東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-語られざる神話- 不死鳥のように

 

 

 

『これから貴様が見るのは恐怖、異魔神という名の地獄だ……そして、その地獄を見てどれ程貴様が命を乞おうが余は容赦はせん、貴様が死ぬまではな』

 

「下らぬ御託を並べずさっさとかかって来い、余が恐ろしくて死の時を延命しているのではないかと勘繰ってしまう」

 

 

対峙する魔神と王、異魔神とバーン

 

 

『そんな事を言って良いのか?余を怒らせば怒らせる程、貴様は苦しんで死ぬ事になるのだぞ?』

 

「その見かけ倒しの図体でか?独活の大木が笑わせるな」

 

 

直後に異魔神の鉄槌が振り下ろされる

 

「フン……」

 

難無く避け、バーンは嘲笑う様に高みから見下ろしている、それに異魔神は幾度か巨腕を振るう

 

その一打一打が大地を爆ぜさせる破壊の一撃

 

「万が一鈍重を装っている可能性を考慮していたがどうやらそれは無いらしい……ノロマが」

 

しかしバーンには当たらない、掠りもしない

 

『……ならば』

 

異魔神の魔力が高まる

 

「ほう……またそれか、確か……超高密度魔法言語、だったか?」

 

『……!?』

 

バーンの言葉に異魔神は止まった

 

『……知っていたのか』

 

「どうやら正解の様だ……余の友が残した魔導書に存在が記されていたのだ異魔神」

 

反応に確信を得て納得した様にバーンは頷く

 

「もっともそれを書いた二人にも残っていた僅かな超古代文明の文献から予想を書いていただけに過ぎぬがな、特殊な方法で高密度に練られた魔力を独自の言語に一文字毎に乗せて繋ぎ、通常よりも遥かに効果の高い魔法現象を起こせる理論だと予想されるが方法は実現出来ず、とな……予想は合っていたな、さりとて余にも出来はせぬが」

 

『ならば同じ事だ、打破出来ぬなら知らぬのと何ら変わらぬ』

 

異魔神は放つ

 

 

 

《し ょ う ど》

 

 

 

全身から放たれた全てを灰塵に変える超火炎が無縁塚を火の海に変える

 

 

 

 

「違うな異魔神」

 

その火の海の中から全身を輝かせながらバーンは生還していた

 

「無知は対応の遅れを意味する、それが致命に至る事も珍しくない、だが知っていれば対処が可能になる、超高密度魔法言語……凄まじい術だ、だがそれもあくまで呪文の延長、ならば対処はそう難しい事ではない、同じ魔力で対処すればよいのだ」

 

バーンの言葉を異魔神は解せぬと言った様子で見ていた、無論、どうとでも言える前半ではなく後半に対して

 

『……だとしても、我が呪文は常人に防げるモノでは無い、先の呪文も今のも貴様を殺せる力で放った筈にも関わらず生きている……一体貴様は何をしている?』

 

そう、異魔神が解せないのはバーンが生きている事に対して

 

今のバーンの力を見定め、確実に殺せるだけの魔力を込めて放ったのに生きている、それも二度も

 

それが不可解なのだ

 

「さてな、そう難しい事ではないのだが……まぁ貴様の様な強者には逆に難解なのかもしれぬな」

 

易々と答える筈も無いバーンは意地の悪そうな笑みで見下している

 

「ベギラゴン」

 

極大の閃熱呪文が異魔神を襲うが効いていない

 

『無駄だ、闇の衣が無くともその程度の呪文では我が肉体を滅する事叶わぬ』

 

「やはりそう言った類いのモノがあったか、そうでなくてはただの的……剥がしてくれた者に感謝せねばな」

 

本来なら異魔神は闇の衣を纏い魔法に対して絶対の防御壁としていたが己の世界において剥ぎ取られてしまっていたため呪文の攻撃が通るのだ

 

しかし、通るだけで有効かどうかは別だが

 

「では、これならばどうだ?」

 

バーンは再びベギラゴンを唱える、しかし、次は魔力を指先に集中させて放った

 

