魔導国の日常【完結】   作:ノイラーテム

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注:
名前だけ流用のオリ至高が脳内再生されます。


学校編
必要は成功の母


●魔導王の憂鬱

(参ったな…)

 魔導王アインズ・ウール・ゴウンはかつてない窮地に陥っていた。

 この地に転移してから、これほどの窮地は経験したことが無い。

 

(あえて言うならユグドラシル時代か。だが止めれば済むゲームの時とは違うんだ)

 総身震える窮地と言ってよい。

 喉が無いのにゴクリと言う音が聞こえてきそうだ。

 このピンチをいかに乗り切れば良いと言うのだろうか?

 

(俺は良い。俺だけなら良いんだ。問題はNPC…子供達の苦労に直結するって事だ)

 親戚の子供達にあたるNPC達の窮地。

 ソレを放置する事は親代わりを自負するアインズにとって看過できる事態では無い。

 

(俺はどうしたら良いんだ。教えてくれ、音改さん!)

 どうしようもない苦境にかつてのギルドメンバーを思い出す。

 ギルドの財政担当であった彼なら、どんな助言をしてくれるのだろうか?

 

 そう、魔導国国王アインズ・ウール・ゴウンの窮地とは…。

(金が無いんです。もう…駄目だ…)

 切実なほどに空に成った財布である!

 

 もう右に振っても左に振ってもストレージから金が出て来ることは無い。

 涙でちょちょ切れるとか、首が回らないと言う表現が身近に迫る。

 

(勿論、宝物庫やみんなの部屋を漁れば幾らでも出てくるけど…)

 金が無いのはナザリックではなく、あくまでモモンガとしての手持ち資金だ。

 調子に乗ってアルベドのドリームチームやユリの孤児院など、手持ち資金を投入した為にスッカラカンになってしまった。

 

 だが、ギルドの金に手を付けるのは躊躇われる。

(それは最後の手段だ。俺の我儘の為に使うことはできない!)

 NPCが活動する為の資金を豊富にしてやりたいというのは、あくまで余分で余計な考えだ。

 ギルドの金を使うのは、それこそ不慮の事態でNPC達が死んだ時に復活する為のモノ。

 活動資金を豊富にして蘇生費用が減ると言うのは、本末転倒だろう。

 

(ユリやリザードマン達に使う費用ってだけなら現地の金を使えるけど、魔導国の運営に当てられてるし俺の自由にならないんだよな)

 アインズは王であるがゆえに、好きなように振る舞うことが出来る。

 だが、王が自分の趣味で金を右から左に動かすのは、恥ずかしい行為だ。

 

(これじゃあ奥さんに財布を握られた旦那みたいだよ。小遣いくれって王様が言うのも変な話だしなー)

 実際には王にしても皇帝にしても、予算を組んで手持ち金に組み入れて居るのだが…。

 王者の振る舞いをいまいち理解できない鈴木・悟としての知識が、アインズにそう思わせていた。

 

 その時、神の啓示とも言える言葉が訪れた!

 

(銭が欲しいなら、どんな事でもせなアカンで)

(間違って居るぞ! 間違った方法で得た資金はいずれ自分を滅ぼす!)

(ね、音改さん!?)

 ギルドの金庫番と言われた男の、あれほどまでに欲したアドバイスが脳裏に蘇る!

 アインズの右と左から、良心と悪徳心の化身として入れ知恵を始めた。

 

(座して逃がすのは甘えや甘え。使える手段は全部使うんや)

(DUPEやリアルマネー取引が栄えたか? 結局は終わりが速くなるだけだ!)

(い、いやまて。なんで口調が違うんだ? 落ちつけ、俺)

 右からアキンド語(似非大阪弁)で悪徳を説き、左から正論を清々しく説く。

 脳裏に浮かぶ姿は、どちらもミミックというのだから笑うしかない。

 

(そうか、ロールプレイだ。…正攻法の中で可能な限りの努力を行うべきで、その為には躊躇は無用)

 悪だからこそ可能な手段がある。

 悪だからこそ抑えるべきポリシーがある。

 隅々までルールを読み尽くし、許される行為はなんでも利用して金を稼ぐ。

 

 そして、稼いだ金は仲間の為に有意義に使え!

