結果的に俺達参番組の作戦は成功した。
だが俺の心には黒い何かが渦巻いていた。
少し時間は戻り、オルガが一軍達の飯に薬を入れて、眠らせた後、拘束して一つの部屋に一軍全員を入れたところからだ。
一軍達は手が拘束され、身動きがとれないようになっていることに気づき、何が起きているのかわからないといった様子だった。目が覚めれば動けなくなっているのだからそれは不思議に思うだろう。そして次に思うのは恐怖だ。
目を覚ましたところで、オルガが部屋に入ってきて口を開いた。
「おはようございます。薬入りの飯の味はいかがでしたか?」
オルガが嘲笑気味に声をかける。この一言で一軍全員も理解しただろう。こいつらにやられたのだろうと。参番組にやられたことに気付いた一軍からは怒りの声が飛ぶ。
「薬だぁ!?」
「餓鬼が!!何の真似だ!」
「まぁ、俺達もはっきりさせたいんですよ。誰がここの一番かってことをね」
一軍からはさらに声が飛ぶ。この状況と今まで下に見ていたやつからの挑発にさらに頭に血が上ってきているようだ。
「貴様ら!一体誰を相手にしてると…」
一軍のやつの言葉を封じ込めるように、オルガが言葉を重ねる。
「碌な指揮もせず、これだけの被害を出した無能にですよ」
「ふざけんな!」
身体を自由に動かせないため、唾をオルガの足元に吐いて少しでも抵抗しようしている。
今までなら助けようとも考えた。だが今は何も感じなかった。
おやっさんの言葉を聞いてからだろうか。心の黒い何かがどんどん大きくなっているような感じがした。
一軍のことをオルガが蹴り飛ばすと、情けないような声を出し、参番組に提案を出す。
「わかったから!とりあえずこの拘束具をとりやがれ!そしたら命だけは助けてやる」
その言葉に俺は嫌悪感を抱いた。こいつのせいで家族が死んだのだ。どの面を下げて俺達にこんなことを言ってくるのだろう。そこで、俺は思考やめる。
待て、流されるな。自分の言葉を忘れたか。相手にも大切な人がいるかもしれないということを。
オルガが呆れたような声を出す。
「はぁ?お前状況を分かって言ってんのか。そのセリフを言えるのは、俺か?お前か?どっちだ」
相手は悔しそうな顔をする。今までの罰が纏めて与えられるただそれだけだ。
「てめぇら!誰のおかげでここまで生きてこれたと思ってやがる!仕事と金と飯を与えてやったのは俺らだろうが!」
誰のおかげでここまで生きてこれた?その言葉に俺の頭の中で何かがはじけ飛んだ。
すると頭の中から誰かが出てきて勝手に喋りだしたような気持ちが悪い感じがした。
俺はオルガより前に出る。
「お前のおかげじゃねぇよ。無能。俺達は俺達の力で生きてきたんだよ。今までこれだけの暴力を与えておいて、今更そんな言葉で俺達の考えが変わるとでも思ったか?」
頭の中で2人の俺がいる気がした。今までの俺と今喋っている『オレ』。俺には『オレ』のことを止めることができなかった。覚悟がないやつは引っ込んでろとでも言うかのように俺を嘲笑っていたような気がして。
「レンリ、お前」
オルガは何か驚いたような顔をしていた。他のやつらもそうだ。だが三日月だけはいつも通りの顔をしていた。
『オレ』はそのまま言葉を続ける。
「無能な指揮のせいで死ななくていい家族が死んでいった。どうやって償ってくれるんだ?なぁ?」
『オレ』は懐から拳銃を取り出して、相手の頭に標準を合わせる。だがその引き金を引くところで『オレ』は引っ込み、俺に戻っていた。俺に託したのだ。『オレ』は。俺は撃てなかった。すると後ろから三日月が前に出てきて、手で制され、三日月が自分の銃を出し、躊躇わず相手の頭に二発銃弾を撃ち込んだ。
一軍のやつらからは声も出なくなっていた。
俺は自分が情けなかった。殺さなくてもいいと、仲間に言うこともできず、引き金をひくことさえもできなかった。
オルガは俺をゆっくり下げ、前に出る。
「さて、これからCGSは俺達のもんだ。さぁ選べ。俺達宇宙ネズミ達のもとで働き続けるか。それともここから出ていくか。」
その言葉に激昂した一人が手を拘束されたまま立ち上がる。
立ち上がった瞬間、三日月はすぐに撃ちぬいた。
周りの一軍達からは悲鳴が上がり、立ち上がれなくなっていた。
「どっちも嫌なら、こいつみたいにここで終わらせてやってもいいぞ?」
オルガから選択肢が投げられる。参番組という今まで自分より下だったやつらの下で働くか、職を失い、ここから出ていくか。それとも死ぬか。
いい選択肢など、どこにもなかった。だがこいつらは選ぶしかない。
そこで一人の眼鏡をかけた少し痩せ形の男が声を発した。
「あの…俺は出ていくほうで…」
だがその言葉を聞いたビスケットが引き留める。
「あ、確か会計を務めてらっしゃるデクスター・キュラスターさんですよね?あなたにはちょっと残ってもらいます。」
「えぇ~!!!」
男の声が響きわたった。
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時間は今に戻り、俺はまた倉庫に来ていた。
アリスのコクピットの上で寝転がり、さっきのことを思い出していた。
あの時、もし三日月に止められず、引き金を引いていたらどうなっていたんだろう。
なぜあの時躊躇ったのか。それはやはり、相手に大切な人がいたらと考えてしまった。
その大切な人に俺はどう償えばいいのかわからなかった。
自分がわからなくなっていた。運命と出会いと幸せ。本当にこれは平等なんだろうか。
