 

 

 

「クギッ……ガ……ガアアアアアアアーーーーーッッ!!!」

 

 

 

獣の様な咆哮をあげ、狂飢の皇が襲い掛かる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       聞こえるのは闇の唄

 

 

     痩せ果てた皇が唄う最期の狂唱

 

 

      夢幻を求めた絶望の悲歌(エレジー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   語られざる歴史の終わりは幻想に何を見せる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久し振りです、生きてます。
仕事が忙し過ぎてなかなか書けませんでした……

常闇ノ皇編も次で完結!

次回も頑張ります!

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