 金とは回す為のモノであり、決して貯め込んで置くモノではない。

 それがギルドの金庫番であり、財政担当の考えであった筈だ。

 

(そうですよね。使える手段は全部使う)

(この場合は魔導国なら良くて、ナザリックは駄目というのが絶対順守のルール)

(それで最低限の安全は保たれるが、出来れば王としての面目は保ちたい…どうすればいいんだ)

 もう架空の声は聞こえなかった。

 音改に頼る心が、良心と悪徳の鬩ぎ合いを演出して居たのに過ぎない。

 

(思い付くのは工作資金にする前提で新しい税を導入するくらいだが、そんな都合の良い方法があるのか?)

 魔導国は良い国と宣伝し、今居る国民が逃げないようにする。

 その為に税金は最低限に抑えられている。

 そもそもアンデッドの行政官がメインで、出費が無いからこそ国庫が余裕で回っているだけなのだ。

 ここで余計な税金を導入しても、国威が下がるとか住民が逃げるだけだろう。

 

(後は労役…だっけ?)

 話を聞いてみると、週の半分を最大限として国民を動員する税金の一種があるそうだ。

 普通はそれで堤防や道の整備をしたり、免除する代わりに兵として一定期間連れて行く兵役になるとか。

(でもなあ、それもアンデッドがやっちゃうし、無意味に動員しても費用掛るだけなんだよな)

 魔導国は金を借りればアンデッドをレンタルできるし、行政府自身がやるなら無料である。

 ゆえに労役を定めたとしても、国民を動員するのは逆に金が掛るだけなのだ。

 

(参ったな。魔導国を使うとしても俺の知識じゃ限界だ。こんなことアルベド達には相談できないし、どうすれば…)

 頼めばNPCは幾らでも融通してくれるだろうが、全ての基準を入れ換えてしまいかねないので問題である。

 それに相談の仕方を間違えれば、孤児院なりリザードマンやドワーフに金を掛けることが間違いだと言われかねない。

 

 そして時は無情である。

 グダグダと悩んでいるうちに、タイムリミットが訪れてしまった。

 

「アインズ様。ユリ・アルファ様がシズ・デルタ様を伴って面会を求めておられます」

「ユリが? 何が…いや待てよ、プレアデスのユリとしてでは無くか」

 嫌な予感がした。

 猛烈に、嫌な予感がした。

 ユリは私情を持ち込まないNPCの中でも、特に公私混同に厳しい方だ。

 

 そのユリがあえてプレアデスのユリではなく、ただのユリとして面会を求める用事。

(つまり、孤児院で何かあったのか。ヤバイ…今の状況で…)

 ユリには孤児院を任せて居る。

 もともと彼女が申し出た事だが、魔導国や引いては他のNPCが見た時の対応が違うと、今では任せて良かったと思っている。

 

 だが、定期の報告以外でユリが面会を申請しているということは、困った事態が起きている。

 その相談にアインズを頼っていると言う事なのだ。

 

「いかがいたしましょう? 不都合でしたら…」

「通せ。我が子同然のお前達が望むならば、いつでも歓迎だからな」

 メイドが尋ねて来るが、会わないという選択肢は無い。

 アインズは鷹揚に頷いて見せると、内心の動揺を隠して見せた。

 無いはずの胃が痛むのは、気のせいではあるまい。

 

●院長先生の憂鬱

(困ったわ…)

 話しは少し前、ナザリックの一角まで遡る。

 そこには子供達には見せられない様な、書面や計算式などがあった。

 ユリ・アルファは孤児院運営という初めての作業で、大きな問題に直面して居たのだ。

 

(まだ余裕はあるけれど、このままではいずれ運営資金が枯渇してしまう)

 ユリはアインズに面会を申し出る前に、十分に検討を重ねて居た。

 彼女の中に、いやNPC全ての中に安易にアインズに頼ると言う選択肢は無い。

 だがマナー教育以外に、戦闘するしかないユリに取って出来る事もまた少ないのだ。

 