「平等なんてあるわけないじゃない」
「誰だ」
振り返ると、少女だろうか。声の感じからして、女というのは分かった。だが顔には黒い霧みたいなのがかかっていて、よくわからなかった。
どこから現れたのだろう。CGSにはこんな子はいないし、こんな何もないところに迷い込んだとは思えなかった。
「ねぇ、君は本当にそんなものが与えられていると思っていたの?」
「当たり前だ。そうなれるように周りのやつらが死なないように…」
少女はどこか悲しげな声をして言葉を続けた。俺はずっとそう思ってきたから。
「だって、君が一番…与えられてないんじゃないの?」
何か強い衝撃を受けたように俺は言葉を出せなくなっていた。
「あのおじさんも言ってたじゃない。何かを失って何かを得るんだって。そんなことも理解できないのなんてここでは君くらいだよ。あの小さな子達だって生きるために、自分の力で自分達の敵を倒していくの。敵を倒さず、進むのなんて無理よ。無力な君じゃ無理。覚悟がない君には無理。今の君じゃどんなに足掻いたってそんなことできやしないもの。」
言い返そうとした。違うと。だけど言葉は出てこなかった。どこかでその言葉に納得してしまっている自分がいたのだ。
無理。無力な俺には。
無理。覚悟がない俺には。
無理。逃げた俺には。
「さっきだって、引き金を引くことすらできなかったんだもんね。あれだけ君の家族を傷つけた人のことさえ、撃てなかったの。あの人には本当に大切な人がいるのかもしれないなんて思っていたの?あり得ないわ。幸せを掴んでいたのかもしれない?そんなことをしていて幸せを感じるような人なら生きている価値はないわね。他人の幸せを奪って幸せになる人を君はどうするんだろうね」
もう何も言えなかった。言い返すことはできなかった。いや、しなかった。
「そろそろお別れね。またね。弱虫な君」
そう言って、少女は振り返り消えていった。
目が覚めると、体から汗が噴き出ていた。いつの間にかアリスの上で寝てしまっていたらしい。
なんて悪い夢なのだろうか。だが夢とも思えないような感じがしていた。
あの少女は、一体…そしてあの少女に言われた一つ一つの言葉が頭から離れなくなっていた。
俺にはもう何もわからなくなってしまっていた。
自分がどうしたいのか。自分がどうなりたいのか。
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三日月は外で空を眺めていた。
外は綺麗な青空だった。
また新たなことがはじまり、オルガの言う場所へ向かうために少し前に進んだのかと思っていた。
すると後ろから、急に声をかけられる。
「なにしてんだ。ミカ」
「オルガ。どうしたの」
オルガの方を向き、首を傾げた。CGSを乗っ取る作戦を成功させ、団長のオルガはとても忙しいはずだ。
今ここにいるべきではないと三日月でもわかっていることだった。
「ちょっとな。気になることがあってよ。」
「レンリのこと?」
「よくわかったな。あの時のレンリは…なんかレンリじゃないような気がしたんだ」
オルガには分からなかった。だがミカなら分かるかもと直感的にそう思ったのだ。
三日月は既に何かを分かっていたような顔をして、オルガにこう言った。
「あれ『も』、本当のレンリだと思うけどね」
「『も』?どういうことだよミカ」
オルガの頭には謎が増えるばかりだった。レンリは昔から何を考えているかわからないような雰囲気をしていた。
レンリの昔を俺達は誰も知らないし、ずっと長くいるのにあいつのことを知らないから。
あいつから垣間見えた本性?に困惑してしまっていた。
だがそれをミカは分かっていたのかもしれない。
「俺もさ、レンリのことはよくわかんないけど、ただそう思っただけ」
ミカも感覚的にそう思っただけのようだが、こいつの言うことはよく当たる。
「そっか。まぁいいか。あいつはあいつだ」
「そうだよ」
あいつも仲間だ。信じてやらないとな。オルガは改めてそう思い、先ほどまで持っていた疑問を振り払った。
これからは新しいことだらけの日々になるだろう。他のことは考えている暇などない。先に進んでいくしかない。
後ろを振り返る余裕など、オルガにはなかった。
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暗い部屋の中で何十人かの子供達がぼろきれのような服を着て、力なく倒れていた。
毎日、何人かの子供が連れて行かれ、そのまま戻ってこなくなっていた。
戻ってきた子は体の一部が動かなくなっていたり、どこかが欠損していたりしていた。
最初は何百人もの子供がいた。だが数か月であっという間に、このような人数になってしまっていた。
連れて行かれて何が起こるかはわからないが、無事には帰れないということはわかっていた。
だから逃げることにした。逃げるタイミングは子供が連れて行かれる瞬間だ。
そんなことを計画していた時に、出会ったのが、金色の髪をした女の子と白い髪をした女の子だった。
そう、ここで出会って『しまった』のが、物語の始まりだったのだと俺はそう思う。
展開が早すぎる、説教パートが過去も詳しくやってないのに意味わかんねぇ!と思ったのですが、レンリの一つ目の挫折を書くにはこのタイミングしかないと思い、書きました。
意味がわからないかもしれませんが申し訳ありません。
難しい…感想お待ちしております。
それでは。