東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 幻想曲(ファンタジア) Ⅲ

 

 

-人間の里-

 

「行きますよー!それっ!」

 

大妖精が風を集めてチウに向ける

 

「お、おおっ!?おーーーー!」

 

チウの体が浮かび空を飛び始めた

 

「スゴーイ!ボクが空を飛べるなんて夢みたいだ!」

 

「風への命令権をチウさんに委ねてるので好きなように飛べますよ!」

 

「ホントだ!スゴイゾー!」

 

里の上空を飛び回り気分は上々

 

「ダイとポップはいつもこんな感じなんだなぁ……あー楽しい!」

 

「あたいと鬼ごっこよチウ!ルーミアもルナも入んなさい!」

 

「やるのだー!」

 

「はーい!」

 

仲良く遊んでいる

 

「他人を飛ばせる事が出来るとは……凄いな大妖精」

 

「えへへ、ありがとうございます!クロコダインさんもやりますか?出来ますよ私!」

 

「いや、少し怖いんでな、ありがたいが遠慮しておこう」

 

「とっても強そうなのに意外です」

 

「俺とて苦手なモノの一つや二つはあるさ、お前もそうだろう?」

 

「私は辛いの苦手ですー」

 

「ガハハ!可愛らしいな」

 

「そうですか?えへへ」

 

大妖精とクロコダインも楽しく談笑している

 

「……なぁ大妖精」

 

クロコダインはチウ達を眺めながら言う

 

「なんですか?」

 

「良い所だな、幻想郷は……」

 

「はい!とっても良い所ですよ!」

 

「ああ、お前達を見ているとよくわかる……人間と妖怪が共存し他種族も差別しない、デルムリン島の様な……まさに楽園の様な世界だ」

 

「昔はそうでもなかったんですよ?昔は妖怪が恐れられていて強い妖怪がよく異変を起こしていたんです、その度に魔理沙さんや霊夢さんが解決して……とっても大変だったんです」

 

「ほお、幻想郷にもそんな時代があったのか」

 

「はい、でもあの時から変わり始めたんです……バーンさんが幻想郷に来てから」

 

「バーンが……」

 

「異変のレベルも段違いに上がっちゃいましたけどそれを乗り越える度に少しずつ皆の心が繋がって……仲良くなって……助け合うようになって……今の幻想郷になりました」

 

「……バーンが作った、と言うわけか」

 

「それは違います、バーンさんは何もしてません、ただ友達の為に戦っただけなんです」

 

「友の為……」

 

「それが結果的に幻想郷を救う事になって、新しい大異変が来る度に幻想郷全部が力を合わせる内に気付いたら……って感じです」

 

「……切欠ではあったのか」

 

「あ!でもバーンさんと友達の絆が影響を与えたかもしれないです、皆よく羨ましいって言うんです、さとりさんなんか特にですね」

 

「そうか……」

 

クロコダインは夕暮れの空を見上げ聞かされた今の幻想郷に至るまでを反芻する

 

(幻想郷の者達と絆を作り……拡げたからこそ……今が在るのか)

 

レミリアから聞いた歴史の補足、バーンが幻想郷に与えた影響を知り、また少し今のバーンを理解する事になった

 

(しかし、あの大魔王が友とはな……似合わん、全く似合わんが……納得の理由ではある)

 

自分もまた魔王軍を裏切り勇者達と絆を作り、盟友と言える間柄になったのだから否定が出来る筈もない

 

(幻想郷はバーンを受け入れ、バーンもまた応え、理想郷となった……それだけにダイとの差が際立つ、か……)

 

余りに違うダイとの現状に苦々しく歯を食い縛る

 

 

 

 

「陽が落ちちゃってるわ!」

 

「ホントだ!真っ暗になっちゃう!」

 

「楽しくて気付かなかったのだー!」

 

太陽が山に隠れもう夜と言っていい程暗くなるまでクロコダイン達と大妖精達は遊んでいた

 

「そろそろ帰ろっか」

 

大妖精が終わりを告げクロコダインの回りに皆集まってくる

 

「楽しかったわチウ!気に入ったからあんた子分にしてあげてもいいわよ!」

 

「ボクも楽しかったよチルノ!お前こそ獣王遊撃隊の隊員にしてあげてもいいぞ!」

 

