遊戯王ARC-V ある脱走兵の話   作:白烏

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黒咲

レジスタンス本部

報告のために集まっていたレジスタンスたちの視線は目の前の腕輪に注がれていた

 

「…今説明したとおり、この間のユーゴの協力のおかげで得られたデータとアカデミアの盤から回収できたパーツを使って次元転移リングが2つ出来た、でも一回使ったら壊れる片道仕様の欠陥品、こんな状態で渡すのは心苦しいけど…」

「いや、充分だ、よくやってくれた」

 

メカニックとして完璧でないものを渡すことへの罪悪感を感じているマオとそれをねぎらうユート

手詰まりだった現状を打破できる可能性を提示できたというだけでも称賛に値する

 

「問題は…」

「誰が、どこへ行くか…だな」

 

ユートの言葉を引き継ぐように話し始める黒咲

2つしかなく、1回しか使えないとなればその二つは重要課題だ

 

「先に言っておくが、直接融合次元へ行くというのは無しだ、たった2人で行ったところで何もできない、それに帰ってくる方法もない」

「ぐっ………分かっている」

 

リョウジからの忠告に苦虫を噛み潰した表情を浮かべる黒咲

周囲のレジスタンスも悔しいがその通りだと頷いている

 

「であればシンクロ次元かスタンダード次元の2択…というわけだが」

「俺はスタンダード次元を提案する」

 

今回の次元転移の目的はアカデミアと戦う仲間を集めること

それを達成するにはどちらへ行けばいいか

リョウジはスタンダード次元行きを提案した理由を話す

 

「…スタンダード次元にはプロフェッサーの息子、赤馬零児がいる」

「なるほど、息子を人質にして取引を…」

「話は最後まで聞け」

 

早々に結論付けろうとする黒咲を黙らせて続ける

 

「正直言ってスタンダードもシンクロもまともな情報がない、俺がプロフェッサーの息子のことを知ったのもだいぶ昔だし今はどうなっているか分からない…が、少なくとも次元転移のことを知っている人間であることは確かだ」

「私もスタンダード次元に一票かな」

 

それを引き継ぐようにマオも意見を述べる

 

「って言ってもスタンダードがいいって言うよりはシンクロは止めた方がいいんじゃないかなって消去法なんだけどね?Dホイールの修理中にユーゴから色々聞いたんだけど…正直、シンクロ次元に助けを求めるってのは無理だと思う」

 

1%のトップスが資産の99%を独占し、99%のコモンズが残り1%の資産を奪い合う

コモンズはトップスには頭が上がらず、歯向かおうものなら犯罪者として捕らえられる

そんな差別主義が横行している世界でたった二人が声を上げても誰が振り向いてくれるだろうか?コモンズと同じようにとらえられるのが関の山だろう

マオはユーゴの話からそういう結論に至り、それならまだスタンダードのほうが可能性があると判断していた

 

「…赤馬零児は少なくとも次元転移や融合次元のことは知っている、コンタクトが取れれば話は聞いてもらえるだろうし、そこから仲間を探す足がかりにすることもできるだろう」

 

他の世界から来た人間なんて普通であれば信じてもらえないだろう、片道の次元転移だという以上はその次元で長く滞在する可能性も考えなければならない、戸籍もない不審者が2人、だれにも頼れずに孤立するという状況は可能な限り避けたい

 

「…他に意見はないか?俺は二人の意見を尊重したいと思っているが」

 

ユートが2人の意見を聞いてまとめに入る、他のレジスタンスは2人の意見に同意を示すものと考え込むもので分かれるがいずれもシンクロ次元行きを提案する者は現れない

 

「…決まりだな、行く先はスタンダード次元、では次は誰が行くかだが…」

「俺が行く」

 

真っ先に名乗りを上げたのはやはり黒咲だ、実際のところ実力はレジスタンスでもトップクラスの実力者で戦闘要員としては申し分ない…ただ

 