 こう言う時の定番は、艶やかな髪を付け毛として売ったり、…体を売るというのが定番だ。

 だが彼女の神であるやまいこが造った体の一部を売るなどとんでもないし、現在進行形でナザリックのシモベである自分が体を売るなどありえない。

 

(街の有力者に寄付を頼むというのは、アインズ様の面子を傷つけかねない)

 有力者にアインズへ協力的だと吹聴するとか言って、適度に絞り取るなどユリには出来ない。

 むしろ強奪気味に脅す方が簡単だが、それはそれで問題だ。

 

(それに資金が直接の問題と言う訳でもないし、そこを是正しないと問題の先送りでしかないのよね)

 最も重要な問題は、資金繰りが滞る計算が立って居るだけで、金が無いわけではない。

 孤児院の設立に際し、予算などは微々たるものだったが、子供達が食って行くための専用の畑を工面してもらっている。

 実際には子供でもアンデッドを使えば農耕が出来ると言うプレゼンの為なのだが、レンタル料を免除までしてもらっていて、資金が回らないでは許されない。

 

 では、何が問題なのか?

 

(まさか、こんなに増えてしまうだなんて…。ボクの予想を大きく外れてしまっている)

 単純な数の問題だ。

 鼠算とは言わないが、子供が増えるばかりで減らないのだから、いずれは予算がパンクするのは当然のこと。

 

 難民は何も出来ないから難民なのであり、孤児を拾って育てても何にも成らない。

 簡単にではあるが文字を教え、数の数え方を教えはしたがそれだけだ。

 ナニカの為に使うことを身について居ない計算など、物の役には立つまい。

 専門知識が無くても可能な、人足などの仕事には難民化した時点で既に働きに出ており、アンデッドという手段がある魔導国では引き受け手が増えることは無い。

 

 かといってどこの商家・工房も無関係な子供達を雇うような余裕はなく、縁のある子供であれば既に限界まで丁稚や徒弟として雇っている。

 

「要するに、手詰まりなんだよね」

 誰かに金を無心したとしても、問題は全く解決しないばかりか、安易に魔導国運営の孤児院に頼るだけだろう。

 

 勿論、孤児たちにだって言い分はあるし、それを除いても誠実に努力はしていた。

 この手の施設を貴族や商人が思い付くと、たいていは性格の悪い子が、筆やスコップその他の道具を売り払ってしまう事もある。

 あるいは弱い子をイジメたりするのだが…。

 流石に、魔導国の施設で、そんな不心得をする馬鹿は居なかった。

 

 何かしらの仕事を創設し、その働き手として斡旋する。

 または、何かしら子供達の才能を見てもらって、引き取り手が現れる方法を見つけるしかないのだ。

 

 だが、そんな未来を予測し修正して行くようなことはユリには向いて居ないのだ。

 

「要するに、手詰まりなんだよね」

 思わず、同じことを繰り返した。

 その事で事態が進展しないことを察したのか、黙っていたもう一人が声を掛ける。

 

「ユリねえ。アインズ様に相談した方が良い…。手遅れになったらアインズ様も、流石に困る」

「私にも一応は判ってるわ」

 思わずボクと口走っていたことを察して、ユリは言い直しながらシズに微笑んだ。

 だがシズは良い子だが、妙に口数が多い。

 自分の経験をもとになんとなく理由を察しながら、行くか行かないかに決断を付けることにした。

 

「シズの言う通り取り返しがつかなくなるまで先送りにして、呆れられてしまうことね」

 魔導国の為、アインズ様の為になるからと説得した結果なのだ。

 これで足を引っ張ることになれば、子供達の未来は明るいとは思えない。

 

 場合によっては最悪のタイミングで誰かに報告されて、役立たずとして処分されるか…。

 マシな所で、『牧場』送りかもしれない。

 

「今なら初期段階では成功してる。子供達に仕事が無いのはユリねえのせいじゃない。それと…」

「余裕のある今の内にアイデアを御借りすることにするわ。もちろんシズの仕事もね」

 シズの口数の多さ。

 それは、自分もまたやるべき仕事が無いことだろうと推測できた。

 なぜならばユリもまた、孤児院に関わるまではナザリックの為に成る、仕事が無かったからだ。

 

