遊戯王ARC-V ある脱走兵の話   作:白烏

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お久しぶりです
今さらながらオリキャラの名前
聖(ひじり)トキノ
葉繰(はぐる)マオ


トキノ(2)

工作室に戻ってきてすぐにモニターに記録用の盤を接続してなにかを打ち込みはじめるマオ

 

「よし、融合の召喚エネルギーのデータは取れたからこれを前提としたプログラムを組めば…」

 

すごい勢いで文字が打ち込まれていく

レジスタンスのメカニック担当の名は伊達ではないということか

 

「…葉繰、ちょっと聞きたいんだが」

「ん?トキノっちのこと〜?」

 

モニターから視線を外さずに答える、予想はしていたということだろう

トキノは戻ってくるなり一人になりたいとどこかに消えてしまった

 

「ああ」

「何が知りたいの?血液型?好きな食べ物?スリーサイズ?トキノっちって意外と出るとこ出てるんだよ?」

「……」

「ま、冗談はさておき……これでよしっと」

 

キリのいいところまで終わらせたのかイスを回して向き直る

ヘラヘラ笑っていた表情を一変させ鋭い目付きで問いかける

 

「その前に1つ聞かせろ、アカデミアの脱走兵、なんで敵をカード化しない?」

「…何でそれを」

 

その雰囲気の変化に驚くことは無い、外面で笑う奴は内に何かを隠してる奴だと言うのは分かっていたからだ

 

「あんたを信用している人間ばかりだと思うな、それに私はメカニックだ、盤を見れば持ち主にどういう扱いを受けたか、持ち主が何をしたのかなんてすぐにわかる」

 

カンカンと使っていた盤を指で叩く

 

「あんたは元々向こう側、まさかかつての仲間はカード化出来ないとか言うの?」

「…あいつらの事を仲間だと思ったことは無い」

 

もともと仲間なんていなかった

表向きでニコニコしながら腹を探り合う

信用したら裏切られる

スキをみせればやられる

手を差し伸べれば利用される

ただの蹴落とし合うだけ

それがアカデミアだ

 

「俺は…人をカードになんかしたくない…そう思っただけだ」

 

それが正しいのか間違っているのか、当時は分からなかったが、本当にそれだけ

幾度もカード化するように迫られてもそれだけは出来なかった

 

「へぇ……あんたもなんだ」

「あんた…も?」

「トキノも同じことを言った…」

 

懐かしむように語り出す

 

「アカデミアに襲われて、レジスタンスが出来て、街のみんなを守るために戦った…トキノもその時までは一緒に戦ってた…アカデミアの盤を解析して、カード化出来るようになって、さぁこれからだっ!…ってなって…」

 

悔しそうに歯を噛み締める

 

「私達はバカだった…トキノは強いから大丈夫だって勝手に勘違いして、戦いを押し付けて…トキノは…誰よりも優しかったのに…気づけなかった…震えながら戦ってたのに…皆を守るために無理して戦ってたのに…あの日、アカデミアを倒してもあんたみたいに見送るだけのトキノに『なんでカードにしない!』って言う奴がいて…私も同じこと思ってた…そしたら…『人をカードになんかしたくないっ!』って…私達は間違いに気づくのが遅すぎた…!」

 

後悔から手で顔を覆う

 

「…そうか」

 

そう答える、戦えない兵士など戦場では役に立たない、それどころか足でまといでしかないと切り捨てることは簡単だ

だが…彼女は兵士じゃない、それを理解して何も言えない

 

 

「その日から…トキノの顔からは笑顔が消えた…私達の前では笑ってみせるけど…あんなの…本当の笑顔じゃない…」

 

ただ心配をかけないようにと無理矢理に笑って、それがヘタで、痛々しくて

でも、そうさせてしまったのは他でもない自分達だから何も言えなくて

 

「あんたなら…もしかしたら…って」

 

エクシーズ次元の人間じゃトキノを笑顔にすることは出来ない

気をつかってトキノは無理に笑おうとするから

でも部外者のリョウジならそんなことはないかもしれない、そう思って決闘を許可した

でも、結局怖がらせてしまっただけ

それどころか、黒咲のせいで悪化したかもしれない

 

「……盤の調整が終わるまでどのくらいかかる?」

「……そうだよね、元々あんたには関係ない話だもんね…データの更新とか全体の調整なんか含めて2時間ってとこかな」

 

トキノの事ではなく盤の事を聞くリョウジに軽い失望を覚える

でもそれはお門違い、勝手に期待して勝手に裏切られたと思っただけ

彼は元から言っていたではないか、ただの協力者で、仲間ではないと、ただ同じ敵を相手にしているだけの相手に勝手にそんなことを求めるのは違う

彼は戦うために盤の修理を頼みに来た

なら私は協力者として、メカニックとしての仕事を全うする

 

「そうか、それから…」

 

