遊戯王ARC-V ある脱走兵の話   作:白烏

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覚悟(3)

「エターナル…」

 

いつもであれば流れるようにできる攻撃宣言がとてつもなく重かった

 

「エボリューション…」

 

標的は無力な球体、そしてその奥の…傷ついてほしくないと思った人

その相手を自らの手で傷つけている…だが、もうこれで終わる

これで心が折れれば、もう二度と戦いたいだなんて言いださないはず

 

頼む、サイバーエンド…彼女の心を折ってくれ

 

「……バーストォ!!!」

 

 

 

そんな祈りを乗せた攻撃は易々と壁モンスターを粉砕し、貫通したダメージがトキノの身体を吹き飛ばした

悲鳴とともに屋上を跳ねるように吹き飛んで、屋上の金網に背中を打ち付けてようやく止まる

 

「トキノっ!!!」

 

マオは矢も楯もたまらずに駆け寄る

あれほどのダメージを受けてしまって、ただですむとは思えなかった

 

「リョウジ!お前は!!」

 

ユートは怒りを滲ませながらリョウジに詰め寄る

仲間になんてことをするのだと糾弾しようとして

遠巻きに見ていたレジスタンスも同様に、それぞれトキノとリョウジへ近づこうとして

 

「こ…ない…で……」

 

誰でもない、攻撃を受けて屋上で倒れ伏しているトキノの弱々しい声がすれば、皆一斉に注目する

 

「ま…だ…終わって…ない…から…」

「終わってない…だと?…何を言って…」

 

そう言ってリョウジはライフカウンターを確認し、驚愕する

 

トキノLP900

 

「ライフが…減ってない?…バカな!?」

 

リアルソリッドビジョンの衝撃は正確だ

ダメージが半減すれば衝撃も半減し、ダメージが無効になれば衝撃は発生しない

今の攻撃は確かに4000のダメージを与えた一撃のはずだった

 

「私は…攻撃を受ける…直前に…このカードを…発動……してた…!」

「…体力増強剤スーパーZ!?」

 

トキノの場にあった最後のリバースカードが開かれていた

それは、2000以上のダメージを受けるとき、その前に4000のライフを回復するカード

 

トキノLP900→4900→900

 

…だが、それは4000もの衝撃をその身で受けたということ

ただの衝撃体感システムであるリアルソリッドビジョンとはわけが違う

 

金網に縋るように立ち上がったものの、ふらふらと体が揺れていていつ倒れてもおかしくない

 

「あはは…痛いね…やっぱり…」

 

そう言って腕を抑える、吹き飛んだ際に強く打ち付けたのか、青あざができていた

そこだけではない、全身に擦り傷やあざができていて、見るも痛々しい姿となってしまっていた

 

「…でもね」

 

リョウジだけでなくこの決闘を見ていたものは呆気に取られてトキノの言葉を聴く

 

「…友達がいなくなっちゃったときのほうが痛かった…つらかった…苦しかった!」

 

胸を押さえ、涙があふれる

 

「私は…誰かを傷つけることなんてしたくない…でも、もう誰も失いたくない!!」

 

その叫びは紛れもなく本物

敵を倒すためではなく、仲間を守るために戦いたいという強い意志

 

「マオちゃん…ユート君…みんなも…もうちょっとだけ待ってて…」

 

マオとユート…他の者も2人の決闘者から離れる

この決闘の最後を見届けるために

 

「お…俺は……ターン…エンド…」

「私の…ターン!」

 

トキノ 手札1枚

 

「エネアードの効果…ORU一つと手札のモンスターをリリースして…サイバーエンドドラゴンを破壊!」

 

エネアードがモンスターのエネルギーの詰まったORUをサイバーエンドへと叩きつけ、焼却する

これでリョウジの場はがら空き

 

「エネアードを攻撃表示に変更…バトル…」

 

息も絶え絶えに最後の攻撃を行う

 

「聖刻神龍エネアードで…リョウジ君に…ダイレクト…アタック…」

 

倒れそうになる体を必死に支え、薄れゆく意識の中で宣言する

 

「行って…オーバーロード…フレア!」

 

