魔導国の日常【完結】   作:ノイラーテム

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道路は続くよ何処までも(中篇)

「そうじゃ、せっかくじゃしワシらも付いて行くのはどうじゃろう。このカタパルトで…」

(いかん。これ以上は面倒だ。って言うか、急な来客に合わせて予定変えるのって好きじゃないんだよな~)

 ドワーフの技術者が余計なことを口走り始めた時、アインズは嫌な予感しかしなかった。

 そもそも鈴木・悟であったころから、営業マンにとって第三者の介入は良くないサインだ。

 団体行動では愉しめないばかりか、彼らに遠慮して気を使うだけでも、存在しない胃が痛みそうである。

 

 そんな風に思って居た時、同じ様に焦る者が居た。

(…これ以上、彼らの発言力が大きくなっては、私の価値がますます減ってしまいますわ)

 レイナースは外様というか完全にゲストである。

 帝国では押しも押されぬ重騎士であり、同時に軽快に動けるコマンド的な要職にある(奇しくもカースドナイトだからだが)。

 だが、ここでは口添えしか出来ないし、このままでは千歳一隅のチャンスを棒に振りかねない。

 

 どうにかして連中をパージせねば。

 そこまでは全員に共通する考えだが、空気を読まない技術者たちに決め手が無い。

(ここは貴族達を利用する方法を使いましょうか。一度持ちあげて…)

 しかし、レイナースの表情が少しだけ替わった。

 帝国で苦労した経験を活かして脳裏で流れを組み立てる。

(むっ。何か考えているみたいだな。…どっちだろう、賛成なのか反対なのか。このまま押し切られそうだし、ここは賭けてみるか)

 ここでの問題が、話を全く聞かないドワーフの技術者であることが幸いした。

(任せていいんだな?)

(任せてください!)

 その思いが通じたのだろう、僅かな一瞬だけ、アインズとレイナースの心は一致した。

 二人は団結して、可能な限り少人数での旅を模索する。

 

「レイアース殿だったか。何か意見があるようですが?」

「レイナースですわ。…技術者の方のお申し出ですが、少し惜しいのではないかと思います」

(おや、モモン殿に何か考えがあるのかな)

(連中を切り離す策でもあるのか? ここは様子を見るか)

 アインズ…モモンがレイナースに下手に出たことで、レイバーやラケシルは短い付き合いながらも事態の打開を期待した。

 

「惜しいとはどういう事じゃ?」

「危険地域で隊商を組むなら戦力分散はしない方が良いですが、戦力が足りているなら、宣伝を兼ねた情報収集の方が有益ではないでしょうか?」

 喰いついた(フィーッシュ)

 レイナースが切り出したパージ用のアイデアに、ドワーフの技術者達が関心を示した。

「なるほど。他の村に馬車を見せるついでに、猿酒が無いかを聞きに行くと言う訳だな?」

「そういう事です。カルネ村周辺だけでは、馬車の宣伝も、猿酒の収集も中途半端です。しかし、一台をそちらに回す事でどちらも可能でしょう」

 アインズは話を理解すると、営業マンであった頃の知識を活かし、win-winの関係を提示。

 その方向性で合っているとレイナースは口添えした。

 

 ここで重要なのは、話を聞かない連中が関心を持つキーワードを先に、優先度も上であるかのように話す事だ。

 逆では自分達の重要性を誇示しようとしかねないし、そっちに本気になられる心配はあるが、そもそも余分の選択肢なのだから問題無い。

 彼らが猿酒を発見して、後から追いついてくれれば恩の字であろう。

 

「なるほどのう。そういう考えもあるか」

「確かに森の中を一台がつっきる実験、もう一台があちこちの村に売り込むのも悪くないのう」

「ではその方向性でお願出来るかな? こちらで借りる一台に、予備案の酒や、キャンプ用の物資を載せ本拠とする」

 技術者たちが喰いついたところで、アインズはさっさと決定事項にしてしうまう。

 これ以上長引かせると、また考えを改めかねない。

 

「なんだったらゴンドやレイバー殿も…」

「すまぬが、素材を確認してみる以上は、いちいち降りるのは苦労で敵わん」

「私もです。せっかくの申し出ですが、私は直に歩いて苦労を知らないと、理解が出来ないので」

 思わずいつもの癖でゴンドを呼び捨てにしてしまったが、気にした風も無く普通のレベルで否定が返って来る。

 レイバーたちの立場からすれば、地に足を着けて体感する事の方が重要なのだろう。

 