『!?』

 

拳大程の閃熱のレーザーが異魔神を貫く

 

「収束させれば有効性は上がるか……大した差ではないが」

 

バーンが行ったのは己が元居た世界で大魔道士が成長の証として仲間に見せた呪文の収束技法、広範囲の呪文を圧縮し範囲を落として威力を高めたのだ

 

そして、それでもバーンの語る通りに大した差にはならない

 

異魔神の巨体に対して針が刺した程度のダメージにしかならないしその傷もすぐに治る

 

『小手先でどうにかなる差ではないぞ』

 

「……それはどうだろうな」

 

『貴様が何をしているかはわからぬ、しかしだ……その程度の力でまさかとは思うが余に勝てると本気で考えているのか?』

 

「それがどうかしたか?」

 

バーンは心中を読ませぬ表情を取る、が内心は焦っていた

 

(やはり今のままでは勝てぬ……)

 

決断をする時だと考えたまさにその時

 

『……もういい』

 

異魔神は告げた

 

『余を愚弄するその態度、もはや我慢ならん……余興は終わりだ』

 

バーンが返す間も無く異魔神の巨体が崩れ、アメーバの様な肉の海が広がる

 

 

『刮目するがいい……これが……真の恐怖の姿だ』

 

 

肉種が中心に向かい集まっていく

 

「……いよいよ来るか」

 

バーンはまるで知っていた様にその変化の様子を見届けた

 

 

 

 

 

 

 

 

        ゴゴゴゴゴ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

それは恐怖と絶望の調べ

 

 

魔の神がその身で奏でる破壊と破滅の具現

 

 

儚き幻想の地を震え上がらせながら、異なる世界の魔神は降臨する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッフッフッフッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大いなる魔の王の完成体

 

 

異なる世界の全てから畏怖されし魔神の究極にして最恐の姿

 

 

 

「この形態は随分と久しい……」

 

 

 

そこに立つのは魔神、バーンと変わらぬ背丈の魔神

 

先の大魔神をそのまま人間サイズにした様な姿、明確な違いは背に翼が生えているくらい

 

「……ッ!?」

 

その異魔神を直に見たバーンは顔を歪ませる

 

「驚きのあまり声も出ぬ……訳ではないようだな」

 

「……予想は出来ていた事だ、あの様な鈍重極まる姿が本気である筈が無い、大魔王足らしめる真の形態が在る筈だ……とな」

 

「ふん、流石の慧眼と褒めてやろう……だが、その慧眼故に理解も早く済んだと言った様子だな?」

 

「ッ……!?」

 

「そう、この肉体が本来の余の姿だバーン、魔界をも震撼させた余の完全体だ」

 

見た目には先の大魔神に比べて可愛く見える、勝てそうな気さえしてしまうがそれは大きな誤り

 

「……あれ程の巨大な質量がそれだけ凝縮された、魔力こそ変わらぬが攻撃力、防御力、スピードにおいては比較にならぬ、か」

 

バーンの優れた眼は本質を正確に捉えていた、先の大魔神の方が余程可愛く見えるまでに

 

「御明察だ、月並みだが断言しよう」

 

異魔神は告げる

 

 

「貴様に勝ち目は無い!!」

 

 

死は決定したのだと

 

 

「それは……どうだろうな」

 

 

バーンはそれに肯定とも否定とも言えない言葉で返した

 

彼我の差をわかった上で、内心では今では決して覆らない差だと理解した上で、それでも戦うという姿勢に一片の陰りは無かった

 

「良いぞバーン、面白いぞ……」

 

そんなバーンを呆れた様に苦笑した異魔神の体が

 

 

「まだ余に勝てると思っているところが」

 

 

次の瞬間、消えた

 

「!!?」

 

バーンは即座に左方に障壁を幾重にも張った、同時に異魔神の拳が障壁に触れる

 

「ぐうぅ!?」

 

多層に張られた障壁を容易く殴り砕いた拳が最後の障壁ごとバーンを吹き飛ばす

 