 全てのギミックを知る妹は、その重要性に外に出られ無い。

 どうせ相談に行くのであれば、シズの事も頼んでおくべきだろう。

「それじゃあ、さっそくだけどアインズ様の所に行きましょうか」

「うん。いく」

 そう言う事で、二人は連れだってエ・ランテルに居る魔導王の居室へと赴いたのである。

 

●イン…なんとか

 子供達の働き先が無く、資金繰りに困るほど増えて行く。

 その話を聞いたアインズは早速困っていた。

 

「なるほどな。解決そのものは簡単だが…」

「流石はアインズ様」

「すごーい」

 命令とか金を唸らせれば簡単である。

 だが、どちらも出来ないから困っているのだ。

 

「では、何が問題なのでしょうか? 可能であれば私達も努力をいたしたいと思います」

「お前達は自重するにしても、他の者は私に頼る事を覚えるだろう? 次々相談されても面倒だと思ってな」

「ユリねえもそこで困ってた」

 仕方無いのでその場を誤魔化しつつ、考えながら歩いて方法を探る。

 ユリも、ではなくユリの懸念をそのまま流用しただけだ。

 

 絶対条件。ナザリックの資金を使わない。

 条件1。出来るだけ、なけなしの手持ち金を使わないこと。

 条件2。出来るだけ、王としての威厳を損ねないこと。

 条件3。出来れば、その後の収入に繋がること。

 

(…出来るか!)

 一歩目で精神に均衡がもたらされた。

 だいからして、鈴木・悟であったころから商売以外でやったことは無いのだ。

(そんな都合の良いことは、インサイダー取引でもしない限りは不可能だ。他に在ったらどこの王様でもやってるだろうさ)

 あんまりウロウロするのもみっともないので、歩調をゆっくりしたり、カーテンを開けて王様っぽく振る舞う。

 そのたびにメイド達は凄いとか恰好良いというので、自分で目標を高くしてしまった感が否めない。

 

 そしてここで、再び神の啓示が訪れたのである。

(出来るんやろ? なんでインサイダーしたらあかんねん)

(そうか! インサイダー取り引きの規制法なんてこの世界にはなかったんだ!!)

 プルプルと震えながら、心の中の音改に感謝を捧げた。

 

(確か、インサイダーというのは宇宙人が侵略して来るのを、自分の町を壁にして迎撃するゲーム。得はあるが損もする自分食いの手法だったはずだ)

 だが、マネーロンダリングのように使えるのは確かだろう。

 魔導王として金の消費を命令し、それを別の手段で回収するのだ。

 

 この場合はユリの孤児院に労働が回る様に命令し、他の者…できればシズの指示で回収するのが一番。

 

(だが気をつけろ! 売って良いのは、売られる覚悟のあるやつだけだ!)

(情報の隠蔽が一番ですよね。バレたらみっともないというか、他の奴も同じことをするか、工作資金を指摘する奴が出て来る)

 アインズは思い付いた事をまとめようと、トントントンと窓枠を叩き始めた。

 考え事に入ったと察して、あれほどうるさかったメイド達の賞賛が止まる。

 

(どの道、シズは表に出せないんだ。指示と計算だけさせるにしろ、ナザリックか避難所経由だな。そこに集めた情報を使って売りさばく)

 情報自体はアンデッドの通信網で良いだろう。

 各地に置いた情報をエルダーリッチあたりに記述させて、表にして伝えさせても良い。

 仮に自分以外にアンデッド達が情報を伝えないのであれば、…最悪、多くの情報を提出させた時に、こっそり抜き出す形で良いだろう。

 

「シズ。計算は得意か?」

「アインズさま。スナイパーの得意技。忘れたら駄目」

「シズ。アインズ様に失礼ですよ」

 シズが銃を構える仕草でふてくされ、ユリが怒る姿が微笑ましい。

 

 この答えにアインズは満足すると、手早く計画をまとめることにした。

 苦労は多いだろうが、苦労が欲しいと言うのだから丁度良い。

 それに、シズが苦労して居るならば他の姉妹が羨ましそうに手伝いを申し出るだろう。

 

(後は商品を何にするかだな。ユリの孤児院作る物。…いや孤児たち以外でも働けるようにして、最低限の賃金は保証するんだ)