「…隼、今回の次元転移の目的は分かってるな?ともに戦う仲間を集めにいくんだぞ?」

「分かっている」

 

念のためにとユートが確認する、これが敵を倒しに行くというだけであれば迷いなく選抜したところだが黒咲は性格的に交渉などに向いているとは言い難い

だが未知の世界では強さが求められる場面も出てくるだろう、そうした場合では彼が最適解となる

 

「…俺はトキノかマオに行ってもらえないかとも思っていたんだが…」

「えっ!?わっ、私っ!?」

「…私が?」

 

ユートの発言に慌てた様子のトキノと呆気にとられた様子のマオ

しかしユートは悩ましげに目を瞑って唸る

トキノは実力があり自分の身を守れて黒咲のように交戦的ではない…が、優しすぎて交渉や要求などを行えるとは思えない、さらに言えばこれから敵を打ち倒す仲間を探すというのに仲間を守るために戦っているトキノでは説得力も弱くなってしまいかねない

マオは知識や交渉事であれば問題ない、むしろレジスタンスで最もそう言ったことに向いている人物と言えよう、しかし実力が足りていない、スタンダード次元でなにか不測の事態があった時に対処ができるかどうか

 

「…マオ、次元転移リングはこれ以上増やせないのか?」

「残念ながら材料が足りてない、アカデミア盤の次元転移装置の壊れていない部分をつぎはぎしてどうにか2個分、3つ目を作るんならアカデミア盤があと50個くらいは必要かな」

 

どうあがいても行けるのは2人までと再確認して悩むユート

 

「…えと、リョウジ君じゃダメなのかな?」

「ダメだ」

 

おずおずとリョウジを推薦したトキノだったがそれは即座に本人に却下される

 

「俺はそもそも融合次元の人間、これから融合と戦う仲間を集めるのに俺の存在は邪魔になる、むしろ俺の存在は隠して交渉するべきだ」

 

リョウジの言葉に頷くユートとマオ

これから融合と言う共通の敵を倒そうという組織の身内に融合使いがいると分かれば第一印象は最悪だろう

仲間を探すという今回の目的においてリョウジは真っ先に候補から外れることとなる

 

「…ユート、お前はどうなんだ?」

「…やはりそうなるか」

 

本人もその選択肢も当然考えていた

ユートであれば実力も交渉も問題なくこなせ、またレジスタンスのリーダーが来たということでも誠意を見せることもでき、考えうる限りでは最善の人選であろう

 

「…では…」

「ならいっしょに行くのは…」

 

 

……

 

 

 

あの後も日が暮れるまで誰がスタンダード次元に行くかという会議を続け、最終的に行くのは交渉役のユートとその護衛として黒咲が行くこととなった

出発は明日の正午、マオは工作室でリングの最終調整を行っている

 

「…責任重大、だな」

「…うん」

 

リョウジとトキノはがれきの山に座って神妙な面持ち、その原因は会議終盤のユートの言葉

 

『俺たちは絶対に仲間を連れて帰ってくる、だからそれまで…お前たちがレジスタンスを、エクシーズ次元を守ってほしい』

 

無論それはその場にいたレジスタンス全員に向けられた言葉だが特にリョウジ達に向けられたものだ

ユートと黒咲がいなくなればレジスタンスで最も強いのはリョウジとトキノ

どうしても責任感は感じてしまい、暗い中で座り込み2人で黙り込んでしまっていて

…足音が近づいてくる、そちらを向けば見覚えのある人物が歩いてきていた

 

「…なんだ脱走兵、今更おじけづいたのか?」

「…黒咲か、準備はできたのか?」

「当然だ、いつでも出発できるように準備は整えていた」

 

さらりと言ってのけるあたりはさすがと言わざるを得ない

黒咲も平和な世界の住人だったはずなのに融合の侵攻から今日までのわずかな間で歴戦の決闘戦士の風格を纏っている

普通ならあり得ないことだがそれを可能としたのはエクシーズ次元を守ろうとする強い覚悟だろう

 