「軽く振った程度だったのだが、思ったよりも脆いな」

 

追撃をせず余裕気に異魔神はその場で笑みをバーンへ見せる

 

「ぬぅ……オォッ!!」

 

バーンの体が一瞬光り、イオナズンを連射する

 

「この程度、避けるまでもない、が……」

 

手をかざすと迫る大量の魔球の全てが止まり、握り締めると魔球が1ヶ所に集められ、消滅した

 

「この方が力の差がわかりやすかろう」

 

「チィ……!?」

 

これ見よがしに見せられたバーンは充分に理解しているが故に表情苦く異魔神を睨む

 

「フッ……貴様の焦燥を見て幾分、溜飲は下がった、もう少しだけ遊んでやるとしようか?」

 

邪な笑みを見せた異魔神は指を突き出し光線を放つ

 

「!?……ハァッ!!」

 

バギクロスで迎え撃つも相殺は出来ず、軌道を僅かに逸らすだけが精一杯、そして肩が抉られる

 

「ッ……魔符……「闘魔滅砕砲」!!」

 

痛みに怯まず暗黒闘気を圧縮したビーム

 

「ほう、これは余も初めて見る……成程、負の闘気を攻撃手段に昇華させているのか」

 

その身に直撃しながら何も受けて無い様に異魔神は悠々と歩いてくる

 

「……クッ!?」

 

照射を止めたバーンが飛び退く

 

「まぁそう恐れるな」

 

しかし、そこには異魔神が瞬時に回り込んでいた

 

「恐れる?貴様程度にか?」

 

読んでいたバーンの体が一瞬強く輝き、冷気が迸る

 

「……」

 

異魔神は己が腕を見ていた

 

「また……か」

 

凍りついた腕を

 

(また予想を越える魔力の呪文……奴の枯れ果てた力では気を抜いていたとは言え余の肉体の表面を凍りつかせる事すら不可能な筈……)

 

最初から感じていた不可解、疑問の種

 

(奴特有の能力か?それとも別の要因が?時折見せるあの輝きに何か秘密が……?)

 

纏いつく氷を砕いた異魔神は既に距離を離しているバーンへ視線を向ける

 

(いずれにせよ、余を脅かす程ではない、じっくりと解き明かしていくとしよう、遊びながら、な……その前に壊れるかもしれぬが、なぁ)

 

冷笑を浮かべた異魔神へバーンはベギラゴンを放つ

 

「無駄だバーン、効かぬ」

 

閃熱をまともに受けても何のダメージも無く異魔神はそのまま進み、飛び込む

 

「ヌゥゥ!?」

 

繰り出された裏拳に対しまたもバーンは障壁を展開し、それを緩衝材にして殴り飛ばされる

 

「フフッ……」

 

吹き飛ぶバーンへ異魔神は指を突き出し魔弾を撃つ

 

「クッ……!?」

 

迫りくる魔弾を前にバーンは光の壁を出現させる

 

「それは誰もが試すだろう、だが無意味だ、マホカンタで余の魔法は防げぬ」

 

異魔神が告げる

 

「何ッ!?」

 

魔弾は光の壁を難無く通り抜け、バーンの障壁を穿ち、直撃した

 

「ウッ……ヌゥ……!?」

 

多大なダメージを負ってしまったバーンは苦しみながらも異魔神から更に距離を離す

 

「加減は充分にしたつもりだったのだが……随分と貧弱な肉体だなバーンよ、老いとはかくも残酷なものと言わざるをえん、なぁ?フッフフ……」

 

「……それは不老と不死である世界樹の肉体を持つ貴様だから言える言葉だ」

 

「そうとも、永遠に存在し続けられる余だからこそ言えるのだ下等種よ」

 

「……その永遠を得ている貴様が何故、自らも含めた破滅を願う?」

 

その問いに異魔神の表情は歪んだ

 

「ルビスを……精霊ルビスを許せぬからだ!」

 

一目でわかる憎悪、言葉から感じる尋常ならざる怒り

 