「私も入るのだー!」

 

「私も入ろっかなー」

 

遊ぶ内にチウと強い友情を結んだ子ども達

 

「また遊ぶわよチウ!」

 

「勿論だチルノ!」

 

互いの短い腕を交差させ誓い合う

 

「クロコダインさん今日はありがとうございました!とっても楽しかったです!ポップさん達にもお礼を言っといてください!」

 

「ああ、俺も楽しかった……また会おう大妖精」

 

保護者枠の二人も挨拶を交わして離れる

 

「じゃあまたね!バイバーイ!」

 

大妖精とチルノが二人で飛んでいきルーミアはふよふよ漂う様に何処かへ流れて行きルナは家がある迷いの竹林の方へ向かって飛んで行った

 

「さて、ダイが心配だ俺達も宿に戻るか」

 

「そうですね」

 

二人も宿に向かって歩いていく

 

「む……ヒュンケルとヒムかアレは」

 

「あ、ホントだ」

 

宿までもう少しのところで永遠亭から戻って来たヒュンケル達を見つけた

 

「早かったな二人共、どうだった?」

 

「いや、それがよぉ……」

 

結果を聞かれヒムが微妙な顔でヒュンケルに続きを促した

 

「……」

 

同じく微妙な顔でヒュンケルは永遠亭での事を思い出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-永遠亭-

 

「離せテメー!」

 

正邪が暴れている

 

「大人しくしてやがれって!」

 

ヒムが羽交い締めで取り押さえている

 

「あ!?ゴルァ!どこ触ってんだ変態野郎テメェコルァ!!」

 

「テメーが暴れるからだろうが!」

 

診察室がガタガタ揺れる

 

「調子こいてんじゃねぇぞコラァー!こうなりゃ能力で……!」

 

「静かにしなさい、解剖するわよ?」

 

いい加減鬱陶しかった永琳がメスを正邪の首元に突きつけた

 

「ヒエッ!?わ、わかったよ……チクショウ」

 

大人しくなった正邪を見て永琳は診察台に半裸で横になっているヒュンケルに向き直す

 

「ごめんなさいね煩くて、診察は終わったから起きて良いわ」

 

「……それで、どうなんだ?」

 

上体を起こしたヒュンケルは結果が気になり永琳を見つめる

 

「改めて見ると随分と酷い有り様だったわ、全身の骨に微細なヒビが無数に入っているし骨もズレて神経に負担をかけてる、筋肉も酷く痛めたまま……よくこんな体で戦ってこれたものと畏怖すらするわ、貴方痛覚が無いの?それとも不死身のゾンビか何か?」

 

「……」

 

「何故こうなったか説明しましょうか?ダメージが残った体で戦い過ぎたのよ貴方は、回復もろくにせずに痛んだ体で戦い続けた、それもかなり無茶に……」

 

呆れた様に溜め息を吐いて永琳は続ける

 

「結果、痛んだ状態が正常の状態だと体に覚えこませてしまった……だからここまで酷くなり回復魔法が効かなくて治療も意味を成さないレベルにまでなったのよ」

 

「……そうか」

 

ヒュンケルは素っ気ない言葉を返す、自ら望んでした行為故に後悔はしていないからだ

 

「……やはり治らないのか、俺の体は……」

 

そしてヒュンケルは諦めていた

 

永琳が回復魔法も治療も意味を成さないと言ったからだ

 

武神ブロキーナに再起不能と言われ数々の医者にも匙を投げられたこの体を治せる者などいない

 

そう改めて認識しただけだった

 

「何か勘違いしているようね?」

 

「なに……?」

 

だが今回は相手が悪かった

 

「治せるわ、その程度」

 

相手は億を越えて生きる天才だったのだから

 

「さっきお前は治療は意味を成さないと……」

 

「それは私以外の医者の話、私なら死亡以外であるならば如何なる怪我も病気も治せる、今の診察は呪いや外的要因が無いか確認しただけよ」

 

「……ッ!!」

 

永琳の自信に満ちた答えに体が震える

 

「本当に……治るのか?」

 

「治るわ」

 

改めて断言されヒュンケルは堪らず診察台から降り、永琳の前で深く頭を下げた

 

「対価は望むだけ払う、頼む……俺の体を治してくれ」

 

「よろしい、承りましょう」

 