「俺とユートは明日スタンダードへと向かう…だがその前に、一つやっておかねばならないことがある」

 

決闘盤を起動して構える

 

「構えろ脱走兵、決闘だ」

「…分かった、いいだろう」

 

リョウジはそれを承諾する、黒咲の意図は分からないがこの決闘は受けなければならない気がした

がれきの山から下りてリョウジと黒咲は広いスペースで向き合う

トキノは黒咲がリョウジを好ましく思っていないことは当然承知していたが今更気に食わないという理由で申し込むとも思えなかった、ゆえに何も言わずに2人を見守ることにした

 

「…行くぞ」

「来い…」

 

「「決闘!!」」

 

黒咲 LP4000

リョウジ LP4000

 

盤が示した先行は黒咲、勢いよく手札を盤へと置く

 

「俺の先行!俺はRRバニシング・レイニアスを召喚!!」

 

場に黒い鉄のような体を持つ隼が舞い降り、後続のモンスターを呼ぶ

 

「バニシング・レイニアスは召喚、特殊召喚成功時に手札からRRモンスターを特殊召喚できる!2体目のバニシング・レイニアスを召喚!さらに2体目の効果で3体目のバニシング・レイニアスを召喚!3体目の効果でRRトリビュート・レイニアスを召喚!トリビュートの効果でデッキからRRレディネスを墓地へ!」

 

効果を使って一気にモンスターを4体並べる、そのレベルはいずれも4

 

「行くぞ!俺はレベル4のバニシングレイニアス3体とトリビュートレイニアスを2体ずつでオーバーレイ!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実をあばき、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!飛来せよ!ランク4!RRフォース・ストリクス!!」

 

RRフォース・ストリクス 守2000

RRフォース・ストリクス 守2000

 

「っ…一気に2体のエクシーズか」

「まだだ!フォースストリクスの効果発動!ORUを一つ使い、デッキから闇属性レベル4鳥獣族モンスターをサーチ!RRシンギングレイニアスとRRファジーレイニアスを手札へ!そしてシンギングは場にXモンスターがいるとき、ファジーはRRモンスターがいるとき手札から特殊召喚できる!そのままエクシーズ召喚!現れろ!3体目のフォースストリクス!!」

 

RRフォースストリクス 守2000

 

黒咲の場に3体のエクシーズが並び、手札はまだ2枚ある

それだけでも十分トップクラスの実力者だということは感じさせられるが…

 

「3体目のフォースストリクスの効果でデッキからブースターストリクスをサーチ!さらにORUとして墓地に送られたファジーレイニアスの効果でデッキから同名カードを手札へ!さらにエクシーズギフト!エクシーズモンスターが2体以上いるときORUを2つ使って2枚ドロー!!」」

「くっ、手札5枚…」

 

先行は手札5枚でのスタートとなる、しかし黒咲はカード効果を駆使して手札を1枚も減らさずに3体のエクシーズモンスターを展開するという離れ業をやってのけた

これがレジスタンスの、エクシーズ次元でもトップクラスの決闘者の力量

 

「永続魔法RRネストを発動!場にRRモンスターが2体以上ある時1ターンに一度デッキか墓地からRRモンスターを手札に加える、墓地のバニシングレイニアスを回収!カードを1枚伏せてターンエンド!!フォースストリクスの攻守は自身以外の鳥獣族の数×500ポイントアップする!」

 

RRフォース・ストリクス 守2000→3000

RRフォース・ストリクス 守2000→3000

RRフォース・ストリクス 守2000→3000

 

最終盤面は守備力3000のモンスターが3体、伏せカードが1枚、手札が4枚

黒咲は紛れもなく本気の布陣でリョウジを待ち構える

 

「貴様の力を見せろ!脱走兵!」

 




RRの正しい回し方が分からない、でもすごいアド稼げる

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