「奴と余は創造と破壊、正と負の対極に位置してはいたが本来は同じ聖核を持つ存在同士だった、それなのに余は秩序を謳う奴に拒まれ……異界に追放された、同胞に存在を否定されたのだ!!」

 

それは消える事の無い恨み、形容出来ぬ程の怨嗟の殺意

 

「貴様も大魔王と呼ばれた事があるならばわかる筈だ、この怒りが」

 

「……」

 

バーンは何も返さなかった、それはバーン自身も経験した事だったから

 

バーンの世界で魔族は陽の光が射さぬ魔界に押し込まれた、魔族を生み出した本人である神々によって、人間が脆弱だからという理由で

 

そんな神々の愚行に怒り、地上を人間ごと消滅させようとしたバーンだからこそ異魔神の怒りに理解と共感を持ったから言葉を出さなかったのだ

 

「故に余は壊すのだ……ルビスが作り、守ってきた秩序ごと全てを無に!!」

 

逆恨み、と言えるかもしれない

 

だがそれはルビスが作った秩序の中での話、そう教え込まれ、規範となった秩序の中で拒否された

 

だからやり直すのだ、自らを否定し、自らを悪と断ずるような勝手な規範を作ったルビスの秩序を壊し、原初の混沌からまた始める為に

 

 

「創造の前に破壊有り……世界は終焉を迎え、再誕する……それが我が成すべき事、ルビスへの復讐だ」

 

 

自らも滅ぶとわかっていてもその意思は揺るがない

 

それ程までにルビスを憎み、世界を忌み嫌っているのだ

 

 

「……その理不尽に対する怒り、否定はすまい」

 

バーンには異魔神の想いがよくわかる、寧ろ復讐しろとさえ思う

 

「だが……幻想郷を巻き込むな」

 

ただそれはあくまで幻想郷に害さないのならばの話

 

バーンにとって思い出だけが残る幻想郷こそが今や守る対象であり幻想郷こそが全て

 

他の世界がどうなっても構いはしないが幻想郷が含まれるなら話は別

 

それだけは許せない

 

 

「悪いがそれは無理な相談だ、余には最初から後退の二字は無い、それを許さぬのなら最後の障害である貴様が止めてみろ……出来るならばな」

 

「……それしか、ないようだな」

 

話が終わり、再び臨戦体勢に入る二人の魔人

 

「余が止めてやろう……息の根をな」

 

「愚かな……」

 

譲れぬからこそぶつかり合う

 

 

「……グッ!?」

 

「フフフ……」

 

しかし彼我の差は歴然

 

「グゥ……!?」

 

「フハハハ……」

 

子どもと遊ぶ様な手加減をする異魔神にバーンは手も足も出せず、嬲られ、既に衰えた体を痛め付けられていく

 

 

「ッゥ……オオッ!!」

 

全身を輝かせ、バーンが呪文を唱える

 

「ムッ?」

 

異魔神は体に異常を感じ、微笑む

 

「重力を操る呪文か……面白い」

 

バーンが唱えたのはベタン、対象に重力の負荷を与える重圧呪文

 

命中すればドラゴンだろうと圧殺してしまう大呪文、異魔神の動きを止める事は出来たがそれはあくまで気を抜いている異魔神が動こうとしないだけであるのはバーンにはわかっていた

 

(やるだけやってはみるが……これが効かねばいよいよ覚悟を決めねばならんな……)

 

その異魔神の気紛れを突いてバーンは全身を強く輝かせイオナズンの球体6個を異魔神を中心に正確に配置する

 

「……!……貴様、それは……まさか……」

 

それを行うバーンを見た異魔神が酷く顔を歪ませていた

 

「受けるがいい……余の最大呪文を!!」

 

そして起爆された

 

 

「六芒「ギガグランドイオナズン」!!」

 

 

起爆された最初の1つが次を誘爆、更に次へ

 

そうして連なる爆発は配置された六芒星の魔方陣により威力は飛躍的に上昇し六芒星の中心、異魔神の立つ場所に集中し凄絶なる大爆発を引き起こした

 