治療が決定し永琳はでは、と椅子に座りヒュンケルに指を2本立てた

 

「貴方の体を治療する方法が二種類あるわ、どちらも完治するのは変わらないから聞いてからどちらにするか決めてちょうだい」

 

ヒュンケルは無言で頷き説明を促す

 

「一つ目は手術による通常の治療、私が手術を行い体を完治させる方法」

 

永琳は続ける

 

「この方法は私が最初から最後まで携わるからからまず間違いは起きないわ、お勧めはお勧めね、ただ問題は時間……貴方の体は数回の手術をする必要がある、それに対する療養期間とリハビリの期間も含めて考えると最低で半年から一年の時間が必要になるわ」

 

「半年から一年……」

 

ヒュンケルは幻想郷への滞在期間が10日程だったと思いだし皆とレミリアに頼めば可能だろうかと考えたが一旦打ち切る

 

「……二つ目は?」

 

結論を出すのは二つ目も聞いてからだと続きを求めた

 

「二つ目は回復魔法による治療、これなら完治は一瞬、療養期間もリハビリ期間も無い……感覚と体の同調、つまり全盛期の勘を取り戻すのに鍛練を怠っていない貴方なら5日程度とみている、と言ったところかしら」

 

「……!」

 

ヒュンケルが驚いた顔を見せた、一つ目は半年から一年なのに二つ目はたった5日で全てが治ると言われたからだ

 

「……待て、この体に回復魔法は効かない、先程お前も自分で言っていた事だ、この矛盾はどういうわけだ?」

 

「勿論説明しましょう、貴方の体を騙して無理矢理誤認させるのよ、今は傷付いている、正常ではないと……そこへ回復魔法を使い完治させる、と言うわけ」

 

「そんな簡単な事で……?」

 

「あら言うじゃない、では逆に聞くけれどその簡単な事が誰も出来なかったから貴方は今もその壊れた体なのでしょう?」

 

「……すまん」

 

「言っておくけれど決して簡単な事ではないの、肉体が刻んだ確定した記憶を騙して誤認させるなんて外法私にしか出来ないし貴方の全盛期の状態を今の肉体から寸分違わず予想し再現するのも私にしか出来ないわ」

 

「……何者なんだ、お前は……」

 

聞くだけで恐ろしく高度な事をしているのだとわかったヒュンケルは永琳の得体の知れなさが気になってしまう

 

「ただの元月人よ、億年を生きた知識があるだけの……ね」

 

永琳は遠い目をして月日を思い出す

 

「……それでどうする?二つ目が不安なら一つ目にする?私はどちらでも構わないわ」

 

「……」

 

ヒュンケルは思案する

 

だがそれは形だけで既に決まっていた

 

「二つ目で頼む」

 

幻想郷での滞在期間内であるし何より速い事が決め手だった

 

「わかったわ、では早速……と言いたいところだけどこの方法は私一人では出来ないのよ、回復魔法の使い手が必要になるの、それも最低でベホマを使えるレベルの使い手が」

 

「お前は使えないのか?医者とは神官や僧侶の類、なら使えそうなものだが?」

 

「使えないの、私どころか幻想郷の者は総じて使えない、あの魔女の二天すらもね……理由は幻想郷の特異性、常識と非常識……他の世界での常識はこちらでは非常識になるという特異性の為に誰も使えないの」

 

外の世界で妖怪が非常識だから幻想郷は妖怪が居るのが常識というように大結界に隔たれた幻想郷は特異性を持つ世界

 

今の幻想郷は回復魔法が非常識となっているのだ

 

(昔は回復魔法や魔術を使える者がごく少数ながら居たのだけどね……ある大魔王が幻想郷に連れて来られ住み着いた事で大魔王の居た世界と繋がりが出来た、その時から回復魔法は幻想郷の非常識となったけれど常識の外れに在る大魔王だけが回復魔法を持ち続ける事が出来た)

 

今は詳しく話す必要の無い事を思いながら永琳は事実だけを述べる

 

「だから使えない……今この幻想郷で例外はただ一人の元外来人だけ」

 

「……そいつの名は?」

 

「バーンよ」

 

「!!?」

 

ヒュンケルは驚愕した、よりによってその名が出たのだから驚く他無い

 

(確かに奴もベホマを使えたが……だがしかし……)