「万が一を考えると酒を搭載した馬車は大型生物の目標になりかねません。立ち入れない場所もありますし本拠地という案で良いのでは?」

「そうですわね。モモンさんは最後尾から全体を守り、その手前にお二人。馬車を挟んで中央にラケシルさん。先頭集団として探索長たちと私というのはいかがでしょう?」

「確かにな。オレは遠距離に攻撃できるし、<遠見>と<加速>を応用すれば、モモン殿の足なら何処にでも行けるだろう」

「ふむ…」

 探索長が道中の事を説明すると、レイナースとラケシルが隊列についてアイデアを出してくる。

 アインズはそのアイデアに頷きつつ、一つだけ質問した。

「皆が良いならソレで良いとして、大型生物が居るのか? 以前は見た覚えが無かったが」

「我々の常識で大型と言う意味ですね。どうも縄張り争いに負けて移動してきているようです」

 話してみないと判らないもので、探索長たちが言うのは、熊や猪の事だと言う。

 

 モンスターに比べて強くは無いが、俊敏で森の気配に紛れると言う意味では、相当に厄介らしい。何しろモンスターは血の臭いなど独特の臭気をしている事もあるが、獣は糞の臭いに紛れるため判り難いし、リザードマンも鼻が利く方ではない。

 特に普段は入り込まない森の奥地である為に勝手が判らず、つがいの夫婦や親子連れかと思っていたら、一回り大きい種別であったと驚いたと言う。

「ほう。一回り大型の熊で、こちらの警戒をすり抜ける…か。素早いトロールくらいとしても面白そうだな」

 アインズは自分の実力だけでは抜けられないと言う展開に、ニヤリと笑いそうになった。

 レベル差があるので脅威としては大したことは無いが、守りながら戦うと言う意味では十分な難関だ。

 冒険心を満たすと言う意味では、最適な相手と言える。

「そんな事が言えるのはモモン殿だけだよ。オレ達じゃ攻撃を弾かれている間に食われちまう」

「出来ればもう、あんな目に会いたくないですよ。それと大蜘蛛の林や、蛭の沼など避けて通って来た場所もあります。馬車だとそこを通らねばなりませんから」

 当然ながら周囲はそんな事を思っておらず、スケールの違いに苦笑していた。

 

「さて、話を戻すか。予備の酒は馬車に八割、残りは各人に分配しておくが呑み過ぎないでくれ」

「心配せんでもワシは呑まんし、全員が呑み切る事も無いじゃろ」

「猿酒・苔酒の類だがオレに良い考えがある」

「良い考えですか?」

 アインズが本題に戻すとラケシルが提案してきた。

 こう言ってはなんだが、『良い考えがある』と言われてフラグとしか思えないのは訓練され過ぎだろうか?

 此処に来るまでも思った事だが、かつてのギルメン達が思いついたことは、大抵よろしくない斜め上の見解だった。

 今回は現地人のラケシルだから、問題無いと信じたいのだが。

 

「材料を集めたら、昔ながらの製法でその場で作っちまうんだよ」

「そう言えば昔の酒はタネを入れた後で、材料を足で踏んだりするレベルだったそうですね」

「おお、なるほど! それは良い考えじゃ」

「…?」

 ラケシルの提案に、レイバーやゴンドが視線を移した。

 三人の視線がレイナースに集まり、周囲の視線もそこに集約する。

 

「え? わ、私ですか? あ、いえ、なんで!?」

「おっさんが潰したようなのを呑みたくはねえな」

「味見くらいはしないと西の森の主に渡せませんしね」

「恥ずかしい事はありませんよ。部族では口噛みの酒というモノもありましたが、今回は他の酒を混ぜるだけで…」

 レイナースは混乱した!

 

 周囲は口々に納得しているようだが、身勝手な事にしか聞こえない。

 口噛みの酒と言うのもノーセンキューだが、この歳でミニスカになって素足で果実踏みと言うのも恥ずかしい物がある。

「ちょっと待ってください。私は帝国騎士として一杯戦闘に参加して、魔物と言わず人の血で汚れて居ますよ!?」

「魔物に納めるんじゃから問題無かろう」

「それにだ、血が汚れて居るとか言うのは近年の発想だ。昔は戦も血も、神に納めるモノであったと言うしな」

「我が部族にも似た様な教えがありますね。祖霊であって神ではありませんが…面白いものです」

「まさかネムたち小さい子をつれていくわけにもいかんしな。では、そういう事で頼む」

 気が付いたら決まっていた。

 まさに人類に逃げ場無し!