 先ほどスルーしたはずの、労役制度を思い出した。

 労役として労働を命じ、何らかの商品を作らせるという方式だ。

 

 その一部は適当な価格で現地で売りさばき、賃金に当てる。

 もともと無償で作らせるのだから日銭くらいは稼げるだろうし、ダミー情報としては十分だろう。

 そして他所の町で高額販売できる物はナザリックが独占し、ちゃっかり自分の懐に入れてしまえば良い。

 ゲートを使うのだから、情報が行き帰きしない遠方の場所でも構わないくらいだ。

 

(最大三日っていうけど、一日あれば十分だよな。その方が楽な仕事だと思ってくれるし、賃金が貰えるなら助かる人だって出て来る筈だ)

 基準は貴族達がやってることである。

 比較対象が最悪なのだから、少し楽なくらいで丁度良いだろう。

 

(後はどうやって俺の懐に入れるかなんだよなー。デミウルゴス達に相談したいけど、そしたら国庫に入っちゃうし…)

 アインズはそう考えながら、ふとユリの相談もまた資金繰りが問題であったことを思い出した。

(そうか。ユリ達が自由に使える資金として蓄えるように言えばいいんだ。どの道使い道の多くはそこなんだし)

 言わないだけでナーベやルプスレギナも資金が必要だと思っているかもしれない。

 

「暫定的だが、これから週に一度。国民には何らかの労働を課すことにしよう。獣でも薪でもレンガでもなんでも良い」

「っ! 子供達が働ける場所があると言うことですね。それを見て居れば商人たちだって…」

 アインズは軽く手をかざしてユリの言葉をそこで止めた。

 

 落ち着いた所で、改めて話を進める。

「数が判り文字が書ければ作業は簡単だろうな。そうだ、労働の中には教育や製造の方法を教えても良いとするか。同じ町で商売しないなら教えてくれるだろう」

 今度は喋らないので、満足そうに頷いてから最後まで続けることにした。

 

「そこで出来た品は村や町で買い取って使うと良い。その金の範囲でノルマ以上の品や良い出来の品には賃金を出す。さて、特に良い品だが…シズお前に任せよう」

「この子に仕事をですか?」

「アインズさま。シール貼って良い?」

 シズとて馬鹿では無い。

 いや、狙撃には計算が重要なので、頭の回りそのものは良いのだ。

 普通の品を町で買い取ると言った以上は、特に良い品を誰が買い取るのかは言うまでも無い。

 

「構わないとも。シズ印と言う訳だな。…特に良い品はナザリックで集めて必要とする場所に高く売る。その利益は私とシズで半分こだ」

「恰好良いのあったら貼る! でも、なんで半分こ?」

 アインズは笑って頷いてユリの方に向き直った。

 出来レースの商売の話なのだ、恰好良く決めねば恥ずかしいだろう。

 

「半分は私が手持ちの資金にするが…。今回みたいな事があった時に、シズに頼んだら資金が出ると言うなら私を気がねしなくても良いだろう?」

「ボクたち…じゃなくて、私達プレアデスの為ですか? そんなにも御気遣い頂くなど…」

 感極まって泣き出しそうなところを、軽く撫でて宥めてやった。

 後にこのことを聞いたアルベドが嫉妬するのであるが、今は関係ないことである。

 

(よし! 暫くすれば金に困らなくなるぞ。後はどうやってデミウルゴス達を納得させられるかだが…)

 意外なことに、アインズが抱いた最後の関門は存在しなかった。

 

●農奴が消える日

 

 子供達のために労役を施すと聞いて、アルベドは最初、開いた口が塞がらなかった。

 重戦闘形態であれば、しまうのに苦労しただろう。

 

「なんということ、人間の子供達の為に、アインズ様が御心を砕かれるなどと…」

「フフフ。アルベド、嫉妬は良くありませんよ。それではせっかくの御計画を見落としてしまいます」

 図星を刺されアルベドは口ごもった。

 ユリがアインズに撫でられたと聞いて、ユリに嫉妬するのも問題なので、子供達に飛び火しただけなのだ。

 