 

「……だろう、な」

 

立ち昇る爆煙を前にバーンは胸に掛かる黒い宝石を握り締める

 

「そうか……そういう事だったのか」

 

爆煙にシルエットが浮かぶ

 

「わからぬ筈だ」

 

悠然と出てきたのは当然異魔神、その体は焦げた痕が見えるがダメージは殆ど見受けられない

 

異魔神が顔を歪ませていたのはイオナズンに対してではなかったのだ

 

「まさかそんな小細工をしているとは思いもしなかったぞバーン」

 

「……ようやく気付いたか」

 

呆れた様に笑う異魔神に馬鹿にする様に笑うバーン

 

「貴様の魔力を読み違えた理由、それは無数に身に付けたその宝石の仕業であろう?」

 

「そうだ、これは魔力を増幅させる魔石だ」

 

バーンが無数に身に付けていたのはマジカルブースターと呼ばれる物、常闇ノ皇の最期の後に紫に己の居た世界から持ってきて貰った2つの物の内の1つ

 

「それで呪文の威力を底上げしていたか」

 

「出来るならばしたくはなかった、が、仕方のない事もある」

 

月日と共に衰えていく魔力、だがいつかまた敵が来るとも限らない、それを考えた時、もう戻らないそれを補う為にバーンが考えたのはかつてエスタークが戦いに使用した魔石だった

 

それを使って衰えた魔力を戦えるレベルにまで増幅させていたのだ

 

「全身を輝かせる増幅の光が貴様の能力だと余に誤解させ理解を遅らせたが……それだけの量でなければ仕方ないのも頷ける」

 

「……」

 

バーンが仕方ないと言い異魔神が肯定する

 

事実、バーンはエスタークが付けていた量の何倍もの数を身に付けていたのだ

 

それだけしなければ戦えない、それだけしてもこれだけしか戦えない

 

そこまでバーンは衰えてしまっていたのだから……

 

 

「……興醒めだ」

 

異魔神の顔から笑みが消えた

 

「仮にも余と同じ大魔王と呼ばれた者がこの様な小細工とは……見るに耐えん不様、虫酸が走る」

 

それだけは無いと思っていた、大魔王にあるまじき卑しく浅ましいそんな事だけは

 

「遊戯は終わりだ……」

 

故に嫌悪した

 

「これでその寂れた生に幕を引いてやろう」

 

異魔神はその超魔力を言語に変え、紡いだ

 

 

 

《り ゅ う せ い》

 

 

 

展開された魔法言語陣がそれを呼ぶ

 

 

(何だ……?何かを呼び寄せているのか……?……ッ!!?)

 

一瞬、何も起きない事に疑問を浮かべたバーンだがすぐにそれを察知し天を見上げた

 

(馬鹿な……隕石を呼ぶだと……!?)

 

自らの頭上、そこには無縁塚の全長を易々と越える一塊の巨大な隕石が落ちてきていた

 

「さぁどうするバーンよ、避けるか?貴様なら容易だろう、だが避ければ貴様の大事な幻想郷とやらは甚大なダメージを負う、この世界に核の冬が来るだろう、それでも避けるか?」

 

「ッ……オノレ……!!?」

 

バーンは迷わず隕石に向かって手をかざす

 

幻想郷はバーンにとって今や全て、避けるという選択は無い

 

異魔神も今までのやり取りでそれがわかっているから本来の無数の流星群ではなく巨大な隕石にしたのだ、落ちれば世界樹に被害が及ぶがそれを見越して今のバーンに丁度良い大きさの物にしてまで

 

「ベタン……!!」

 

今の力では破壊出来ないと悟るバーンは隕石に向かって重力を反転させた斥力の重圧呪文を最大出力で放つ

 

「グウッ……!?」

 

勢いはかなり減衰したがそれでも落ちてくる

 

「オアァ……!!」

 

バギクロスを放ち竜巻を下から押し上げる様に置き更なる減衰を図るがまだ止められない

 