 酒造りの恥ずかしさから逃避した、男達の集団セクハラにレイナースは陥れられたのだ。

 良く考えたら、女性も恥ずかしいけど、男がミニスカってのも恥ずかしいよね。

 

 そして、結論から言おう。

 レイナースは混乱していた!

 冷静にこう言えば良かったのだ『私は呪われています、相応しくありません』と。

 そうすれば大半は考え直したであろうし、面倒くさがりなアインズはスクロールで<解呪>を提案し、ラケシルは興味深々で見守った事だろう。

 悲しい事に、彼女は超弾道ウルトラスーパーなチャンスを逃したのである。

 

「…そういえば東部の主である魔物が退治されたり、近くのゴブリンの部族がこの村の傘下に収まったそうだ。猿酒・苔酒の類が無いかどうかを確認してもらうと言うのでどうだ?」

「そこで妥協します。ですが馬車での情報収集と、ゴブリン達への聞き込みはちゃんとやってくださいね!」

「判った判った。帝国騎士にも可愛い所があるもんだな」

「まったく…いや、失礼だぞテオ」

 適当な所でアインズが助け船を入れると、レイナースは疲れたので全身の汗を拭きに行くと出て行ったが…。

 実際には、膿をふき取るついでに場から逃げ出したのだ。

 

 翌朝になり、一同は準備を整えて出発を開始する。

 似た物をゴブリン達が持っていたそうなので、まずはそこへ向かう。

「族長からも言われてるしな、任せとけ」

「道案内お願いね。それと…そっちの一行も」

「ガハハ! ワシらの心配はいらんぞ、全ての村をたちどころに巡って来てやるわい」

 アーグと言うゴブリンの子供は、族長…エンリの命令だからというより、久々の里帰りとあって嬉しそうだった。

 レイナースはゴブリンの方がよっぽど信用置けると言う、奇妙な気分を味わう。

 何と言うか、ドワーフ達の技術者たちは調子に乗るので信用が置けない。

 

「こちらの準備も万端だ。行くか」

「よし、今日中にアーグの実家に行って、猿酒を手に入れるぞ」

(十分な量がありますように…できれば普通の酒でもOKだと言いますように…)

 ソウルイーターはワインや設営用具一式を荷台に乗せ、ゆっくりと出発を開始する。

 本来は西回りの予定だが、アーグの棲み処であった場所に行くため直接、北へ移動する予定だ。

 

 暫くすると一行は、技術者たちの話を聞いたことを後悔するようになって来た。

「道が無いとこれほど通るのが難しいとはな」

「引いてるのがソウルイーターでなければ、とっくに放棄してましたね」

「ヒントを貰った以上は仕方ないが、せめて交渉するんだったな。まあその時に思いつけなかった我々が言う訳にもいかんだろう」

 対案なき否定は許されざるべき。

 対案なき否定は許されざるべき。

 アインズは大事なことなので、二度繰り返して耐えることにした。

 だが、直接移動できない道が多く、というか獣道レベルである。まともに移動できるわけがない。

 

「できれば我々とこの子だけで行ければ良いんですがね」

「この子じゃない、アーグって名前があるんだ!」

 探索長の言葉にアーグが食ってかかるが、周囲の苦笑も仕方あるまい。

 子供の歩く歩幅のコンパスは短く、出遅れていたのだ。

 終着点である棲み処に少人数で辿りつき、位置や荷物の量から逆算すれば良いのだが、そうもいかない訳があった。

 

「アンデッドがうろ付いているのだから止めた方が良いだろう。それに大蜘蛛か獣か何かが組み合わさったら、流石に危険だ」

「まさか天然のトラップに成ってるおるとは思いもよらなかったわい」

 臭いなどで識別し難いアンデッドをアインズが発見したのだ。

 気が付いたら近くまで接近しており、ゴンドたちはリザードマンが臭いに強く無いと言うのを、身を持って実感した。

 そういえば、昨晩の話でも、大熊の糞と親子連れの糞を間違えたと言って居たではないか。

 そんなアンデッドが、探知可能レベルの獣などと一緒に居るのでは対策し難かった。

 加えて蜘蛛は殖える時に風に乗って飛び、棲み処を移動する性質があるそうで、もしかしたら居るかもしれないと警戒しておいたのである。

 