攻撃の指示を受けたエネアードは炎と光のブレスを放つ

リョウジはそれを黙って受け入れた

 

リョウジLP2200→0

 

決闘終了のブザーが鳴り、勝敗が決する

 

「…やっ…たぁ……勝っ……た……ぁ………」

 

その言葉を最後に、意識を失った

 

 

……

 

 

「……あ…れ……ここは…?」

 

トキノは保健室に差し込む夕日で目が覚める

決闘後、ダメージで倒れたトキノは保健室に運ばれ、ベッドで寝かされていた

 

「…痛っ…!」

 

起き上がろうとして痛みを感じ、全身のあちこちに包帯や湿布が貼られていることに気が付く

 

「…えっと…リョウジ君と決闘して…最後は…」

「お前が勝った」

 

どうしてこうなったのか思い出していると不意に声をかけられ

てっきり誰もいないのだと思っていただけにビクッと驚いてしまう

 

「ふえっ!?リョ、リョウジ君!?……って…どうしたのその顔!?」

 

驚いてそっちの方を向けばリョウジが椅子に座っていて…その頬は腫れ上がっていた

 

「…ユートに殴られた、『どんな事情があったにせよ仲間を傷つけることは許さん』…ってな」

 

後ろめたさ全開といった感じでそう言う

実際のところ、大勢のレジスタンスの前でリーダーが直々に処罰を与えたということでそれ以外のお咎めはなく、他のレジスタンスを納得させるための行動でもあった

 

「…そ、そうなんだ…ごめんね」

「いや、お前に比べれば全然軽い…すまなかった」

 

全身怪我だらけな姿を前に頭を下げる

 

「だ、大丈夫!昔から怪我の治りは早いから!真剣勝負の結果だし!気にしないで!」

「俺が間違っていた」

 

頭を下げたままで謝罪する、怪我をさせたことだけではない

相手の気持ちも考えずに勝手な思いで否定してしまったことと、その覚悟を見誤っていたことへの謝罪

 

「俺は、お前は戦えないと思っていた…だが、実際は違った」

「…私は…もう大丈夫…みんなを守るためなら…戦える」

 

強い決意、強い覚悟でその言葉を口にする

 

「そうか…お前は、覚悟ができているんだな…けど、しばらくは療養に専念だな」

「おおげさじゃないかな…大丈夫だよ」

 

と会話をしていると保健室のドアが開き、マオが入ってきた

 

「様子見に来たよー…って、もう起きてる?大丈夫?痛くない?」

「だ、大丈夫だよ、心配かけてごめんね」

 

入ってくるなりトキノに駆け寄り

 

「まったく、女の子に怪我させるなんてひどい男もいたもんよねー」

「うぐっ…」

 

じろりとリョウジを見てそうつぶやく

当人もまったくもってその通りだと思っているので何も言い返せない

 

「…本当にすまない、俺にできることなら何でもやろう」

「あはは…そっか…なら」

 

その言葉を聞けば困ったように笑って…

 

「私ね、あんなこと言ったけど、まだちょっぴり怖いの…だから」

 

まっすぐとリョウジの目を見ながら言う

 

「私と一緒に戦ってくれる?…絶対に、足手まといになんてならないから」

 

その真剣な問いにリョウジもトキノの目をまっすぐ見て返す

 

「…分かった……聖、お前が皆を守るって言うのなら、…俺がお前を守る」

「っ…!…よかった、なら、安心だね」

 

トキノはこの時だけは顔に貼られた湿布に感謝した

赤くなった顔を見られずにすんだのだから

 

「…あ、それじゃあ、もう一ついいかな?」

「なんだ?」

 

どうせだからと、もう一つお願いをする

 

「これからは聖じゃなくて名前で…トキノって呼んでほしいの」

「…そんなことでいいのか?」

 

こくりと頷く

償いと言った手前断れず

多少の気恥ずかしさを覚えながらもそれを受け入れる

 

「トキノ…これでいいか?」

「…うん!」

 

窓から差し込む夕日に照らされたトキノの笑顔は、とてもまぶしく輝いていた

 

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