「夢境「二重大結界」……!!」

 

博麗の結界術を使い、空中に固定した結界を壁にし、ようやく隕石は止まった

 

「ハァー……ハァ……」

 

何とか止められたが息も落ち着かぬ間にバーンは異魔神からの攻撃を警戒し顔を向ける

 

「流石だ、不様と言えどこれくらいはやると思っていたぞ」

 

だが異魔神に動く気配は無い、それはまるで

 

「さて……」

 

既に動いていた様に……

 

「2個目はどうする……バーン……?」

 

「な……に……!?」

 

 

 

 

 

 

          ズドオッ!!

 

 

 

 

 

 

 

それは予想もしない鬼の所業、安堵する希望を絶ち潰すかの様な非情の追撃

 

 

「ヌ……ゥウオオ……オオオッ!!?」

 

止まった1つ目を押す様に2つ目の隕石が落ち、落下は力を増して再び始まる

 

「オ……ノレェェェ……!!?」

 

砕かれた結界を更に多重に張り直し、バギクロスは更に威力を上げ、重圧呪文も限界まで引き上げるも連なった隕石は止まらない

 

 

「フッフッフッ……ハハハ……ハーッハッハッハッ!!」

 

 

不様に死力を尽くすバーンを眺めながら魔神の高笑いが響く

 

 

「オ……オオッ……オア……ァッ!?」

 

 

今までで一番の輝きを全身からバーンは放つ

 

 

ピシィ……

 

 

隕石に亀裂が入る

 

 

 

「オオオオオオオオオオーーーーーーッッ!!!」

 

 

 

咆哮と共にバーンの身に付けていた魔石が全て弾け飛び

 

隕石は砕け散った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ……驚いた、と言わざるをえまい」

 

細かく砕けた隕石の欠片がまだ落ち切らぬ時に異魔神は落下地点の中心を見つめていた

 

「アレを受けて……今だ生きている事に、そして原形すら留めている事に、な……」

 

そこに在る奇蹟に向かって

 

 

「ハァッ!?ハァッ……!?ハッ……!!?」

 

バーンは生きていた、あの悪絶なる攻撃を凌ぎきったのだ

 

「カハッ!?……ハァッハッ!?ゴフッ!!?」

 

だがその代償はとてつもなく重かった

 

魔力を使い切るまで絞り出し、それを魔石の限界を越えて増幅した事による肉体負荷、それは老いたバーンにとって地獄の苦しみ

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

そして限界を越えたが為に全て砕けた攻守の生命線であった魔石の損失

 

「だが……もう終わりだな」

 

もはやそこに居るのは瀕死の老人、触れれば死にそうな程に弱りきったかつての王だった

 

「最後の余興が枯れ果てた死に損ないとはいえ存外楽しめたぞバーン」

 

魔神は言う

 

「貴様が全盛期だったならば……思わずそんなもしもを考えてしまうくらいにはな、フッフッフッ……」

 

遊びの終わりを締め括る言葉を

 

「……ッ……ウゥ……カハァ……!?」

 

バーンは動かない、動けない

 

「苦しかろう、そろそろトドメを刺してやる、我が怖を刻み……死ぬがよい」

 

ゆっくりと歩いてくる異魔神を前に

 

「…………」

 

バーンは首から下がる黒い宝石を握る

 

(余の……生涯の友よ……)

 

想いが込み上げる

 

 

『大丈夫ですかバーンさん!?』

 

『面白ぇ!引っ込んでなバーン!私がやるぜ!』

 

『あたいがやる!バーンの仇を取ってやるんだから!』

 

『ダメ!あたしだって怒ってるんだからね!』

 

『私にやらせてくれよ、黙ってられるか!』

 

『貴方達少し落ち着きなさい、私が消すわ』

 

『もう……何回言っても無茶するんだから……』

 

 

 

想うが故に聞こえる幻聴、想うが故に見える虚像

 

今までなら支えてくれる友が居た、昔なら必ずそうしてくれる友が居た

 