「怪我人の方は大丈夫ですか? キツイようならもう一度治療しますが」

「大丈夫です。あれも部族の一員ですし…。いいえ、傷の程度的にも問題ありません」

 レイナースが念のために確認すると、探索長は奇襲を受けた形の部下について心配無用と切り返した。

「今のところ馬車で休ませてもらって居ますし、体力が回復すれば彼の方から復帰を申し出るでしょう」

「ならいいけど、無理はしないでね。この後に西に行くわけだし」

 ややあって説明し直したのは、やはり従順過ぎるのは困ると言われたからだろう。

 二人はそんな感じでやり取りをしながら、他の種族と協力し合う奇妙な連帯感に少しだけ笑みを浮かべた。

 本来ならば出会わないか、殺し合う相手だからだ。

 

(しかし、野生生物やリザードマンもなかなかやるもんだな。アンデッドの気配に気を取られたからとはいえ、隠れてるのに気が付かなかった。ソレに気が付く辺りは無能じゃないみたいだし)

 やはりレンジャースキルと経験の差は大きい。

 アインズはアンデッドこそ、己のスキルで即座に気が付いたが、隠れて居た獣の方には気が付かなかった。

 直ぐに追い散らしたから正体は判らなかったが、これがもっと詳しい猟師ならきっと特定しただろう。

 自分ひとりでは補えない状況に、ここ数日味わって居た冒険の醍醐味を思い出す。

 この愉しみを、出来ればかつてギルメン達と味わってみたいものだ。

 

 ペロロンチーノはレンジャーとアーチャーを兼ねた後衛から始めて、隠し技で白兵戦を。

 たっちみーならば純戦士だろうが、類い稀なる技を攻防一体で披露してくれるはずだ。

 そして純後衛ウルベルトと仲良く喧嘩して、決着をつけるために…。

(…くそがっ。何度味わっても慣れないな)

 楽しくなって来た所で、突如、沈静化して冷静になる。

 想像に夢中に成っていた状態から、気が付けば先行組の動きが変わったのを理解している自分が居る。

 効率から言えばこの方が正しいはずだが、どこか苛っと来るものがあった。

 

 その苛っとくるモノから逃れるために、そして自分の責任もあって中衛のラケシルに声を掛ける。

「辿りついたのですか?」

「そのようだな。<遠見>しても良いんだが、急を要さないみたいだし魔力は温存しとこう」

 旅に出たてのころこそ、興奮して魔法を連発していたラケシルだが、アンデッドの奇襲を見てから落ち着き始めた。

 冷静に不要な魔力は使わず、それでいて、必要になればその場で必要とされる魔法を選び出せるような雰囲気がある。

 それはユグドラシル時代に何度も味わった光景でもあった。

 偽の情報を与える場合を除いて、余計な情報や、余計なアクションはおこさない方が良い。

 

 そしてレイバーが此処までの簡易地図を情報ともども書き込んだ頃に、伝令を寄こすのではなく、全員が一度戻ってきた。

「あの辺りですか? 見た感じアンデッドは居ないようですが」

「良く判りますね。丘の窪みに面して洞窟があって…念のために足元を確認しましたが、獣が出入りした足跡の他は、出て行った足跡だけです」

 アインズが尋ねると探索長は足元を指差しながら応えた。

 驚いた風な事を言っているが、顔を見ても区別できないので、本当に驚いて居るのかお世辞を口にしているのかは判らない。

 

「アーグが言うには隠し通路とかはないけど、他に出入り口があるそうよ。守るためと言うよりはまさに棲み処みたいね」

「オーガなんて適当に暴れるから締めきりなんて無理だし、どこもそんなもんさ」

(東の主は洞窟に扉を作ろうとして失敗してたし、そんなもんかな)

 アインズはそう言いながら、思案をまとめる。

 絶対にアンデッドが居ないと言うのは妙な話だし、獣が言えることを考えたらレンジャーは必要だ。

 自分だけで行って戻るのも良いが、先ほどのことを考えれば、スルーしてしまう可能性もあるだろう。

 