 

速く治すにはバーンの手を借りなければならない

 

「あら、バーンを知ってるの?なら話は早いじゃない」

 

「待て……少し考えさせてくれ」

 

葛藤するしか無かった

 

「……俺の仲間にベホマを使える奴が居る、そいつではダメか?」

 

「悪いけれどそれは無理ね、私はそのお仲間の実力を知らないし極めて難解な治療に会ったばかりの者となんてお話にならない、信用出来ないもの……この治療をするならバーンの協力が絶対条件、これは譲らないわ」

 

「ッ……」

 

ヒュンケルはポップを信用しているし信頼している、自信を持って推薦出来る腕もあると思っている

 

だがそれはヒュンケルの考えであって永琳には関係無い話、実際に永琳の立場で考えれば当然の事だと口を閉じるしか無かった

 

「……わかった、だが今ここで治療方法を決めかねる事態になった、仲間に相談する必要がある……返事は後日で良いか?」

 

「ええ、私は一向に構わないわ、時間は無限にあるから……いつでも歓迎しましょう」

 

「ああ……ちなみに対価は?」

 

「そうね、お金には困ってないし今は特に欲しい物も無いし……何かお願いを聞いてもらいましょうか、俗に言う何でもしてもらうというやつよ」

 

「そうか……わかった、必ず叶える」

 

そうして二人は永遠亭から里へ帰ったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その事で皆に話がある」

 

「わかった、だが今は難しいかもしれん」

 

「あん?なんかあったのかよ?」

 

「ダイが不安定でな……」

 

「そうか……ではまずは戻るとしよう」

 

合流した四人は宿に辿り着く

 

「む……戻ったか」

 

そこで出迎えたのは意外な人物だった

 

「よう、久し振り……は違うか」

 

酒を片手に椅子に偉そうに腰掛ける魔族の男と傍らに刀を携えた少女

 

「ロン・ベルク!?」

 

そこに居たのは魔界の名工であり知人であるロンだった

 

「お前も此処に来ていたのか!」

 

「いや、ポップ達には説明したんだが俺はお前達とは違うところから来ている、平行世界と幻想郷の賢者達は言っていたな……俺の居たところではお前達の殆どが寿命で死んでいる」

 

「平行世界……?死んでいる?俺達が……?」

 

ロンは勇者一行ともバーンとも異なる限り無く近いが違う世界から来ている

 

ロンの居た世界では既に100年近くの時が流れ魔族以外の知人は皆寿命で亡くなっている、弟子であったノヴァが星皇剣を完成させ天寿を全うした後に旅に出て幻想郷に迷い混んだのだ

 

「雑に言えばお前達を知っているだけの別人だ、つまりお前達の今を知らん、何故ダイが引きこもりになっているかなんて事を、な」

 

「成程そういう……わかった、何となくだが理解した」

 

踏まえた上で奇妙な事だが改めて挨拶を交わす

 

「ダイに何があった?ポップに聞いてもはぐらかされてな……大方俺が幻想郷に住んでるからバーンに知られるのを嫌がってるんだろうが」

 

「いや、その前にお前の隣に居るお嬢さんを紹介してくれ、気になって仕方ない……新しい弟子か?剣士なのはわかるが……」

 

クロコダインがロンの隣に居る少女へ目を向けると少女は待ってましたとばかりに一歩前へ出ようとしてロンに制止され、ぷくっと頬を膨らませ、むくれた

 

「こいつは魂魄妖夢、察しの通り剣士だ……腕は立つ」

 

「ほう……俺はクロコダインだ、それとヒュンケルとヒムとチウだ、よろしくなお嬢さん」

 

名前を告げ各々が軽く会釈をする

 

(強い……!)

 

その中でヒュンケルだけが妖夢の隠した強さを感じとる

 

(ロン・ベルクよりおそらく腕は上……恐るべき剣士だ……!)