「どう言う事なのデミウルゴス? 国民がアインズ様に奉仕するなど当然だと思うのだけど」

「ええ、私もそう思いますよ。ですが貴族や大商人達は、手の中の財産をなかなか手放さないでしょうね」

 自分が何かを見落としているのではないか。

 そう思ったアルベドは素直にデミウルゴスの考えを聞くことにした。

 彼女自身も頭が切れるほうであるが、他者をナニカに利用する事に掛けてデミウルゴスの右に出る者は居ない。

 

「農奴というものを知って居ますか? 彼らは雇い主に契約する下級農民であって、正確には奴隷では無いのですよ」

「ああ。土地を持たず移動するほどの食料を持てず…。なるほどね、彼らに賃金が渡れば枷を解き放ってくれたアインズ様を崇拝する」

 そういう事です。

 デミウルゴスは頷きながら更に続けた。

 

「大商人たちもアインズさまの手前、労役に行くなとは言えないでしょう。更に近隣の諸侯たちが見ものですね。困窮した市民はこぞって魔導国の労役に参加するでしょう」

「それをさせまいと農奴狩りをおこなえば、魔導国へ喧嘩を売ると言うことね? 黙って国力の低下を見て居るしかない」

 例えるならば文明爆弾でしょうか?

 デミウルゴスは伝播する情報によって、人々が魔導国へ行きたがる流れをそう評した。

 場合によっては、町自体が魔導国へ移籍したがるだろう。

 それに文句を付けてくれば即戦争…、いや貴族同士ならば私闘(フェーデ)だろうか?

 

「貴族達の労役が最大三日なのにたいし、アインズ様は僅か一日。その一日だけで世界が震撼する事に成る。何手先を読まれているのか」

「感動して居ないで、私達の為すべきことを考えましょう。アインズ様の一手を活かすには、まずはどうすべきかしら」

 震えるデミウルゴスをせかしてアルベドは現実に向き合うことにした。

 戦争を避ける必要は、別の意味で全く必要ない。

 大義名分はこちらにあり、戦争を仕掛けてこなければ、文明爆弾が町から人をこちらに引きつけるだけだろう。

 ならばその流れを加速させ、大義名分を逃さない様にするべきなのだ。

 

「そうですね。登録すれば奴隷の持ち込み自体は良しとして、自分を買い取ることが可能にしましょう。そして我が国では売買を許可しません」

「なるほど。大商人達の財産を差し押さえない。でも、奴隷が働けば働くほど天秤は傾くと言うわけ…」

 奴隷売買を許可しない以上は、魔導国は奴隷制度を良しとしない国である。

 だが、持ち込みは可能なので楽をしたい商人は奴隷を利用する者も居るだろう。

 やはり近くの奴隷がこのことを聞きつけて、魔導国へ来ても流れは同じである。

 

「一見、全てを許可する自由の国。ですが…気が付いた時にはアインズ様を崇拝する者で溢れるでしょう」

「アインズ様のように日ごろから下々に御心を砕かれて居れば、商人達も困らないでしょうにね」

 ナザリックの誇る智者二人は、笑いながら法令を定めることにした。

 魔導国へ人々がやって来るように。

 敵対したモノをなぎ倒しても、問題無い様に…。

 

 




と言う訳で、久々のオバロ物です。
以前に書いた、エイプリル物をリニューアルしてショートシリーズにする為の第一回に成ります。
とはいえ、ネタありきの物語ですので、ネタを思い付いて、現地のイメージに訳してからなので遅くなるかと思います。
思い付いたら書く感じで、全5-10回のショートシリーズになるでしょうか?

 前フリなので学校モノとか言いつつ、学校はちっとも出てきませんが…。
デミ衛門たちの話してる今回の労役は、アルスランとか見てて持ったことを、悪意を持って悪い方の懸念をワザと表に出す感じになります。
奴隷から介抱してくれる国が在る、と奴隷が目指す。国が止めるから戦争になりかねない。
だけど、魔導国からすると、戦争OKなほど戦力差があるのでと言う論法。

 脳内再生される音改さんは、名前だけのオリ至高になります。
種族はゴーレムで、財宝を余分に持てるミミック。
特典小説とか手に入ってないので、問題があれば修正する予定です。

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