今は居ない、だからこそ強く、果て無く想う

 

(案ずるな……お前達が居らずとも、守るとも……)

 

心に永遠に残る想いを糧にバーンは立ち上がる

 

 

「なんだ?最後の足掻きか?」

 

「そうだ……最後の足掻きだ……」

 

やってみせろと余裕気に立ち止まる異魔神に見える様に、バーンは黒い宝石を胸から千切り、前方へかざした

 

「その宝石……凄まじい魔力が籠められているな」

 

「これは黒魔晶と呼ばれる魔力を溜め込む性質を持った石だ……巨大な黒魔晶を圧縮して作ったもので余の数百、数千年の魔力が籠めてある」

 

「それが何だ?爆弾にでもして余にぶつける気か?」

 

「そういった使い方もあるがそれはせぬ、これには既に幻想郷を数度滅ぼせるだけの魔力を蓄えてあるのでな、爆弾にはせぬ……したところで貴様は倒せぬだろうしな」

 

「……ならばそれをどうする気だ?」

 

「……貴様が先程言った事だ」

 

「何……?」

 

紫に頼んだもう1つ、唯一にして最後の奥秘をその手に

 

「もしもを実現してやる……そう言っているのだ!!」

 

バーンは不適に笑った

 

 

 

ゴウッ!

 

 

 

黒魔晶から魔力が解放され、周囲の岩石を彼方へ吹き飛ばす

 

老いたとはいえ魔族の王だった者の数百、数千年の魔力の結晶、それは途方もなき膨大な魔力の大嵐となってバーンを覆い隠す

 

 

「何を……する気だ……!?」

 

予想不可能な事態に異魔神も迂闊に動けずそれを眺めるしか出来ない

 

 

 

カッ!!

 

 

 

魔力が中心に吸い込まれた瞬間、魔の象徴でありバーンの心の色である黒き光柱が天を突く

 

 

「誇るがいい……余を追い詰めるその比類無き力を」

 

 

光が更に勢いを増す最中、黒だった光を鮮やかな紅に変え、揺らめく炎に変え、更なる形へと変わっていく

 

「ふ……不死鳥……」

 

目を奪われる美しく優雅な不死の鳥

 

そこから声が響く

 

 

「そして後悔しろ、余を過ぎ去りし時に立ち戻らせた事を」

 

 

遠い時の声が……

 

 

 

「……!!?」

 

光が収まり、不死鳥が燃え上がり羽炎が舞うその中に彼の王は居た

 

「貴様……若さを……」

 

生気漲る瞳、力に満ちた肉体、凄まじき魔力

 

 

「これが貴様の望んだもしも……余の全盛の姿だ」

 

 

 

 

 

  望みを叶えんとする魔神の前に立ちはだかるは……

 

 

    伝説に謳われた大魔王、その真の姿

 

 

 

 

 

「さぁ、決着をつけようか……異魔神」

 

 

 

 

 

悠久の時を経て、王は再び在りし日の姿のまま再誕する

 

 

一瞬、されど優雅に羽ばたく不死鳥(フェニックス)のように……

 

 

 

 

 

 

 

破滅を願う魔神

 

永遠を願い続ける大魔王

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果て無き想いが残るのはどちらか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




相変わらず遅くて申し訳ありません。

異魔神戦2話目でございます。

ある程度は予想されているでしょうが老バーン様、しかも原作より衰えて天魔の杖も無いバーン様では太刀打ち出来ない相手でした、ならば全盛期のバーン様が戦えば良いのです!常闇ノ皇編から続く最後の布石、ようやく実を結びました。

ちなみに異魔神が使った「しょうど」ですが原作には無いオリジナルです、ギラ系に属する超高密度魔法言語が無かったので「氷河」にちなんで「焦土」とそれっぽくやってみました。
「りゅうせい」のアレはある忍者から持ってきました、有名とは思うのでわかると思います。

次で本当に最後の更新になりますね……名残惜しさも出てきましたが言っても仕方ない!お待ちください!

次回も頑張ります!

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