 

同じ剣士としての本能が感じた幻想郷唯一にして最高の剣士の技量に目が見開かれる

 

 

「……ま、です」

 

妖夢がボソりと呟き皆が注目する

 

「妻です!私はロン・ベルクさんの妻です!」

 

むくれた顔のまま妖夢は喚きだした

 

「おい妖夢……」

 

「ポップさん達の時もそうでした!なんで妻だって紹介してくれないんですか!?」

 

「言う必要が無いだろうがそんな事」

 

「有りますよ!大有りです!一番大事です!そこはちゃんと言ってくださいよ!俺の妻だって!もー知りません!先に帰ります!帰って来てもお酒出しませんからねッ!!」

 

プンプン怒って帰って行った

 

「……悪いな、見苦しいもん見せちまった」

 

「いや、圧倒されちまった……あんた結婚してたのかよ、あんな小さい子とよ……ロリコンだったのかあんた」

 

ヒムが鼻水を出しながらロンを見る

 

「誰がロリコンだヒム……ああ見えてお前等より歳は上だぞ?」

 

「「ウッソ~~~!!?」」

 

チウも一緒に鼻水を出して驚いた

 

「つーかホントに結婚してんのかよ?」

 

「……あいつの言ってる事に間違いは無いな」

 

「マジかよ……じゃあ悪いのはあんたじゃねぇか、ちゃんと言ってやれよ!可哀想じゃねぇかよ!」

 

「黙れ……そんな恥ずかしい事を軽々しく言えるか」

 

「かー!あんたらしいけどよ……女心をわかってやらなきゃダメだぜ?」

 

「……まだ10にも満たんガキが言うじゃねぇか、まぁその事はもういい……それよりダイの事だ、どうなんだ?俺に教えてくれるのか?」

 

ロンの問いにクロコダインは首を横に振った

 

「俺達は今パーティーで来ている、そしてリーダーはポップだ、そのポップが言わんのなら俺達も言う事は出来ん」

 

「ちっ、だが仕方ない事か……ああ、気にするなよ?俺も仲間外れにされたなんて思っちゃいない」

 

「すまん、そう言って貰えると助かる」

 

「しょうがないお前等と酒でも飲もうと思ったが帰るとするか、あいつの機嫌も取らんといかんからな」

 

面倒臭そうに重い腰を上げロンは出ていく

 

「……そうだヒュンケル、お前永遠亭に行ってたらしいな?」

 

思い出したように足を止めヒュンケルへ向き直す

 

「ああ」

 

「体か?どうだったんだ?」

 

「……治療は可能だった」

 

それを聞いたクロコダイン達が良かったと喜ぶ

 

「だが……」

 

ヒュンケルは言い淀む

 

「……言いたくないなら構わん、じゃあな」

 

ロンは宿から出ていった

 

 

 

(何か問題でもあったのか?)

 

ロンは里の外に向かって歩きながら考えていた

 

(あの天才が問題だと?信じれんな、ふん……明日にでも永遠亭に行ってみるか)

 

そのまま真っ直ぐ白玉楼に帰ろうとしたが酒が飲めない可能性を考えて酒を買いに酒屋へ向かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「お?戻ったか皆!ロンは帰ったのか?ああそうそう、さっきレミリアのメイドが来て先生に連絡してくれたってよ」

 

ロンが帰ってすぐにポップとマァムとラーハルトが姿を見せた

 

「これで安心して滞在出来るようになったか……ダイの様子は?」

 

「それが一人にしてくれって部屋に籠って出てきやがらねぇ」

 

「そうか……無理も出来ん、暫く様子を見るしかないか」

 

「だな、出てくるのを待つしかねぇか、ラーハルトは悪ぃけど俺かおっさんの部屋に行くか新しい部屋を借りるかになるな」

 

「了解だ」

 

頷いたラーハルトはヒュンケルの横へ並ぶ

 

「見たかヒュンケル?ロン・ベルクの横に居た女を?」

 

「ああ……恐るべき手練れだった、全盛の俺でも勝てるかどうか……」

 

「だろうな、俺もハッキリ勝てるとは言えんレベルの相手だ……喧嘩を売られた」

 

「何?お前が奴に?」

 

「そうだ、奴も俺の力量を見抜き手合わせを乞われた、ロン・ベルクに止められていたがな」

 

「……そうか」

 

ヒュンケルは内心歯噛んでいた

 

(俺には戦うに値する価値すら微塵も無かった……という訳か)

 

全盛期とは程遠い壊れた体とは言え強者に見向きもされなかった事実が戦士であるヒュンケルには酷く屈辱だったのだ

 

(やはり治すしか……治すしか俺の戦士としての未来は無い、か)