なんだ?用が済んだのなら早く出ていけ

早く作業に戻らせてくれ、キーボードに向かっているあいだはそれに集中出来る

…トキノへの罪悪感もその間だけは忘れられる

 

「あいつが…聖がどこにいるか分かるか?」

 

 

 

………

 

 

 

……学校近くの決闘塾

といっても昔プロ決闘者だったおじさんが場所を作って決闘を教えてくれるだけで、塾と言うよりはいつでも空いてる近所のおじさんの家みたいな所

1人になりたい時はここに来る

この辺もアカデミアに襲われて建物は崩れちゃったけどここは残った

でもおじさんは…

 

「……っ!」

 

頭を振って嫌なことを振り払う

ここで決闘を教えて貰った

友達もいっぱい出来た

今でも目をつぶれば思い出せる

 

『バトルっ!神竜ラグナロクでユート君の終末の騎士を攻撃っ!』

『また負けた……トキノ!もう1回頼む!』

『いーや、次は俺の番だ、リベンジしたいからな』

『次は隼君とだね!負けないから!』

 

「あの頃は楽しかったな…」

 

ソリッドビジョンも無いテーブルデュエル

覚えたての決闘を毎日日が暮れるまでやって

みんなでプロ決闘者になるなんて夢を語って

 

「……でも」

 

体育座りで目を伏せる

そんな日々はもう戻ってこない事は分かっている

 

『どうしてカードにしない』

『強いのになんで戦おうとしない』

『臆病者』

『戦え』

 

耳を塞いでも聴こえてくる

うるさいと叫びたかった

勝手な事言わないでと泣きたかった

でも、皆が困っている時に勝手なことしてるのは私なんだ

私が戦わなきゃいけなかった

私は強かったんだから

私が…私が…

 

「無理だよ…」

 

戦う?なんで私が…?

負けたらカードにされるんだよ?

怖い……体が震えて動かなくなる…

 

…?声が聞こえる

 

「聖?ここにいるのか?」

 

それが見知った人の声だったなら隠れてやり過ごそうかと思った

でもこの声は最近レジスタンスに協力してくれてるアカデミアの人

私なんかとは違う…戦う人

その人がなんで私なんかを探してるんだろう?

涙を拭って立ち上がって出迎える

 

「は、はい…なにか?」

「ああ、よかった、探してたんだ」

 

探してた?なんで?

 

「ちょっと頼みがあってな」

 

頼み事?……この人も言うんだろうか?

戦えと、カードにしろと…

 

「決闘してくれないか?」

「…え?…さっきやりましたよね…?」

「いや、…ちょっとデッキの調整とかエクシーズの練習とかしたいから付き合ってほしいんだ」

「…でも」

 

怖い、そう言いかけて

 

「まだ盤の修理が終わってないから、テーブルデュエルしか出来ないんだが…」

「……それなら」

 

私はその頼みを引き受けた

 

 

………

 

「融合召喚、サイバーツインドラゴン」

「エクシーズ召喚、聖刻龍王アトゥムス」

 

……

 

「アトゥムスを素材にオーバーレイ、ランクアップエクシーズチェンジ、迅雷の騎士ガイアドラグーン」

「ら、ランクアップ…?」

「あっ…ランクアップって言うのは…」

 

……

 

「エクシーズ召喚!サイバードラゴンノヴァ!」

「エクシーズ召喚!聖刻真龍エネアード!」

 

……

 

「エネアードでダイレクトアタック!」

「…ぐぐぐ…負けたっ!」

「やった!勝ったっ!」

「くっ、もう1回だっ!」

 

……

 

「サイバーエンドで攻撃!ダメージは貫通だ!」

「そ、そんな能力が…も、もう1回っ!」

 

……

 

 

「なーおい、盤渡さなくていいのかよ?」

「あんたは黙ってなさい」

 

その様子をこっそり覗いていたマオとアレン

盤の修理が終わり、リョウジとトキノがどうなったかが心配になって見に来ていた

アレンは途中で拾った

 

「…よかったね、トキノ」

 

本人は気づいてないだろうがトキノは今笑ってる

決闘を覚えたての頃みたいに無邪気に

そしてそれは、トキノだけじゃなかった

 

「…あいつもあんな顔するんだな」

 

アレンはレジスタンスの中で最初にリョウジと接触している

それ以来リョウジのことは警戒するにしろ信じるにしろそれなりに長く見てきた

だからこそ訓練された決闘戦士のイメージしかなかったリョウジの笑った顔に少し驚いていた

 

今決闘が終わったようだ

トキノは小さくピョンピョン跳ねるように喜び

リョウジは悔しそうに、でも楽しそうに空を仰いだ

どちらも決闘を心から楽しんでいる

それこそ、ソリッドビジョンがなくて決闘内容が分からなくても二人の楽しんでる姿を見ているだけで嬉しくなれるくらい

 

結局2人の決闘は日が暮れて夜飯の時間が来るギリギリまで何回も行われた

 


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