「では一度代わって私が先行しよう。もう一人…そうだな、探索長に<鎧化>とか掛けておいてくれるか? 二人で侵入して、問題無ければアーグとゴンドを呼ぶ」

「そうじゃの。中に興味があるのはワシくらいじゃろうし、そんなもんじゃろ」

「私の方に問題はありません。無くとも何とかなりそうですが、魔法の支援があれば助かります」

 そして楽勝ムードを嘲笑う様に、あっけなくフラグが折られる。

 暫くして、ナニカが洞穴の中に居たのだ。

 

 そいつは大きな木の身を乾燥させた…、ようするに器に顔を突っ込んで眠っていた。

「居ました! 途中で出会った熊のようです」

「下がって居ろ。敵と言うには物足りんが、適当に片づけるには狭すぎる」

 寝床にしていたらしき場所は、奥まった場所であった。

 

 倒すに難しい相手では無いが、大剣を振り回すには向かない。

「どうしますか? 石礫で追い出す手もありますが」

「あの器を壊すわけにもいかんだろ? 素手で片付けるさ」

 探索長が少し広い場所に移動してスリングを取り出すが、アインズは笑って大剣を放り投げた。

 そして突進して来る熊とガップリ四つ。

「ふんっ。どうやら新しい棲み処に来て本能を忘れたようだな。逃げ出され無くて助かった」

 ベアハッグを食らった形になり、なかなか力が入らない。

 だが、所詮は獣。

 ダメージなど入らないし、この状態ならば逃がす事も無い。

 そして、100レベルに匹敵する状態のアインズであれば、ベアハッグされた状態の、何分の一かのダメージすら大きかった。

 毛皮の油で拳が滑る分を除いても、二度・三度と頭に叩きつければ、やがて熊は動かなくなる。

 

(ふー。巻き込む方が問題だからなー。こっちなら死ぬ事も無いし、助かったよ。…それにしても熊が野生を失っていたのは、助かったような拍子抜けのような)

 アインズはそう言って抱きついたままの熊から腕をのけると、念のために首をへし折ってトドメを刺しておいた。

 何故、熊が逃げ出さなかったのか?

 何故、器に頭を突っ込む形で眠っていたのか?

 後から考えれば、不思議では無かったのだけれど…。この時は冒険の興奮ですっかり忘れて居たのである。

 

「どう考えても足りんの」

「そうですね。発酵を促すタネには成るでしょうが…」

 そして、最後に残ったのは僅かばかりの猿酒。

 木の実を繰り抜いて乾燥させた器に、熊が鼻と口を突っ込んで呑んで居たのだ。

 大きさが違いすぎるのでそれなりに残っていたのかもしれないが、ここ数日で振り回し、あるいは叩き割って舐めて居たらしい。

 

「という訳だ、すまないな」

 持って来る気はあったという、誠意と証明の為に数口分だけ残し…。

 残りは果実と普通の酒を混ぜ、自然発酵の酒を作るべく一肌脱いでもらうことになった。

「本当にワザとじゃないんでしょうね!?」

 レイナースは不承不承ながら、ミニスカに着替え近くの泉で足や顔を拭きにいく。

 包帯を鉢巻の様にした彼女の顔が、赤かったのは果実の汁が飛んだせいか、それとも…みんなで囃し立てたせいかもしれない。




 と言う訳で、まさかの三分割に変更。
ここから森の西部まで行って、エ・ランテルに帰るだけなのですが…仕事もあるので予約投稿だけして休ませていただきます。


オマケの捏造ネタ:追加職業
『ハイランダーズ・ナザリック・シェヴァリエ』
前提条件:
・魔導国に仕官する、または祭展に参加する事。
・異形種ないし、魔物感染者(カースドナイト・ライカンスロピィ・ダンピールなど)である。
・大剣ないし槍・斧と言った大型武器を装備し、キルテッドスカートを履く事。
特殊能力:
・呪いなどのバッドステータスを緩和する。
能力上昇傾向:
・移動に大きなボーナス、攻撃力>命中回避で上がり易い
スキル:
・ベルセルクほか

/クラス雑感
 軽戦士系だが、前提が異形種か特殊クラスなので攻撃力が保証されている。
クラス能力が呪いの緩和であるのは、初代ハイランダーであるレイナース女史の意地であったという。

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