 

ヒュンケルは静かに決意を固める

 

「そういやヒュンケル!おめーの用事はどうだったんだよ?良い結果だったかよ?」

 

「……その事で皆に話がある」

 

ダイを除いた7人にヒュンケルは話を始めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館-

 

「……」

 

紅魔館の一室、アバンと話を終えたレミリアは一人難しい顔をしていた

 

(成程……そういう事だったのね……)

 

アバンから聞かされた何故今ダイがあんなに弱っているのか、その理由を知ったから

 

(有り得ない話ではない、か……そう、そうよね……何もかもが上手く行くとは限らない、勇者とて例外な筈もない、当然の理……)

 

バーンと同じように虚空を見つめるレミリア

 

(本当に不憫な子……竜と魔と人……生まれながらに逃れられない運命に縛られた宿命の落とし子……望まずに秘められた宿命に勝利した先がアレでは報われない……しかも危うい、神にも悪魔にも成れる非常に不安定な魂……)

 

勇者とは常に危険や苦難に見舞われないといけないのかと運命を操るレミリアは思わざるを得ない

 

(……なんて皮肉、そう在れと求められ応えた勇者が辛苦を味わい、そう在ると決め散った大魔王が幸福に囲まれているなんて……)

 

込み上げる同情を溜め息として吐き出し頬杖をついてまた溜め息を吐く

 

(私にどうこう出来る問題ではないわね、私どころか幻想郷の者にも……可能性があるとすればあの二人、か……あの二人ならもしかしたら……)

 

友である不死鳥の少女とその伴侶である血の勇者を思い浮かべる

 

(この事はバーンには……要らない世話ね、因縁の勇者の事なんだもの私達から言っても聞いてはくれるだけね、確証を持ちたいなら自分から何かするでしょう)

 

最後に大きな溜め息を吐いてレミリアは部屋を出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-迷いの竹林・妹紅の家-

 

「ただいま~」

 

「お~おかえりルナ」

 

「片付けしてくれたんだろ?助かったよありがとう」

 

帰ってきたルナを妹紅とロランが迎える

 

「あれ……?魔理沙さんだ」

 

ルナは寝ている魔理沙を見つけた

 

「あー二日酔いのクセに飛び回ってたみたいでな、ウチに来て力尽きたんだ、寝かしといてやれな」

 

「ふーん……そうなんだ」

 

「夕食作ってるけど食べるか?私達はお腹減ってないからいらないけど」

 

「うん食べる!いっぱい遊んでお腹ペコペコなの!あ!お土産もあるよ!」

 

食卓に着いたルナに慣れた手つきで料理を出すとルナはすぐに食べ始める

 

「今日ね!外来人の友達が出来たんだよ!」

 

「へぇ良かったな~楽しかったか?」

 

「うん!でね!その友達の仲間の人が居るんだけどその人バーンさんを倒した事があるんだって!」

 

「……そりゃ凄いな」

 

「でしょ!」

 

妹紅はロランに目配せしてロランも頷く

 

(魔理沙の言ってた奴等に間違いないな)

 

(だね)

 

魔理沙から聞かされた勇者一行の事だと確信したがだからと言ってどうこうする訳でも無い

 

「でもその人なんか見た事ある気がするんだよね……気のせいかなぁ?」

 

「会った事あるのか?」

 

「有るような無いような……わかんないや」

 

「そっか……それよりお前昼はどうしたんだ?親分達と一緒だったんだろ?」

 

「あ、うん……外来人の人達がご馳走してくれたよ」

 

「はぁ?どうしてそうなるんだよ?」

 

「それはルーミアさんが……」

 

ルナは勇者一行と知り合った経緯を話す

 

「そういう事だったか……お礼言いに行かなきゃな」

 

「別にいいんじゃない?なんかレミリアさんにお金困るくらい貰ってたみたいだし」

 

「だからってそういう訳にいくかよ、そのお土産もそいつ等からのヤツだろ?なら親としてちゃんとお礼はしなきゃな」

 

「僕も行くよ妹紅」

 

「じゃあ明日行ってみるかロラン」

 

「私も行く!」

 

「お前は明日紅魔館で魔法の稽古だろ?」

 

「あ、そうだった……」

 

「勝手に休むとパチュリー怒るぞ?ちゃんと行っとけ、お礼は私達が言っとくから」

 

「うー……わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-人間の里・宿屋-

 

「はぁ……」

 

ベッドに横たわるダイは大きな溜め息を吐いて寝返りを打つ

 

(何やってるんだオレは……皆に迷惑かけて……関係無い幻想郷の人達にも嫌な態度をとって……)

 

自己嫌悪してしまうが自分ではどうにも出来ない

 

(だけど……言えないよ……)

 

幻想郷に来てから新たに生まれた想い、ダイだけが抱える負の感情

 

(こんな事……皆には……)

 

今のダイには絆さえも心を縛る要因となり余計に魂を蝕んでいく

 

今、ダイは孤独を感じていた

 

(バーン……)

 

そして苦悩の最たる原因である男の存在

 

「どうして……お前だけ……」

 

溢れる感情の吐露、誰にも聞かれず消えていく

 

「……」

 

ダイはベッドから立ち上がり窓を見る

 

(風にでも当たろうかな……)

 

窓を開け、気付かれないように静かに宿屋から飛んで出ていく

 

「……」

 

アテ無くゆっくりと里を飛び、適当な家の屋根へ降り立ち、座り込む

 

(月が綺麗だ……もうすぐ満月かな)

 

余計な事を考えないようにただ月の美しさを見つめるも苦悩が消える筈も無くまた溜め息が出る

 

「どうすればいいんだ……オレは……」

 

膝を抱え顔を伏せ、暫し時が流れる

 

 

「あらあら……こんな綺麗な月が見えるのに塞ぎ込むのは勿体無いですよ?」

 

 

不意に話し掛けられダイは顔を上げた

 

「どうもこんばんわ、お隣よろしいですか?」

 

そこには笑顔を浮かべる少女が立っていた、少女から無数に伸びた元にある大目玉のような一つ目も開き見つめている

 

「君は……?」

 

「私は古明地さとりと言います、よろしくお願いします……貴方は?」

 

隣に座りながらさとりと言う少女が問いかける

 

「オレはダイだよ……よろしく……」

 

いきなり現れた少女に困惑し、訝しみながらもダイは無理矢理笑って見せた

 

「私は怪しい者ではありませんよダイさん、お散歩をしていたら貴方を見かけたので少しお話でも出来ないかな?と思いまして」

 

「そうなんだ……うん、いいよ」

 

不思議な子だとダイは思った

 

見た目は10歳くらいなのに歳上と話しているかのような大人びた印象を受ける

 

そして、自分が僅かに抱いた疑念をまるで心を読んだかのように答えた事が奇妙な感覚にさせた

 

「ありがとうございます」

 

さとりは笑顔で礼を言う

 

「少々落ち込んでいた御様子でしたがどうされました?何か嫌な事でもありましたか?」

 

月を見上げてさとりは問いかけて来た、第三の目と呼ばれる大眼だけはダイを見て

 

「嫌な……事……」

 

ダイの脳裏に嫌と思う事が走るように過った

 

自らの世界で起きた辛苦、受けた言葉、受ける扱いが最初に駆け巡る

 

「……」

 

そして幻想郷で再会して知ったバーンの今の境遇への……

 

(いや……違う、バーンの事は嫌な事じゃない……違うんだ……これは……オレの……)

 

自分でもわかってはいるのだ、そんな事を考えてはいけないと頭ではわかっているのだ

 

しかし頭で理解はしても心が納得いかない

 

(もう……なんなんだよ……)

 

それが誰にも言えなくて……だから我慢して抑え込んでいた、けど抑えきれなくて表情に滲み出てしまい皆に迷惑を掛ける

 

ダイの心は擦りきれ、荒み始めていた

 

 

 

「あ……ごめん、無視したみたいになっちゃったね、考えてたんだ」

 

さとりを待たせ過ぎた事を思い出しハッと顔を向ける

 

「いえ……構いません……よ」

 

ダイは見た

 

月を見上げるさとりの横顔が苦虫を噛み潰した様に苦々しい表情をしていたのを

 

「どうしたの?大丈夫?」

 

「心遣いありがとうございます、少し気分が悪くなっただけなので大丈夫です……」

 

「ええ!?それホントに大丈夫なの?」

 

見かねたダイがさとりの背中をさすりながら様子を見てくる

 

「……優しいですね」

 

さとりはダイを見ながら笑顔を見せた、第三の目は今もダイを捉えている

 

「そう?これくらい普通じゃないかな?」

 

「そうでもありませんよ、打算の無い無垢な優しさ……それは貴方の心が純粋だからこその行為、私にはわかるのです」

 

「……」

 

ダイはまた不思議な感覚を覚える、まるで自分の本質を覗かれているような、世辞ではなく確信を持って言っているのだとわかったのだ

 

「君は……」

 

何者なの?

 

そう聞こうとした瞬間、さとりが立ち上がった

 

「ごめんなさい、やはり気分が優れないので帰る事にします、私から誘っておいて失礼ですが……」

 

「あ……いいよいいよ、気にしないで!それより気分が悪いなら送っていくよ?」

 

「いえ、そこまで悪いわけではないので心配なさらずとも大丈夫です、遠い訳でもありませんので」

 

「そう?じゃあ気をつけてね!」

 

頭を下げたさとりは最後に笑顔で別れを告げる

 

「また会えるといいですね、さようならダイさん」

 

「ああ!じゃあねさとり!」

 

さとりは去っていく

 

「……オレもそろそろ戻ろうかな」

 

見送った後、ダイも宿屋に向かって飛び立って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

里の外に出たさとりは安堵の息を吐いた

 

(部屋に籠ってると知った時はどうしようかと思いましたが何とかなりましたね、騙すようで気が引けますが……頼まれてしまいましたしね……)

 

さとりは偶然ダイに会ったわけではなかった、ある依頼でダイに会いに来ていた

 

宿屋でダイが部屋に籠っているのをポップ達の心から読んで機を待ち続けていたのだ

 

(しかし……あのバーンが私に頼るなんて……しかも貴方を不快にさせたこの忌むべき力を……)

 

依頼の主はバーン、それも尋常ではない真剣味を帯びていた

 

相手の詳細を聞いて大層驚いた、バーンを倒した勇者だと言うのだから

 

そしてその勇者の心を読んでくれと頼むバーン

 

忌み嫌うこの力に頼らねばならない程にバーンにとっては大事なのだとわかった

 

「ふふっ……」

 

同時に嬉しかった

 

形振り構わぬ事態だったとは言えかつて不躾にバーンの心を覗き怒りを買った万人に嫌われるこの力

 

嫌われ避けられていると思っていた自分をお前も仲間だと言ってくれたようで嬉しかったのだ

 

だから普段なら誰に頼まれてもやらない読心を行ったのだ

 

 

(ただ……)

 

しかし、問題は有った

 

(私の想像以上に勇者の現状は酷かった……まさに生き地獄……正気を保てているのが不思議なくらい……)

 

(お仲間の方や一部の方々が支えてくれたから何とか持ちこたえている、そんなとても危うい純心……)

 

(そこへ……バーン、貴方への想いが加わって……もはや彼の心は混沌となっています)

 

読んだダイの心の叫び

 

失望、不安、不信、悲観、恐怖、羨望

 

さとりの顔が歪む程の負の感情

 

病むまでに溜め込んだ猛毒

 

(彼には今が分水嶺、このまま帰ると彼は恐らく……貴方に成る……現状の苦悩と貴方への深き想いで……)

 

行き着く果てがさとりには見えていた

 

 

(そう……大魔王に……)

 

 

現時点では予想に過ぎないがさとりは確信に近いモノを感じていた

 

(勇者とはかくも深き業を背負わなければならないものなのか……)

 

心を読む妖怪は飛んでいく

 

(これを聞いて……貴方はどうするつもりなのですか?)

 

紅い館へ向けて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遅くなってばかりで申し訳ありません。

そろそろ大きく動くと思います、いや、大きくはないかも……


そして報告を。
前話の感想に指摘があったルナとダイが里で出会った時について追記修正してあります。
物語の内容的には致命でもなく大した事ではないのですが疑問が浮かび私自身も確かにおかしいと思いましたし恥ずかしい話ですが忘れていました、面目ありません。

時間が空いたは理由になりませんしそれだけ読んで覚えていてくれている読者様が居る事に感謝し続きを書いていこうと思います。

申し訳ありませんでした、そしてありがとうございます。

次回も頑張ります。

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